黙れば美人、喋ると変人、戦う姿は不沈艦! 作:とんこつラーメン
これでIS学園の守りは万全ですね!
講堂の窓ガラスが全部割れた。比喩でなく。
まさかの新学園長が床下から出現し、大音量で自己紹介した瞬間、俺も含む全員の耳がキーンとなった。
…よく鼓膜が割れなかったもんだ。
「な…なんで…あの人が…?」
「船子…?」
俺達全員がまさかの事に驚きを隠せない状況にて、船子だけが一人だけ別の反応を見せていた。
驚くには驚いているけど、なんつーか…『なんでいるんだ』的な驚き方だった。
「じゅ…じゅ…じゅ…じゅ…!」
「え?」
「塾長――――――――――――っ!!!」
「船子ッ!?」
いきなり船子が立ち上がって壇上に向かって走り出していく!
一体マジでどうしちまったんだっ!?
「おぉっ! 船子ッ!!」
「塾長!!」
学園長も船子に気が付いて…って名前で呼んでるっ!?
もしかして、あの二人って知り合いなのかッ!?
「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」」
二人が同時に拳を振り被って……。
バコォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!
…ぶつけ合った。
その衝撃波はここにいる全員にも届き、流石に吹き飛んだりはしなかったが、それでも全身の肌がビリビリするような感覚にはなった。
「は…はは…ははは……」
「くくく……」
「「はははははははははははははははははっ!!!!」」
…で、今度は一緒に大爆笑。
いや…マジでなんなんだ?
「良い一撃を撃てるようになったではないか船子よ! 増々、腕を上げおったな!」
「そっちこそ! 江田島平八、老いて猶健在って感じだったぜ!」
なんつーか…あれだな。
久し振りに会ったお爺ちゃんと孫娘みたいだな。
船子が本気で嬉しそうにしているの…初めて見たかもしれない。
「ほんと…また会えて嬉しいよ。風の噂で死んだって聞いた時は、アタシは当然として、他の皆も誰一人として信じてなかったからな。『江田島塾長は殺しても死なない男だ』ってさ」
「ふっ…当然である。ワシは男塾元塾長であり、今はIS学園学園長の江田島平八なのだからな!」
あの船子が大人しく頭を撫でられてる…だと…!?
あんなにも体がでかくて強面なのに、ああしてると好々爺って感じがする…。
なんだろうな…すげーカッコいいって思っちまった…。
「つーか、どうしていきなりIS学園の学園長になんてなってるんだ?」
「ふふ…ワシの友人のたっての願いでな。塾長経験のあるワシが、こうして今度はIS学園の学園長をする事になったのよ」
「ふーん…ワケありってことか」
「心配せずとも、お前にだけはいずれ必ず話してやろう」
「おう!」
俺だけじゃないけどさ、他の皆もいきなり船子が新しい学園長と仲良く話している光景に普通に戸惑ってるんですけど。
司会をやってる人も、どうすればいいのか困ってないか?
『え…えーっと…船子ちゃん? 江田島学園長と知り合いなのかしら…?』
あ。なんか水色の髪をした上級生の人が恐る恐る話しかけてきた。
壇上にいるって事は生徒会の人なのかな?
「知り合いなんてもんじゃねぇっ! 江田島塾長…じゃなくて、江田島学園長はな! この船子ちゃんの『人生の師匠』とも言うべき大恩人なんだよっ!!」
「「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!??」」」」」
ちょ…ちょっとぉぉぉぉぉっ!?
そんなの本気で初耳なんですけどぉぉぉぉぉッ!?
船子とはかなり長い付き合いだって自負してるけど、あんな人と会ってる場面なんて一度も見た事が無いぞっ!?
「ところで船子よ。ワシの可愛い塾生たちは元気にしておるか?」
「あったり前田のクラッカーだぜ! 桃の兄貴も、富樫のおっさんも、虎丸のおっちゃんも、松尾と田沢のおっさんたちも、椿山のおっちゃんも、極小路の奴も、Jのにーちゃんも、赤石先輩も、大豪院先輩も、みんなみんな超絶元気だよ! 塾長が生きてるって聞いたら、きっと大喜びしてくれるに違いないぜ!!」
「そうかそうか…それを聞いて安心したわい。ワシの蒔いた未来を託す種子は…見事に芽吹いたということか」
なんか知らない名前がめっちゃ飛び出してきたけど…一つだけ分かることがある。
この江田島学園長は…これまでにも多くの学生を立派に育て上げて、送り出してきた人なんだってことが。
特に根拠とかはないんだけど…この人こそが真の教育者ってやつなのかもしれない…。
「よぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉく聞けいっ!!! IS学園の生徒達よ!!!」
こ…今度は何だっ!?
最初とは別の意味で背筋が伸びた…。
「このワシの目が黒い内は、例え富士山が大噴火しようとも!! 空から核爆弾の雨が降ろうとも!! 世界中の軍隊が押し寄せて来たとしても!! 必ずや貴様等の事はこの江田島平八が一命を掛けて守ってみせると約束するのあるっ!!!」
す…すげぇ…迫力…!
普通なら『何言ってんだ』とか『バカじゃねぇの』とか言われそうなセリフなのに…この人が言うだけで全く違う言葉に聞こえる!!
これが初対面なのに、この江田島学園長の言葉には、無窮の信頼が! 絶対の自信が! 究極の説得力があるっ!!!
この人にならば全てを賭けられる!! この命を預けられる!!
一瞬でそう思わせるほどの超絶的で圧倒的なカリスマがあるっ!!!
「諸君らは心置きなく青春を謳歌するがいいッ!!! 大いに学び!!! 大いに競い!!! 大いに友情を育み!!! 大いに成長する!!! それこそが学生の義務であり権利なのであぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁるっ!!!!!」
学び…競い…育み…成長する…!
あ…あれ…なんでかな…急に涙が出てきた…。
「くぁ~!! いつ聞いても学園長の言葉は心に響くぜぇ~!! なんかテンション上がってきたぁ~!! なぁ江田島学園長!! いつもの『アレ』…やろうぜっ!!」
「おぉっ!! アレか!!」
あ…アレ? アレってどれだ?
「「男塾名物『油風呂』!!!」」
「「「「「油風呂ぉッ!?」」」」」
な…なんだその滅茶苦茶物騒な名前の名物はッ!?
『油風呂。別名【地獄舟】とも呼ばれ、古くは江戸時代に実際に存在した罪人の拷問法だったと言われている。巨大な金ダライに大量の油を注ぎ込み、そこに火のついた蝋燭の乗った笹船を浮かべ、下からは業火を焚き、その中に己が身を浸からせる。勿論、徐々に油の温度は上昇していき、ほんの少しでも迂闊な動きをしたら最後、瞬く間に火達磨になってしまう為、これを成すには極限とも言うべき精神力が要求される。民名書房刊【本当にあった江戸時代の怖い話】より抜粋』
「「「「「なんか急にスピーカーから謎の解説が聞こえてきたッ!?」」」」」
凄く良い声の男の人だったけど、あんな声の男ってこの学園に居たっけッ!?
つーか『民名書房刊』ってなにっ!? 聞いたことないんですけどッ!?
「いやはや…実に懐かしいわい」
「確か、学園長は12歳の頃に初挑戦して、普通に耐え抜いたんだろ?」
「うむ。あの時は油風呂が入学試験だったからのぉ…」
「「「「「そんな入学試験嫌なんですけどッ!?」」」」」
だよな。俺も嫌だわ。
「あれを根性で耐え抜いた富樫のオッサンもスゲェよなぁ…。マジで今でも尊敬してるぜ」
「お前がそれを言っても説得力に欠けるというものだろう」
え? それは…どういう意味だ?
まるで、船子も過去に挑戦したことがあるみたいに聞こえたけど…。
「弱冠10歳の幼女の身であったにも関わらず、お前は見事に油風呂を無傷で耐え抜いてみせた。しかも『いい湯加減だった』という台詞付きでな。あれにはワシも驚かされたわい」
『ふ…船子ちゃんッ!? あなた小学生の時に何をやってるのよッ!?』
「ん~? 別にそこまで驚くような事じゃねぇと思うぞ~? やろうと思えば誰だって出来るだろ?」
『出来るわけないでしょっ!?』
少なくとも俺には無理だ。
やったら確実に下半身を大火傷するわ。
それを無傷で乗り切った船子が規格外すぎる。
「どうせなら、油風呂をIS学園の名物にして……」
「「「「「絶対に断るっ!!!!!」」」」」
「ちぇー。面白いのになー」
不貞腐れる船子は可愛いが、それとこれとは話が別。
油風呂が名物になったら、ほぼ確実に来年からIS学園の入学希望者が激減するわっ!!
『というか、そろそろ自分の席に戻ってくれないかしら? 今までずっとスルーしてたけど…』
「えぇ~? アタシはもっと学園長と話をしてーんだよぉー!」
「船子よ。ワシと話がしたければ、いつでも学園長室に来るがよい。歓迎するぞ」
「マジかッ!? よっしゃぁぁぁぁっ!!」
あ…戻ってきた。
よっぽど嬉しかったのか、凄く足取りが軽いけど。
「な…なぁ…船子」
「ん~? なんだよ一夏」
「お前と学園長って…どこで知り合ったんだ?」
「んお? アタシと江田島学園長との馴れ初めを聞きたいのか? いいぜ。あれはアタシがまだジオン軍にいた頃…シン・マツナガと一緒にソロモンの守備を任されていた時だった…」
駄目だこれ。ちゃんと話してくれないパターンのやつだ。
もう冒頭の時点で分かるわ。
『え…えーっと…もうそろそろ時間なので、全校集会を終了しようと思いますが…学園長。最後に何か言う事はありますか?』
「うむ」
おぉ…一歩だけ前に出た。
それだけでスゲー威圧感…。
「ワシがIS学園学園長の江田島平八であぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁるっ!!! 以上!!!」
また自己紹介かよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?
一番最初にもしましたよねッ!? 全く同じセリフでッ!!
『あ…ありがとうございました…。では、これで緊急の全校集会を終了します…』
お…終わった…。
こんなにも疲れた全校集会は生まれて初めてだ…。
ほら…他の皆もなんかぐったりとして背凭れに体を預けてるし…。
いつもと同じように…いや、いつも以上にピンピンしてるのは船子だけしかいない。
あの接し方から、本当に学園長の事が大好きで、同時に心の底から尊敬しているって事はよーく分かったけど。
もしかしたら、船子が今みたいに破天荒になったルーツは、あの学園長にあるのかもしれねぇな…。
あそこまでのぶっ飛び具合と意気投合具合を見せつけられたら、嫌でもそんな事を想像しちまうよ。
けど、肝心の船子がそれを話してくれねぇからなぁ~…。
「…で、その時ゲルググに乗ってたアタシは、ジム二機とボール五機を撃墜した後にア・バオア・クーが陥落する光景を瞼に焼き付けて…って、ちゃんと聞いてるか~?」
「あー…はいはい。ちゃんと聞いてるよー」
いつもなら諸々にツッコみたいところだが、今は本当に無理…。
まだ一時間目も始まってないのに、もう疲れ果てちまった…。
こんな状態で6時間目まで頑張れるのか俺…はぁ…。
先の話とかは簡単に思い付くのに、直近の話は上手く思いつかないというジレンマ。
共感してくれる人がいたら嬉しいです。