トガヒミコが××を好きになるまでの物語   作:空古

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トガヒミコ誕生日おめでとうSSと言い張る勇気。


幕間『焦凍ショート』

【What Is Your Name?】

 

 燈矢兄と親父の殴り合いを遠くから眺めたあの日以来、家で燈矢兄とよく話すようになった。それに、ときどきアイ兄とヒミ姉も遊びに来てくれる。そんなときはお手伝いさんの目をこっそり盗んで、燈矢兄の部屋で遊んだり学校の宿題をしたりしていた。

 

「そういや燈矢兄ちゃん、コードネームはどうするの?」

 

 その日はみんなで宿題をしていて、教科書やノートを広げながらアイ兄がふと呟く。俺は急になんの話かと思わず声に出した。

 

「コードネーム?」

「『オールマイト』とか『エンデヴァー』とかのことですね。要はヒーロー名です」

 

 ヒミ姉の答えになるほど、と頷く。燈矢兄も雄英に入ったから、そういうのも考えないといけないんだな。

 

「あぁ、もう決めてある」

「ほんと? 知りたい!」

「……ったく、しょうがないな」

 

 ヒミ姉が隣でボソリと「ウズウズしてる……」と呟いた。燈矢兄はノートのはじっこにシャーペンを走らせて、俺たちに見せた。

 

「ちゃ、こん?」

荼毘(ダビ)だ」

「へぇ、なんて意味なんです?」

「火葬」

 

 ヒミ姉がマジかコイツ、みたいな顔をした。

 

「殺しはご法度ですよ、ヒーロー?」

「敵を火葬するわけじゃねぇよ」

 

 燈矢兄は肩をすくめて続ける。

 

「昔の俺。そいつを燃やして、弔って、今の俺は前へと進んでいくんだ」

「へー! 格好いいね!」

「いいと思う」

 

 なんというか、前向きで。

 

「でもヒーロー名で火葬はないと思います」

「うるせ」

 

 燈矢兄は消しゴムで書いた文字を消すと、ヒミ姉を指さした。

 

「そういうトガは?」

「……私は私ですからね、もしヒーローになっても『トガヒミコ』ですよ」

「いいのかよ、それで」

「いいんです」

 

 ヒーロー名って本名でもいいのか。そして、アイ兄がヒミ姉に抱きついた。

 

「好き!」

「いいと思う」

 

 自分は自分ってところとか。燈矢兄はつまらなそうに頬杖をついた。

 

「ふーん、シュコウは?」

「ボク? ボクは『アイ』!」

「おまえも本名かよ」

「名字はいつか渡我になるからね!」

「はいはい」

 

 燈矢兄がこっちを見る。

 

「焦凍は?」

「今決めた」

 

 ノートの真ん中に『ショート』と書き付ける。

 

「俺は俺で、名字は変わるかもしれないからな」

 

 燈矢兄たちは顔を見合わせた。

 

「うちの弟に悪影響与えるなよ、おまえら」

「与えてませんけど?」

「いいと思う!」

 

 ちなみに、燈矢兄の『荼毘』は先生に止められたらしく、今もヒーロー名『トーヤ』で活動している。

 

【編み出せヒーローコスチューム!】

 

「ふんふーん、だびだびだーびー」

 

 宿題が一段落したのか、アイ兄が鼻歌を歌いながら絵を描いている。

 

「ダービー……馬……(エン)()ぁー! そういうことだったのか!」

 

 どういうことなんだろう。

 

「よし出来た!」

「……一応聞くが、何が出来たんだ?」

「燈矢兄ちゃんの勝負服!」

「せめてヒーローコスチューム言いましょうよ」

 

 アイ兄の手元を覗き込んでいたヒミ姉が笑いをこらえながら言った。

 

「この頭から生えてんのは?」

「馬の耳!」

「こっちは?」

「馬のしっぽ!」

「却下」

「そんなー」

 

 アイ兄がしょんぼりとした顔になる。

 

「コスチュームの希望はもう出してあるしな」

「そうなの?」

「あぁ」

 

 燈矢兄が取り出した紙を見てみると、ヒーローコスチュームの絵が描かれていた。

 

「ライトセイバー持ってそう!」

「いいと思う」

「うーん、男の子の感性はよくわかりません」

「まァ、そういうわけだ。考えるなら自分のやつでも考えとけ」

「むむ、ヒミちゃんはどんなのにするー?」

「可愛くてヒーローっぽいのです」

「つまり鎧甲冑かぁ、いいね!」

「違うよ?」

 

 アイ兄は暫く考えてから、真剣な顔でこう言った。

 

「でもヒミちゃんは服ごと変身するし、ボクも血が肌に直接触れないとだし、全裸のほうがよくない?」

「ダメです」

「全裸は無理だな」

 

 ヒミ姉が指でバッテンをしている。燈矢兄もため息をついていた。

 

「えっなんで」

「法律」

「法律はいつもボクらの邪魔をする……!」

 

 『ヒーローコスチュームにおける露出についての規定法案』という法律があるらしい。スマホで調べていたアイ兄が手を上げた。

 

「いや、待った! 異議あり! やっぱり全裸は認められているよ!」

 

 机に手をついて、スマホを見せながら続ける。

 

「ガイドラインには『コスチュームを着用した状態で局部および肌面積の三割以上が人目に触れないこと』って書いてあるんだ。つまり“個性”で『透明』だったり異形型でモフモフして隠れていたらセーフ! ケモセーフ!」

「じゃあ、あーちゃんはアウトだねぇ」

「そうじゃん!!」

 

 アイ兄は両手を床について項垂れている。

 

「……焦凍、服は着ろよ?」

「うん」

 

【To Be Or Not To Be】

 

 初めて食べたお菓子について、アイ兄が質問してきた。

 

「焦凍はきのことたけのこどっちが好き?」

「たけのこ」

「ボクと同じだね、多めにあげよう!」

 

 俺の皿にたけのこが増える。アイ兄はお菓子の箱を抱えて燈矢兄のところへ向かった。

 

「燈矢兄ちゃんは?」

「きのこ」

「へぇー、ヒミちゃんと一緒だ!」

 

 何故か空気がピリッとした。

 

「そういや、この前猫がいて、尻尾が二本あるから猫又だと思ったら二匹いたんだ」

「猫が二匹も? いいなぁ、ボク猫好き! 犬より猫派!」

「俺も猫のほうが好きだな」

 

 ピリついていたヒミ姉に話題を振る。

 

「ヒミ姉は?」

「ワンちゃんのほうが好きですね」

「お、燈矢兄と一緒だ」

 

 何故だか空気がピリピリッとした。

 

「燈矢くん、真似っこやめて下さい」

「してねぇ、おまえが俺の真似をしてる」

「へぇ?」

「なんだよ?」

 

 喧嘩する二人に慌ててアイ兄の方を見るが、アイ兄はニコニコと笑っていた。小声で理由を尋ねたら「あの二人は喧嘩するほど仲が良いんだよ」という答えが返ってくる。

 

「まぁまぁ、見ていたまえ」

 

 アイ兄が胸を張って答えた。不安だ。

 

「二人に質問! こしあんつぶあんなら?」

「「つぶあん」」

「唐揚げにレモンは?」

「「かける」」

「うどんと蕎麦!」

「「うどん」」

 

 蕎麦じゃねぇのか……そうか……あと二人ともお互いを見合って微妙な顔をしてる。

 

「ね? 二人は仲良しさんだよ」

「いやいや、ほら、燈矢くんお魚キライですけど私は好きですよ? お寿司があったらお魚だけ食べるくらい好きですし」

「邪道食いやめろよ」

「おいしくいただいてるんです!」

 

 ふと気になったので聞いてみた。

 

「……寿司といえば?」

「「玉子」」

 

【雄英VS士傑】

 

 ヒミ姉が燈矢兄の部屋にかけられている雄英の制服を見上げて呟いた。

 

「雄英の制服ってあんまり可愛くないです」

「そう?」

「うん、それなら士傑のほうがカァイイです」

「へぇー」

 

 アイ兄は顎に手を当ててヒミ姉に尋ねる。

 

「じゃあ士傑にする?」

「それもありですね、うん。どっちにしろ家を出る必要がありますし、雄英も士傑もおんなじです。それなら制服がカァイイほうがいいのです!」

 

 アイ兄とヒミ姉が士傑なら俺も士傑に行ってみたい。いや、オールマイトは雄英出身だ。それならやはり……でも親父も雄英だしな……いやいや燈矢兄だって雄英だ。うんうん唸ってると、燈矢兄がボソリと呟いた。

 

「……士傑は恋愛禁止だぞ」

「あ、雄英にします」

 

 恋愛の出来ない女子高生なんてタコの入っていないタコ焼きみたいなものらしい。知らなかった。

 

【Happy Birthday!】

 

 そして、珍しくアイ兄だけが遊びに来たときの話。

 

「ヒミちゃんのお誕生日が来る!」

 

 そう言ったアイ兄は何故か正座をした。

 

「誕生日プレゼント、なに貰ったら嬉しい?」

「牛さんヨーグル」

「それ焦凍の好きなもんだろ」

「うん」

 

 燈矢兄は「そろそろ借り溜まってきたから誕生日にかこつけて返すか」と胡座をかいて座った。

 

「で、去年は何プレゼントしたんだ?」

「ボク!」

「もう少し詳しく言え」

「一日ボクのこと好きにしていいよって言って、それで、ヒミちゃんにボクの身体を」

「いや、もういい。それ以上喋るなバカ」

 

 燈矢兄げっそりとした顔では「士傑にぶち込みたいなこいつら……」と呟いた。

 

「じゃあ今年もそれでいいだろ」

「今年もそれだけど毎年のことだから、バリエーションは豊かにするんだ! ヒミちゃんに飽きられないためにも!」

「バリエーションってあるのか?」

「あるよ! 一昨年は犬耳としっぽと首輪つけたらいっぱい可愛がられた!」

「おまえら本当に焦凍の教育に悪いな。つーか、それシュコウがつけたんだよな? 男がつけて何が楽しいんだか」

「カァイイって褒められたよ」

「あいつの感性は理解できねェ……ま、シュコウは女顔だしまだ分かるか。メイド服でも着たらいいんじゃねぇの、犬耳メイド」

「えー、女装はしないよ?」

「トガがやれって言ったら?」

「喜んで!」

「こいつもなぁ……」

 

 燈矢兄とアイ兄が話している間に考えがまとまったので口にする。

 

「アイ兄は蕎麦をただの蕎麦じゃなくて、天ぷら蕎麦にしたいってことだな」

「よくわかんないけどたぶんそう!」

「わかりにくかったか」

 

 うまく例えられたと思ったのだが。少し落ち込んだが切り替えて質問する。

 

「ヒミ姉が好きなものってなんだ?」

「えっとねー、カァイイものかな?」

 

 となると、アイ兄にカァイイを足せばいい。

 

「うん、アイ兄はそのままでカァイイから、全裸でいいと思う」

「おいおい、流石にネタでも攻めすぎだろ焦凍、まったく誰のせいで焦凍がこんなことを言うようになったんだか」

「全裸なのはいつものことだからお誕生日の特別感がないかなー」

「おまえのせいだバカ!! ってかマジかよ最近の小学生進みすぎだろ!?」

「ならリボンとかつけたら特別感でるし、もっと可愛くなるんじゃないか?」

「なるほど、いいね!」

「……俺が焦凍と仲良くしてんの、半分クソ親父への嫌がらせ入ってるけど、流石にクソ親父のことが気の毒に……ならねェな、よしシュコウもっとやれ」

「よくわかんないけどわかった!」

 

 よくわからないならわかってないと思う。なお、プレゼントはヒミ姉に結構好評だったらしい。


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