黙れば美人、喋ると変人、戦う姿は不沈艦! 作:とんこつラーメン
クラス対抗戦が終わった後ぐらいから、あたしは無意識の内に船子の事を目で追うようになっていた。
放課後の食堂。
いつものように生徒で賑わっているこの場所に、船子を初めとしたいつもの皆が集まって談笑をしていた。
「船子さんの髪って、本当にサラサラで触り心地が素晴らしいですわ…。何が特別なことでもしていらっしゃるんですの?」
「うんにゃ? 別に何にもしてねーぞ? 普通に市販のシャンプーとかを使ってる」
「それでこれなんですの…? 元から相当に素晴らしい髪質だったんですわね…」
目の前でセシリアが船子の髪を触りながら何かを話している。
あたしから見ても、あの子の髪は本当に綺麗だと思う。
昔からよく、同級生の子に羨ましがられたっけ…。
(どうしちゃったんだろ…あたし…)
別に今まで船子の事が嫌いだったとか、そんな事は決してない。
好きか嫌いかで言われたら、あたしは即座に『好き』だと断言する。
けど、その『好き』はずっと友達としての『好き』の筈…だった。
アタシが『LOVE』の意味で好きなのは一夏だけ。
ずっとそう思っていた。そう信じていた。
けど…本当は違っていたのかもしれない。
『女同士だから』『大切な親友だから』。
そんな理由でずっと自分の本当の気持ちから目を逸らし続けていた。
だけど、この間のクラス対抗戦でダンボーが襲来して、船子に抱きとめられた時…本気で胸がときめいてしまった。
顔が熱くなって、胸がドキドキして、ずっとこのままでいたいと思ってしまって。
そして気が付いた。
あたしはずっと船子の事が好きだったんだって。
金野船子って女の子に、いつの間にか『恋』をしていたんだって。
その気持ちをより明確にさせたのは、箒やセシリア、千冬さんの存在だった。
船子が箒と喋っていたり、船子がセシリアと一緒に食事をしていたり、船子が千冬さんと一緒に歩いていたりするのを見ると、胸の奥が締め付けられるような気持ちになる。
この気持ちの正体をアタシは知っている。
これは『嫉妬』だ。
アタシは、船子と一緒にいる三人に嫉妬しているのだ。
「…今からでも…間に合うのかな…」
今更、自分の気持ちに気が付いたからって、アタシに何が出来るのだろう。
完全に出遅れているという自覚がある。
けど…だからって諦めたくない。
(もう少し早く…せめて、あたしが中国に戻る前に自分の気持ちを自覚していたら…何かが違っていたのかな…)
後悔先に立たず。
今のアタシは身を持って、その言葉の意味を実感している。
「え? それマジか?」
「まぁな。丁度いいし、ちょっと顔でも覗いてこようかなって思って」
「へー…」
あ…一夏と船子が何か話してる。
不思議とあの二人が並んでいる所を見ても嫉妬はしないのよね。
この理由は本気で分からない。
別に一夏の事が嫌いになった訳じゃない。
だけど、今は一夏への気持ちよりも船子への気持ちの方が大きいような気がする。
若しくは、アタシにとって一夏が『初恋の相手』から『友人』に変化したからだろうか。
「なら、ついでだしアイツも誘ってみっか。構わねぇよな?」
「俺は全然構わないぞ? 向こうも久々に会えたら嬉しいだろうし」
「だよなだよな! よっしゃ! 今から誘ってくるぜ!」
ん? 船子がニコニコ笑顔でなんかこっちに来てるし!?
え? ちょ…まだ心の準備が…。
「おーい! りーん!」
「な…何よ船子? なんか用?」
よ…よし…なんとか平常心を保ててるわね…。
「今度の日曜、一緒に出掛けねぇか?」
「えっ!?」
ふ…船子と一緒にお出かけって…それってつまりデートっ!?
あたしと船子でデート…休日デート…。
「えへへ…♡」
やば…どうしよう…考えただけで顔がニヤついてしまう…。
何を着て行こうかな~…。
船子は何を着ても完璧に着こなすから、こっちも負けないようにしないとダメよね…。
「で、一体どこに出かける気?」
「弾の家」
「へー…弾の家…って、弾っ!?」
ちょ…なんでそこで弾の名前が出てくるのよ?
「一夏の奴が、今度の日曜に家に戻って持って来れなかったのを取りに行くついでに掃除もして、その帰りに弾の家にでも寄っていくつもりらしくてよ。それなら船子ちゃんも一緒に付いて行って久し振りに弾の間抜け面でも拝んでやろうと思ってな。で、どうせなら鈴も一緒に誘うかって話になった訳よ」
「あぁ…そういうわけね」
デートどころか二人きりですらなかった…。
あはは…見事なまでの勘違いだったわ…恥ずかしい…。
つーか、この手の話をして箒とセシリアが何にも反応していない時点でお察しじゃないのよ…。
「アタシと鈴とで、一夏ん家を隅から隅までピッカピカにして、タイルの床を鏡みたいにしてやろうぜ! んでもって、超ツルツルにして簡単に歩けないようにしてやるぜ~!」
「やり過ぎるんじゃないわよ?」
船子に任せると、本当に一夏の家を丸ごと、新築同然にしそうな気がするから怖い。
実際、それだけの能力があるから質が悪いのよね。
「…心配すんなよ鈴」
「へ?」
ちょ…急に船子が顔を近づけて来て…耳元に口を寄せてきたッ!?
うわぁ…睫毛めっちゃ長い…いい匂いもするし…肌…超綺麗…。
「また今度、一緒に遊びに行こうぜ。次は二人きりで…な?」
「ひにゃっ!?」
あ…これヤバい…マジでヤバい…。
アタシ…アタシ…船子にマジで惚れてる…。
あいつのこと…めっちゃ大好きだ…。
次は二人きりでって言われた時…涙が出そうになるぐらい…嬉しかったから…。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
今日は日曜日。
船子ちゃんが、織斑君や鈴ちゃんと一緒に遊びに出かけるという日。
「んじゃ、ちょっくら行って来るぜパイセン!」
「う…うん…行ってらっしゃい…」
「どれぐらいになるから分からねぇけど、腹が減ったら冷蔵庫の中にある満漢全席をレンジでチンして食っててくれよな!」
「わ…分かったわ…」
これが船子ちゃんの私服…始めて見たけど…凄い破壊力だわ…。
黒いベレー帽を被って、額の辺りにはサングラスを付けて、真っ黒なクロスホルターネックを着て、下には濃いグレーのバギーパンツ。
そして、足元にはこれまた黒いレディースサンダルを履いている。
今更だけど…改めて言わせて頂戴。
船子ちゃん、貴女はどこのモデルさん?
絶対に自分の魅力を自覚してるでしょ。
今の格好…分かってる?
お腹が出てるのよ! おへそが丸見えなのよっ!?
腰の括れがモロに出てるのよッ!?
私もそれなりにスタイルが良い方だと自負しているけど…船子ちゃんの前じゃ普通に霞んじゃうわ…。
船子ちゃん…本当に恐ろしい子!
「さーて…あんまし二人を待たせるのも悪ぃし、ここはいっちょ『船子ちゃんワープ』を使って一気に行くか!」
「ワ…ワープッ!?」
え? 船子ちゃん、そんなのが出来るの?
じょ…冗談よね? って言いたいけど…この子なら普通に出来そうなのよね…。
「室内じゃあれだから廊下に出て…っと」
船子ちゃんがドアを開けて廊下に出る。
…他の子達が今の船子ちゃんの姿を見て驚く姿が目に浮かぶようだわ…。
「うわっ!? 誰あの超美人!?」
「あれってもしかして、一組の金野さんっ!?」
「私服が似合いすぎて眩しい!! スペック高過ぎでしょ!!」
「美少女だ…正真正銘の美少女だ…!」
ほらね。
あれを見て何の反応もしない人間なんて一人もいないでしょ。
「必殺!! 船子ワープ!!」
「「「「消えたぁっ!?」」」」
本当に消えたのッ!? 冗談でしょっ!?
船子ちゃん…もうあなたが何をしても驚かない自信が付いたわ…。
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・
「あれ? 一夏だけ? 船子は?」
「まだ来てない。てっきり鈴と一緒に来ると思ってたんだけど…」
「アタシはまだ今日は会ってないわよ?」
日曜日になり、アタシは校門前で一夏や船子と待ち合わせをしていた。
デートにならなかったのは少し残念ではあるけど、それでも船子と一緒に外出できるのは純粋に嬉しいし、久し振りに中学時代の同級生の顔を見に行けるのは普通に楽しみだ。
「船子の事だから遅刻はしないだろ」
「それもそうね」
今も昔も破天荒な言動が多い船子だけど、人との約束は絶対に破らないし、校則なども決して破らない。
ふざけているように見えて、ちゃんと弁えるべき部分は弁えている。
だからこそ、船子が何をしても皆は笑って許せるし、誰もが皆揃ってアイツの事を頼りにしている。
かく言うアタシも…そんな船子に助けられた人間の一人だしね…。
「おーい! 一夏ー! りーん!」
「「あ」」
この声…やっと来たのね船子。
と言っても、まだまだ約束の時間には早いんだけど。
「アタシがラストかよ~! こりゃ参ったな~!」
「「…………」」
え…っと…船子…よね?
船子って、こんな服…持ってたっけ?
いや、昔から何故かお洒落には気合を入れていたけど…高校生になってから一段とパワーアップしてない?
つーか、普通にお腹…っていうかおへそが見えてるし…。
うっわ…船子の腰…細っ!
超括れてるじゃない!
「な…なんつーか…気合入ってるな…」
「そーか? 船子ちゃん的には割と無難なチョイスのつもりだったんだけどな」
「「それで無難なのッ!?」」
船子って、もしかしてかなりファッションセンスあったりする?
もしコイツが本気で着こなしてきたりしたら…完全に高校生のレベルを逸脱しちゃうんじゃ…。
いま、今の段階でも十分に高校生のレベルは超えてるか。色んな意味で。
「それよりも、とっとと行こうぜ~! まずは一夏の家に行くんだろ?」
「あぁ。いきなり寮に入らされてるから、持ってこれなかった物が余りにも多いんだよな。だから、どこかで一回家に戻って色々と取って来なくちゃいけないって思ってたんだよ」
「ふーん…だから、割と大きめのリュックを持って来てるのね」
「そういうこった」
一夏も一夏なりに苦労してるってことなのね。
しゃーない。
ここはいっちょ、あたしも気合を入れてコイツんちを掃除してやろうじゃない。
「しっかし…弾の奴、鈴が戻って来てるって知ったら驚くだろうな」
「それ以上に、今の船子の格好を見て驚くと思うわよ…」
「同感」
あいつって、良くも悪くも感覚が庶民な上に、女の子に対する耐性が余り無さそうなのよね。
普段は一夏の事を『羨ましい』って言ってたけど、いざとなるとヘタレになるタイプだと見た。
「ついでだし、弾の所で飯とか食えねぇかな~」
「言えば普通に出してくれるんじゃないか?」
「その前に、向こうから出してくれるでしょ。前からそうだったし」
「「それもそっか」」
こうして、あたし達は昔話に花を咲かせながら三人で出かけるのだった。