黙れば美人、喋ると変人、戦う姿は不沈艦! 作:とんこつラーメン
昼飯の用意が出来たからと言われ、俺達は一階にある食堂のスペースに行くことに。
テーブルの上にはもう既に人数分の料理が並べられていて、ちゃんとお冷も置いてある。
流石は爺ちゃんだな。
いつものことながら準備が早くて的確だ。
「おぉ~! 厳のじっちゃんの『業火肉野菜炒め』じゃあねぇ~か! 久し振りだな~!」
「マジだ。船子じゃないけど、俺もかなり久し振りだなー」
「あの味だけは、どう頑張っても真似できないのよね~。なんでかしら?」
IS学園組がなにやら懐かしんでいるが…そうだよな。
こいつらがこうしてウチに揃って来るのってマジでいつ以来だよって感じだもんな。
そりゃ、懐かしくなっても仕方がないか。
「ったく…相変わらず船子は無駄に元気がありやがるな。ちっとは女らしく慎みぐらい持ったらどうなんだ? あぁ?」
おう…厨房から料理をしながら器用に爺ちゃんが話しかけてきた。
因みに、店には俺達の他にも一般のお客もいるみたいで、その人からの注文を今造っている最中のようだ。
「なぁ~に言ってんだじっちゃん! 船子ちゃんは慎みの塊みてーなもんじゃあねぇ~か! つーか、アタシの半分は慎みで出来てるんだぜ?」
「お前はどこのバファ○ンだ」
それ以前に『慎みの塊』って何だ。
いきなり意味不明な事を言うな。
「んなことよりホレ。とっとと食いやがれ。片付かねぇじゃねぇか」
「「「「はーい」」」」
今だまだ大丈夫だが、ウチの爺ちゃんは怒らせるとそりゃもう怖い。
未だに五反田家のヒエラルキーの頂点に君臨してるからな。
我が家で爺ちゃんの決定に逆らえるのは、今のところは母さんしかいない。
あんまり待たせるのもアレだし、それ以前に折角の料理を冷えさせるのは普通にゴメンだ。
雷が落ちない内に、早く食べてしまおう。
皆もそれは理解しているのか、そそくさと席に着いた。
「この世の全ての食材に感謝して…」
「「「「「いただきます」」」」」
って、しれっと船子がトリコ風にしやがった!
食堂の息子として、個人的には全く異論は無いんだけどよ。
「あーむ! ん~! うんめ~!」
「あぁ~…これよこれ。なんかマジで『帰ってきた~』って感じがするわ~」
「この味は、IS学園じゃ味わえないよな~」
三人揃って満足そうな顔をしやがって。
こっちとしちゃ感無量だけどさ。
「さっきの話の続きだけどさ、船子ってIS学園でも相変わらず…なのか?」
「相変わらずって言うか…」
「寧ろ、パワーアップしてるっていうか…」
「中学の時以上なのかッ!?」
「昔以上の船子さん…想像出来るような、出来ないような…」
あの頃の時点でも相当に破天荒…いや『ハジけてた』だろっ!?
女子高生になった事で、それに拍車が掛かっちまったのか!?
「まず、入学早々に自己紹介の時にツェペリさんの真似をして座ったままの姿勢でジャンプしてたし」
「こいつ…いつの間に、そんな真似が出来るように…」
まさかとは思うが、波紋が使えるようになってたりとかはしねぇよな?
船子なら普通に有り得そうだから怖い。
「その後も、クラス代表に自分から立候補をして、その結果、代表候補生に勝負を挑まれるし」
「セシリアの一件ね。アタシも噂程度には聞いたけど」
え? 確か『代表候補生』って、かなりのエリートじゃないのか?
そんなのから喧嘩売られたのかよッ!?
「勝負自体は一週間後になったんだけどさ、その時に船子の奴が勝負に備えて一週間丸々、外に出て特訓をしてくるとか言って、それを学園側も了承してたし…」
「実に船子らしいっつーか…」
「一週間も外に出てたら、授業とかはどうなるんですか?」
「それも特別に免除って形になった。千冬姉が言うには『船子はもう既に遥か先の所まで学んでいるので、一年の最初の部分の授業程度はしなくても全く問題無い』らしい」
「「すごー…」」
思わず兄妹揃って言っちまったよ。
そういや、中学の時もめっちゃ勉強出来てて、自習の時とかになると船子が先生役をやってたぐらいだしな。
最初こそは折角の自習が潰されてブーイングの嵐だったんだけど、船子が黒スーツ&眼鏡の女教師スタイルになると、一瞬で静かになった挙句、男子達から歓喜の雄叫びが上がったんだよな。
あの時の船子…マジで自分達の同級生とは思えないぐらいの大人の魅力を醸し出してたよな…。
次の日になって、船子の下駄箱に山ほどのラブレターがあったし。
因みに、その時の写真を蘭に見せたら『私も船子さんに勉強を見て貰いたい』とか抜かしやがった。
「んで、勝負の行方はどうだったんだ? 勝ったのか?」
「勝った。普通に圧勝」
「代表候補生に勝っちゃうなんて…凄い…! 流石は船子さん…」
蘭の目のキラキラが更に強くなったし。
こいつ、船子に会った瞬間からずっと憧れてたしな~。
船子の本性を知っても、尊敬の念が変わらないのはマジで凄いが。
「その後も、新聞部の人達にされたインタビューで爆弾発言を連発してたし、何故か開催された船子の『クラス代表就任パーティー』じゃ、出された料理全部を自分で作ってたしな」
「地味に忘れがちだけど、船子って何気に家事全般を全てこなせるんだよな…」
「船子さんって本当に女子力が高いよねー」
「なんたって、アタシの船子だし?」
どうしてそこで鈴が偉そうにふんぞり返る?
ほんと、少し見ない間に船子と鈴との間に一体何があったんだ?
昔から人並み以上に仲は良かったけど、それでもここまでじゃなかったぞ?
恋愛ゲームしか知らない俺でも分かる。
今の鈴は間違いなく『恋する乙女の瞳』になってる。
「つーか、さっきから俺達ばかり話して船子が静かなんだが…ん?」
隣を見たら、もう既に船子の皿&茶碗は空になっていた。
「めっちゃ美味かった…が! 今日の船子ちゃんには足りん!! おかわり!!」
「んなもんはねぇ!! 食いたかったら自分で作れ!!」
「喜んでそうさせて貰うぜぇぇぇぇぇっ!!」
ちょっとぉぉぉぉぉっ!?
なんかいきなり船子が厨房に入って行ったんだがッ!?
爺ちゃん的にもそれでいいのかっ!?
普段は滅多なことじゃ厨房に部外者なんて入れないのに…。
「船子ちゃんお料理モード!! いくぜぇぇぇぇぇぇっ!!」
「暫く会わない間にどれだけ腕を上げたか…見させて貰おうじゃねぇか」
髪型をポニーテールにしてから、頭にはタオルを巻いた。
どうして船子って、どんな格好してても絵になるんだろうな…。
って、そうじゃなくてっ!
もしかして船子の奴、爺ちゃんに料理でも習ってたのかッ!?
「おらおらおらぁっ!!」
「いや~…船子ちゃんがここの厨房に立つ姿なんて見たの久し振りだな~」
え? なんで住んでる俺が知らないのに常連さんが知ってるの?
「船子の手料理か~…どんなのを作るのかしらね~」
「あいつ、料理のレパートリーはマジで広いからな。この前なんて、聞いたことのない部族の、聞いたことのない民族料理とか作ってたしな」
「え…なにそれ? ツッコミ待ち?」
聞いたことのない部族の聞いたことのない民族料理ってなんだよ。
自分て言ってて混乱してくるわ。
ジュー…ジュー…
うん。確実に何かを焼いてるな。
さっきと同じ業火肉野菜炒めか、もしくは別の何かか…?
「ほぉ…腕は衰えてない…いや、それどころか確実に上げてやがるな。ふっ…それでこそだぜ」
「あったりまえだろっ!? 船子ちゃんは一秒単位で常に進化し続ける美少女だからな!」
それ、さっきも言ってたな。
船子の場合は実際にそうだから困る。
「そうだ! 実は私、少し前にこんなのを受けてまして」
「「ん?」」
いきなり蘭がどこからか一枚の書類を取り出した。
あ…これはもしかして…。
「IS簡易適性試験…」
「判定A…」
やっぱり…。
こいつ、この結果が出た時から浮かれ捲ってやがったからな…。
絶対に見せるとは思ってたわ。
「ということで私、来年IS学園を受験しようと思ってるんです」
そしてコレだよ…。
俺は反対なんだけど、他の家族が全員賛成…というか、蘭の意思を尊重しようって考えだからなぁ~…特に爺ちゃんが。
「もしも無事に入学で来たら、是非とも船子さんにお勉強を教えて貰いたいな~…なんて。船子さん、良いですよねッ!?」
「おう! もし本当に合格したら、船子ちゃんが手取り足取り腰取り、何でも好きなだけ教えてやるぜ!! ま、その時には船子ちゃんもIS学園の生徒会長になってるかもだけどな!」
「せ…生徒会長っ!?」
こいつ…中学の時だけに飽き足らず、IS学園でも生徒会長の座を狙ってやがるのかッ!?
だけど…船子が生徒会長になることで学校全体に良い意味での改革が起きてるんだよな…。
「い…いやいやいや! 船子! そう簡単に安請け合いするんじゃねぇよ!」
「ま、別にいいんじゃない? 本当に受かればだけど。あそこって筆記でも相当に難しいわよ?」
「大丈夫です。ちゃんと今から既に受験に向けての勉強は開始してるんで」
この情熱だけは本物だから質が悪いんだよなぁ…。
お蔭で、俺も強く言えないんだよ…。
「因みに、船子は学年主席だったらしい。さっき話した候補生の子が次席なんだと」
「まさかの主席となっ!?」
船子が頭いいことは知ってたけど、まさか凄い倍率のIS学園で主席を取れちまうほどだったのかよッ!?
何が起きても驚かない自信はあったけどよ…船子はいつも、こっちの予想の遥か上を行ってくれるよな。
「船子さんが主席…なら、勉強に関しては申し分ない…?」
「ないどころか、間違いなく学年で一番頭いいな。俺も良く教えて貰ってるし」
「一夏もか?」
「あぁ。普段はあぁだけどさ、ちゃんと教えてくれる時は教えてくれるんだよ。そういう姿を見る度に、やっぱ俺なんかよりも船子の方がずっとクラス代表に相応しいよなぁ…って実感する」
そうだった…船子の奴は『ハジケモード』と『真面目モード』の時の差が恐ろしく激しいキャラだった。
本当に天と地ほどの差があるギャップに撃沈されられた男女は数知れず。
一夏も例外じゃないんだが…まさか鈴もそれなのか?
「出来た!!」
「「「「おぉ~」」」」
さーて…船子が一体何を作ったのか…見せて貰おうじゃねぇか。
「船子ちゃんのお昼ご飯第二幕……素麺だ!!」
「「「「さっきまでのジュージューって音はっ!?」」」」
素麺って…何一つとして焼いてねぇじゃねぇかッ!?
あの何かを焼くような音は一体なんだったんだっ!?
「ん~♪ 流石は船子ちゃん…ツルツルシコシコで美味いぜ~♡」
「茹で時間も湯の量も完璧だった。ったく…俺もうかうかしてられねぇな…」
爺ちゃんが嬉しそうに感慨に耽ってるし。
業火肉野菜炒めの後に素麺を作って食う船子の胃袋もそうだけどよ…あの調理音で素麺を作ってた事が驚きすぎるわ。
「流石は船子ね…凄く美味しそうな素麺だわ」
「船子さんって、何をやらせても完璧ですよね~」
ウチの女性陣が完全にツッコミを放棄している件。
うぅ…鈴こそが数少ないツッコミ役だったのに…お前までもが『ソッチ側』に行っちまったら、一体誰が船子にツッコむんだよ…。
一夏だけじゃ負担がデカすぎるって…。
「一夏…」
「なんだ?」
「…強く生きろよ」
「いきなりどうした?」
これが…親友として俺に出来る精一杯のエールだ。
胃薬の常備だけは…忘れるなよ。