黙れば美人、喋ると変人、戦う姿は不沈艦! 作:とんこつラーメン
あたしがIS学園にやって来た次の日の早朝。
転入生として学園長に挨拶するべく、学園長室へとやって来ていた…んだけど…。
「…………」
「…………」
な…なんなのよ…この超強面なおじいちゃんは…。
少し前に新しい学園長に変わったって聞いてたけど、まさかこんな人とは想像もしていなかった…。
有り得ない程の筋肉量に、禿げ上がった頭と強面の髭面…。
トドメに黙っていてもハッキリと分かるほどの大迫力。
一目見ただけですぐに分かる。
この人だけは絶対に怒らせちゃいけない…。
もしも怒らせたら確実に死ぬ…。
「え…えっと…この度、中国から転入してきた代表候補生の凰鈴音…です。よろしくお願いします」
「うむ」
あ…勇気を振り絞って挨拶したら、思ったよりも普通の返事が帰ってきた。
見た目は完全にヤクザだけど、実は意外と優しい人だったりするのかしら?
「ワシがIS学園学園長!! 江田島平八であ――――――――るっ!!!!」
「きゃあぁぁぁぁっ!?」
い…いきなりなんなのよぉぉぉぉぉぉぉっ!?
自己紹介で全力出し過ぎでしょうが――――っ!!
つーか、今ので学園長室の窓ガラスが全部割れたんですけどぉぉぉぉっ!?
「中国か…昔を思い出すわい」
「そ…そうなんですか…?」
危うく鼓膜が破れそうになったけど、辛うじてギリギリ耐えた。
もしかして、その辺も調節されたのかもしれない。
というか…この人、中国にいた事があるの?
「若い頃、中国大陸の様々な武術を体得すべく、武者修行の旅をしたことがあってのぉ…。その際に会得した奥義の一つに『千歩氣功拳』なる物があってだな…」
「そ…それって…習得するまでに50年も掛かるって言われている奥義中の奥義じゃ…」
「なんだ。知っておるのか」
「そりゃまぁ…中国人なら誰もが知ってるぐらいに有名で、同時に半分フィクションのような感覚で捉えてますから…。因みに、やっぱり習得には50年かかって…?」
「いや。3ヶ月で会得した」
「ぶ――――――――――――!!!!」
習得年数五十年の奥義をたった三ヶ月って…有り得ない…規格外すぎる…。
普通なら『嘘でしょー』と言うところだけど、なんでかこの学園長なら余裕で出来そうな凄味を感じてしまう…。
「凰鈴音よ」
「は…はい!」
「よくぞIS学園に来た。ここで友を作り、良く学び、良く励むがよい。ここで過ごす一分一秒の全てが、貴様にとって掛け替えのない財産になるであろう」
「学園長……」
なんて重くて深い言葉なのかしら…。
流石は世界に名立たるIS学園の学園長…やっぱりそこら辺の大人とは比較にすらならないわ…。
こりゃ…この人が学園長になるのもマジで納得だわ…。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
朝になり、俺は船子や箒たちと一緒に教室に入ると、なんかいきなりクラスメイトの子に話しかけられてきた。
「織斑君。金野さん。おはよー」
「おう。おはよう」
「はよーっす!」
朝から元気だなぁ…船子は。
割とこういう所は羨ましい。
「ねぇねぇ聞いた? 隣のクラスに来たって言う転入生の話」
「「「「転入生?」」」」
よりにもよって、こんな時期に転入生とな?
だってまだ4月だろ? 一学期始まってまだ間もないだろ?
俺なんて、まだ入学式がこの間やったみたいな感覚があるし。
「噂だと、中国の代表候補生なんだって」
「中国…だと…!?」
代表候補生と言えば一組にはセシリアがいるけど、そんなにもホイホイとやって来るものなのか?
って、どうして船子がジョジョ顔になって戦慄してる?
クラス代表として懸念でもしているのか?
「大変だ一夏!! 遂に中華料理と和食との全面戦争の時がやって来ちまった!!」
「なんでそうなる!?」
少しでも真面な事を考えていると思った俺がバカだったわ。
やっぱり船子はこうじゃなくちゃいけない。
「相手はラーメンの本場…生半可な覚悟じゃ勝てねェ…! よし一夏! アタシ等の力で和食の素晴らしさと奥深さを中国からの刺客野郎に魂の髄まで思い知らせてやろうぜ!!!」
「せめてISで勝負しろ! どうして料理対決する前提で話が進んでるんだよ!?」
船子の奴、ここを遠月学園と勘違いしてんじゃねぇだろうな?
「ラーメンを始めとした中華勢力に対抗するには、やっぱこっちも和食の代表選手で勝負するっきゃねぇよな…。とくりゃ、まずは寿司だな! そして天ぷら! んでもって日本の誇る麺類である蕎麦とうどんだ!!」
「朝から色んな料理名を連呼するなよ…普通に腹減ってくるじゃねぇか」
ちくしょー…今日の昼は絶対に蕎麦かうどんか天ぷらにしようって気になっちまった。
というか、もう口がそれらを求め始めてる。
「ふ…船子! 和食なら私も多少は作れるぞ!」
「マジか箒! なら、お前には王道にして最強の切り札である『炊き込みご飯』を頼むぜ!! おこげの付いたホカホカのタケノコご飯で奴等の度肝を抜いてやれ!!」
「任せておけ!!」
「なんで箒もノリノリなんだ!?」
タケノコご飯かぁ…シーズンじゃないけど、作ろうと思えば作れるよなぁ…。
炊き込みご飯なら、俺はキノコがたっぷりと入ったやつも好きだな。
「全く話に付いて行けませんわ…」
だろうな。
和食の話に関しては、完全にセシリアが置いてきぼりになっちまってる。
「でもまぁ、どんな方が来ようとも、船子さんならば楽勝に決まってますわ! だって、このセシリア・オルコットに勝つ程のお方なんですから!」
「あったり前田さんのクリームソーダだぜ!!」
急にセシリアが元気出してきた。
そして、どうして勝負に負けたセシリアが自慢げにしてるんだ?
「しかし…中国なぁ…」
「急にどうした一夏? 中国に何か思い入れでもあるのか?」
「いや、別にそう言う訳じゃないんだけどよ…思い出すなぁ~って思ってさ。な、船子」
「そういや、そーだな。まだそんなに時間は経ってねぇ筈なんだけど…DIO様のザ・ワールドに時でも止められたか?」
「いやいやいや」
もしもそうだったら、とっくにあの人の世界が支配されてるから。
分かってるのか? リアルチートの代表格みたいな奴だぞ?
「金野さん、頑張ってね!」
「私達のフリーパスの為にも!」
フリーパスってなんだ?
一体何がフリーになるんだよ?
「確か、優勝したクラスに与えられる賞品が『学食のデザートの半年フリーパス』でしたわね」
成る程。それで皆が躍起になってるのか。
女の子は甘い食べ物が大好きだからな。
それは船子も例外じゃない。
「半年フリーパスか…なら、一日中ずっと餡蜜食ってても怒られねぇな」
「なんで餡蜜?」
もっと他のも食べようぜ?
和菓子が好きなのは分かるけどさ。
「ま…まぁ、どっちにしても、今のところは専用機を持ってるクラスは一組と四組だけだから大丈夫だよ!」
へー…四組にも専用気持ちがいるのか。
それは普通に初耳だな。
「そうだと良いわね」
「「「え?」」」
「ん~?」
なんかいきなり聞き覚えがあるような声が聞こえてきた。
皆揃って振り向くと、教室のドアの所にめっちゃ知ってる奴が腕組みをしながら立ってた。
「残念ながら、二組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単に優勝とかさせないつもりだから」
「お…お前は……」
「もしかして…鈴…なのか…?」
それは、俺と船子の共通の友人にして幼馴染の少女。
家の事情で祖国に帰った筈の彼女がそこにいた。
「久し振りね一夏。そして船子。でも、今のあたしは昔のアタシとは違うから」
「違うって…」
「中国代表候補生、凰鈴音。それが今のアタシなの」
「マジかよ…」
少し見ない間に、鈴が代表候補生になってただなんて…。
これは純粋に驚いたぞ…。
「なーにカッコつけてんだよ、テメェは! 似合わないっつーの!」
「いきなりなんつーことを言い出すのよアンタは! っていうか離しなさいよ! おーろーせー!!」
「あはははははは! 高いたかーいってか? 相変わらずちっちぇーなー!」
「あたしが小さいんじゃなくて、アンタが無駄にでっかいのよ船子!!」
緊迫した空気を船子が一撃でぶっ壊して、いきなり鈴の事を爆笑しながら持ち上げた。
こうして見ると、この二人の体格差ってスゲーなー…。
「っていうか、マジで色んな所がデカくなってない? 今の身長っていくつよ?」
「この間、測った時は確か170ジャストだった」
「中学の時より明らかに大きくなってるじゃないのよ! 15歳で身長170センチの女子高生って有り得ないわよ!! どこの大学生だっつーの!」
「そういや、前に街中を歩いてたら普通にOLに間違われた」
「むっきー!! なんて羨ましいー!! あたしなんて、どんなに頑張っても小学生にしか間違われないのにぃー!!」
だろうな。
実際問題、この二人が並ぶと大人と子供ぐらいの身長差がある。
「ち…因みに…3サイズはどうなってる…?」
「バスト88にウエスト55、ヒップ88」
「アンタはどこのモデルよ」
自分の3サイズを堂々と人前で言える女子高生なんて船子ぐらいだろうなぁ。
別に俺は、その事に対して特に反応とかしない。
だって、俺は最初から知ってたから。
因みに、向こうから自慢げに教えてきた。
「なん…だと…!?」
「嘘…でしょ…!?」
お…おぉ?
急に女子達がシリアス顔になって船子に注目し始めたんだけど…どうした?
「見た目からスタイル抜群なのは分かってたけど…」
「プロポーション完璧すぎるでしょうが!!」
「名前と同じように、3サイズも黄金比なのね…!」
「やっぱり…金野さんは規格外すぎる…!」
「最早、美少女の枠にすら収まらないレベルに到達してる…!」
なんだろう…何かが判明する度に、クラス内における船子の評価が爆発的に上がっているような気がするんだが…。
皆が船子の凄さを理解してくれるのは幼馴染としても普通に嬉しいんだけどな。
「船子…アンタが一組のクラス代表なんですってね」
「おうよ! それがどうかしたか?」
「…負けないから。これだけは絶対に」
「そーだな。今まで身長に3サイズに50メートル走にテストの点数にと全てにおいて船子ちゃんが全勝しちまってるからな」
「わざわざ口に出して言わなくていいわよ!!」
そーいや、昔から鈴って船子と色んな事で勝負をしてたっけかー。
特にテストの点数には拘ってて、テストがある度に毎回毎回に渡って勝負をしていた。
結果は船子の完全勝利なわけだが。
運動神経だけじゃなく、船子は頭も非常にいい。
仮にケアレスミスをしても99点や98点とかだったりしてるし。
ぶっちゃけ、俺は未だに船子がテストで95点以下を取った光景を一度も見た事が無い。
「おい」
「「ん?」」
またもやいきなり声が聞こえた。
今度は船子達の背後から。
この時間帯で教室に入ってくる人物なんて一人しかいない訳で。
「何を教室の入り口前でイチャイチャしている」
「ち…千冬さんッ!? 別にあたしは船子とイチャイチャなんてしては…」
バチコーン!!
鈴が全てを言い終える前に伝家の宝刀『出席簿アタック』が炸裂。
どうだ鈴。凄く痛いだろう。
「いった――――!?」
「私の事は織斑先生と呼べ。もうすぐSHRの時間だ。とっとと自分の教室に戻れ。邪魔だ」
「ず…ずびばぜんでじだ…」
痛そうに頭を抱えながら、涙目になりつつ船子の拘束から解放された鈴。
転入早々にあれは痛いだろうなぁ…。
「それと、船子は誰にも渡さん。私の物だ」
「まさかの宣言!? 教師がそれでいいのかしら…」
「何か言ったか?」
「な…なんでもありません! 失礼しまーす!」
流石の鈴も千冬姉の迫力には勝てなかったようで、そそくさと隣のクラスへと戻ろうとするが、その途中で降り向いてから大声で俺達に向かって叫ぶ。
「一夏! それから船子! また後で来るからね!」
「おー!」
いや、来てくれるのは良いんだが…今それを言うのか?
何気に恐れ知らずだな鈴…。
「いいから、とっとと行け」
「は…はい!」
千冬姉からのダメ押しで、やっと鈴は自分のクラスへと戻って行った。
昔から千冬姉の事が苦手っぽかったからなぁ…。
「な…なんなのだ…今の奴は…!」
「船子さんと、あんなにも親しげに…!」
で、ここにも同じように出席簿アタックの餌食になりそうな二人がいますよ…っと。
「お前達も早く席に着かんか。それとも、お前達もコレを喰らいたいのか?」
「「す…すみませんでした!」」
千冬姉が出席簿の素振りをすることで船子以外の全員が顔を真っ青にして、すぐに自分の席へと戻って行った。
なんか風を切るような音が聞こえたような気がするんだが…気のせいだよな?
因みに、船子はいつの間にかもう既に自分の席に座っていた。
一体いつ、移動したんだ…? 全くその瞬間が見えなかったぞ…。