見ていない、見たくない。でも見たい、見せてほしい。
気持ちはいつも、ままならない。
そんなある日の裏側を。
結局夢の中だけでしたね。
あんな逃げ出すようなこと、する必要無かったかな。
劇の練習を終えた帰り道で、改めて思う。
さっき大喜の試合を見終えた私は、色んな感情がごちゃ混ぜになって居ても立ってもいられず走り出していた。
あんな大喜、初めて見た。あんな格好いい大喜も、あんなに苦しんでいる大喜も、私は知らなかったんだ。
愛しさと罪悪感が私を突き動かし、気が付けば体育館を出てしまっていた。
私は余りにも、彼を知らなすぎる。好きな人を、見てさえいない。
どうして私は、こうなんだろう。
大喜はバドバカで、だけど御世辞にも強くなくて。それでも一生懸命で直向きな、私の大好きな人。
私はそう思っていた、大喜はいつだって前向きなんだと。何があっても、真っ直ぐに立ち向かえるんだと。
そんなわけが、無いのに。
大喜が県大会で負けたあの時、私は何も言えなかった。
でも大喜だって、人間だ。悩み苦しみ、もがいている。私と同じように。
私じゃ大喜を支えられない、大喜の力になんかなれない。それが出来るのはきっと、千夏先輩だけ。そう知ってしまうのが怖いから、全部見ないようにした。敗けを認めたくない、私じゃ足りないなんて思いたくもない。
だからこそ、練習試合を見に行くのも怖かった。またあんな風になる大喜は、見たくないから。もう一度あの顔を見てしまえばきっと、
こんな私じゃ、大喜の隣にいられない。都合の良い面しか見ようとしない、私はそんな嫌な女なんだ。
千夏先輩は、私が知らない大喜を知っている。同じようにもがいている「同士」だから。
大喜は千夏先輩の為に、歯を食い縛ってでも突き進む。千夏先輩を好きだから。
この二人の間に割り込まなければならないのに、私だけが置き去りにされている。
試合が終わってから、大喜はどうしたんだろうか。次の相手と試合したのか、それとも休憩か。千夏先輩はどうしたんだろうか。大喜と何か話したんだろうか。
帰ってからベッドに転がって思うのは、そんな事ばかり。
私が試合のあとで労ってやったら、大喜はどんな顔をしたかな。かっこよかった、って言ってやれば良かったな。背中の一つも叩いて、さすが私の好きな人だねとか言ったり。勝ったご褒美に、とかそんな口実で――キスしちゃうとか。こっちから不意打ちしたら、多分避けられないよね。きっと真っ赤になって、あうあう言って戸惑うんだろうな。
そうなれたら良いな、楽しいのにな。
出来もしないことだけが延々と頭のなかを回っていく、無意味な時間。
どうせ私には、なにもできやしない。
キスをねだったあの瞬間だって、私は結局覚悟を決められなかったんだから。
告白をしたのに、結論は先送りにさせて。ただ大喜を惑わせて、私はなにがしたいんだか。
私はもっと、傷付く覚悟をしなければならない。傷付いてでも、大喜を知らなければならない。裏も表も、何もかも見届けなければならない。そうでなければ、大喜を好きでいられなくなってしまう。
「ん、……ちょっと冷えるかな」
半開きにしたままの窓から吹き込むのは、もう秋の風。いつのまにかもう九月も半ば過ぎだ、季節はもう変わりつつある。
10月になれば千夏先輩は大喜の家に戻る、それまでにはどうにかしていかないと。
私は大喜が好きだ、千夏先輩に負けるわけにはいかない。勝ってこそ、私は私でいられる。
もうじき、決着を付ける時が来るんだ。
さぁ――恐れを捨てて、変わろう。真正面から戦うんだ、進め私。