黙れば美人、喋ると変人、戦う姿は不沈艦! 作:とんこつラーメン
彼女達は一体どんな絡みを見せてくれるのか。
「お正月じゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!!!」
またもや始まって一秒で爆音の叫びを上げる船子。
年末年始と言う事で彼女のテンションもマキシマムになっているのかもしれない。
大晦日に集まった主人公たちが再び一堂に会し、今度は全員が揃って多種多様な柄の晴れ着に身を包んで、こちらに向かって正座をしていた。
「これを読んでくれている!」
「読者の皆様方ー」
「新年!」
「明けましてー」
「お…おめでとう…」
「ございまーす」
「本年度も!」
「作者共々」
「よろしくー」
「えー…お願いー…」
「申し上げまーす♡ きゅるん♡」
「私達もー…ほらタナトス」
「去年以上に邁進しておく所存でーす……で、いいんだっけ?」
最後はなんだかグダグダになってしまったが、全員が綺麗に頭を下げてから見事な新年の挨拶をしてみせた。
誰に向かっての挨拶なのか…は、これを読んでいる方々のご想像にお任せする。
「よしゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! 正月飯っつったら…おせち料理じゃーい!!」
「はいはい。それじゃあ、準備をしますから手伝って下さいねー」
「沢山作ってありますから、遠慮なく食べてくださって構いませんわ」
もう完全に母親になりつつある美咲を中心に、船子と姫子が一緒にキッチンに向かっておせち料理を運んでくる。
その様子を頬杖を突きながらニヤニヤ顔で眺めているモンスニー。
ここにいるメンバーの中では割と年長者組に入るので、まるで出来た妹を見ているような気分になっていた。
「いやー…本当に美咲ちゃんはしっかりしてて良い子ですにゃ~」
「実際にクラス代表とかもしてるし、ここにいるメンバーの中じゃ数少ない勝ち組でもあるしね」
「勝ち組って?」
「リア充ってこと」
「あー…」
加奈からの説明を聞いてモンスニーはすぐに納得した。
美咲はここにいる少女達の中で唯一の彼氏持ちだったから。
「ま、中には『無自覚なリア充』もいるけどね」
「それって…?」
「ん」
加奈が顎をクイっとして指し示したのは、お正月でも相変わらず読書をしているパチュリー。
晴れ着姿で西洋風の本を読んでいる姿は、かなりの違和感があった。
「男と数年に渡って一つ屋根の下で暮らしてる上に、お互いに心を許すほどの仲になっているにも拘らず、何故か全く進展しない謎生物」
「謎生物って…」
自分のトレーナー以外には基本的に異性と交流することなど殆どないモンスニーからすれば、加奈の言い分は物凄い言葉に聞こえた。
「何か言った? 私の名前が聞こえた気がするんだけど」
「別にー。リア充爆発しろって言っただけー」
「誰がリア充か。誰が。そう言うなら、アンタだって言い寄られてる男がいるでしょうが。そいつとはどうなのよ」
「いや。それは普通に無い。生理的に無理…っていうか、遺伝子レベルで拒絶するわ」
「そこまで言われるだなんて…急に哀れになってきたわね…」
パチュリーが知っているのは顔と名前だけで、性格とかは全く知らない。
頭脳明晰ではあるらしいが…。
「さっきから何を話してるんですかぁ~? 恋バナ?」
「そうね。ある意味じゃ恋バナね」
「ま、私には男っ気なんて微塵も無いんだけどねー」
美咲がこの中唯一のリア充ならば、モンスニーとチエルはたった二人の正真正銘のお嬢様。
チエルは大会社の社長令嬢で、モンスニーに至っては日本を代表する程の名家出身であると同時に次期当主でもある。
自称庶民である加奈とは、本来ならば縁も所縁も無い程の遠い人物達だ。
「はいはーい。少しどいてくださいねー。おせち料理を置きますよー」
「うっわ…マジで大量にあるじゃん…ウチらだけで食いきれるかな…」
「言っておくが、ボクには余り期待をしないでくれ。自慢じゃあないが、ボクの胃袋はかーなーり小さい」
「そんな『仮面ライダーゼロノス』みたいな言い方せんでもいい」
クロエとユニがプチコントをしている横で美咲たちがテーブルの上に次々と料理を並べていく。
刺身にちらし寿司に握り寿司、他にもおせちの定番となっている料理が立派な重箱に入った状態で所せましと置かれていった。
「いいねいいねー。これこそまさにザ・正月って感じだねー」
「そうね。偶には、こんな風に新年を祝うのも悪くは無いかもね」
神であるタナトスとヒュプノスには、人間達とは違って『新年を祝う』という習慣が無い。
だが、『仕事』をするようになって色んな人間達と交流をしていく内に、人間達の習慣などを学んでいき、今では他の神々よりも遥かに人間に対する知識が深くなっていた。
「これを食べ終えたら、腹ごなしついでに初詣にも行かないといけませんわね」
「フッ…今年こそ、船子ちゃんの長年の願いである『宇宙怪獣と行く、ブラックホール三泊四日まったり夢気分 ~マグロとたい焼きを添えて~』を実現させる時だな!」
「その一文に山のようなツッコミ所を入れるんじゃないわよっ!!」
この中で唯一の純粋なツッコミ役であるヒュプノスが船子にツッコむ。
だが、神のツッコミを受けて怯むようならば、誰も苦労なんてしていない。
「それじゃあ皆さん。手を合わせて…」
「「「「「「「「「「「「いただきまーす」」」」」」」」」」」」
もう完全に美咲がこのメンバーの母親役になっていた。
後々に本当に母親になっているのだが。
「はぁ…このお雑煮…美味しいわぁ~…」
「おい加奈! 気を付けろよ! 日本じゃ毎年、餅を食って窒息する奴が必ず出るって話だからな!」
「私はそんなにドジじゃありませーん。そういう船子こそ喉に餅が引っかかるんじゃないの?」
「フッ…この船子ちゃんが餅如きにやられるとでも? こんなもん…一気に丸飲みじゃーい!!」
「それが一番危ないんだッつーの。はぁ…本当に、こいつを話してると疲れる…」
正月早々にドッと疲れか加奈。
傭兵時代にも、こんな手強い奴は存在しなかった。
「こうして、お刺身を美味しく食べてると日本に生まれて良かったーって実感するね」
「アジア方面ならばいざ知らず、西洋方面では魚などを生で食す習慣が無いですものね」
「だから、アメリカ人やフランス人が日本に来てお刺身やTKGとかを見ると、最初はとんでもなく驚くらしいねー」
モキュモキュと鮪の刺身を美味しそうに食べているユニの横で、姫子とタナトスが予備知識を披露する。
その隣では、パチュリーが焼き鳥を食べながら、自分のバッグから何かを取り出そうとしていた。
「はいこれ。皆にお年玉」
「え? いいんですか?」
「全然いいわよ。こう見えても、私は立派な大人で仕事もしている社会人よ? これぐらいは当然じゃない。てなわけで、はい。佳織」
「あ…ありがとうございます」
パチュリーからポチ袋を受け取り、流石にこの場ですぐに開けるのは失礼かもと思いつつも、やっぱり金額が気になる普通の女子高生はちょっとだけ袋を開いてから中身を確認した。
(わっ…一万円も入ってる…)
まさか、万札が入っているとは思わずに目を見開く。
と言っても、今の佳織はこの何百倍もの金を普通に稼いでいるのだが。
「それじゃあ、私からもお年玉あげる。はい。佳織ちゃん」
「えっ!? モンスニーさんも学生なんじゃ…」
「確かに学生だけど、半分以上大人みたいなもんだし問題無いでしょ」
「えー…」
学年的には大先輩になるモンスニーからお年玉を貰う。
これは流石に申し訳なさが勝ってしまう。
「いやいや。モンスニーはお年玉を貰う側でしょうが。なんであげてるのよ」
「なんか、お姉ちゃんらしいことをしたくなっちゃって。別に大丈夫ですよ? このお年玉は全部、私のポケットマネーなんで」
「ブルジョア乙。あむ」
名家のお嬢様で次期当主は伊達ではない。
色んな意味で庶民とは全く違う金銭感覚を持っているモンスニーだった。
その隣で目を逸らしながらしれっとツッコミを入れながら茶碗蒸しを食べるクロエ。
最も庶民な彼女からしたら、こんな会話自体が有り得なかった。
「お年玉かー。オレたちもあげたほうが良いって思う? ヒュプノスー」
「うーん…どうなんだろ。神って時点でもう大人とか子供とかって概念を完全に超越してるし…」
単純な年齢だけで言えばギネスなんて目じゃない領域に到達していた。
でも、神としての施しがお年玉ってのも、凄く俗っぽい気がする。
「あれ? この場合、オレはどうなるんだ? お年玉…貰ってもいいの?」
「普通に貰っても大丈夫だと思うが? 確かに元は成人男性かも知れないが、今の君はどこから見ても立派な女子高生だ」
「う…お年玉が貰えるのは純粋に嬉しいけど…なんか複雑な気分…」
金銭欲が満たされると同時に、大人の男として何か大事なものを失うような気がする真尋。
結局は普通に貰うのだが。
そうして、絶品のおせちに舌鼓を撃ちながら、モンスニー以外の未成年組は揃ってパチュリーやタナトス、ヒュプノスからお年玉を貰ったのだった。
「こ…これだけあれば新作のゲームが買える…!」
「真尋ちゃん。早速、使う気満々なんですけど」
「別にいいんじゃない。私は…どーしよーかなー…」
お年玉なんて貰ったの生まれて初めてな加奈は、どう使うか本気で迷っていた。
彼女の個人口座には、傭兵時代に稼いだ金が山ほど入っているから。
「私は、このお年玉で新しいトレーニング器具を買いますわ!」
「わぁー…こーゆーところはウチの学園にいる子とそっくりだー…」
姫子だけは、間違えて壁を壊すような女の子にならないでほしいと願うモンスニーだった。
「あらら…こんなに貰って…どうしましょうか…。未成年とは言え、一応は私も企業に所属して働いている身ですし…」
「うっ…」
少し前までずっとニートだった真尋に、美咲の言葉が鋭く突き刺さる。
『働いたら負け』と思ってはいるが、同時に『ちゃんとして迷惑を掛けないようにしたい』とも思っているから。
「なーんか…最初はどうなるかと思ってたけど…意外と食べきれるもんなんだなー…」
「本当ですね。もう重箱の方も無くなりかけてますよー」
クロエとチエルの言う通り、気が付けばもうすっかりおせちを乗せていた皿は綺麗になりつつあった。
「では、これを食べて少しゆっくりしてから、皆で初詣にでも行きましょうか」
「『腹ごなしついでに』って部分が無くなってる気がするけど、別にいいか。いきなり動いたら脇腹が痛くなるし」
「「だいさんせー」」
だらけるのが大好きな真尋&ユニの二人は諸手で賛成。
動く気ゼロな二人の為に、初詣前に皆も一緒に小休止をするのであった。
年末年始特別篇はここまで。
明日以降はまた通常運行を開始します。