これまであんなに前のもので楽しんでいたと言うのに。
それでも人間はいつかは新しいものに飽きるかもしれないから、
それを信じて待つ者たちもいるよ、ってお話。
※こちらの文章を書くにあたり、語尾プッチンの省略をお許しくださいプッチン。
※また、こちらのお話はフィクションですプッチン。実在の人物・団体・出来事とは関係ありませんプッチン。
※電車で移動中の際に作成をさせていただきましたため、誤字脱字をお許しくださいプッチン。
※こちらの文章を読んでも神おまはでませんプッチン。がんばってくださいプッチン。
『人間が飽きるまで』
「クトゥルフ神話って最近よく耳にするよね」
自分の斜め右前でシフトを組んでいる店長が急に口を開いた。青いエプロンはところどころ焦げ付いている。
「TRPGとかの題材で使われたりしてますよね。
よくわかんないけど、うにょうにょってするモンスターがいるとか」
「うにょうにょって…ヤマツカミさんみたいな?」
「あれをうにょうにょっていいますかね」
手元にあるスマホを弄りながら、店長を横目にみる。どうやら作成していたシフト表とのにらめっこも飽きてきたらしい。それもそのはず。最近ではめっきり減ってきてしまった客の数。新しいものができれば皆、そちらに飛びつくのは当たり前だろう。目に見えて人が減っているし、店長はシフト表の真っ白さ加減に飽き飽きしているようだった。だからだろう。自分が少しも興味のない話題をこちらに振ってくるのは。
「SDGsって何の略だっけ?」
「スライディングガノトトスじゃないですか」
こちらも適当に返事を返す。ははは、と乾いた笑いの店長の様子をみるに、そこまでこちらの返事も聞いていないのだろう。
「おはようございまーす」
元気よく挨拶をしてやってきたのは先々週入ったばかりの学生の子。いつも仕事が終わると同じく学生の彼氏さんが迎えにやってくるらしい。青春ですね。爆発しろ。
「あれ?今日シフトはいってたっけ?」
「入ってましたよ~!…でも、なんか今日お休みでもよさそうですね」
店長の近くでスマホを弄っている自分を見ながら、その子も察したようだ。先月までは確実に忙しかった。けれど、29日を過ぎたあたりから客足が途絶えてきてしまっていた。
「まあでも、手持無沙汰なのはよくないから…みんなこれやってくれる?」
店長が持ってきた山積みの小さな石たち。やり終わったらこっちにおいてね、と店長の隣をとんとんと叩く。
ざらざら。ざらざら。
一つ一つ、石を確認しては仕分けをしていく。
これは当たり。これははずれ。これもはずれ。はずれ。はずれ。
これをどうするのかって?客に配るんだよ。
「あーあ、先月まではこの作業もやる暇がないくらい忙しかったのにね」
始めたばかりだというのに、学生の子はもう飽きてしまったらしい。石をハート型に並べだして、スマホで写真をとっていて、モンスタグラムにあげていた。仕事しろ。
「これでも全盛期なんかはとてつもなかったんだけどね。…やっぱり人間っていうのはすぐに新しいものに飛びつくものなんだねえ。」
店長も石を片手に笑って言う。全盛期の話はしらないけれど、先月までは毎週土曜に来ていた団体さんもこなくなってしまった。しぶい石ばかり渡していたのが嫌になってしまったのだろうか。だからといって、何度も何度も相手させられるこちらの身にもなってほしい。はっきり言って身が持たない…、だなんて思っていた時が懐かしい。
「お客さんが求めてるのがこんな石ころなんてね。石ころのために相手してたのかと思うとばかばかしくなってくるよ」
「でも、相手した分お金ももらえるからよくないですか?」
「こっちは痛い思いしてるから、あんまりWin-Winじゃないと思う」
でも、確かに給料はよかったし、なんなら賄いもでていたぐらい儲けもよかったのだ。石を選別しながら、今の状況にため息をつく。これじゃあ、商売あがったりだろう。同じく石を選別している店長が自身のカバンをがさがさ漁って、取り出したのは一冊の本。
『人間の深層心理』
分厚いその本は難しい言葉ばかりが連なっていそうに難しそうな題名。店長、そんなの読んでも何も変わりませんよ。
「これを読めば、人間がどのあたりで飽きるかわかるかな…」
「人の気持ちを知れたところでたかが知れてると思います」
やっぱり?笑う店長に、いいから早く石の選別しちゃいましょうと声をかける。学生の子はもうすでに石をスマホで撮るのも飽きていた。これはもう仕事にならないような気もするけど、指名も入らないから呼ばれることもなく石の選別を続ける。
このお店は指名制。今はパートさんが呼ばれていて、私は控えとして呼ばれるのを待っているのだ。
「まあでもね、続けていればきっとまた来てくれる人間たちはいるからね。気長に待とう。人間のいうところの神おま大放出サービス週間でも始めてみようか!」
あたりの石の山をとんとんと叩いて店長がいう。そんなことを言っていたら、本日最後の指名を貰っていたパートさんが帰ってきた。
「店長~!今日の人たち、来週毎日炭鉱にするっていってましたよ!来週は忙しくなるかもしれないですよ~!」
パートさんはニコニコ笑いながらやってきて、体についている煤を払ったり、背中に刺さったままの矢を抜いたり。
「パートさん、今日は大剣さんや太刀を使う人はいなかったんですね」
体に傷跡がないのを確認しながら告げると、嬉しそうにパートさんは笑っていた。
「弓とヘビーボウガンだけだったから、痒いくらいだったのよ~。あれは神おまが出るから来たって感じじゃなかったから…サービスしちゃったわ~」
当たり多めに渡しちゃったのよね~と笑うパートさん。ものを渡す側からしたら、そういうサービスしちゃうのもわかるかな。
そういえば、人間は武器で私たちを倒そうとしているみたいだけど、やられているフリをしていることのほうが多いと思う。弓もボウガンもさほど痛くないし、大剣や太刀は擦り傷がたまに出来るからあまり好きじゃないけど、傷なんてあっという間に治ってしまう。だから、どちらかといえば、私たちが相手をしてあげているのだ。
「じゃあ、景気づけにみんなで寿司にでもいこうか!」
今日はもう店じまいだと石をぽいと投げて店長がいう。あーあ、神おまなのに。というか、人間にとって大切な神おまも、私たちにとってはただの石。ぽい捨てしたってかまわない。
「オストガロア寿司にしましょう!前にアトラル回転寿司に行ったときは散々だったもん」
寿司と聞けば、学生の子も態度を変える。なんて現金な。でも、その意見には賛成かな。
「あらいいわね~!私も新鮮なザザミとギザミが食べたくなってきちゃった」
私と学生の子とパートさんも加わって、店長がにっこり笑ってスマホを取り出す。
「もしもし、オストガロア寿司さんですか?今から予約したいんですけど…。はい!今から…ブラキディオス4匹です!」
予約をするなんて店長も意外と気が利く。帰る支度を整えて、ちらりと店長が作っていたシフト表をみる。変わらずシフトは暇な時間が多そう。でも、シフト表の下には店長が書いたスローガン。
『人間が飽きるまで!頑張ろう!』
人間が飽きるまで、ね。さて、他のモンスターに奢られた寿司ほどおいしいものはないだろうし、はやくみんなサンブレイク飽きてダブルクロスに戻ってこないかなあ。
~~~Fin~~~
【 紹 介 】
常勤ブラキさん:常勤のブラキさん。このお話を語ってくれたブラキさん。少しお疲れのご様子。シフトがギチギチのほうが好みのタイプ。
店長ブラキさん:店長のブラキさん。主にブラキ炭鉱でのブラキディオス斡旋を行っている。従業員を大事にしていて、帰り際にいつも紅蓮石(ブラキにとっては飴玉みたいなもの)を渡してくれる。
学生ブラキさん:学生のブラキさん。先月入ったばかりの新人ブラキ。一度遅刻をして常勤さんにねちねち言われてから気を付けるようになった。彼氏はアグナコトルのあっくん。付き合って2ヶ月。
パートブラキさん:パートのブラキさん。常勤さんよりも長くパートとして働いているブラキさん。店長ブラキさんもパートブラキさんには強く言えないんだとか。3匹の子ブラキと最愛の夫ブラキさんと幸せな家庭の奥様ブラキ。
オストガロア寿司:竜ノ墓場で営まれているお寿司屋さん。新鮮な食材ばかりを使っているので人気なお店。予約は3名様~。個室はないので、ご了承ください!
アトラル回転寿司:旧砦跡でオープンしたお寿司屋さん。はじめてお店を持ったのでテンパってしまい、開店からいつも大変なことになっている。実はオストガロアさんに弟子入りして、認められたので自立した。