黙れば美人、喋ると変人、戦う姿は不沈艦!   作:とんこつラーメン

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たった一年 されど一年

 各々に注文したメニューを受け取り、俺達は鈴が確保してくれていた席へと座った。

 

「随分と遅かったじゃない。なんかあったの?」

「普通に混んでただけだよ」

「ふーん…」

 

 やっと昼飯にありつける。

 さっきから腹が鳴ってしょうがないぜ。

 

「こうして会うのってマジで久し振りだよな。一年振りぐらいになるのか?」

「そうね。アンタは全く変わってないみたいだけど」

「見た目はな。けど、立場は大きく変わったよ」

「…それもそうね」

 

 俺は世界で唯一の男性IS操縦者。

 鈴は中国の代表候補生。

 隣でラーメンを啜ってる船子だって、今じゃ立派なIS学園の生徒だ。

 たった一年と言えばそれまでだが、その時間で俺達は大きく変わってしまった。

 

「あー…ところで船子。さっきから何のラーメンを食ってんだ? なんか目がピリピリするんだけど…」

「ん? 辛ラーメン」

「韓国で生まれた、あのメッチャ辛いラーメンかッ!?」

 

 余りの辛さに、辛い物が苦手な奴が食べる事は止めるようにって言われてるほどの代物だよなっ!?

 よくそんなのが食堂のメニューにあったな…。

 

「結構美味いぞ? 食ってみるか?」

「え…遠慮しておく…」

「そっか」

 

 船子の口移しは物凄くドキドキするけど、だからといって激辛地獄に自分から足を踏み入れる勇気は俺には無い…。

 

「な…ならば、私が少し貰っても良いだろうかッ!?」

「わ…私も少し興味がありますわ!!」

 

 お…おいおい…マジかよ?

 二人とも大丈夫か?

 特に辛い物に耐性が無さそうなセシリア。

 

「おう。そんな事もあろうかとってな。実はおばちゃんに小皿を貰って来てるんだよ」

 

 流石は船子…用意周到だな。

 

「ほらよ。熱いから気ぃつけな」

「ありがとう」

「ありがとうございますわ」

 

 うわー…本当に貰ってるよ…。

 どうなっても知らねーからな?

 

「ふ…船子と同じものを…」

「今から食べるんですわね…」

 

 そこの二人。どうして顔が赤い?

 まだ口にしてないだろ。

 

「「い…いただきます」」

 

 あ…遂にいった。

 

「「!!!!!?????」」

 

 そっと麺を口に入れた瞬間、二人は別の意味で顔を真っ赤にしながら口を押え、涙目になった。

 あーあ…言わんこっちゃない…。

 

「か…から―――――――――い!!! なんだこれはっ!?」

「辛過ぎますわ…! 口の中がヒリヒリして麻痺してるみたいですわ…」

 

 案の定な惨状になった。

 この二人を此処までにするラーメンを平気そうに食べる船子の方がおかしいのか…。

 

「ほれ水」

 

 流石に可哀想だったので水をやると、二人はまるでオアシスに巡り会えた砂漠の放浪者のような顔になって、コップに入った水を一気飲みした。

 

「はぁ…はぁ…全く辛さが引かない…」

「どうして船子さんは平気なんですの…?」

「辛いのが好きだからだけど? 普通に美味いぞ?」

「「信じられない…」」

 

 だよな。俺もそうだわ。

 

「船子…教室で会った時も思ったけど、相も変わらず唯我独尊してるのね」

「相も変わらずってなんだよ。船子ちゃんは何があっても船子ちゃんだぞ」

「そんなの知ってるわよ。そういう意味じゃなくて…」

「じゃあ、どういう意味だよ?」

「それは……」

 

 まぁ…中身は変わってなくても、見た目は少しだけ変わったよな。

 お互いに成長期なんだし。

 

「おい一夏。もうそろそろ、お前達とこいつとの関係性を教えて欲しいのだが?」

「そ…そうですわ! さっきも私達の目の前で堂々と船子さんに抱き着いて…!」

「別に抱き着いてなんかないわよ! このバカが勝手にアタシのことを持ち上げたんでしょうが!」

 

 御尤も。

 幾ら見知った仲とは言え、出会い頭にいきなり体を持ち上げるのはどうかと思うけど。

 

「ま…まさか…! アナタも船子さんの事を…!」

「違うから! アタシは寧ろ…」

 

 この焼き魚美味いなー…。

 焼き加減が絶妙で、どんどんご飯が進むわ。

 ん? さっきから鈴がこっちを見てるけど、どした?

 

「「あー…成る程」」

 

 何が『成る程』なんだ?

 二人だけで納得したような顔をして。

 

「つーか、もしかしてアンタら、船子の事が…?」

「「そ…それは…」」

「ん? アタシがどうかしたのか?」

 

 今度は箒とセシリアが顔を逸らす。

 なんだか今日の二人はせわしないなぁ…。

 

「そっち方面でも相変わらずなのね、アンタは」

「どーゆー意味じゃい」

「そのまんまの意味よ」

 

 そのまんまって、それが分からないから聞いてるんじゃないのか?

 因みに、俺も鈴が何を言いたいのかさっぱり分からん。

 

「昔から、船子って性別関係無しに超モテてたもんね~」

「言われてみればそうかもな。特に船子が生徒会長をし始めてから、下駄箱にラブレターが毎日のように放り込まれてたし」

「「えぇぇぇぇぇぇっ!?」」

「放課後に校舎裏に告白をされに呼び出されて…なんてのもあったわね」

「「な…な…な…!」」

 

 あの人気っぷりは本当に凄まじかった。

 そもそも、ぶっ飛んだ性格を含めても、船子は凄い美人だからな。

 よくクラスの女子が『世の美少女の理想形』って言ってたし。

 

「まぁ…その辺は安心しなさいよ。アタシと船子はあくまで『幼馴染』だから。それ以上にも、それ以下にもなりはしないわよ」

「幼馴染…だと?」

 

 おっと。そこで箒が反応するか。

 ここは俺が説明してやるか。

 

「ほら。箒が小学四年生の時に転校しただろ? それと入れ替わるようにして鈴が中国から転入してきたんだよ」

「そ…そうなのか…」

 

 何とも奇妙な話だよな。

 同じ小学校出身なのに、お互いに顔も名前も知らないんだから。

 

「ってことは、このポーテールの子が前に聞いた『剣道場の女の子』?」

「まぁな」

「そんな紹介をしていたのか…」

 

 それ以外になんて説明をすればいいんだよ。

 仮に船子に紹介させてたら、今頃は箒にどんな噂が立ってたか分からないぞ?

 

「取り敢えず…よろしく」

「こちらこそな」

 

 真剣な顔をしながらの握手。

 これはこれで良かった…のか?

 

(大丈夫よ。マジでアタシは船子の事を『親友兼幼馴染』としてしか見てないから。なんなら応援してあげても良いぐらい)

(本当か!? 良い奴なんだな…どうやら、お前の事を誤解していたようだ…)

 

 あれ? 急に二人に笑顔が戻った?

 この短時間でもう仲良くなったのか?

 

「って船子。その手に持ってる白米はなんだ?」

「もう麺は食っちまったからな。と来れば、今度は伝家の宝刀『ラーメンライス』しかねぇだろうが」

「辛ラーメンでのラーメンライスって…」

 

 どこまで辛い物が好きなんだよ…。

 いや、もしかして白米を混ぜる事で辛味が薄まる…わけないか。

 普通に辛いご飯が完成するだけだわ。

 

「お二人とも? この私の事をお忘れではございませんこと?」

「えっと…誰?」

「イギリス代表候補生のセシリア・オルコットですわ! まさか知らないなんて言うつもりじゃ…」

「イギリスって…あぁ~! あんたが!」

「そう! この私こそが…」

「クラス代表を決める試合で船子に負けたっていう代表候補生!」

「なんで、そんな風に覚えてるんですのッ!? というか誰に聞いたんですのよッ!?」

「事務員の人。もう既に学園中に広まってるみたいよ?」

「そ…そんな…!?」

 

 そりゃあ…な。

 前になんかのテレビ番組で言ってたけど、学校ってのは一種の閉鎖社会だから、一度でも噂が広まったが最後、物凄い速度で学校全体に拡散していくらしい。

 事務員さんにまで話が伝わっているのが、その証拠だろう。

 特にIS学園は噂好きの子が多いみたいだし、情報収集の手段はそれこそ山のように存在している。

 下手をしたら、試合があった日の時点で三年生にまで噂が行っていた可能性すらある。

 

「けど、候補生に勝つだなんて…船子ってもしかして強い?」

「そりゃもう! 当然ですわ!」

「どうして負けたアンタが偉そうにしてんのよ…」

 

 因みに、当の船子は一心不乱にラーメンライスを食ってやがる。

 そういや、まだ船子って少しも水を飲んでないよな…。

 マジで辛さに対する耐性が凄いのか?

 

「でも…そっか…船子って、そんなに強いんだ…」

 

 …なんだ? 急に鈴の目が獲物を見つけたライオンみたいになった気がするんだが…。

 

「船子」

「なんだ? 言っとくけど、このラーメンライスはやんねーからな。欲しかったらアタシの屍から奪い取って行けい!!」

「そこまでして欲しいなんて思わないわよ!! そうじゃなくて!」

 

 おぉ? いきなり鈴が船子の顔面を両手で掴んで自分の方に向かせた?

 これまた大胆な事をするな…。

 箒とセシリアが目を丸くして驚いてるぞ。

 

「あたし…絶対に負けないから。ISも…一夏のことも」

「なんだそれ? もしかして『宣戦布告』ってやつか?」

「そうよ。アンタの事は今でも大事な親友だとは思ってるけど、それとこれとは別だから」

 

 親友と書いてライバルと読むってやつか。

 ところで、俺のことってどういう意味だ?

 

「…いいぜ。船子ちゃんはいつ、誰の挑戦も受けて立つって決めてんだ。例えそれが鈴…幼馴染のお前でもな」

「へぇー…船子って、そんな顔も出来たのね。初めて見たわ」

「そうか?」

「えぇ。そっちの方がずっと魅力的よ」

 

 おぉ~…なんか二人の視線の間で火花が散っているような気がする…。

 中学の時からの関係性は全く変わってないってことか。

 

「あんたは一組のクラス代表。あたしは二組のクラス代表。今度ある『クラス対抗戦』で勝ち続けてれば、いずれどこかでぶち当たることになる」

「そりゃそうだ」

「アタシと試合をするまで…負けんじゃないわよ」

「そいつは、こっちの台詞だぜ」

「言ってくれるじゃないの…!」

 

 なんて熱いシーンなんだ……そこでギャグ漫画みたいな顔をしている二人を除けば…だけど。

 目が大きくなって口がポカーンってなってるけど大丈夫か?

 

「お…おおおおおおお前!! さっきの台詞はどうした!?」

「光の速さで前言撤回とは、いい度胸をしてますわね!!」

「へ? あ……! ち…違うから! これはそんなんじゃないから!!」

 

 三人揃って顔を真っ赤にして騒ぎ始めたし…。

 早く食べなくてもいいのか?

 もう俺も船子も食い終わっちまうぞ?

 

「矢張り…貴様は油断がならんな…!」

「凰鈴音…負けられませんわ…!」

「だーかーらー! 違うって言ってるでしょうがー!」

 

 仲良くなるのは良いけどさー…マジで時間が無くなるぞ?

 どうなっても俺は知らないからなー。

 

「船子からもなんとか言いなさいよ! って…あれっ!?」

「んあ? どうした?」

「どうして、チョコレートパフェなんて食ってるのよッ!? さっきまでのラーメンはどうしたのッ!?」

「食い終わったけど? だから、食後のデザートを食ってるんじゃあねぇか」

「いつの間に…」

 

 お前達がギャーギャーと騒いでいた間にだよ。

 俺も食後のお茶を楽しんでるよ。

 あー…緑茶サイコー。

 

「何をそんなにカリカリしてやがんだ? ほれ。甘いもんで食って落ち着けよ」

「誰のせいだと思って……あむ!?」

 

 あ…船子が自分のスプーンでアイスを掬って、それを鈴の口の中に入れちまった…。

 これってマジの関節キスになるんじゃ…。

 

「ちっとは落ち着いたか?」

「にゃ…にゃにゃにゃにゃ…いきなりにゃにをすんのよアンタは―――!?」

「「凰鈴いぃぃぃぃぃぃぃぃぃん!!!」」

「あははははははは! いいぞー! もっとやっちまえー!」

 

 流石にこれは照れ臭かったのか、鈴の顔が真っ赤になっちまった。

 箒とセシリアは激怒してるし、全ての原因である船子は大笑いをしながらパフェを食ってるし。

 

「…カオスだ」

 

 いつもは来訪が怖い千冬姉だけど、今回ばかりは本気で来てほしいと思った。

 この惨状を止められるのは、あの人しかいないと思った…けど、なんか混乱に乗じて船子をどっかに連れて行きそうな気がするのは俺だけだろうか。

 

「誰でもいいから、こいつ等をどうにかしてくれ…」

 

 だが、その願いに応えてくれる人物はこの食堂にはいないのでしたとさ。

 はぁ…結局、鈴が来た事で賑やかさが倍どころか二乗になった気がする…。

 

 

 

 

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