黙れば美人、喋ると変人、戦う姿は不沈艦!   作:とんこつラーメン

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やっと『彼女』の登場回。

これで一夏のツッコミ負担も少しは軽減する…?








チャイナガールがやって来た!

 すっかり暗くなった夜空の下のIS学園の校門前に、ボストンバックを持った一人の少女が仁王立ちで立っていた。

 

「ふぅ~ん…ここがIS学園ね。中々にでっかい所じゃない」

 

 値踏みするように、そこから見える範囲の校舎などを見渡していく。

 小柄な体格な上にツインテールに髪を纏めているから、見た目以上に幼い印象を受ける。

 

「えーっと…確か、到着したらまずは受付に行かないといけないんだったっけ。受付ってどこだろ」

 

 ポケットの中からすっかりクシャクシャの皺だらけとなったメモ紙を取り出して広げ確かめる。

 そこには中国語で『到着したら【本校舎にある総合事務受付】に行け』とだけ書かれてあった。

 

「いや…流石に転入手続きをする為に、まずは受付に行かないといけないのは流石のアタシでも分かるんだけど…その肝心の受付の場所が分からないんだッつーの」

 

 メモ紙には場所の名前だけしか書いておらず、それ以外の情報は全く無い。

 これでは向かいたくても向かえない。

 

「はぁ…自分で探すしかないかぁ~…」

 

 只でさえ、ここに着くまでの間でそこそこ疲れているのに、ここから更に頭を使うのは流石に面倒くさくなったのか、大きな溜息と共にすぐに諦めの境地へと至った。

 トボトボと疲れを感じさせる歩みで敷地内へと入っていきつつ、頭の中では『都合よく誰かが通りかかってくれないかなー』と楽観的な思考になっている。

 一瞬だけ『飛んで探せばよくね?』とも思ったが、それは規則的な意味でアウトなことをすぐに思い出し、頭を振ってその考えを払拭した。

 

(迂闊な事をして、お偉方に御小言を言われるのは勘弁だしねー…)

 

 はぁ~…と、またもや大きな溜息。

 溜息を吐くと幸せが逃げるとよく言うが、その理論で言えば彼女の幸せはかなり逃げてしまったことになる。

 

「あいつら…元気にしてるかな~…」

 

 思い出すのは、嘗ての友人である少年少女の姿。

 一人は自分にとっての初恋相手であり、同時にすぐに彼の想いに気が付いて自分から身を引いた少年。

 もう一人は、その少年が好きな相手であり、スタイル抜群な上に頭脳明晰で運動神経も抜群と、非の打ち所のない完璧な美少女。

 だが、その言動はハチャメチャで、いつも皆を振り回していた。

 

(そういや…一夏はISを動かしたことでこの学園にいるって聞いたけど、船子はどうしてるのかな…)

 

 一度でも考えると、急に昔の色んな思い出が頭を過る。

 楽しかった小学生時代と中学生時代。

 中国に帰国する最後の最後まで、幼馴染の少女によって大笑いさせられた。

 彼女がいなかったら、きっと寂しい別れになっていたに違いない。

 なんだかんだ言って、彼女には感謝の念しかない。

 

「ここで考えてても仕方ないか。よし。こうなったら歩きまくって探しますか」

 

 きっと、彼女ならばそうしていたであろうと信じて、力を込めて一歩を踏み出した…その時だった。

 

「くっそー…幾らなんでも変幻自在過ぎるだろー」

 

 自分以外の声が聞こえてきた。

 誰かと思って顔を向けると、生徒の集団がISの訓練施設から出てきている姿が見えた。

 それだけならば、そこまで不思議なことではない。

 ここはIS学園。通っている生徒が練習などをしていても全く不思議じゃない。

 問題があるとすれば、聞こえてきた声は明らかに男…しかも少年のものだったことだ。

 

 ISは基本的に女性しか動かせない。

 それ故に、ISを学ぶ場所であるIS学園は自然と女子高のようになっている。

 そこにいる男子となると、必然的に一人しかいない。

 

 暗がりだから良くは見えないが、それでも目を凝らしながら足音を消しながら近づいていくと…そこには確かに『彼』がいた。

 

「あったり前山さんのホットケーキだっつーの。サンダー素人な一夏に、この船子ちゃんの動きが捉えられるかよ」

「うぐぐ…事実だから何も言い返せない…」

 

 間違いない…あいつだ。

 ずっと会いたいと思っていた幼馴染。

 しかも、いるのは彼だけじゃない。

 あろうことか、もう一人の幼馴染も一緒だった。

 

(うわぁ…船子もIS学園に入学してたんだ…)

 

 そんな素振りなんて全く見た事が無いだけに、一夏の時と同じぐらいに驚きが大きかった。

 と同時に、船子の実力ならばIS学園ぐらい簡単に入れそうだという不思議な確信もあった。

 なので、いること自体には驚いたが、入学出来たことには微塵も驚かなかった。

 

(まさか、手続き前に再会出来るだなんてマジでラッキー! よし、あの二人から挨拶がてら事務受付の場所を聞いて……あれ?)

 

 一夏と船子ばかりに目がいって、そこに別の二つの人影があることに気が付かなかった。

 それを見た途端、急に近くにあった物陰に隠れてしまった。

 

「船子さんの動きには法則性がありませんものね。あの動きを捉えるのは至難の業ですわ」

「それでいて、ちゃんと武道の基本は抑えているから凄い。それにしても、船子が知らない間に篠ノ之流の門下生になっていることに驚いたぞ」

「ん~? 言ってなかったっけか? 一応、柳韻のおっちゃんにも認められた上で門下生になってんだけどな」

「父さんからは一言も聞いてないぞ…」

 

 なにやら親しげに話している。

 元々、船子はコミュ力の塊とも言うべき陽キャの化身だ。

 友達作りに関しては天才的とも言える才能を持っていた。

 だから、IS学園に来て新しい友人を複数作っていてもおかしくはない。

 おかしくは無いのだが…なんでか素直に喜べない。

 

「そういや船子。昨日どっかに行ってたのか? なんか姿が見えなかったけど」

「おう。ちょっち異世界…っつーか、並行世界に行ってた」

「「「並行世界っ!?」」」

 

 久し振りに聞いた、船子のぶっ飛びトーク。

 いつ聞いても慣れそうにはない。

 

「余りにも暇だったからよー…ついD4C使って幾つもの並行世界を行き来しまくってたんだよ。そしたらなんと! 面白い世界に出くわしちまってよー! 思わず少しだけ滞在しちまったぜ!」

「一応聞いとくけど…どんな世界だったんだ?」

「なんかなー…馬みたいな耳と尻尾をつけた連中が沢山いる世界だったな」

「馬みたいな耳と…」

「尻尾を付けた連中?」

「どんな方々なんですの…?」

 

 一体何を言っているのかさっぱり分からない。

 いや、船子の言動を真に受けて真面目に考えようとすること自体が間違いだから、この思考には意味が無いのだが。

 

「なんでも合宿をしている最中で、近くに神社で夏祭りをしてやがったんだよ」

「夏祭りかー…今年も行きてーなー」

 

 日本の夏祭り…なんて懐かしいのだろう。

 昔はよく、皆で遊び回っていたものだ。

 

「そこでよ、めっちゃ面白い奴と出会ったんだよ!」

「面白い奴?」

「聞いて驚け! なんとな…この船子ちゃんと何もかもが瓜二つな美少女だったんだよー!」

「「「えぇーっ!?」」」

 

 船子と何もかもが瓜二つ。

 それは即ち、顔だけじゃなくスタイルや声、性格すらも同じだったと言うことなのか?

 

「会った瞬間に運命的な物をビビっと感じちまってよ! すぐに意気投合よ! で、そいつがやってる焼きそばの屋台を手伝ってやったぜ! 美少女二人が店前に並ぶと目立ってしょうがなくてよ、一気に客が倍増よ! あっという間に売り切れちまったぜ!」

 

 一人でも十分過ぎるぐらいに五月蠅いのに、それが二人になればもうどんな事になるのか想像もつかない。

 騒音公害で訴えられやしないだろうか。

 

「船子さんが二人いる世界…素敵なような…そうでないような…」

「私的には最高の世界だがな……」

 

 一緒にいる女子二人が黄昏るような目で虚空を見つめる。

 どうやら、IS学園でも船子は同性にモテているようだ。

 

 意外と面倒見が良い上に誰もが認める美人で、しかも男子に負けず劣らずの高身長(170センチ)なもんだから、船子は男子以上に女子にモテていた。

 しかも、生徒会長なんてことをやって皆を扇動していたもんだから、そのカリスマ性は留まる事を知らない。

 ぶっ飛んだ言動ばかりが目立つ船子ではあるが、その実績は誰もが認める素晴らしいものばかりだし、下駄箱にラブレターが入っていた事も一度や二度では済まされない。

 まぁ、全員がもれなく撃沈しているのだが。

 

「うぅ…まだ夜は冷えるな。とっとと寮の食堂に急ごうぜ。もう皆行ってるんだろ?」

「みたいだな。余り待たせては申し訳ない」

「こんな時はコーヒーなどよりも、温かいスープの方が恋しいですわね」

「やっぱ船子ちゃんはロイヤルビタージュース」

「なんだそれ?」

「すっげークソマズい青汁みたいなジュースなんだけど、その代わりに飲んだら即座に体力が全回復するって言う謎のドリンクだ」

「そんな魔法みたいな飲み物がこの世にあるのかよ…」

 

 楽しそうな会話をしながら、一夏と船子を初めとした集団は学生寮のある方へと歩いて行った。

 

 再び一人になった少女は、何とも言えないもの悲しさを感じていた。

 ついさっきまで、傍に懐かしい人物達がいたから。

 

「……いこ」

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 その後、呆気なく目的地である『総合事務受付』を発見できた。

 船子達が出てきたアリーナのすぐ後ろにあるのが本校舎で、そこのまだ灯りが付いている場所がそうだったのだ。

 

「はい。これで全ての手続きは完了です。ようこそIS学園へ。凰鈴音さん」

「よろしくお願いします」

 

 取り敢えずは定型文の挨拶。

 これは大事。

 

「あの…織斑一夏くんと金野船子さんって何組ですか?」

「あぁ…例の男子と噂の女の子ね。あの子達なら揃って一組よ。因みに凰さんは二組だから、お隣さんになるわね」

 

 成る程。二人は同じクラスなのか。

 道理で一緒にいる筈だ。

 船子の場合は、仮に違うクラスであっても関係ないだろうが。

 

「あの金野さんって、少し前に来た新しい学園長のお知り合いで、しかもこの間あったイギリスの候補生との試合で見事に勝利してるのよ。あの学園長とは昔馴染みとも言っていたし、やっぱり鍛え方が違うのかしらね~」

 

 あの船子が学園長と知り合い?

 それは流石に初耳な情報だった。

 

「もしかしてとは思いますけど、金野さんって一組のクラス代表とかだったりします?」

「良く分かったわね。その通りよ。さっき言った試合も、クラス代表の座を賭けた試合だったらしいし」

「そうなんだ……」

 

 中学時代も実力で生徒会長の座をもぎ取った船子だ。

 それぐらいは朝飯前だろう。

 もしかしたら、IS学園でも生徒会長の座を狙っているかもしれない。

 

「ところで、もう二組のクラス代表って決まってたりします?」

「決まっていたとは思うけど…それがどうかしたの?」

「いえ…ちょっと思う所がありまして」

 

 なんでか知らないが、船子がクラス代表をするなら自分も同じ土俵に立たなくてはという感情が大きくなった。

 どうして、そんな事を考えたのか、今の彼女には分からなかった。

 一つだけ分かっている事は、一刻も早く明日になって、幼馴染二人と堂々と正面から再会したいということだった。

 

 

 

 

 

 




次回はクラス代表就任パーティー。

勿論、普通じゃ終わらせません。
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