黙れば美人、喋ると変人、戦う姿は不沈艦! 作:とんこつラーメン
「仕事の後に揚げたての唐揚げを食べながら飲むビールはこの世の物とは思えない程に美味い」
船子とセシリアが第三アリーナにて試合をしている最中。
IS学園理事長室にて二人の老齢の男達が向かい合っていた。
「…本当に良いのだな?」
「えぇ。私のような存在を隠す為には、貴方のような圧倒的存在感を放つ人間こそが最も相応しい」
一人はごく普通の老人のように見えるが、その身から出る雰囲気は明らかに常人のソレではない。
もう一人の男は巨大な体躯と禿げ上がった頭、着ている和服による相乗効果によって凄まじい存在感と圧迫感をこれでもかと言わんばかりに醸し出していた。
「去年までは貴様の奥方が勤めていたと聞いたが?」
「確かに、今までならば彼女でもなんとかなりました。だが、今年からはそうもいかなくなるでしょう」
「…例の『男操縦者』か」
「その通り。彼の存在は様々な意味で特異点となり、確実に彼の事を狙う輩が襲撃してくるであろうことは必定。そうなれば私とて動かない訳にはいかなくなる」
「ふっ…貴様を本気で怒らせる事の恐ろしさを知らぬとは…愚かよのぉ…」
大男が笑いながら自分の顎をスリスリと擦る。
まるで二人は長年の知己のような仲良さげな雰囲気を出していた。
「よかろう。ワシで良ければ喜んで力になろうではないか」
「貴方ならばきっとそう言ってくれると信じていました」
「うむ」
「それに…今年は例の男子以外にも『面白い子』が入学しているようですしね」
「ほぅ…?」
面白い子。
それを聞き大男の目が僅かでは見開かれる。
「『黄金の不沈艦』…と言えば分かるでしょう?」
「金野船子…そうか…奴もここにおるのかっ! それは愉快愉快!」
どうやら彼は船子の事を知っているようで、彼女の名を聞いた途端に大笑いをしだした。
「例の男子が卒業するまでの三年間…どうやら暇をする事だけはなさそうだわい!」
「それには同感です。今も第三アリーナにてイギリスの代表候補生と試合を繰り広げていると聞いています」
「おぉ! 流石は船子! 入学早々からやってくれるではないかっ!」
「しかも、今日の試合に備えて一週間学園を休んで外で修行をしてきたとか」
「がっはっはっ! 彼奴に掛かれば一週間と言う短い時間も、無限にも等しき時間へと変り果てるっ! あ奴め…暫く会わん間にどれ程腕を上げたか…今から楽しみで仕方がないわっ!」
カオスはカオスを引き寄せる。
それは、今も昔も決して変わらない絶対の法則だった。
「話が逸れましたが、明日からよろしくお願いします」
「うむ! 表の事はワシに任せるがよい! お主はお主で『己の役割』を存分の果たすがよい!」
「はい。ですが……」
「分かっておる。基本的にこの学園の教育方針に口や手を出したりはせぬ。ワシは『張りぼての学園長』であればよい。だが…もしもこの学園や生徒達に危機が訪れた時は、遠慮なく動かせて貰うぞ?」
「無論です。寧ろ、貴方にはそっちの方を期待しています」
「学園長たる者…愛すべき学び舎と生徒達の危機に際して真っ先に立ち上がる! それが学園を収める長たる者の真の務めよっ!!」
ドンッ!!
そんな効果音が出てきそうな迫力に室内の空気が一瞬で張りつめた。
「フハハハハハッ! 年甲斐もなくこれからの事が楽しみになってきた!」
「羨ましい限りです」
一通りの話が終了した後も、男達の談笑は続いていった。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
私の敗北で試合は終わり、疲れ切った体を癒す為にアリーナのシャワー室に入っていた。
シャワーノズルから出ている熱い湯が私の前身を濡らしていく。
頭の中にあるのは、先程の試合の事と、私と戦った女の子の事。
金野船子。
白銀の美しい髪を持つ謎多き少女。
その言動には意味不明な部分が多々あるが、それでも彼女の実力が本物なのは実際に戦った私が良く分かっている。
あの織斑先生と剣一本で引き分けたというのも納得出来る実力だった。
どんな時も本気で、彼女なりに真剣で。
私との試合の為に学校を休み、外で修行をしてきたという。
今までの人生で一度でも、そんなにも本気で自分と向き合ってくれた人間が一人でもいただろうか。
「船子…さん…」
その名を呼ぶだけで顔が熱くなる。
試合の後に私の手を取りながら言ってくれた言葉が頭の中で何度も反芻される。
『アタシらもう…友達だろ?』
こんな自分の事を『友達』と言ってくれた。
言われた時…本当に嬉しかった。
恥ずかしくて本人の前では絶対に言えないけど。
でも…篠ノ之さんや織斑さん達が彼女の事を慕う理由も分かる気がした。
あんなにも器の大きな人間には今まで会った事が無い。
何でも受け入れ、何でも糧にする。
今ならば分かる。私が彼女に負けたのは当たり前だ。
ISの操縦技術などではなく、一人の人間として完全に負けている。
彼女ならばきっと、一組のクラス代表として上手にやっていけるだろう。
「船子さん…私は……」
明日にはまた教室で船子さんに会う事になるけど、今はまだ無理だ。
心臓がさっきからバクバクしていて、心の準備が出来ていない。
シャワーから出たら、すぐに着替えて部屋まで戻って…。
「ん? アタシのことを呼んだか?」
「ひゃぁぁっ!?」
いきなり後ろから声を掛けられて変な声を出してしまった!
って…ええぇっ!?
「ふ…船子さんッ!? どうしてここにいらっしゃるんですのッ!?」
「どうしてって…さっきの試合でアタシも汗を掻いちまったからよ。こうして洗い流しに来たって訳だよ」
「そ…そうなんですのね…」
何を当たり前のことを聞いてしまったのだろう。
このシャワー室は本来、そのような用途で使われるべき場所。
別に船子さんがいても全く不思議じゃないし、おかしくもありませんわっ!
「変な声を出して申し訳ございませんでしたわ」
「別に気にしてねぇよ。人間生きてりゃ、奇声を上げる事なんて百回や二百回ぐらいあるもんだ」
「そうですわよね…って百回ッ!?」
流石にそんなには変な声は出しませんわよッ!?
って…あら…?
「ん? どした?」
「あ…いえ……」
今、気が付きましたけど…船子さんも裸になっている…?
いや、ここはシャワー室なんだから服を脱ぐのは当たり前なんですけど…。
(なんて均衡のとれたスタイルなんですの……)
背が高く、出ている所は出ていて、引っ込んでいる所は引っ込んでいる。
何故か肝心な部分は湯気で隠れて見えなくなっていますけど…チッ!
(美しいですわ……)
神々の産み出した至高の芸術品。
完全なる比率で構成された身体。
間違いないですわ…これこそまさしく…!
黄 金 比
「あ…あの…船子さん?」
「なんだ?」
「えっと…体型の維持などはどうやっていますの…?」
「別にこれといった事はやってねぇよ。栄養バランスの整った食事を食べて、ちゃんと運動をして、毎日ちゃんと8時間以上の睡眠を取る。やろうと思えば誰だって出来る事だろ?」
いや…言っている事は正しくて正論なんですけど…それが出来たら誰も苦労なんてしてませんし、この世界に『ダイエット』なんて単語は誕生してませんわっ!
そんな『当たり前』の事が出来ているからこそ、船子さんはこんなにも美しいのかもしれませんわね…。
「なんか話し込んじまったな。箒たちも待ってる事だし、とっととシャワーを浴びてスッキリしますかね」
そう言うと、船子さんは隣の個室に入ってからシャワーを浴び始める。
部屋と部屋を遮る壁は胴体部分だけを隠すようになっていて、お互いの顔は見えるようになっている。
なので、必然的にシャワーを浴びている船子さんの顔も見る事が出来るわけなのですが…。
「ふぅ…やっぱ、思い切り体を動かした後のシャワーは気持ちが良いぜー♡ これはあれだな。オメガウェポンを『ジ・エンド』で仕留めた時と同じぐらいに気持ちがいいな。うん」
水も滴るいい女。
ふと、そんな言葉が頭を過りましたわ…。
美しすぎて言葉が出ませんわ…。
結局、私はずっと船子さんがシャワーを浴びている姿に見惚れていた。
きっと、私じゃなくても同じように見惚れていたに違いありませんわ…。
この姿には、それ程までの破壊力がありますから…。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
次の日になり、朝のSHRにて改めて昨日の結果発表が行われていた。
「と言う訳で、一年一組のクラス代表は金野船子さんに決定しました」
ま…試合には勝ったんだし当然だよな。
色々と不安要素が無いと言えば嘘にはなるけど。
「金野さん。何かあれば一言どうぞ」
「おう」
山田先生に促されて船子が席から立つ。
一体何を言い出すつもりだ…?
「この船子サマが一組のクラス代表になったからにはもう安心だ。クラス対抗系のイベントは全て一組が一位を独占確実!! 船子ちゃんの最強伝説の幕開けをお前らにも見せてやるぜっ!! やったぜ…オヤジィィィィィィィィィィッ!!!」
「お前はサイキョー流道場でも開くつもりかッ!?」
「イヤッホォォォイッ!! ちょーよゆーッスっ!」
「いや聞けよッ!?」
途中までは良かったのに…どうしてこいつはこうなんだ…はぁ…。
「さて…と。まずは公約通り、食堂に千冬の姉御専用にビールを置かねぇとな」
「あれってマジだったのかッ!?」
「当たり前だろうが。あ、山田先生も飲んでもいいぞ」
「あ…ありがとうございます…?」
おいこらそこ。副担任に酒を勧めんな。
山田先生も反応に困ってるだろうが。
「因みにアタシ、サイコクラッシャーなら出来ます」
「そこは震空我道拳じゃねぇのかよっ!?」
いや…船子ならマジで出来そうだけどさ。
腕組みしながら生身で宙に浮いて『フハハハハハ!』って爆笑している姿が簡単に想像出来るわ。
「この一年間でお前らに『金野船子ちゃんと出会って人生楽しくなりました』って絶対に言わせてやるからな! 覚悟しとけよ! 以上っ!!」
人生楽しくなりました…か。
そうだな。少なくとも俺は船子と出会って人生が凄く楽しくはなったよ。
なんつーか…充実してる。毎日がイベントみたいに楽しいしな。
「ふっ…朝から元気だな船子」
「おう! あったりまえだぜ千冬の姉御! なんたってアタシが一組のクラス代表なんだからな!」
ここで千冬姉の登場かよ。
つーか、もう普通に船子の事は名前呼びなんだな…。
今更だからツッコまないけど。
「お前ならばきっと大丈夫だろう。この私が認めているんだからな」
「へへ…任せときな!」
船子が珍しく嬉しそうな顔で照れてる。
割とレアな光景かもしれない。
悔しいが…めっちゃ可愛い。
「それはそうと、今日は朝から緊急の全校集会が開かれる事になった。全員、今から講堂に移動だ」
「全校集会? いきなりだな」
「私もついさっき聞かされたんだ。緊急と言っても、別に急ぎの用事があるとかではないらしい。どうやら、全員に発表することがあるのだとか…」
発表する事…ねぇ。
今年度から新しい先生が赴任してくるとか…そんなのか?
ま、実際に行ってみれば分かる事か。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
前に入学式が執り行われた講堂に到着すると、既に他のクラスや学年も到着していた。
俺達はクラス代表である船子の誘導で指定の場所に座り、他のクラスが来るのを待つ事に。
船子って、ちゃんと真面目にやることはやってくれるから憎めないんだよな…。
小さな声で雑談とかをしていると、すぐに全校生徒が集結。
あっという間に講堂内が静かになった。
『それでは、これより緊急の全校集会を執り行います』
どこからかアナウンスの声が聞こえてきて、一気に緊張感が広がる。
今思えば、これが入学して初めての全校集会なんだよな…。
『今年から学園長が新しくなったので、皆さんに御紹介します。では…どうぞ』
が…学園長が新しくなった? そんなのってあるのかよ?
「え? ちょ…あれ…」
「壇上の床が開いて…」
「下から何かがせり上がってきた…?」
な…なんだぁ? ここにあんなギミックがあったのか?
流石はIS学園…こんな所までハイテクとは…って、上がってきた床に誰か乗ってないか?
つーか、あれってまさか……冗談だろッ!?
なんで『あの人』が普通にIS学園にいるんだよッ!?
どう考えたっておかしいだろっ!?
「ワシがIS学園の新学園長『江田島平八』であぁぁぁぁぁぁるっ!!!!!」
江田島学園長就任。