黙れば美人、喋ると変人、戦う姿は不沈艦! 作:とんこつラーメン
それとは別に、なんか急に頭を空っぽにした作品が書きたくなりました。
俺の名前は織斑一夏。
なんか別に自己紹介なんてしなくても良いような気がしたけど、一応念の為に自己紹介ぐらいはしておこうと思う。
多分、この機会を逃せば最終回まで自分で自分の名を名乗る機会が失われそうな気がしたから。
ISっていう女しか動かせない、何かスゲー機械を男なのに動かせちまった俺は『IS学園』っつーISの専門学校みたいな所へと強制入学させられた。
因みに、もしも入学しなかった場合は聞いたことも無いような研究所で人体実験まっしぐらコースだったから、ぶっちゃけ最初から選択肢なんて『YES』か『はい』しかなかった。人生ってマジでクソだわ。
上の文でも言ったけど、ISは女しか動かせない。
そのISの事を学ぶ学校なんだから、当然のように俺以外には周りには女しか存在していない。
なんつー肩身の狭さ。周囲からの視線がまるでマシンガンのように突き刺さりまくって今にも精神の方が死にそうです。
入学初日から危機的状況に陥っている俺ではあるが、それでも何とか辛うじて平常心を保っていられるのは、この教室内に知り合いが二人いるからだ。
一人は窓際の一番前の席にいる黒髪ポニーテールの女子『篠ノ之箒』。
ガキの頃はよく、あいつの親父さんがやっていた剣道場に通っていたもんだ。
小4の時に引っ越して以来だから割とマジで懐かしい。
んで、もう一人は窓際の一番後ろにいる奴なんだが…。
「ふぅ……」
なんか黄昏てるっぽい表情を窓の向こうの青空を見上げている銀髪の美少女。
名前は『金野船子』。
容姿端麗。頭脳明晰。運動神経抜群と、箇条書きにしただけでもその完璧っぷりが良く分かる超人だ。
そう…ああして大人しくしていれば本当に誰もが認める美少女なんだよなぁ…。
大人しくしていれば……。
(船子がIS学園入学志望だったなんて全く聞いた記憶が無いが、今は気にしたら負けだ! あんな奴でも幼馴染であることは事実! 知り合いが一人もいない空間に放り出されるよりはずっとマシ…だと信じたい)
俺は知っている…この教室にいる誰よりもよーく知っている!!
船子があんな風に大人しくしている時は、必ず何か碌でもない事を企んでいる時だ!!
より正確に言えば、その企みを解き放つタイミングを計っている時だ!
本人が最高に受けると思っているタイミングを狙っている時だ!!
「誰…あの子…」
「綺麗な銀髪……」
「すっごい美少女じゃん…」
「うわー…スタイルもいいなー…」
俺以外に注目がばらけているのは有り難いが…騙されるなっ!!
確かに見た目だけで言えば美少女だっ!! それは俺も認める!!
けど、それだけなんだ! 本当にそれだけなんだよっ!!
綺麗な薔薇には棘があるなんて次元じゃない!!
薔薇の中には核爆弾が仕込まれてるんだよっ!!
「……イヒッ♡」
わ…笑った…!
間違いない…あいつは何かを企んでいる!
一年の一番最初…学生にとって最も大事な場面と言っても過言ではない、この瞬間にとんでもないことをやろうとしているっ!!
(あー…チクショウ…! この場で船子の蛮行を止められるのは俺しかいない…いないのは分かってるんだけど…この状況で一人立ち上がるほどの勇気は無い…。しっかし…)
くそ…物凄く悔しいけど…美人であることには違いないんだよなぁ…。
もっと悔しいのは、あの船子が俺の初恋の相手だったということ。
ガキの頃はアイツも割と大人しかったし、その見た目に完全に騙されちまったんだよなぁ…。
小5ぐらいになってから急にリミッターが外れたように大暴れするようになったけど。
ってことは、箒は大人しかった頃の船子しか知らないのか。
今のアイツを知ったら…卒倒して保健室行きになるかもしれねぇな…。
だが箒よ。お前も船子の幼馴染ならば頑張って乗り越えてくれ。
俺も『アイツ』も乗り越えた。お前にだってきっと出来る筈だ!
「みなさーん。ちゃんと揃ってますねー。それじゃあ、今からSHRを始めますよー」
せ…先生キター!…のはいいけど、これは間違いなく船子が何か仕掛けるタイミングでは…あれ?
「…………」
ま…まだ静かにしている…だと…!?
流石の船子も、高校デビューぐらいはちゃんとしようと言う普通の思考があったのかッ!?
明日は雪でも降るのかな…。
先生の名前は『山田真耶』と言うようで、この一年一組の副担任だそうだ。
ってことは、担任は誰になるんだ?
まさか、船子は担任の前で何かをする気なのかッ!?
「今日から一年間、よろしくお願いしますね」
「はーい! よっろしくお願いしまーっすっ!!」
「あはは……元気で良いですね」
うぉっ!? 流石は船子…この空気の中でたった一人だけ、先生に向かって返事が出来るだなんて…やるじゃねぇか…。
箒も目をギョッと見開いて驚きまくってるし。
「それでは、今から皆さんには自己紹介をして貰います。出席番号順で良いですかね」
しゅ…出席番号順だとッ!? そうなると『織斑』の『お』から始まる俺はすぐに順番が来るんじゃっ!?
ヤバい…何を喋ったらいいのか全く思いつかん…!
いや待て俺よ…こういう時こそ深呼吸をして落ち着くのだ。
スー…ハー…よし。
昔を思い出せ俺! 中学時代、なんて自己紹介していたッ!?
(名前…趣味…特技…その後に『よろしくお願いします』…これだ!)
我ながらなんて無難な挨拶。
別に派手にする必要なんて無いんだよ。
何事も地味が一番。
「それじゃあ、次は織斑君。お願いしてもいいですか?」
「は…はい!」
遂に俺の出番か…!
さっき脳内でリハーサルした通りにやれば大丈夫のはずだ!
さっき以上に視線が痛いけど…。
「えっと…織斑一夏です! 趣味…というか、得意なのは料理です! よろしくお願いします!」
や…やりきった…! 俺はやったぞ…やったんだ…!
終わった後で『意気込みとかも言えばよかったかも』と思ったけど、もういいや。
今は何事も無く自己紹介が終わった事を素直に喜ぼう!
それからも自己紹介は恙無く進み、遂に最も恐れた瞬間がやって来てしまった。
「次はー…金野船子さん。自己紹介をお願いしますね」
「おう」
頼むから、この教室内をカオスな状況にだけはしないでくれよ…!
無駄な祈りかも知れないけど。
「ククク……!」
「え?」
「あの子の椅子が……」
「震えてる?」
本当だ…何だアレ?
何がどうなって椅子が震えてるんだよ…。
「ふんっ!!」
「う…うそぉっ!?」
「えぇぇぇっ!?」
「あ…あれは…!」
「「「「「座ったままの姿勢でジャンプをしたぁっ!?」」」」」
マジかよッ!? 船子の奴、あれが出来るのかッ!?
って、なんで自己紹介をするのにジャンプをする必要があるんだよッ!?
あと、今自分がスカートを穿いているって自覚があるのかッ!?
下手すると中身が見えちまうぞっ!?
「しゅたっ!」
そのまま、机の上に着地しやがった…。
もう現時点で相当に目立ってるよ…。
『男性IS操縦者』っていう俺のインパクトを一撃で消滅させやがったよ…。
「遠からん者は音に聞けッ!! 近くば寄って目にも見よ!! アタシの名前は『金野船子』っ!! いずれこのIS学園の番長になって宇宙最強のサッカー選手になってマグロ漁船に乗って一攫千金になって、どこでもドアを生み出す事が夢の、どこにでもいる最強最高最大最後の超絶怒涛の究極美少女様だっ!!! テメェらっ!! この名前を末代まで伝えて未来永劫に渡って語り聞かせろよっ!! じゃねぇと、アタシの行きつけの中華料理店から元神父の店主を呼んで三年間ずっと三食の食事を激辛麻婆豆腐にすっからなっ!!! わーったかっ!!!」
……もうツッコむ気すら失せてるわ…。
マシンガンのように意味不明な事を言いまくりやがって…。
頼むから…誰かこの馬鹿を止めてくれ…。
「誰が意味不明な宣戦布告をしろと言った。とっとと机から降りんか、この馬鹿が」
「おっ!?」
「え?」
真っ黒なスーツを着たこの人は…まさか千冬姉ッ!?
は? なんで千冬姉がここにいるんだ?
まさか、一組の担任って千冬姉なのかッ!? マジでッ!?
いやだって…こういう時って兄弟姉妹とかは同じクラスにしないのが決まりなんじゃ…あれー?
「千冬の姉御じゃねぇーかよぉー! こんな所で会うなんて奇遇だなぁー!」
「奇遇じゃない。私がこの一組の担任だ」
「マジかよッ!? ってことは…これからは毎日、姉御の顔が見れるって事かよッ!? くはぁー! テンション上がってきたぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「上げるな。はぁ…こっちは今の段階から憂鬱極まりないぞ。まさか、お前の担任になる日が来ようとはな…」
「別にいいじゃねっかー! アタシらの仲なんだからよぉー!」
「うるさい。それから、私の事は『織斑先生』と呼べ。分かったか」
「えぇーっ!? 姉御は姉御じゃねぇかよーっ!」
「公私を使い分けろと言っている。プライベートならば好きに呼んで構わん。だが、この学園にいる以上は私に従え。いいな?」
「へーい…」
色々と聞きそびれた気がするけど…一つだけハッキリしたことがある。
俺も同じように『織斑先生』って呼ばないと酷い目に遭うな…こりゃ。
例えば、出席簿が頭の上に振り下ろされたり。
(しっかし…相変わらず、千冬姉は船子にだけは甘いよなぁ…)
口では色々と言ってるけど、千冬姉って船子の事を気に入ってる節があるからな。
船子は船子で千冬姉の事がめっちゃ大好きだし。
性格は正反対なんだけど、割と仲が良いんだよなぁ…この二人。
「はぁ…山田先生。あのバカが無駄に騒いで済まなかった」
「い…いえ…私は別に気にしてませんから。金野さんの明るさには私も助けられましたし…」
おぉー…あの船子の奇行を前向きに捉えられるとは…山田先生って何者だ?
因みに、中学時代の担任は船子の奇行っぷりに盛大に振り回された挙句、ストレスでぶっ倒れて救急車で緊急搬送された。
しかも、その時に救急車を呼んだのが船子という皮肉。
「諸君、私がこの一組の担任になる織斑千冬だ」
「知ってま―――――――――っす!!!」
「お前達、新入生をこの一年間で最低限使えるようにするのが私の仕事だ」
「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
「私の言う事はよく聞き、よく理解しろ」
「了解で――――――――――っすっ!!!!」
「出来ない奴には出来るまでちゃんと指導をしてやる。その点については安心しろ」
「任せとけってっ!! 勉強ぐらい楽勝だぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」
「別に逆らっても構わんが、その時はそれ相応の覚悟をしておくことだな」
「はははははは! 姉御に逆らおうなんてバカがいる訳ねぇじゃねぇかっ!!!」
……うん。千冬姉の眉間に血管が浮き出てるのが分かる。
そりゃ、話の間に毎回毎回ずっと大声で割り込んでくれば誰だって普通にキレるわ。
「いい加減に本気で黙れっ!! このバカ娘が!!」
「甘いっ!!」
千冬姉が本気で投げた出席簿を軽々と片手でキャッチしやがった…。
ほんと…千冬姉もそうだけど、船子も人間辞めすぎだろ…。
「ちっ! どうして、その実力をもっと有効に使えんのだ、お前は…」
「ひっでーなぁ! ちゃんと有効に使ってるじゃねぇかよーっ!」
「水面を走ってハワイまで行って全ての観光客と一緒に記念写真を撮ったり、泳いで南極まで行って勝手にペンギンを連れ帰ってペットにしたり、自力でロケットを作って月まで行ってクレーターでソリをした挙句、『心頭滅却すれば火もまた涼し』とか言って宇宙服一つで大気圏突入して無傷で帰ってくることのどこが有効活用しているというんだ! お前は一体どこの男塾塾長だ!!」
「「「「「ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!??」」」」」
俺が知らない所で一体何をやってんだこいつはぁぁぁぁぁぁっ!?
もうどこにツッコんだらいいのかワケ分からねぇよっ!!
「アタシがIS学園番長(予定)の金野船子であぁぁぁぁぁぁぁぁるっ!!!」
「勝手に名乗るなっ!! それと、IS学園に番長なぞおらんっ!!」
「なら、アタシが初めての番長になってやるぜいっ!!」
「誰がそんな事をさせるかっ!!」
なんかもう…他の女の子たちが完全に呆然となってるんですが。
本当なら『キャー!!』ってなってたんだろうけど…船子の謎テンションの前に逆に冷静になったって感じだな…。
キーンコーンカーンコーン…
「あ」
チャイムが鳴った…ってことは、これでSHR終わり?
殆ど船子と千冬姉の会話しか聞いてないんですがっ!?
「…あー…これでSHRは終了とするー…。お前達にはISの基礎知識を約半月程度で学んでもらうー。その後に実習に入るが動かし方もまた半月で体に染み込ませろー。良いなら返事をしろー」
「「「「は…はーい……」」」」
か…完全に棒読みだ…めっちゃ疲れてる…精神的に。
隣で山田先生も苦笑いしてるし…。
「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!! やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁってやるぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!」
「お前は少しは静かに出来んのかっ!!!!!」
「無理ッ!!!!!」
「ハッキリと言うなっ!!!!!」
これから俺の三年間はどうなっちまうんだろうか…別の意味で。
どうしてIS学園で教師をしてるのかー…とか、色々と聞きたい事はあったけど…ンな事がどうでもよくなっちまうぐらいに俺も疲れた…。
主に船子のせいで…。
もー…完全にぶっ飛びました。
これからも意味不明な言動が連発します。
それが船子ちゃんなので。