増える鈴仙のお仕事
「―――そういうわけで妹紅さん、お付き合いいただけますか?」
「そこまで悔しいかぁ?私との殺し合いで負けたときはすんなり引き下がってるのに」
慧音さんに教えてもらった場所でようやく妹紅さんを見つけたわ。自宅にいないから探してきなさいって輝夜様に命令されたから行商ついでに探したのだけど、思ってたより時間がかかった。
「いつもなら上等だ!で喜んで受けて立つけど…ちょっとしばらくは家に帰るのも止められちゃってるからなあ」
「え?もしかして帰宅すらしてないんですか?」
「ああ、阿求が相当トラウマになっちゃったみたいで護衛にすぐ来れるように泊まってくれって…
あ、そうだ」
…うわ、妹紅さんが悪い顔になった。いやな予感が。
「私の代役でこの前ヒョウを助けてくれた仲間を派遣するで手を打てない?
殺し合いでも喜んで相手してくれるぐらい強い仲間に心当たりがあるからさ」
「…その、そんな人を私が迎えに行くんですか?」
「いやいや、これでいいなら私が呼んであげるよ。こういう時のためにしばらくアリスから通信用の人形を借りてるからさ!ちょっと待っててな」
「ちょ、ちょっと待って妹紅さん!?」
い、行っちゃった…どうしよう、もう手遅れって予感がする!
そもそも、どうしてこうなったかと言うと…
「―――これが昨日の結果よ。何か質問は?」
「要するに、豹の仲間には手を出すな。むしろ襲われてたら助けろってこと?」
「その通り。理解できているなら文句は無いわね?」
「大ありよ!!誰に八つ当たりすればいいのよ!?」
「八つ当たりって理解してるなら大人しくしてなさい」
「永琳はそれでいいわけ!?」
「いい加減にしなさい輝夜。私たちがここにいる理由は何?
幻想郷を追い出された場合、次の潜伏先を見つけるまでまた野宿を繰り返す覚悟はあるのね!?」
「ぐっ…!」
「私にも我慢の限界はあるから。報復を強行した結果、豹と敵対していた鬼の八つ当たりで永遠亭が荒らされたのよ?これ以上余計なことをしないで頂戴」
「――っ!!
わかったわよ、妹紅で憂さ晴らししてくるわ!」
うわぁ…お師匠様が本気で怒ってる。それを理解した輝夜様は外に出て行った。まあ豹に襲撃されたときでも永遠亭内部に被害はほとんど無かったのに、輝夜様を連れて帰ってきたら伊吹萃香が酒を探すために永遠亭内部を荒らしてたんだしね…私もてゐを背負って帰ってきたら愕然としたし。
豹の処遇に関しての会談は昨日だったんだけど、昨日は永遠亭の片付けでほぼ一日使っちゃったから説明は明日にって言われたのよね。それで今日になって今後永遠亭がどう対応するべきかを説明してくれたんだけど…結局紅魔館の吸血鬼姉妹をぶつけられて気を晴らすどころか余計ストレスが溜まった輝夜様は納得できないみたいで、お師匠様の対応に文句を言った結果がこれ。ハッキリ言い切れるお師匠様は凄い…
「今後要請があったら、ウドンゲに動いてもらうことになるわ。業務が増えて悪いけれど頼むわね、『初動は遅れても構わない』って言質は取ってあるから戦闘準備を整えてからで平気よ」
「あー…わかりました。ちなみにてゐじゃ無理ってことですよね?」
「この条件を加えて来た豹が予測した襲撃者は、博麗の巫女・幻想郷の管理者・鬼の四天王よ。ウドンゲでも誰を指してるのか理解できるわね?」
「…その、私一人で撃退するのは難しいんですが」
「襲撃された場合に動くことが取引条件、実際に彼女たちが動いたら襲撃された面々と共闘すればいいわ。誰が狙われても戦力になるのは実証済みよ」
「報復に動かないことを祈っておきます…」
でもしわ寄せが私に来た。まあ私は永遠亭に匿ってもらってる身だから、嫌ですなんて言えないんだけど。
「それじゃ私はまだ片付けが終わってないから、タイミングを見計らってどちらかを回収しておいて」
「あ、お手伝いしますよ」
「もう残ってるのは細かい材料だけだから平気よ。毒も混ざってるから私が自分でやるわ」
「わかりました、それじゃ回収し次第行商に行きますね」
そう言ってお師匠様は自室の片付けに戻って行ったわ。てゐが無事だった兎を総動員してなんとか伊吹萃香に荒らされた永遠亭の片付けは、お師匠様の自室以外ほぼ終わってるのよね。荒らしてた目的がお酒だったから、一目で「ここにはない」と判断した部屋は無視してたから荒らされた数部屋以外は片付ける必要がなかったのは不幸中の幸い。だから回収前に行商の準備もしちゃおうと思って、着替え終わったところに輝夜様が帰って来たんだけど。
「…あら?鈴仙は行商?」
「そうですが…輝夜様は随分と早いお帰りですね?」
お二人の殺し合いにしては随分と静かだなーとは思ってたけど。とっくに私の仕事が増えることは決まっていたみたいで。
「丁度いいわ、行商ついでに妹紅を呼び出して頂戴。家にいなかったのよ」
「え?でも妹紅さんが家にいないんじゃ私も何処にいるかは…」
「見つからなかったら鈴仙が相手してくれるのかしら?」
「…わかりました、お伝えします」
私から見ても【イライラしてるのを辛うじて取り繕ってる】状態の輝夜様。これ以上に機嫌を損ねるなんて真似は当然私には出来ない…輝夜様も私じゃとてもかなわない相手なんだから。
―――っていうことで、妹紅さんを探して辿り着いたのが人里の名家・稗田邸。紅魔館に総攻撃をかける切っ掛けになった、人里での八雲主従と夢幻姉妹っていう強大な悪魔の仲間割れ…それに関しての詳しい話を慧音さんから聞くことになったわ。
あれは仲間割れなんかじゃなく、稗田家の当主・阿求を夢幻姉妹が狙って来てた。八雲紫と八雲藍はそれを止めるために出向いたところ、稗田阿求殺害より八雲主従との戦闘を優先したことでスキマによって姿を消したそう。記憶力に優れるだけの少女を狙った理由は【妖精の排除を奨励したため】なんていう意味が分からないもの。ギリギリのところで生き延びることが出来た稗田阿求だったそうだけど、親族が二人犠牲になったこともあって護衛が欲しいと慧音さんに泣きついたそうで。
(正式な護衛が見つかるまで妹紅さんがここで寝泊まりと。
…輝夜様、妹紅さんじゃなくても納得してくれるかなあ)
あの妹紅さんが【強い仲間】なんて言ってるけど、殺さないように加減しなきゃならない相手で輝夜様のストレス解消になるかどうかはわからないのよね。だから連れて行くこと自体あまり賛成できないんだけど…
「案の定すぐ来てくれるってさ!一昨日私の家に泊まって行ったから、前で待って案内してあげてくれ鈴仙ちゃん」
「あ、あの。今からお断りは」
「そうするとメディスンが増援になると思うよ。豹が迷いの竹林のことはちゃんと教えてたし」
「そうですか…わかりました、ご案内しますね…」
「おう!輝夜によろしくな!」
ものすごくいい笑顔で言ってる!これ絶対とんでもないの呼び出してる!!
つまり下手を打つと私もズタボロにされる可能性が大。なんでこんなことに!
――そういうわけで、妹紅さんの家の前に戻る途中。とんでもない反応が博麗神社方面から向かって来てるのに気付いた。移動方向からして、これが妹紅さんが呼び出した相手だわ…
たしかに輝夜様が相手の殺し合いでも問題なさそう。逆に言うと私はスペルカードルール無しじゃまず勝てない…それこそ純狐さんクラスじゃない!待たせたりしたら後が怖すぎる、っていうかこの波長襲撃された日にフラワーマスターと交戦してた相手っ…!
「い、急がないと!」
私に戦意を向けられたらたまったもんじゃない!輝夜様には悪いけどこのまま永遠亭に連れて行って相手して貰わないと!そもそもの原因は輝夜様なんだしね!
とはいっても今の私は行商姿、飛行しての移動は目立つからできない。だから迷いの竹林に向かって猛ダッシュ!早目に波長を見つけられて良かった、ギリギリだけど間に合うわ!
「ん、鈴仙かしら?」
「は、はい…妹紅さんが呼んでくれた」
「そう、私は夢月。それじゃ案内お願いするわ」
「こっちです…落とし穴があるんで気を付けてください」
ヒョウが魔界に帰る前に、一つだけ私と姉さんに頼みごとをされた。幻想郷に残していく皆のアフターフォロー…ヒョウが魔界に帰ったことで報復に動くだろう連中の撃退。そのためアリスに頼み込んで
『夢幻館、誰か応答できるか?』
『妹紅さんですか?何でしょう?』
『お、エリーか。悪いんだけど夢月って今日呼びに行けるかな?』
『お茶してたから聞こえてるよ。何か用?』
『あ、夢月いいところに!
今日になって輝夜が私と殺し合いに誘ってきたんだけど、私慧音に頼まれて阿求の護衛が見つかるまで泊まり込みでさ。しばらく帰宅も出来そうにないんだ。案内役の鈴仙ちゃんが呼びに来てるから、代わりに輝夜と殺し合ってくれない?』
『あ、空振りだと思ったけどやっぱり来たんだ。わかった、今から妹紅の家に向かえばいいのね?』
『うん、鈴仙ちゃんに私の家の前で待機してもらうから!押し付けちゃって悪いね夢月!』
『謝らなくていいよ。殺しても問題ないし、妹紅と本気で殺り合える奴なんでしょ?楽しみで仕方ないから』
『そう言ってくれると助かるよ!それじゃ、よろしくね!』
なんて面白そうな話を妹紅が持ってきてくれた。早速妹紅の家に飛んで来たら、行商姿の月の玉兎が待ってたから名前を確認して当たり。この竹林がちょっと面倒なところなのは妹紅から聞いてる、一昨日止めてくれた時に色々話をしたから。だから素直に案内する気がある以上、今はまだ始末する必要はない。何より…
「それで、鈴仙は報復に動く気はあるの?」
「…輝夜様だけですそう考えてるのは。お師匠様が報復に動かないよう輝夜様に牽制を入れたから、輝夜様の命令で妹紅さんを呼びに来たんです。今後豹の関係者が襲撃されたときに援護に出向くのも私の仕事になってるので、そこまで敵視しないでもらいたいのですが」
「それなら今度私に付き合ってよ。私の殺意を受けて平静を装えるんだし、それなりに戦えるんでしょ?」
「無茶言わないでください…!私も月から脱走した身なので目立つわけにはいかないんです。もう永琳様が完全に豹の援護に回ってくれてますので、今後輝夜様が報復に動く場合は私も止めに入れますから」
「でも今まさにその輝夜ってのに従ってるじゃない」
「うっ…!」
「まあいいか。地上に降りても月の上下関係を順守するあたり、完全に信用は出来ないけど。
今日は妹紅に免じて見逃すけど、今後余計な真似したら容赦なく鈴仙も殺すよ。稗田家だっけ?あそこで二人殺したの私と姉さんだから、月の玉兎一匹殺しても何も変わらないし」
「肝に銘じます…」
案の定軽く殺意を向けて聞いてみれば、永遠亭って勢力の内情をあっさりバラした。ついでに軽く脅しておいたからこの玉兎が独断で報復に動くことはもうないでしょ。実力はあるのに私から売った喧嘩を買わないってことは、言葉通り私と渡り合えるだけの実力者って事実が広まるのを避けたいってことだろうし。
それから先は何の会話もなく竹林を進んで、屋敷が見えてきたところで鈴仙が口を開く。
「輝夜様も遠慮なく暴れると思うんで、ここで少し待っててください…すぐ呼んで来ます」
「急がせてよ」
フフフ…まだまだ退屈しない日々が続いてる。ヒョウから時間系能力の使い手って聞いてるから楽しみで仕方ない、紫たちとは全く違う方向の強者なんだから!
「―――ってことで、夢月が来てます」
「上等じゃない!!殺しても文句は言わせないわよ!」
…とりあえず八つ当たりの相手が来れば良かったみたいで、輝夜様は戦意マシマシで外に向かってくれたわ。でも本当に夢月を殺しちゃうのも問題になるんだけど…
「その心配はいらないわ鈴仙。流石の輝夜でも相手が悪すぎるから」
「あ、お師匠様。
…そんなにヤバいんですか?」
「夢月ってメイド服の悪魔でしょ?
彼女とその姉の幻月は夢幻世界という【自分で創った世界】で暮らしてる悪魔よ。新しい世界をゼロから創り出せる悪魔、輝夜が不死じゃなきゃ全力で止めてたわ」
「そ、そんなレベルだったんですか!?」
「ええ、むしろこれで輝夜も頭が冷えるといいんだけど」
と、とんでもない悪魔に目を付けられちゃってた…!私はもう幻想郷で迂闊な行動は絶対にできないってことじゃない、なんでこんなことにー!?
…こんな感じで、私はしばらく【悪魔異変】の余波に巻き込まれることになった。
このノリで続く特別編と、完結させられるか微妙な新作。どちらの方が優先して読んでみたいでしょうか?
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