黙れば美人、喋ると変人、戦う姿は不沈艦!   作:とんこつラーメン

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変わらないのは元気な証拠

 朝からいきなり一組の教室へとやって来た転入生で中国の代表候補生でもあり、同時に一夏と船子の幼馴染だった『凰鈴音』。

 余りにも属性過多な彼女の登場に、密かに船子の事を想っている箒とセシリアは心中穏やかではなかった。

 具体的に言えば『ターセル様々やわ~』なんて呑気なことが言ってられない程に心の中がクルクルパー状態になっていた。

 それはまるで『あやしいひかり』をくらって何度も何度もプレイヤーの意志を無視して行動するポケモンにイラつき、思わずテレビ画面をぶん殴ってしまったゲーマーの如く。

 

(くそ…! さっきの奴は一体どこのどいつだというんだ…! 船子と親しげに話していただけでなく、あんな風に抱き上げられるだなんて…なんてうらやま…ゴホン。私だって一度もされたことが無いんだぞ!!)

 

 箒。何気に本心が漏れかける。

 

(駄目だ駄目だ…! こんなに精神を乱していては授業に集中出来ん! 落ち着け…落ち着け篠ノ之箒…。こんな時こそ、剣道を通じて学んだ集中力を発揮するべきではないのか…!)

 

 静かに目を瞑り、10数えながら深呼吸をする。

 これで少しは頭が冷えた…かに見えたが。

 

「あー…船子? 何をやっている?」

「え? 普通に授業の内容をノートに写してるんだけど? それがどうかしたのかよ?」

「いや…それは良いのだが…ノートにびっしりと書かれた謎の言語が気になってな…」

「これか? こいつは船子ちゃんが昔よく暇潰しに遊びに行ってた『ケロン星』の文字だからな。姉御が知らねーのも無理ねーよ」

「そ…そうか…」

「安心してくれって。ちゃーんと真面目に授業は受けるからよ。にしし」

「う…うむ…」

 

 すっかり船子に甘くなった千冬にはもうツッコミは期待できない。

 同時に、彼女の意味不明な言動に慣れると同時に感化されつつある一組の生徒達もまたそれは同様で、もう船子が何を言っても、何をしても生半可なことでは驚かなくなっていった。

 

(…真面目な船子も良いな…。あの笑顔を独占したいという邪な気持ちを抱いてしまう私は愚かなのだろうか…)

 

 箒に至っては、ツッコむどころか船子の事を全肯定する勢い。

 『恋は盲目』状態に陥った彼女を止められる者はそうそういないだろう。

 

「いや。なんでケロン星の文字を知ってんだよ。普通に日本語で良いじゃねぇかよ。絶対に誰かに貸したりすることを考慮してねーだろ」

 

 ここで一組の貴重なツッコミ役の一夏が静かに呟く。

 流石に授業中だから派手なツッコミはしないが、それでも言わずにはいられないらしい。

 きっと、反射的に彼の中にあるツッコミ脊髄が反応してしまうのだろう。

 

 そして、箒と同様にセシリアもまた今が授業中だと分かっていても、思うように集中出来ないでいた。

 

(ズルいですわ! 反則ですわ! チートですわ! さっきの方は絶対に改造コードを使っているの違いありませんわ!)

 

 ンなわけねーだろ。

 

(候補生で、幼馴染だなんて…私と箒さんのアドバンテージを二つとも持っているのは流石にあんまりですわ!)

 

 セシリアにとって船子との関係でのアドバンテージと言えば、自分が代表候補生であり、彼女と試合をしたという事。

 そのうちの一つが早くも潰されてしまい、残ったのは『試合をした』という事実のみ。

 当然、それだけでは非常に弱すぎる。

 同じ学園にいる以上、遅かれ早かれ試合をする時はやって来るだろう。

 つまり、セシリアが鈴に対して優位に立てる部分は無いに等しいのだ。

 

(こうなったら…もう手段を選んではいられませんわね…! 一刻も早く既成事実を作り、絶対的優位を手に入れなくては!)

 

 セシリア。そこまで行ったら色んな意味で終わりだぞ。

 

「あ。しまったなー…シャーペンの芯がなくなっちまった。しゃーない。芯は後で購買部で買うとして、今だけはこのクーピーで乗り切るか」

「そこで諦めない精神は立派だが…もっと他にないのか? せめてボールペンとか。というか、よく筆箱の中にクーピーとか入ってたな。っていうか、年代的な意味でよくクーピーの事を知ってたな。そっちの方が普通に驚きだぞ」

「アタシさー…色鉛筆よりもクーピー派なんだよな。この描き心地が好き」

 

 イギリス生まれのセシリアにはクーピーなんて知る由もないが、そんな事など全く関係なしに、珍しく真面目(?)に勉強に勤しんでいる船子に見惚れていた。

 

(どんな時も決して諦めない…素敵ですわ…♡)

 

 千冬が船子と話しているのが功を奏しているが、もしも今の光景を見られていたら、まず間違いなく出席簿アタックの餌食となっていた事だろう。

 ある意味、箒とセシリアは船子に感謝をしなくてはいけない。

 彼女のお蔭で、自分達の脳細胞を守れたのだから。

 

「そこは普通に誰かに貸して貰えよ…。クーピーだと色が薄くて読みにくいだろうが…」

 

 そして、再び一夏の静かなツッコミが授業中の教室に木霊するのだった。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「「はぁ~…」」

 

 午前の授業が終わり、俺達はいつものように一緒に食堂へと向かっていた。

 けど、どうにも箒とセシリアの様子がおかしい。

 さっきからずっと溜息ばかり吐いている。

 何かあったんだろうか?

 

「おいおい…溜息ばっかし吐いてると幸せが逃げちまうぞ?」

 

 そういや、そんな話があったっけ。

 実際に逃げるとは思わねーけど、確かに溜息を吐いてたらネガティブな気持ちにはなるよな。

 

「だーかーらー…船子ちゃんがお前らの溜息を吸い込んで、幸せパワーを取り込んでやるぜー! エンヤ婆のジャスティスと戦った時のスタープラチナみてーになぁ!」

「船子に吸われるのなら…」

「本望ですわぁ…」

 

 ダメだこりゃ。これは重傷だわ。

 ホッコリしているような、何かに悩んでいるような、何とも言えない雰囲気をと表情を醸し出してるんだよな。

 だから、ぶっちゃけなんて声を掛ければいいのかよく分かんねぇんだよ。

 

「今日は何を食べますかねー…っと。船子はどうする?」

「んー? アタシならもうとっくに決めてるぜ。授業中からずっと考えてたからな」

「なんて器用な奴…」

 

 いや、それだけ精神的に余裕がある証拠なのか?

 授業中の様子を見る限り、普通についていけてるみたいだし。

 かくいう俺も、船子に色々と教えて貰っているお蔭で、辛うじて授業を理解出来てるんだけどな。

 

 因みに俺は『日替わり定食』一択だ。

 迷った時は日替わり定食を選ぶ。

 これ人類の知恵。

 

「随分と遅かったじゃない! 待ちかねたわよ一夏! 船子!」

 

 …なんかドーンって感じで入り口のど真ん中に立ってる鈴がいるんだが。

 その手にはちゃんとアイツが注文したであろうラーメンが乗っているトレーがある。

 

「なんで俺達を待ってるんだよ。つーか普通に通行の妨げになってるぞ」

「う…うっさいわね! 分かってるわよ!」

 

 分かってるなら最初から通行妨害なんてしなきゃいいのに。

 朝の事といい、一体こいつは何がしたいんだ?

 

「あれ? そういや船子は?」

「あいつなら…」

 

 俺が指を指した所には、もう既に食券を買って列に並んでいる船子の姿が。

 しれっと、その後ろには箒とセシリアも並んでいる。

 

「もうとっくに列に並んでる」

「いつの間にッ!? つか早っ!?」

 

 さて…と。俺も早く食券を買って並ばないとな。

 船子達を待たせちまうよ。

 

「おっばちゃーん! メシ食いに来たぞー!」

「あははは! 今日も元気一杯じゃないのさ船子ちゃん!」

「あったりめーじゃねーかぁ! このアタシから元気が無くなったら世界の終わりだぜ!?」

「違いないねぇ! そんじゃ、ちっと待っといておくれ! すぐに持ってくるよ!」

「おー!」

 

 まだ俺達が入学して一ヶ月ちょいぐらいしか経過してないのに、もう食堂のおばちゃんに名前覚えられてんのかよ…。

 いつも思うけど、船子のコミュ力は異常だろ。

 世の陽キャの代表選手だな。

 船子が影分身の術をマスターして、世界中にアイツをばら撒けば、それだけで世界平和が実現できてしまうんじゃなかろうか。

 

「朝も思ったけど、相変わらず元気の塊よねー…船子って」

「それが船子だからな」

「…それもそっか」

 

 鈴も昔、よく船子に振り回されてた人間の一人だからな。

 けど、だからこそ変わってない姿に安心もするんだけど。

 

「…あれでいて、ちゃんと他人への気遣いも出来るから凄いのよね…」

「そうだな…船子を見ているといつも思うよ。『こいつにだけは絶対に敵わないな』って」

 

 今までどれだけ、あの船子の明るさに救われてきただろう。

 どれだけの人間達が、船子から元気を貰ってきただろう。

 俺も、箒も、鈴も、セシリアも、千冬姉すらも船子に救われた。

 だからこそ思ってしまう。

 そんな船子を、今度は自分が守りたいと。

 守れるようになりたいと。

 これは昔から決して変わることのない俺の素直な気持ちであり、決意でもある。

 

「……ねぇ…一夏ってさ…まだ船子の事がすk…」

「おっと。俺が注文したやつが来た」

 

 今日の日替わりは焼き魚定食か。

 匂いからして、これは絶対に美味いだろ。

 特に、この絶妙な焦げ目が最高だ。

 

「ん? 鈴、何か言ったか?」

「べ…別に! なんでもない!」

「…そっか」

「それよりも、向こうのテーブルが空いてるから、先に行って確保しておくわ! とっとと来なさいよね!」

「あ…あぁ…分かったよ」

 

 鈴の奴…なんか様子がおかしくなかったか?

 久し振りの日本だからか?

 

「おーっす一夏。鈴はどーした?」

「船子。あいつなら席を確保しに先に行った」

「そか。んじゃ、早くいこーぜ。あんまり待たせちまったら、怒りの余り『真・流星胡蝶剣』を撃ってくるかもしれねぇぞ」

「んなわけあるか! お前の中じゃ代表候補生とガンダムファイターはイコールなのか!?」

「似たようなもんだろ? どっちも国の代表なんだしよ」

「そ…それはそうだけど…」

「しかし参ったな…アタシはまだ『爆熱ゴッドフィンガー』を会得してねーぞ? 『シャイニングフィンガー』ならなんとか出来るけど」

「それが出来る時点でおかしいって気が付け」

 

 普通の女子高生はゴッドフィンガーもシャイニングフィンガーも出来ないんだよ。

 勿論、ダークネスフィンガーもな。

 いや…船子なら何かの拍子に出来てもおかしくないな…。

 そう思えてしまう自分が嫌だ…。

 

「あー…色々と思い出したらマジで腹減ってきたー…。箒、セシリア、あたし等も行くか」

「そうだな」

「分かりましたわ」

 

 そう言って、船子は二人と一緒に鈴が待ってる席へと行ってしまった。

 俺も早く行かないと、食べる時間が無くなってしまう。

 午後の授業に遅刻して、また千冬姉の出席簿の餌食になるのだけは勘弁願いたい。

 

 

 

 

 

 

 

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