黙れば美人、喋ると変人、戦う姿は不沈艦! 作:とんこつラーメン
間違いなく、昔からスパロボをやり込んでいる人に違いないでしょう。
なんで、そんな事が分かるのかって?
私もそうだからだよコノヤロー。
クラス対抗戦当日。
生徒会による開会式が終わり、今は一年生部の試合会場である第2アリーナのピットに足を運んでいる。
本当は観客席の方が良いんだろうけど、千冬姉から特別に許可を貰って出撃直前の船子を見に来たのだ。
なんでか箒やセシリア、更識先輩も一緒に。
「…………」
腕を組んだまま無言で立ち尽くす船子。
いつものハイテンションが嘘のように静かで、かなりの精神集中をしているのかが伺える。
「こんなにも集中している船子を見るのは初めてだ…」
「私の時とは違い、これは公式戦…しかも一回戦から候補生と当たっているのですから…」
「流石の船子ちゃんも緊張を隠しきれないってところかしらね…」
そっか…これが船子の公式戦デビューになるのか。
こう言っちゃなんだが…俺じゃなくてマジで良かった。
もしも俺が今の船子の立場なら、ガッチガチに緊張して足とかが震えていたに違いない。
「おぉ…どうやら間に合ったか」
「江田島学園長…? どうしてここに?」
ここでまさかの学園長が登場。
でも、今回はいつものような迫力が無い。
まるで授業参観に来た父親みたいな雰囲気だ。
「学園長…どした?」
「ふっ…今から試合に臨む貴様に『伝言』を伝えようと思ってな」
「伝言…?」
一体、誰からの伝言なんだ?
船子の知り合い…なんて言い出したらマジでキリが無いしな…。
該当する人物が余りにも多すぎる。
「『絶対に勝て』…だそうだ」
「……っ!」
そ…それだけ?
随分とあっさりとした伝言だな…。
でも、船子はその伝言が誰から送られたものなのか分かった様子。
「ま…まさか…それは暗屯子先輩の…」
「ふっ…」
珍しく驚愕している船子の問いに敢えて答えず、微笑だけを浮かべる学園長。
それを見た船子は、真剣な顔から一気にいつもの表情に戻った。
「お……っしゃぁぁぁぁぁっ!!!! 暗屯子先輩から、そう言われちまったらもうやるしかねぇだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
どうやらいい意味で緊張が解けたみたいだ。
たった一言の伝言で船子のモチベーションを爆増させちまうなんて…本当にスゲェ人なんだな…!
「暗屯子先輩と言うと…船子が心から尊敬しているという人物…」
「僅か一言に万感の思いを込める…船子さんが敬愛するのも納得のお方ですわ」
元々からそうだったけど、今の船子にはこれまで以上に精神的動揺によるミスは無いだと思っても過言じゃない!
鈴…少し見ない間にお前がどれだけ強くなったのかは知らないが、これだけは断言出来る。
お前の幼馴染は…マジで強いぜ。
心して掛からねぇと…痛い目を見るだけじゃ済まないからな。
「船子。そろそろ時間だ」
「おう!」
千冬姉から言われ、船子は自分の両拳を合わせてパンッ! という小気味のいい音を響かせる。
「そんじゃあ…行きますか! 金野船子ちゃんの晴れ舞台になぁっ!!」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
試合開始時間になり、あたしは自分の専用機である『
あ、因みに機体名に関するツッコミはなしで。
それはアタシが一番最初にしたから。
「…まさか、あの船子とISで試合をする日が来るだなんてね…」
昔からは想像もしなかった出来事。
だけど、今のあたし達はお互いにもう違う立場にある。
あたしは中国の代表候補生で、船子もまた専用機を持つ存在。
その時点でもう、あたし達は『普通』ではなくなってしまった。
「噂では、今回のトーナメントに向けて物凄い特訓をしていたって聞いたけど…」
ホント…そーゆー所だけは全く変わってないんだから。
いつもは馬鹿みたいにしてる癖に、本気で『やる』って決めた途端に本性が丸出しになる。
誰よりも努力家で、誰よりも負けず嫌いで、誰よりも誰かを大切にする。
自分勝手なように見えて、本当はいつも誰かの事を見ている。
…そんな船子だから、アイツの事をどうしても嫌いになれない。
声を大にして断言出来る。
『金野船子はあたしにとって一番大切な大親友』だって。
だからこそ…負けたくないって思った。
親友だからこそ、他の誰よりも超えたいって思う人間だから。
一回戦だからって気は抜かない。最初から全力で行く。
アタシにとって、この試合こそが事実上の決勝戦だから。
「よぉ…待たせたな」
「船子…」
向かい側のピットから出てきた、まるでのっぺらぼうのような、有機体型の真っ赤なIS。
これが船子の専用機…!
「それがアンタの専用機? 船子らしい、個性大爆発なISじゃない」
「まぁな。だが、これはこの『ドミネーター』の『基本形態』にしか過ぎねぇンだぜ?」
「知ってるわよ」
こいつの機体に関する情報は二組の子達からある程度は聞いている。
色んな姿に変化して戦う、文字通りの『変幻自在』なIS。
相手に合わせて様々な姿に変わる奇妙奇天烈な前代未聞の機体。
聞けば聞くほどに船子らしいと思ってしまう。
「けど、生半可なことじゃ、このアタシの『甲龍』は倒せないわよ?」
「シェンロン? もしかして、ドラゴンボールを七つ集めて作られたISなのか? すげーな!!」
「違うわよ! 絶対に言うと思った…」
だって、アタシも最初に聞かされた時は全く同じ感想を思ったから。
ほんと…あたしもかなり船子に毒されてるわね…。
「んじゃ、腕が伸びて機体の事を『ナタク』って呼んで…」
「そっちも言うと思った。けど、お生憎様。このISにそんな悲劇的なエピソードは無いから」
「なんだよ~」
いや…流石にそんなISだとアタシも乗るのに躊躇するから。
「にしても……」
「な…なによ」
「んーん。なんでもねーよ」
今の船子…明らかにあたしの甲龍と、肩の横に浮いてる
顔が隠れていてよく分からなかったけど、僅かに向いていたような気がする…。
まさか…もうバレた?
この甲龍の『第三世代兵装』にして『切り札』である武装が…。
普通なら有り得ないって思うけど、船子の場合はそんな常識は捨てた方が良い。
船子の辞書に『常識』って言葉は存在していないから。
「お前のIS…すげーパワーが強そうだなぁ~…」
「だとしたらどうなのよ?」
「いやな…試合が始まる前にこっちも『準備』をしといたほうがいいと思って…な!」
突然、船子のドミネーターの全身がグニグニと粘土のように歪んでいく。
これが話に聞いてたドミネーターの『変身』!?
「多分だけどよ…こーゆー場合は遠距離からチマチマ攻めるのが正解なんだろうけどよ…そーゆーのはどうも性に合わねぇンだよなぁ…」
徐々にドミネーターの姿が固まっていく。
角ばった太い両腕に両足…。
トレーラーの先端みたいな頭と、赤と黒が混じったカラーリング…。
まさか…これって…!
「やっぱ…相手と同じ土俵に立って、その上で勝たなきゃ面白くねぇよなぁ!!」
「闘将…ダイモス!!」
よりにもよって…超々接近戦特化のスーパーロボットで来るだなんて!
船子は確か空手も得意だった筈…!
ってことは、ダイモスとの相性は抜群ってことじゃない!
「へへ…流石はダイモスだぜ。船子ちゃんの思う通りに動いてくれやがる」
甲龍のパワーのアドバンテージがこれで完全に消滅した…!
下手に懐に潜り込まれたら絶対にヤバい!
そこから一気に畳み掛けられる!
「じょ…上等じゃない…! それぐらいじゃないと面白くないわ!」
なんて強がって見せてるけど…果たしてダイモス相手にどこまで戦えるか…。
なんとか『アレ』の射程距離を保てれば勝ち目もあるでしょうけど…。
(この船子が、素直にこっちに作戦に嵌ってくれるとは思わない…)
『相手が勝ち誇った瞬間、もう既にその相手は敗北している』を地で行く奴だからね…。
寧ろ、下手な作戦は裏目に出るか…?
『それでは両選手、既定の位置まで移動をしてください』
「ほーい」
アナウンスに従い、あたし達は予め決められた場所まで移動する。
二人の距離…およそ5メートル。
船子とダイモスの組み合わせなら、その気になれば一瞬で踏み込める距離だ。
初手から攻めるのは得策じゃないわね…!
『それでは、クラス対抗戦一年生の部、第一試合……開始!!』
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
試合開始のブザーと同時に動いたのは船子だった。
胸部から一瞬で近接武器である小剣『双竜剣』で斬り掛かった!
だがしかし、鈴もそれは読んでいたのか、辛うじてギリギリのところで自分の持つ二振りの近接ブレードを交差させる形でガードしていた。
『ほぉ~…こいつを読んで防ぐとか…思ったよりもやるじゃあねぇか』
『お褒め頂き…どーも!!』
船子から間合いを取る為に蹴りを放つが、それは呆気なく避けられた。
けど、目的通りに間合いを取ることは出来たようだ。
「にしても、まさかダイモスとはな…」
確かに船子はスポーツ万能で、空手も得意ではある。
けど、まさかここでダイモスをチョイスするとは誰が予想できただろうか。
「一夏。お前はドミネーターが変化したあの姿の機体を知っているのか?」
「まぁな。割と有名な機体だし」
「どんな機体なのか説明してくださいませんか?」
「そうだなぁ…」
セシリアに言われてしまったが、なんて説明すればいいのやら。
そのまんまだと長くなってしまうし、理解も出来ないと思う。
なら、簡単な概要だけ話すか。
「凄く接近戦に強い機体だな。ある意味じゃ、俺の白式以上に近接戦に尖ってるかもしれない」
「そうなのか?」
「なんたって、あのダイモスは空手で戦うことを前提にしているからな」
「ジャパニーズ・カラテ…あの機体は無手で戦うと?」
「いや、流石に武装はある。けど、その殆どが剣とかの接近戦の武器ばかりなんだ。だけど、最強にして必殺の一撃となるのは、やっぱり『拳』なんだよ」
ダイモスを選んでいる以上、間違いなく船子は『必殺烈風正拳突き』を狙ってくるはずだ。
ダイモス最強の必殺技にして、文字通りの一撃必殺奥義。
直撃なんてしたら、どんなISも一発で戦闘不能になるだろう。
「敢えて、相手の最も得意とする距離で戦う…か。まるで嘗ての暗屯子を見ているようだわい…」
学園長…。
そうか…それもあるのかもしれないな。
自分の拳で道を切り開く。
だからこその『闘将』。
これは船子なりの決意の証なのかもしれない。
「あの娘っ子も中々に良い動きをする。これは面白い試合になりそうだわい」
「そうですね。私から見ても船子の動きは今まで以上に洗練されている。それについていけている時点で、凰が今までどれだけの研鑽を積んできたかが伺えます」
あの学園長と千冬姉が並んで試合を観察している…。
傍から見てるとスゲー迫力だ…!
だけど、この二人が言っていることは尤もだ。
船子の空手戦法に鈴は辛うじてではあるけど、ちゃんと追従している。
どんな風に試合が転んでもおかしくない…!
っていうか、こんな凄い試合…絶対に一回戦にするもんじゃないだろ!
普通は決勝戦とかにするもんじゃないのかッ!?
後に控えている皆が今から不憫で仕方がないんだが…。
次回、ダイモスVS甲龍。そして…?