黙れば美人、喋ると変人、戦う姿は不沈艦! 作:とんこつラーメン
そいつを最初に見た時、俺は本気で誰なのかが全く分からなかった。
長い銀髪で同い年とは思えないような超絶スタイルと見事なまでのファッションセンスを持つ、まるで雑誌から読者モデルがそのまま飛び出してきたかのような超美人なんて俺の知り合いには一人もいません。
人前で堂々とヘソなんて出しやがって…サンダルを履いているから分かった事だが、しれっと足の爪に赤いマニキュアとか塗ってんじゃねぇよ!
すっごいよく似合っててマジでビビったわ!
でも、すぐに言動を見て目の前にいる子の超美人が、俺の中学時代の同級生である『金野船子』であることが分かった。
いや、一夏や鈴と一緒にいる時点でお察しではあるんだけど。
ほんの少し見ない間に、また一段と女としての質が磨かれてたんだから仕方ないだろッ!?
こんな美少女、何にも知らなかったら絶対に告白してるし、中学時代の他の友人達が今の船子を見たら、まず間違いなく即座にナンパをしている事だろう。
この船子には、それぐらいの『凄み』がある!
一つだけ気になったのは、なんでか鈴の奴が船子の腕にベッタリとくっついている事だった。
お前…一夏が好きなんじゃなかったっけ?
つーか、そんなに船子に懐いてたっけ?
昔から仲は良かったけどさ…そんなんだったか?
で、あれよあれよとしている内に、いつの間にか俺は三人を自分の部屋に招き入れていて、昔と同じような流れで普通にテレビと向かい合いながらストリートファイターⅢをやっていた。
別に最新作の6が嫌いってわけじゃないんだけど、なんでか急にやりたくなってしまうんだよ。
この真理、分かる奴には分かると思う。
「ふ…船子…少し見ない間に腕を上げやがったな…!」
「あったりめーだろーが! 船子ちゃんは常に成長し続けてんだよ! シモンだって言ってただろーが! ドリルが一回転すりゃ、その分だけ前に進むってな! アタシは一秒一秒ごとに強くなっていってんだ!」
「お前はどこの螺旋族だっつーの!! おらぁっ!!」
よっし! 俺の操作する春麗の強キックがモロにヒットした!
これで船子の操るケンの体力は風前の灯!
もう一ミリぐらいしか残ってねぇ!
これで一気にケリを着けてやるぜ!!
「あ…これは…弾! お前、完全に嵌められてるぞ!!」
「は?」
隣で見ていた一夏が叫んだ瞬間にはもう、俺は既にスーパーアーツである『鳳翼扇』の入力を終えて、春麗が突撃を開始していた。
この距離、タイミングは絶対に回避不可能!
仮にガードをしても削りダメージで結局は終わり!
…そう思っていた時期が俺にもありました。
「そうは問屋が降ろさねぇんだよ! オラァっ!!」
「な…なにぃっ!?」
あろうことか、船子のケンは、こっちの放った鳳翼扇を全て、完璧なタイミングでブロッキングしやがった!
しかも、最後の一撃は空中ブロッキングまでするというおまけ付きで!
「こいつで終わりだ! おりゃぁぁぁぁっ!!」
「し…しまっ…!」
気が付いた時にはもう時既にお寿司…じゃなくて遅し。
空中強キックからしゃがみ中キック、そこから更に中昇竜拳からの、最後にトドメの疾風迅雷脚!!
『KO!』
ド派手なエフェクトと共に、俺は見事な逆転負けを喫してしまった…。
こんな事ってあるのかよ…。
「おい船子…今のワザと追い詰められたろ」
「バレたか。やっぱ一夏の目は誤魔化せねぇな」
え? ワザと? え? どゆこと?
「今の試合、完全に『ウメハラ背水の陣』の再現だろ」
「あっ!!!」
一夏に指摘されて完全に気が付いた。
あの絶体絶命の状況からの奇跡の一発逆転勝利。
日本一のプロゲーマーが世界に見せつけた前代未聞の瞬間。
船子の奴は…それをする為だけに敢えて追い詰められたってのか…!?
「じゃ…じゃあ…俺は完全に誘われてたってのか…?」
「多分な。あの状況なら、まず間違いなくお前が鳳翼扇を使ってくるって所まで全部計算に入れてたんじゃねぇか?」
「う…嘘…だよな…?」
恐る恐る、俺は船子の方を振り向く。
するとこいつは…。
「テヘペロ♡」
やりやがったぁぁぁぁぁっ!!
何もかも全て計算ずくで『ウメハラの奇跡』の再現を試みやがったぁぁっ!!
「いや~! 久し振りに良い試合だったぜ~!」
「か…完敗だ…」
見事に遊ばれたな…トホホ…。
本当に船子は凄い奴…だ…な…。
「ん~!」
…俺の隣で船子が背中を伸ばしている。
それはいい。それは良いんだ。
問題があるとすれば、それは…。
(揺れてるんだよ!! 敢えて『どこが』とは言わないが、揺れてるんだよ!)
コイツ…これもまた俺をからかう為にワザとやってないだろうな?
クソ…普通に目のやり場に困る…。
見た目だけはマジでそこらのモデルが裸足で逃げるレベルだからな。
「ちょっと弾。船子の事をいやらしい目で見るんじゃないわよ」
「べ…別にいやらしい目で見てねぇわ!!」
さっきまでずっと静かだった鈴にいきなり脇腹をどつかれた。
いや、っていうかさ…。
「何よ?」
鈴の奴、部屋に入ってからずっと、船子の身体…というか背中にベッタリと抱き着いてるんだが。
船子も船子で全く気にしてる様子が無いし。
「はぁ~…こうして船子に抱き着いてると落ち着くわぁ~…」
「そっか? んじゃ、正面から抱き着いたら、も~っと落ち着くんじゃねぇか? ほーれ!」
「ふにゃぁっ!? わぷっ!?」
いきなり船子が鈴の方を向いたかと思ったら、次の瞬間には思い切りハグしてた。
しかも、鈴の頭が船子の胸に沈んでる。
女同士とはいえ…なんて羨ましい…!
「あたし…幸せすぎて死ぬかもしれない…」
俺の部屋で百合の花を咲かせるのは止めてくれませんかねぇっ!?
一気に俺達の肩身が狭くなるからさぁっ!
っていうか、なんで自分の部屋で肩身が狭くならなくちゃいけないんだよッ!?
「おい一夏! お前は良いのかよッ!?」
「何が? 女同士で仲良くていいことじゃねぇか」
「お前に聞いた俺がバカだったよ!」
こいつに『そっち方面』の話は意味が無いって完全に忘れてたわ!
船子は色んな意味で大幅パワーアップしてるし、鈴は船子にマジ惚れしてるし、一夏の鈍感具合は相変わらずだし…。
「変わんねぇなぁ…俺達…」
若しくは成長してないとも言うべきか。
「そういや、IS学園はどんな感じだよ? 男はお前一人なんだろ?」
「まぁな。って言っても、船子がいるから特に何かが気になったりとかはしてないかな。寧ろ、最近は俺の存在が霞みつつあるんじゃないかと言う気さえしてくる」
「船子だしなぁ…」
本能に従って行動しているから、無自覚の内に周りを掻き回して、無自覚の内に色んな奴を惚れさせて、無自覚の内に沢山の奴を助けてる。
それが『金野船子』って奴なんだよなぁ…。
そんな奴と友人になった時点で、ある意味じゃ俺も似た者同士なのかもな。
「IS学園って確か、全寮制で一部屋二人で使ってるんだろ? って事は、船子にもルームメイトがいるって事だよな? 俺、そいつにマジで同情するわ…」
振り回され過ぎて精神的に疲れ果てるか、もしくは精神的にタフになるかのどっちかだしな。
因みに俺はタフになった。
もう、ちょっとやそっとの事じゃ驚かない自信がある。
「船子と一緒に部屋に住んでるのは生徒会長の先輩だよ。な? 船子」
「おう。会長でパイセンなのに全く堅苦しく無くて、中々に面白い奴だぜ?」
「というか、船子と先輩、かなり仲良いだろ」
「ま、あたしとパイセンは出会ったその日に親友になったからな!」
「……そっか」
船子の腕の中で鈴がめっちゃ幸せそうな顔をしてトリップしてるのは一先ず置いといて。
俺の予想じゃ、その生徒会長さん…船子に惚れてるな。
船子って超極まれに真剣な顔で男女問わずに一撃ノックアウトさせる言葉を唐突に放ってくるからな。
実際、中学時代にその真剣モードの船子に撃墜された男女がどれだけいた事か…。
なんてことを考えていたら、いきなり部屋のドアが開いた。
「ちょっと、お兄!? お昼の準備が出来たよ…って…」
「お、蘭か。久し振り」
「蘭じゃねぇか~! お前とも久し振りだなぁ~! 最後に会ったのは、一緒にスピラにブリッツボールを見に行った時か~? あん時、貰ったワッカのサイン、まだ大事に持ってるか~?」
「あ…蘭じゃない。おひさー」
「ふ…船子さんに鈴さんに一夏さんッ!? どうしてウチにっ!?」
一夏が最後なのかよ…。
いや、それよりもスピラに一緒に行ったって何ッ!?
ワッカのサインを貰ったってマジかッ!?
でも、蘭の奴が反応してないって事は、いつもの適当発言か。
それでFF10が出てくるのが普通に凄い。
「一夏の家に荷物を取りに行くついでに掃除をして、その帰りにここに寄ったんだよ。な~鈴?」
「んー…そうね。船子と一緒にデートに行くついでに一夏の荷物取りに付いて行ったって感じかしら」
鈴の中で今日のスケジュールが改変されてるんだけどッ!?
遂にお前まで船子に毒され始めちまったのかッ!?
ある意味、お前こそが最後の砦だったんだぞっ!?
「船子さんとデート…いいなぁ…」
そういや、蘭もまた船子に強い憧れを抱いてる人間の一人だったか。
そりゃぁ…才色兼備で運動神経抜群で歳の近い女子がいたら、憧れるのも仕方がないことか。
「あれ? 船子さんと鈴さんって、前からそんなに距離が近かったですっけ…?」
「あたしと船子は昔からこんな感じだけど? ね、船子?」
「そーだなー。鈴とはずーっと、こんな感じだよなー。むぎゅ~」
「んもぉ~…船子ったらぁ~♡」
…船子からしたら単なるスキンシップなんだろうけど、鈴からしたら完全に最上級の愛情表現になってるな。
傍見ている俺達(一夏は除く)から見ても、ラブラブな百合カップルにしか見えん。
一体いつの間に、鈴の船子に対する感情が『
「あわわわわ…船子さんと鈴さんが凄いことにぃ~…」
蘭の目がグルグルになってきて混乱してやがる。
ここは兄としてなんとかしなくては。
「おい蘭。何かを言いに来たんじゃないのか?」
「あ…そうだった。お昼の準備が出来たから降りて来いってお爺ちゃんが」
「だとよ、お二人さん。とっとと飯食いに行くぞ~。一夏も」
「分かったー」
そういや一夏の奴、さっきから何をやってんだ…って、豪鬼を使ってストーリーモードをやってたのか。
あ…普通にギルに負けてるし。
やっぱリザレクションは反則だよな。
未だに俺は、最上級難易度で最弱キャラであるトゥエルヴを使い全試合を完封勝利してみせた船子の偉業は信じられない。
っと、それよりも昼飯を食いに行こう。
あんまし待たせたら、爺ちゃんがマジ切れしちまうからな。
後編へ続く。