黙れば美人、喋ると変人、戦う姿は不沈艦! 作:とんこつラーメン
実技の授業が始まって早々、即座にカオスな空間になってしまった。
一組の俺達には日常茶飯事な事だが、流石に初体験だった二組の面々(鈴以外)は普通に動揺してしまっていた。
これが当たり前の反応なんだよな…。
「それでは、これより各グループに分かれて実際にISを動かして貰う。グループリーダーは専用気持ちが行うように」
千冬姉が手をパンパンと叩いてから全員の視線を集め、これからの指示を出してくれた。
うーん…専用気持ちがリーダーをする…か。
これって当然、俺もするん…だよな?
「ここにいる専用気持ちは…織斑にオルコット。凰にデュノア。ボーデヴィッヒに…船子の6人か。では、各々出来るだけ均等に分かれろ」
やっぱり俺もかー…。
大丈夫か…? ぶっちゃけ、俺はまだ誰かに教えられるほどに知識を蓄えてないぞ?
寧ろ、バリバリ教えて貰う側だぞ? って…うをっ!?
「織斑君! 一緒に頑張ろうね!」
「手取り足取り教えてください!」
「え? ちょ…え?」
なんか俺とシャルルの所に集中してないかっ!?
いや…意外とそうでもない?
箒とかが船子の所に行ってるし。
あと、鈴の所には二組の子達がちゃんといる。
あのボーデヴィッヒって奴とセシリアの所は悲惨な事になってるけど…。
っていうか、ちゃんと船子は教えられるのかッ!?
勉強は普通に教えて貰ってるけどさ…それはあくまで俺が幼馴染だからであって他の子達は…。
「ふ…船子! その…よろしく頼むぞ!」
「おう! この船子ちゃんにドーンと任せとけってんだ!」
「ふねふね~! よろしくね~!」
「なんだよ『ふねふね』ってよ~! あたしゃ波平の奥さんかッつーの!」
あの船子に変な渾名を付けてるのは確か…皆に『のほほんさん』って呼ばれてる子だよな…。
名前は…まだ憶えてない…普通に失礼だな俺…。
「何をやっとるか貴様ら! 凰や船子の所はまだいいが、どうして織斑とデュノアの所に集中する! ちゃんと分かれろと言ったのが聞こえなかったのかッ!?」
ほーら…案の定、千冬姉の雷が落ちた。
俺は知らねーからな。
「船子と凰の班以外の所にいる者は、今すぐに出席番号順に各グループに分かれろ! 一分以内に出来なければ、ちゃんと分かれている2グループ以外の全員にISを背負ってグラウンドを1000周させるぞ!」
それは流石にやり過ぎなのではッ!?
いや…マジでする訳は無いか。
けど実際、それぐらい言わないと動きそうにないしな…。
「「「「は…はい! すみませんでした!!」」」」
実に見事な鶴の一声。
慌てた皆はあっという間にバラバラになった後に各班に分かれていった。
どうして最初からこれが出来ないんだろうか…。
なんて言うと、まるで先生目線になったみたいだな…。
今ちょっとだけ千冬姉の気苦労が分かったような気がする。
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他の皆が慌てふためきながら移動をしているのを見て、私は密かに心の中でほくそ笑んでいた。
(フッ…こうなることは最初から予想がついていた。仮にこうならずとも私は最初から船子の所に行くつもり満々だったがな!)
これぞ勝者の余裕。
今日ほど、自分が専用気持ちでなくてよかったと思った事は無い。
船子から手取り足取り腰取り…ふふふ…♡
「金野さんの班かぁー…」
「言動はあれだけど、でも…」
「頭はめっちゃいいし、運動神経もあるし…」
「スタイルも良くて美人で……あれ?」
「「「「金野さんも普通に大当たり枠なのでは?」」」」
ちっ…千冬さんに叱られてコッチに来た連中が船子の魅力に気が付いてしまったか…!
だが、今更気が付いても、もう遅い!
幼馴染である私の方が圧倒的に有利なのだからな!
「いいですか皆さーん! 今から各班ごとに訓練機を一体ずつ取りに来てくださーい! 数は『打鉄』と『リヴァイヴ』がそれぞれ三機ずつでーす! 班の人達を話し合って好きな方を決めてくださいねー! でも、早い者勝ちですからねー!」
山田先生が全員に聞こえるように大声で説明をしてくれた。
ふむ…リヴァイヴと打鉄か…。
個人的には打鉄の方が好みなのだが…。
「ふねふね~。どっちにするの~?」
「そーだなー…」
そう言えば…さっきからコイツ…船子と近くないか?
確か『布仏』…だったか?
私とは正反対の、所謂『陽キャ』という奴か…。
「こーゆーのは普通に話し合ってもラチがあかねぇ! だから…コイントスで決めることにする!」
「「「「まさかのコイントス!? でも、分かり易くていいかも!?」」」」
成る程な…確かに、運任せにすれば誰も文句は言わないか。
いいだろう…私も船子の意見に賛成だ! って…ん? あれは…まさか…?
「この『ピカチュウ』の絵がある方が表な。表になったらリヴァイヴで、裏は打鉄って事で」
「あ…あのー…金野さん?」
「ん? 急にどした?」
「そのコインってもしかして…」
「ポケモンカードのやつじゃ…?」
「そうだぞ? 因みに、アタシのは炎ポケモンデッキだ。主力はギャロップ」
やっぱりポケモンカードの奴だったー!
因みに私は鋼ポケモンのデッキを使ってる。
理由は、なんとなく。
「そんじゃいくぞー…それ!」
船子の親指に弾かれ、ピカチュウコインが宙を舞う。
そして、静かに地面に落ち…。
「ん~?」
「あれ?」
「「「「え?」」」」
こ…これは…どういう事だ…!?
「「「「落ちたコインが普通に立ってるー!?」」」」
「ははは~! なんか凄いね~!」
凄いの一言で済ませていいのかッ!?
こんなのは普通に考えて有り得な…いや、世の中に『絶対』なんてのが無い以上、非常に小さな確率ではあるが有り得はするのか…?
「これ、どーするのー?」
「流石に船子ちゃんも、この事態は想定してなかったぜ…どうするべきか…あ」
隣の鈴たちの班が打鉄を地面に置いた衝撃でコインが倒れて、ピカチュウが空を向いた。
「…リヴァイヴ決定~! てなわけで、今すぐに取りに行ってくるぜ~!」
「「「「い…いってらしゃーい…」」」」
なんだろう…。
物凄いのを見た気がする…。
・・・・・
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・・・
・・
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手押しが可能な台座(名前は知らない)に乗せられたリヴァイヴを持って来て、そのまま慣れた手つきで地面に設置した船子。
…こんな所は昔から変わってないんだな。
「うっし! 準備完了! 順番はー…出席番号でいいか! その方が面倒くなくていいしな!」
「わ…私はそれでいいと思うぞ」
「私も~」」
「そうだね。その方が単純で良いかも」
「私も賛成」
「このメンバーで一番早いのはー…」
誰が一番番号が早いのか確かめていると、再び山田先生の声が、今度は拡声器越しに聞こえてきた。
『各班の班長は、班員の人達の訓練機の装着を手伝ってあげてください。全員にやって貰う予定なので、予め設定でフィッティングとパーソナライズは切ってあります。取り敢えず、午前中は動かす所までお願いしますねー』
装着を手伝う…だと…!?
それはつまり…船子から直に…!?
(山田先生ナイスフォローだ! まさか、私の願望を合法化してくれるとは!)
授業中の出来事ならば誰も文句は言わないよな…?
ISスーツは露出が多いから、私の肌に船子の手が触れたり、私の手が船子の白い素肌に触れてしまったりとかしても、何の問題も無いわけだ。
(姉さん…ISスーツをこんなデザインにしてくれて、ありがとうございます…!)
もし今度、どこかで会う事があったら大人しくしておいてやるか…。
それぐらいはしてやらんとな。
「一番最初は私だね。よろしく、金野さん」
「おう! 乗り方は分かるか? 相川」
「試験の時に乗ったからね。って、金野さん…私の名前を憶えて…?」
「あったり前田さんの隣の家はケーキ屋さんだっつーの! 同じクラスの仲間の名前なんて、最初の日に全部覚えてSDカードに保存してるぜ!」
「そう…なんだ…」
あ…これはヤバい。
船子が時折見せる優しさに触れて惚れさせるパターンと見た。
鈴が言っていたが、中学時代にこれで男女問わず数多くの生徒達を虜にしていたとかなんとか。
実際、船子のような美人に名前を憶えられていたら…誰だって意識はするよな…。
「ほれ。手ぇ貸してやっから、ゆっくり乗ってみな」
「う…うん…ありがとう…」
結局、相川はずっと顔を赤くしながら装着、起動、歩行をやっていった。
そして、その光景を布仏以外の三人が呆けたように眺めていた。
「ねぇ…金野さんってさ…」
「うん…顔は間違いなく超美人だから…」
「あんな風にしてるのを見せられたら…」
「「「そりゃ誰だって惚れてまうやろー!」」」
あぁ…船子と物理的に急接近した事で、船子の魅力の虜になった女子が増えてしまった…。
共感してくれるのは純粋に嬉しいが、これはこれで複雑だな…。
「よっし。そこでストップだ。降りていいぞー。ほれ…手」
「う…うん…分かった…」
乗る時も降りる時も船子に手を取って貰って…羨ましい…!
だ…だが、私だって同じように…!
「あ。ヤバ…しゃがむの忘れてた…」
「なぁ~にぃ~? やっちまったなぁ~!」
相川がリヴァイヴを立たせたまま降りてしまった。
確か、専用機とは違って訓練機は降りる時には次に利用する者の事も考慮をして、必ずしゃがむように心掛けないといけない…んだったはず…。
それはそれとして、船子の台詞のネタ…どこかで聞いた気がするのは私だけか?
「うぅ~…ホントーにごめん! 次って確か、篠ノ之さんだったよね?」
「あ…あぁ…そうだが…」
この状態では流石に乗れないな…どうするか…。
「しゃーねーなー。ここはいっちょ、この船子ちゃんが一肌脱いでやるか。てなわけで箒」
「なんだ船子?」
いきなり船子からの手招き。
船子からの誘いならばどこへでも行くが…。
「女は黙ってぇ~…」
「何を…きゃぁっ!?」
ふ…船子が私を横抱きしただとぉ~っ!?
「お姫様抱っこだ!」
「「「「キャ~♡」」」」
「おぉ~!」
あ…わわわわわ…!
船子にお姫様抱っこ…お姫様抱っこされた…。
顔が熱い…これは夢なのか…?
夢ならば永遠に覚めないでくれ…。
「このまま~…ほっ! はっ! そいや!」
「わっ!? えっ!? はっ!?」
私を抱きかかえたままジャンプをして、そのままリヴァイヴのコクピットまで運んでくれた!?
「ほらよ。ご到着だぜ…お姫様」
「ひゃ…ひゃい……」
船子ぉ…それは流石に卑怯だぞぉ…。
お前は…どれだけ私を惚れさせれば気が済むんだぁ…。