黙れば美人、喋ると変人、戦う姿は不沈艦! 作:とんこつラーメン
なんとかして一夏と一緒に夕御飯を一緒に食べる約束を取り付けたのは良いけれど、それに行く途中でとんでもない光景を目撃してしまった。
なんと、廊下のど真ん中で船子が赤いバスローブ姿を堂々と歩いていたのだ。
しかも、周りには女の子たちを侍らせて。
いや…船子の場合はそんな事は考えてないか。
うち二人は昼間に見たイギリスの子とポニーテールの子。
もう一人は全く知らない子だったが、なんと二年生で生徒会長、しかも船子のルームメイトでもあった。
彼女の反応から察するに、これはもう完全に船子の魅力の虜になってる。
これが船子の最も恐ろしい部分なのよね~。
普段は馬鹿な言動が目立つ破天荒な奴なんだけど、友達思いではあるし、約束は絶対に破らない。
影に隠れた努力家で、コミュ力も高いからすぐにどんな人間とも打ち解けてしまう。
友達作りが異常なまでに上手だ。
そんななのに、見た目があの美貌と抜群のスタイルというギャップが凄まじい。
トドメに、ふとした時に見せる真剣な表情や愁いを帯びた表情で放つ一言の破壊力がまた凄いのよね。
多分だけど、あれで堕ちない人間はまずいないと思う…。
もし一夏よりも先に船子と出会っていたら、あたしもどうなっていたか本気で分からなかったでしょうね…。
…だからと言って、別に何にも意識していないってわけじゃないんだけど。
「ちょっと船子。せめて胸ぐらいは隠しなさいよ。谷間が丸見えなのよ。アタシへの当て付け?」
「なんでそーなるんだ? しっかたねぇ~だろぉ~? 締めたくても締まらないんだからよぉ~」
「……は?」
締まらない…ですって?
それってつまり、それだけのスタイルを誇っていながらも、まだまだ成長し続けているってこと?
…冗談でしょ? 幾らなんでも笑えないわよ?
「船子さんがこれ以上、成長してしまったどんな風になるのでしょうか…」
「全くの未知数だな…楽しみ過ぎて妄想が捗ってしまう」
おいこらそこの英日コンビ。
歩きながら普通に鼻血を垂らして、いやらしい笑顔をするんじゃないわよ。
「いっそのこと、船子ちゃんにはワンサイズ…いや、ツーサイズぐらい大きなバスローブをあげた方が良いかもしれないわね…」
マジでソレね。激しく同感するわよ先輩。
個人的には複雑だけど。
「さっきも聞いたけど、船子ってば本当に恥ずかしくはないの?」
「全然? なんで恥ずかしがんねーといけねーんだ?」
「なんでって…」
女として、幾ら同性と言えども肌を見せるのは恥ずかしいもんなんじゃないの?
理屈じゃなくて本能的って言うか…。
「んなことはどーでもいいじゃねーか。それよりも、食堂に着いたぞー」
「うっ……」
遂に到着してしまった。
こいつ…マジでこのままの格好で食堂に入るつもりなの?
寮の食堂だから、どんな格好をしていても問題は無いだろうけど…。
「今日の夕飯は何にすっかなー? この間、偶然にも見つけた『ネギトロ丼(ネギ多め&ウズラの卵と豆板醤添え)』にでもすっかな~」
なによそれ…めっちゃ美味しそうじゃない!!
名前を聞いただけで口の中に涎が出てきたわよ!
ネギトロと卵に豆板醤とか…そんなの絶対に当たりじゃない!
中華料理が得意なアタシだからこそ分かる!
豆板醤を入れるのは絶対にあり!!
100%美味しいに決まってる!!
「それとも『オムレツライスとミニカニチャーハンのセット』にするか? うーん…迷うぜ~…」
オ…オムレツライス…名前を聞くとオムレツを別の言い方にしただけに聞こえるけど、カニチャーハンがセットになっている時点で違うと分かる!
どんなのか想像しにくいけど…なんとも美味しそうな響き…!
思わず冒険したくなってくるわね…!
「ふむ…そう言われると私も迷ってくるな…」
「これまで、船子さんのお勧めは一切のハズレがありませんものね」
「他の子達も、船子ちゃんが今まで食べたメニューを参考にしているっぽいのよね。誰かの意見を参考にするってのは最も妥当ではあるけど、船子ちゃんの場合は実際にその身で冒険した上での意見。物凄く説得力がるのよ」
さ…流石は船子…!
まだ入学して半年も経過していないにも拘らず、もう既に他の生徒達を魅了していってる…!
しかも、食事と言う一ジャンルだけで…!
(圧倒的なカリスマってのも、ここまで来ると寧ろ清々しいわ…)
…アタシも船子の意見を参考にさせて貰おうっと。
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・・・・
・・・
・・
・
結局、船子が言ってた『オムレツライス&ミニカニチャーハンのセット』にしてしまった…。
うぅ…匂いからしてもう超美味しいって分かるわ…。
「じゃあ、アタシはあっち行くから」
「なんでだ? 一緒に食えばいいじゃねぇか」
「一夏を待たせてんのよ。一緒に食べようって約束してたから」
なーんて言えば、船子の事だから絶対に…。
「マジかよ~! ったくよ~…そーゆーことはもっと早く、前世とかに言っとけよな~! んじゃ、あたし等も一緒に行こーぜ!」
…こーゆーと思ったわよ。
アタシもアタシで、船子の行動パターンが分かるようになってきてる…。
「「ちっ!」」
なんか、そこの二人が盛大な舌打ちをしたんですけどッ!?
幾らなんでも露骨すぎじゃないッ!?
「はぁ……」
こっちの先輩は頭を抱えながら溜息を吐いてるし。
船子の周りって、いっつも本当に賑やかよね…。
「え? ちょ…あの子…」
「うわぁ…すっごいプロポーション…」
「つーかバスローブって…」
「えっろ……ゴクリ…」
「今年の一年生に、あんな異次元級の美少女がいたんだ…」
案の定、物凄く目立っている船子。
そりゃあ、バスローブ姿で普通に食堂に入ってきたら、そうなるわよね…。
キッチンにいるおばちゃん達は豪快に爆笑してたけど。
「んで、一夏はどこにいるんだ?」
「こっちよ。さっき見つけたから」
「そっか。じゃ、飯が冷めないうちに、とっとと行こうぜ!」
「はいはい。ハァ……」
船子に話しかけた時点で…いや、船子と食事をする時間が被った時点で、こうなる運命だったのかもしれないわね…。
仕方がない…今日は素直に諦めましょ。
まだまだチャンスはあるんだし。
一日ぐらいは大目に見てあげるわよ。
・・・・・
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・・・
・・
・
鈴と夕飯を食べる約束をしていた俺は、先に一人で食堂へと足を運んでいた。
当然のように色んな女子から『一緒に食べないか』的な事を言われて誘われたが、先約があるからと言って断っておいた。
こうしておかないと後々が怖いからな…。
中学時代にも似たような事があったんだけど、その時に他の女子が周囲にいた事で鈴の怒りゲージが一気にMAXにまでなっちまったことがあるんだよな。
あの時、船子がいてくれなかったらどうなっていたことか…。
「鈴の奴、まだかな…」
なんか昼の時とは立場が逆転しちまったな。
今回は俺が待つ役となってしまっている。
因みに、今回俺が注文したメニューは『油淋鶏定食』。
前に船子に教えて貰ったメニューで、なんと衣の中に細かく砕いたピーナッツが混ぜ込んであるんだ!
これがまた絶品で、一度食べて一発で虜になっちまった!
船子の料理情報は本当に頼りになるぜ…!
「お待たせー」
「おう。随分と遅かったな鈴…って?」
え…えーっと…?
鈴が来たのは良いんだけど…どうして箒やセシリア、見た事のない二年生の先輩に加え、なんか凄い格好をしてる船子が一緒にいるんだ…?
「あー…やっぱ気になる? さっきそこで偶然にも会っちゃって。その流れで…ね」
「成る程な」
恐らく、箒とセシリアは船子を誘って部屋まで行って、ここまで一緒に来た時に食堂へと向かっていた鈴と遭遇してしまったと。
じゃあ、あの先輩は何で一緒にいるんだ? ここって一年生の寮だよな?
「つーか船子! どうして、んな格好をしてんだよッ!? 普通に目のやり場に困るだろうが!」
「なーに言ってんだよ、このエロガッパが。アタシ等もう既に、お互いのISスーツ姿を見せあってるじゃあねぇか。今更、何を恥ずかしがってんだよ」
「それはそれ! これはこれだろッ!?」
ISスーツはもう俺の中で『競技用』って思い込む事で、なんとか頑張って克服しようとしてるんだよ!
少しはこっちの苦労も考えやがれ!
「もっとこう…なんとかならなかったのか?」
「無理。なんか上手く締まらねぇンだもん。主に胸が」
「人が折角、言葉を濁したのに、それを無駄にするんじゃねぇよ!」
さっきから箒とセシリアがめっちゃ怖い目でこっちを睨み付けてくるんだよ!
迂闊な発言はマジで命に関わる可能性があるんだって!
「えっと…君が織斑一夏くんね?」
「あ…はい。えっと…」
「私は更識楯無。二年生で生徒会長をやってるわ」
「せ…生徒会長っ!?」
なんでまた、そんな人が船子達と一緒にいるんだよッ!?
船子の奴…何かやっちまったのか?
「君が心配しているような事は何もないわよ。ちょっとワケありでね。今、船子ちゃんのルームメイトをしているの」
「あぁ…成る程…」
恐らく、千冬姉辺りが監視役として派遣したに違いない。
一人で放置しとくと、何を仕出かすか分かったもんじゃないからな。
良い意味でも、悪い意味でも。
「どーでもいいけどよー。とっとと席に座ろうぜー? 船子ちゃん、腹が減って全身がくっついちゃいそう」
そこは普通『お腹と背中』なんじゃないのか?
全身がくっつくって何だよ?
トリモチランチャーでも撃たれたのか?
「よっこらせ…と」
…で、当然のように俺の隣に座ってくる船子さん…と。
ここに一切の躊躇いが無いのが凄い。
逆方向には鈴が陣取ってるし…。
箒とセシリア、さっきの更識先輩って人は船子の隣になるように座った。
「船子は何を注文したんだ?」
「ネギトロ丼」
「ウズラの卵と豆板醤は?」
「もち」
「「だよなぁ~」」
ネギトロにウズラと豆板醤はもう鉄板だよなぁ~。
あの味を一度でも味わってしまったが最後。
絶対に逃れる事は出来ない…!
それ程までの中毒性が、あの組み合わせにはある!
「うっ…!」
「どした?」
「な…なんでもない…」
今…一瞬だけチラっと視界に入っちまった…船子の胸が…正確には、バスローブから露出している谷間が…。
この至近距離で見るのは…その…心臓と下半身に悪い…。
「ちょっと一夏。何を見てるのよ」
「べ…べべべべべべべべ別にッ!? 船子の胸とか全然見てねぇしっ!?」
「誰も『船子の胸』なんて一言も言ってないんだけど?」
「しまった…!」
自分から墓穴を掘ってしまった…!
これは普通に拙い…!
「一夏…船子を如何わしい目で見たら…」
「容赦…しませんわよ…?」
怖い! 冗談抜きで怖いから!!
目からハイライトが消えてますから!!
完全無表情なのが恐怖心を二乗させてますから!!
「男の子は大変ねぇ~」
この先輩は完全に他人事。
生徒会長なら、どうにかして助けて欲しい…。
この日の夕飯は終始、心臓をバクバクさせながらの食事となった。
でも、やっぱり油淋鶏は絶品だった。