Roselia 〜屹立の青薔薇〜   作:山本イツキ

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お久しぶりです。生きてました、はい。


ゆっくりではありますがまた、執筆していきます。




第三十二曲 想贈 〜後編〜

 昨日は酷い目にあった。

 リサや友希那から頼まれた物を買いに行ったはいいものの、急なゲリラ豪雨に見舞わられ、挙げ句の果てには売り切れで別の店に行く羽目になったりと不運の連続だったのだ。

 

 オレ自身、運や占いといったものは信じちゃいない。

 だがしかし、これが神の悪戯であるのならオレがあまりにも不憫だ。

 

 何か良い出来事が起きないと割に合わん。

 

 

 「ユッキー、リサちー、おはよー!」

 

 

 登校し椅子に腰を下ろしたその時、日菜が勢いよくこちらに駆け寄ってきた。

 

 

 「日菜おはよ〜☆」

 

 「おぉ。朝から元気だな」

 

 「えっへへ〜♪実は昨日、おねーちゃんといっぱいお話ししたんだ〜!」

 

 「ヘェ、やったじゃん!」

 

 

 日菜は幸せそうな笑みを浮かべ話す。

 姉妹の関係も良好なようでこちらとしても一安心だ。

 

 

 「よかったな」

 

 「うん!ユッキーのおかげ!」

 

 「オレは何もしていない」

 

 「そんなユッキーにはコレあげる!」

 

 

 日菜はカバンからチョコレートの入った小箱を差し出した。

 それも芸能人たちが嗜むめちゃくちゃ高いブランドのものを。

 

 満面の笑みの日菜。

 そして高級チョコレート。

 

 これら二つの事実は(主に日菜に対して)猜疑心の強いオレからすれば違和感まみれの代物でしかない。

 

 

 「……何か、変なものでも入ってるんじゃないだろうな」

 

 「なんだとー!?そんなユッキーには……こうしてやる!!

 

 

 日菜はオレの頭を掴みわしゃわしゃと髪を掻き乱すが、大した不快感はないから抵抗はしない。

 その様子を見て、教室に入ってきたばかりの薫がこちらに歩み寄ってきた。

 

 

 「おや、日菜の機嫌を損ねてしまったのかい?」

 

 「別に」

 

 

 いつもの日常だろう、とさらりと流す。

 

 

 「そんなキミにこれを渡そう。私の感謝の印さ」

 

 

 そう告げると薫はクッキーを手渡した。

 

 

 「ありがとう」

 

 「フフフッ。喜んでくれて何よりだよ」

 

 「ところで、校庭で受け取っていた大量のチョコレートはどうするつもりなんだ?」

 

 「もちろん、全て大切にいただくよ」

 

 「糖尿病まっしぐらだな」

 

 

 薫は学内だけに留まらず、学外でもファンがいるほどの有名人。

 当然、バレンタインデーには大量の贈り物(チョコレート)が届く。

 とある女生徒の話によれば、市販品でも拙い物でも全力で喜んで褒めてくれる薫は "バレンタインの女神" なのだという。

 普段の様子しか知らないオレからしたら、ただの演技バカなんだがな。

 

 

 「ちっちっちー、わかってないなーユッキーは」

 

 「というと?」

 

 「薫くんにチョコをあげる子たちは、薫くんがたくさんチョコをもらうのをわかってるから、あえて量を少なめにしたりして配慮してるの」

 

 「ほぉ、ちゃんとモラルみたいなのはあるのか」

 

 「まあそれでも人数が果てしなく多いからあんま変わんないんだけどね〜」

 

 「本末転倒とはこのことだな」

 

 

 薫の体調が壊れないことを心から祈ろう。

 

 

 「それはそうと…‥みんな、お菓子食べない?」

 

 

 リサは持ってきた紙袋の中から、綺麗にラッピングされたマカロンを取り出しオレたちに手渡した。

 いわゆる、バレンタインスイーツというやつだろう。

 

 

 「みんなチョコを持ってくると思ったから今回はマカロンにしてみました〜!」

 

 「やったー!リサちーの手作りお菓子ー!」

 

 「ありがとう、リサ。美味しくいただくよ」

 

 「いつもすまんな」

 

 「どういたしまして♪」

 

 

 桃に、抹茶、レモン、みかんと色とりどりだ。

 どれも美味なことは過去に何度も食べてきたオレが一番知っている。

 

 

 「そういえば、バレンタインで渡すお菓子によって意味が変わってくるんだよね?」

 

 「ああ。マカロンだと『あなたは特別な人』という意味を持つね。ああ、儚い……」

 

 「そうなのか。バレンタインも奥が深いんだな」

 

 「ちょ、そんな特別なこと考えてないってば〜!」

 

 

 リサは照れたように顔を真っ赤にして否定する。

 これまで色々な事から逃げてきたオレは、こういった誰かと関わるようなイベントとは無縁に近い状態だった。

 別に、一人が寂しかったとかそういうわけではないが見聞が狭くとてもつまらない日々を送っていたのは確かだ。

 これも全てリサのおかげ。

 今はこうして、日菜や薫、Roseliaのみんなと楽しく過ごせているのだから。

 

 

…………

 

 

……

 

 

 放課後、スタジオにて。

 

 

 「雄樹夜さん!ハッピーバレンタインー!」

 

 「は……ハッピー、バレンタイン………」

 

 「ああ。ありがとう」

 

 

 バンド練が始まる前、あこと燐子からお菓子を受け取った。

 あこは変わった形のチョコレートを、燐子はチョコ味のマドレーヌを手作りしたようだ。

 

 

 「ヒューヒュー。よかったねぇ、雄樹夜♪」

 

 「そうだな」

 

 

 悪戯な笑みを浮かべたリサは肘でオレの脇腹を小突く。

 

 

 「クラスの女の子からも結構もらってたよね」

 

 「ヘェ!雄樹夜さんってモテるんだ!」

 

 「クラスメイトとして、だろう。誰もオレに好意を抱いて渡してる人間はいない」

 

 

 クラスの中で関わりがあるのは、リサと日菜、それから薫ぐらいだ。

 後は授業のグループ学習とかで話す程度であり、大した関係性には至っていない。

 

 少しばかり談笑していると、遅れて紗夜と友希那がやってきた。

 

 

 「遅れてごめんなさい。練習を始める前に雄樹夜、これを受け取ってちょうだい」

 

 

 スタジオに入ってきて早々友希那から、猫の形をしたチョコが添えられたカップケーキを手渡される。

 

 

 「………」

 

 「………何よ」

 

 

 唐突な出来事に硬直するオレに対し、友希那はどこかその様子に不快感を露わにする。

 

 

 「いや、友希那から渡されるのは想像していなかったから、つい……な」

 

 

 現に湊家は "クリスマス" はあれど "バレンタイン" は存在しない。

 昔から友希那自身、お菓子作りには一切興味を示さなかった(それどころか家事全般ではあるが)上に義母も子供に無理強いをするタイプじゃないことも大きい。

 

 

 「今までこういったイベントは蔑ろにしてきたけれど、これもバンドメンバーとの交流のためよ」

 

 「ありがたく受け取ろう」

 

 

 友希那もそんなことが言えるようになったのか、と内心で呟きつつもらったものを鞄にしまった。

 

 

 「それじゃあオレはバイトだからまた何かあったら呼んでくれ」

 

 「あの……!」

 

 

 部屋を出ようとしたその時、ずっと話に加わらずチューニングをしていた紗夜から呼び止められる。

 

 

 「どうした?」

 

 「その………」

 

 

 どこかいつもと違いソワソワとした様子で口を閉ざす紗夜に全員の視線が集まり、数秒の沈黙の後少し深呼吸をした彼女はゆっくりと口を開いた。

 

 

 「この後、もし予定がなければ、その……個人練習に付き合ってもらえませんか?」

 

 「ん?ああ。もちろん構わない」

 

 

 何を言い出すかと思いきや、いつも通りの個人練のお誘いだ。

 もちろん断る理由はない。

 紗夜の技術向上のため、挽いてはRoseliaが頂点を目指すために微力ながら今日もサポートに徹しよう。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 私は他人とは一線を画すほどドライな人間だ。

 人付き合いも最小限。趣味と呼べるものはギターだけで、テレビで特集が組まれるようなイベントに参加することは決してない。

 Roseliaの皆さんと出会ったこの一年で、私は他の人と多少、いや、かなりズレていることを認識させられた。

 

 しかし今は違う。

 私自ら進んでイベントごとに参加し、バンドメンバーとの関係も非常に良好だ。

 

 

 「そういえばさ〜」

 

 

 バンド練習が終わり、片付けをしている最中、今井さんがふと何かを思い出したかのように呟く。

 

 

 「紗夜はこの後、雄樹夜にバレンタインのチョコ渡す感じ?」

 

 「それは────」

 

 

 予想していなかった発言に言葉が詰まった。

 

 

 「い、今は関係ないでしょう。そんなことより早く片付けを済ましましょう!

 

 「まだ時間はあるから急ぐ必要はないのだけれど」

 

 「うっ……」

 

 「そう、なんですね………」

 

 「え?そうなの!?」

 

 

 彼がいないからこそ、今井さんはこの話題を振ったのだろう。

 悪意がない分、今井さんを責めることはできない。

 

 

 「ま、まあ……そのつもりでは、ありますが……」

 

 

 自分でもわかるほど頬に熱を帯びているのがわかる。

 ただ渡せばいいだけだというのに、それが何故だか自分でもわからない。

 

 

 「そっか!絶対喜んでくれるよ♪」

 

 「だと、いいのですが……」

 

 

 もちろんそれはわかってる。

 音楽に関しては一切妥協を許さず全て本音で話す彼ではあるが、それ以外ではかなりの朴念仁。

 どう言う反応をするか甚だ疑問だ。

 

 

 「正直、異性に贈り物をするのは初めてなのでどう渡したらいいのか、わからなくて……」

 

 「なんでわからないの?」

 

 

 宇多川さんが純粋な瞳でこちらを見る。

 

 

 「なんでって……」

 

 

 わからないからこそ、返答に困る。

 

 

 「あこちゃん、誰かにプレゼントを渡すのって………すごく……緊張するんだよ………」

 

 「そうなの?」

 

 「うんうん。喜んでもらえるかなーとか、大事にしてくれるかなーとか、考えちゃうよね」

 

 「必要ないかもそれない………だけど、ちゃんと形にして日頃の想いを伝えるという意味でも、贈り物を渡すのは……とても大切なことなんだよ……」

 

 

 胸に手を当て、一つ一つ言葉を紡ぐ白金さん。

 それは心の中で覆っていた靄を祓うかのように、私に確かな光をもたらした。

 そして私は無意識に彼女の手を握り感謝の意を伝える。

 

 

 「白金さん、ありがとうございます。非常に感銘を受けました」

 

 「えっ……そ、それは……よかったです………」

 

 「大丈夫だよ、紗夜。この中だと緊張せずに渡せるのはあこと友希那だけだから」

 

 「うん!あこは余裕だよ!」

 

 「緊張する理由がよくわからないわ」

 

 

 強靭なメンタルを持つ湊さんはともかく、誰よりも無邪気な宇多川さんにも驚かされる。

 彼女のような明るさが私にもあればそのような考え方になるのだろうか。

 

 

 「だからさ、安心して渡してきなよ」

 

 「ええ。ありがとうございます」

 

 

 そう話し終えたところでタイミングよく湊くんがバイトを終え、部屋へと入ってきた。

 残りの片付けは私がするからと片付けもほどほどに他のメンバーは帰路につき、さっきまで賑やかだった部屋の中に私と彼だけが残る。

 

 

 「それで、今日はどの曲をやるんだ?」

 

 「"Neo-Aspect" でお願いします」

 

 「わかった」

 

 

 湊くんはレンタルのギターを手に椅子へ腰掛けると、慣れた手つきでチューニングを始める。

 

 

 「今日は日菜がえらくご機嫌でな。紗夜とたくさん話せたって嬉しそうに話してたぞ」

 

 「そうだったんですか。日菜がそんなことを……」

 

 

 普通の姉妹なら当たり前のことなのだろうけれど、私たちは違った。

 その当たり前なことをようやく当たり前にできるようになってきたのは、相談に乗ってくれた彼のおかげでもある。

 

 

 「ようやく姉妹らしくなってきたんじゃないか?」

 

 「そうですね。あなたには本当に感謝していますよ」

 

 「特別なことは何もしていない。まあ、オレ自身友希那との関係は良好とは言えなかったから放って置けなかったのはあるのかもしれないな」

 

 「私はそれに救われたんです」

 

 「よしてくれ。あまり人に感謝されるのは慣れてない」

 

 

 感情の起伏が乏しい彼にしては珍しい発言だ。

 

 

 「ふふっ、照れてるんですか?」

 

 「まさか」

 

 

 彼と練習をするのは非常にためになるし有意義な時間だと思っているけれど、こうやって準備や休憩の合間に会話するこの何気ない2人だけの時間もすごく心地良い。

 

 そんな時間もあっという間に過ぎ、チューニングを終えた彼は視線で私に合図を送り、早速演奏に入る。

 一通り弾き、改善すべきところを伝え、手本を見せて欲しいと頼めば彼が完成された音を奏でる。

 

 これが私たちの個人練習。

 

 もちろん、ただ彼の演奏を模倣しているわけではない。

 自分で考えたフレーズも織り交ぜ各々の曲にマッチするか判断してもらうが、彼が首を縦に振ることはあまりない。

 やはり彼は音楽に関しては一切の妥協は許さないのだ。

 

 個人練習はおよそ1時間で終わり、今日もそれにもれず終わりを迎えた。

 時計を見るとすでに時刻は21時を超しており僅かな街灯しか灯っておらず外は真っ暗。

 

 

 「駅まで送るぞ」

 

 「すみません、いつも」

 

 「気にするな」

 

 

 私たちは横並びで帰路に立つ。

 

 

 「しかし、随分と自分の音を奏でられるようになったな。半年前と比べると雲泥の差だ」

 

 「お褒めに預かり光栄です」

 

 

 彼は手放しに褒めてはくれるがまだまだギタリストとしては赤子同然。

 慢心も驕りも一切ない。

 

 

 「────湊くん」

 

 

 その呼びかけに彼は顔をこちらに向けた。

 

 

 「これからも私は、良い方向へ変わっていけるのでしょうか」

 

 

 心の底に眠っていた不安。

 変化するということは、今みたいに良い方向へ向かうこともあれば、悪い方向へ向かうことだってある。

 

 蛹から美しい蝶へ羽化するとは限らない。

 

 

 「そのためにRoselia(オレたち)がいるんだろ?」

 

 「え?」

 

 

 彼は私の頭に手を置き、穏やかな笑みを浮かべ告げた。

 

 

 「難しく考えるな。たとえお前がどのように変わろうともRoselia(オレたち)は全てを受け入れる。だから迷う必要なんて一つもない」

 

 

 その言葉に、心臓がドクンと跳ね上がる。

 そして急激に頬が熱くなるのがわかり、パッと顔を背けた。

 彼は不思議そうにこちらを見るけれど正直あまり見ないで欲しい。

 ここが顔の見づらい暗い道で助かった。

 

 

 「紗夜?」

 

 「す、すみません。つい……」

 

 

 未だ重低音のように鳴り響く鼓動を抑えつつ、私は鞄の中にずっと隠してあったものを彼に差し出した。

 

 

 「これ、よかったら受け取ってください。その……ハッピーバレンタイン、というやつです」

 

 「まさか紗夜からも貰えるとはな。ありがとう、ありがたく受け取るよ」

 

 

 できればすぐにでも渡したかったけれど、学校が違う。

 後日渡すことも視野に入れていたがバレンタインは今日しかない。

 その気持ちが抑えきれずそのまま持ってきたというわけだ。

 

 

 「食べていいか?」

 

 「え、ええ。どうぞ」

 

 「ちょうど甘いもの食べたかったんだ。ありがとうな」

 

 

 そう言葉を述べると彼は包装をとり、一番綺麗に形作られた星型のチョコレートを口に運んだ。

 

 

 「……うん、美味い」

 

 「本当ですか?」

 

 「ああ。普段持ってきてくれるクッキーも美味いんだが、これは格別に美味いな」

 

 「スーパーで買ったチョコを溶かしてから型に流し込み、冷やして固めなおしただけなんですけどね」

 

 「そうなのか。それにしても美味い」

 

 

 彼はそう褒めると共に、もう一つ手に取り口に含む。

 

 

 「しかし、今井さんと比べたらまだまだです」

 

 「リサのも美味いが、紗夜のもまた食べたいと思うぐらい美味い」

 

 「お世辞でも嬉しいです」

 

 

 その言葉が聞けただけでも私は満足だ。

 今日だけではない。

 明日も、明後日でも、またRoseliaの皆さんに食べて欲しい。

 

 

 「そういえば、来月にはホワイトデーがありますよね。お返し、楽しみにしていますね」

 

 「オレはお菓子作りはやらんぞ」

 

 「お気持ちだけでも結構ですよ」

 

 「まあ、楽しみにしててくれ」

 

 

 また来年もこうやって

 

 

 白い息が出るほど冷えた空気も、私たちの間だけは温かく感じた。

 

 




ここだけな話、最初は紗夜さんとくっつける予定でした。

しかし、恋愛的な意味ではこの2人は上手くいかない……そう考え面倒見の良いリサに変更しました。

紗夜さんが今抱えてる気持ちはきっと……

それはご想像にお任せします
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