黙れば美人、喋ると変人、戦う姿は不沈艦! 作:とんこつラーメン
いつも通りの船子のテンション高めの言動で幕を開けた一日。
いきなりフランスとドイツから転入生が二人も来ると言う、普通に考えたら前代未聞の出来事も、船子のお蔭で難なく収束した。
片方…フランスの奴は男子を自称していたが…どうも引っかかって仕方がない。
私だけでは判断がしにくいので、後で皆に相談でもしてみるか。
それはそうと、船子に自慢の剣技を披露できたのはちょっと嬉しかったな…。
錆びた刀ではあったが、やれば出来るものなんだな。
我がことながら普通に感心してしまった。
「んじゃ、とっとと更衣室に行こうぜ」
「こ…更衣室?」
「あぁ。俺達は少数派だろ? だから、こんな時は俺達の方が教室から出て行って更衣室を使って着替えるんだよ」
「そ…そうなんだね! 勉強になるなぁ~…ははは…」
…明らかに怪しい。
別に一夏の言った事にそこまで動揺する必要があるか?
ここはIS学園。
実質的な女子高なのだから、別におかしなことは何もない。
だと言うにも拘らず、あの反応…。
(これはもしや…私の予想は本当に当たっているのか…?)
だとしたら、中々に由々しき事態なのでは?
けど、私が気が付いたのだから、千冬さんや山田先生、あの船子だって当然のように気が付いている筈だ。
なのに、特にこれといった反応は無かった。
まさか、全てを知った上で敢えて泳がせているのか?
船子達ならば十分に有り得ることだな…。
「一夏よぉ~。とっとと行かねぇと、この間みたいに更衣室に行く途中で襲撃されちまうぞ~」
「そ…そうだった! シャルル! ちょっち急ぐぞ! このままだと授業に遅刻する可能性がある!」
「う…うん! 分かったよ!」
船子に驚かされる形で一夏達は急いで教室から出て行った。
それを見計らってから私達はISスーツへの着替えを始める。
「ん? 船子…どうした? 着替えないのか?」
「フッフッフッ…実は最近になって習得した着替え方をやってみようと思ってな。こうして仁王立ちをしているのだよ」
「着替え方?」
着替えるのに習得とかあるのか?
いや…船子の事だからきっと、普通の着替え方じゃないんだろう…。
だって船子だしな。
「それじゃあ…いくぜ!! ふん!!」
そう言うと、いきなり船子は制服の肩の部分をギュッと握りしめ、そのままバッっと一気に脱ぎ捨てた!
「ほい。お着替え完了」
「「「「「え―――――――――っ!?」」」」」
い…一体どうやったんだ…?
ボタンを外す動作もしていなければ、スカートを脱ぐような事も全くしなかったぞ…。
文字通り、上下同時に制服を脱ぎ捨てた…。
制服の下には、ちゃんと前にも見た船子専用の紅いISスーツが着用されていた。
「フッ…神室町で何回も激戦を繰り広げていれば、自然とこんな脱ぎ方も出来るようになっちまうのさ…」
そうだったのか…!
流石はアジア最大の歓楽街…神室町…!
服の脱ぎ方一つとってもレベルが違うのだな…!
「んじゃ、皆には悪いけどアタシは先に行かせて貰うぜ? 仮にもクラス委員だからな。遅刻しちゃ拙いだろ」
眩しい笑顔を振りまきながら、船子は軽く手を振ってから教室を後にした。
たった一瞬で着替えてしまうだけではなく、誰よりも先に行って準備をする事でクラス委員としての仕事を全うしようとするとは…やっぱり船子は凄いなぁ…。
(私も負けてはいられんな! 船子の隣に立つ女に相応しい女になる為にも…まずは一瞬で服を着替えられるようになる練習をしよう!)
そうすれば、今度から船子と一緒にグラウンドに向かえる!
これはかなり大きなアドバンテージになるに違いない…!
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今日は珍しく、一組と二組の合同実習の日。
普通ならば『面倒くさい』とか思ったりするんでしょうけど、こっちにとっちゃ好都合。
だって、船子と一緒に授業が受けられるんですもの!
普段は違うクラスだから、必然的に会えるのは休み時間や放課後、休日とかに限定されてしまうけど、今日に限ってはそうじゃない。
一日中ずっと船子と一緒にいられる!
個人的にこれはすごーくあり!
寧ろ『ありがとう!』と言いたい!
…で、アタシを初めとした二組の皆は一足先にグラウンドに集合して並んでいたんだけど、どういう訳か船子が一人先にやって来ていた。
「よっ。今日はヨロシクな」
「う…うん。よろしくね」
普通なら自分一人だけで他のクラスに混ざるだなんて緊張するでしょうに…船子は全くそんな様子を見せない。
ほんと…凄い度胸よね…。
もしくは単なるコミュ力お化けか。
「そういや、さっきなんか一組の教室が騒がしくなかった? なんかあったの?」
「あぁ…あれか。別に大したことじゃねぇよ。うちのクラスに転入生が来ただけだ。フランスとドイツから一人ずつ」
「えっ!? 二人同時に転入生が来たのッ!?」
「おう」
マジかー…。
幾らIS学園が普通じゃないからって、そんな所まで非常識にする必要はないでしょうよ…。
大方、千冬さんが担任をしているからー…なんて適当な理由なんでしょうけど。
「気のせいかもだけどさ…若本規夫さんの良い声が聞こえた気がするんだけど?」
「そりゃそうだろ。なんたって、フランスから来たのは神聖ブリタニア帝国第98代皇帝閣下だからな」
「はぁ?」
それって…あの人よね?
あんなゴッツイのがIS学園に来たっての?
つーか、あいつって普通に男じゃない。
「もしかしてさ…フランスから来たのって『男』だったりする?」
「良く分かったな」
やっぱりか!
念の為に小声で話してよかった!
もし普通の声量で話してたら、また面倒なことになる所だった!
「つっても、あくまで『自称』だけどな」
「自称?」
「そ。ま、実際に見りゃ分かるよ。百聞は一見に如かずってな」
「ふーん…」
『自称』男子…ねぇ…。
一夏っていう『本物の男性IS操縦者』がいる時点で、そーゆー輩が出て来てもおかしくは無いけど…。
船子がこんな意味深な事を言う時って、大抵は何かあるのよね。
もうすぐやって来るだろうし…直に見てから判断しますか。
それに、セシリアや箒も来るでしょうし、アイツ等の意見も聞いてみないとね。
因みに、一夏の意見は聞く気は無い。
鈍感なアイツの事だから、仮に相手が男装をしていても絶対に気が付かないだろうし。
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船子と楽しく話していたら、他の一組メンバーも次々とやって来て並び始めた。
ここで適当にしていたら後が怖いものね。
ついでだし、ここで箒とセシリアに色々と聞いてみましょうか。
「ねぇ…二人とも。ちょっといい?」
「ん? どうした鈴?」
「さっき船子から聞いたんだけど、一組に二人も転入生が来たんですって?」
「あぁ…その事ですのね」
聞かれると思っていたのか、そこまで派手なリアクションはしなかった。
冷静い考えたら海外からの転入生って時点で話題にならない方がおかしいから、この反応は当然か。
「一人はそこにいますわ。ほら、あの銀髪の…」
「…あの子ね」
他の子達とは頭一つ分ぐらい小さくて眼帯を付けている銀髪の女の子。
銀髪って部分が船子とお揃いっぽくて少し悔しい。
けど…なんつーか…。
「めっちゃ周囲に壁作ってない? なにあれ?」
「どうやら、織斑先生がドイツにいた時の元教え子らしい」
「あー…そゆことね」
その話なら私も知ってる。
詳しくは言えないけど、諸々の事情で約一年間ぐらい千冬さんはドイツに行っていた事がある。
あいつは、その時の弟子ってことか。
「ってことは、あの子ってもしかして軍人?」
「もしかしなくても軍人らしいですわ。尤も、船子さんに簡単にあしらわれてましたけど」
「でしょうね」
相手が軍人だからって気圧されるような船子じゃない。
寧ろ、逆に軍人を圧倒するかもしれない。
だって船子だし。
「もう一人はどんな感じ? 男だって聞いたんだけど…」
「ふむ…そうだなぁ…」
「そうですわねぇ…」
あれ? なんか煮え切らない感じ。
これって、船子が言ってた『自称男子』ってことと関係があるのかしら。
「実際に見た方が早いとは思うが…鈴が聞きたいのはそうじゃないんだろう?」
「分かってるじゃない。アタシ的には、あんたら二人から見た意見を聞きたいのよ」
「そうですわねぇ…」
少しだけ顎に手を添えて考える素振りをして、すぐに目を開けた。
「「男装しているようにしか見えなかった?」」
「やっぱりか…」
そもそも、普通に考えてそうポンポンと男の操縦者が現れる訳がない。
もし本当に『二人目』だったとしたら、まず間違いなく世界的なニュースになっている筈。
なのに、そんなのは微塵も無かった。
候補生として毎朝、ニュースや新聞には目を通すように心掛けてはいるけど『二人目の男性IS操縦者現る』なんて記事は一つも無かった。
であるにも拘らず、いきなり出てきた二人目。
どう考えてもこれはおかし過ぎる。
仮に身の安全の為に今まで隠していたとしても、それなら今になってIS学園に通わせる理由が無い。
そのままずっと隠れていれば、それが一番安全なんだから。
だと言うのに、実際にはまるで自ら姿を現すかのように堂々と人前に姿を見せている。
まだ本人を見た訳じゃないけど、怪しい材料が多すぎて、疑いの目しか向かない。
「コルセットなどを使って頑張って体を矯正はしているのだろうが…」
「全体的な体の丸みは隠せてはいませんでしたわね」
「歩き方を初めとした一挙手一投足に至るまで、まるで『テレビか何かで見た男の真似をしている』風にしか見えなかった」
「流石、武道をしているだけあって箒さんは目の付け所が違いますわね」
「セシリアは何か気が付いたのか?」
「えぇ。なんといいますか…あの人は『女性から見た理想の男性像』を、そのまましている感じがしましたわ」
「成る程な…そう言われれば確かに、どうもリアリティが無いように思えたな。国の違いや人種の違いなど関係なく、なんというかその…本物の男は、あんな感じじゃないような気がする」
「彼はまるで『絵本』や『漫画』に出てくる『白馬の王子様』のような印象を受けましたわ。それは裏を返せば、本人がそんな存在を求めているという事に他なりません」
「無意識の内に、己の理想の男性像を演じてしまっている…と言う事か…」
同じ候補生のセシリアと、武道の家系である箒だと見事に違う視点で意見を言ってくれた。
でも、お蔭で自分の中の予想がより確信に変わった。
後は実際にこの目で本人の姿を確かめられたら完璧なんだけど…。
「噂をすれば何とやら。来たぞ」
「どれどれ…?」
校舎の中から慌てて走ってきたのは、男性用のISスーツを着た一夏と、同じISスーツを着用している見た事の無い金髪碧眼の美男子っぽい奴。
そう…『っぽい奴』だ。
(あー…うん。これは確定だわ。あれはどこからどー見ても女だわ…)
そこらのコミケ会場にいるコスプレイヤーの方が、まだマシな男装をしていると思えるほどにお粗末な変装だった。
素人の目は辛うじて誤魔化せるかもだけど、あたし達のような候補生や、箒や船子のように武道を嗜んでいる人間の目は騙せないわよ?
つーか…あんだけ傍にいる上に、昔は剣道をやっていた一夏が気が付かないってどんだけ…。
幾らブランクが長いつっても、そりゃないでしょ…。