黙れば美人、喋ると変人、戦う姿は不沈艦!   作:とんこつラーメン

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剣を継ぐ者

 学園長室へと呼び出された船子は、目の前で雄々しく腕組みをして机に座っている江田島と向き合っていた。

 その傍には、彼の秘書兼ボディーガードである富樫も一緒だ。

 

「驚いたぜ。まさか、富樫の兄ちゃんもIS学園にいたなんてな。しかも、学園長の秘書とボディーガードを兼任して。つーか、この人にボディーガードとかいるのか? 今でも圧倒的に学園長の方が強ぇだろ?」

「全く以てその通りよ! そのお蔭で今の俺は秘書の仕事ばかりをやらせてもらってるんだよ! ま、悪くはねぇけどな」

「どんな時も全力投球…それでこそアタシの知ってる富樫源次だぜ」

 

 学園長に続き、またもや懐かしい顔に出会い、船子の顔に珍しく歳相応の笑みが浮かぶ。

 

「で? どうしてアタシを呼んだんだ? なんか用事でもあったのか?」

「うむ。実はな、船子に渡す物があったが故に呼んだのだ」

「アタシに渡す物だぁ?」

 

 想像がつくような、つかないような。

 彼らから渡される物ならば、何でも喜んで受け取るつもりではあるが、それでも船子の中にある好奇心は抑えきれない。

 

「そんな顔をせずとも、すぐにくれてやるわい。富樫」

「はっ」

 

 江田島に言われて富樫が奥の部屋に行ったかと思ったら、すぐにその手に細長い木の箱を持って戻ってきた。

 

「…そいつは?」

「開けてみれば分かる。ほれ、受け取れ船子」

「お…おう…」

 

 あの富樫が慎重に運んできた謎の箱。

 高級そうな紐によって閉じられ、それだけでこれが重要なものであると理解出来る。

 

「そ…それじゃあ…船子いきます」

 

 思わずアムロのモノマネをした船子は、震える手で紐を解いてから蓋の箱を開けた。

 

「な…なぁっ!? こ…こいつは…まさかっ!?」

 

 普段は捉え所のない陽気で破天荒な船子が、驚きの余り素の表情を見せる。

 それ程の代物が中に収められていた。

 

「う…嘘だろ…? どうして…コイツがここに…!?」

 

 その綺麗な顔に冷や汗を掻きながら、船子は箱の中にあった物を取り出す。

 それは、鞘に収められている一本の日本刀だった。

 

「やっぱり…間違いねぇ…! こいつは…あの男塾二号生筆頭『赤石剛次』先輩の愛刀『一文字兼正』!! どうしてコレがここにあるんだっ!?」

 

 流石の船子も混乱してしまう。

 自身にとっては、後に篠ノ之姉妹の父親から剣の指導を受けるより前に出会った、剣士としての心得などを徹底的に叩き込んでくれた、真の意味での『剣の師匠』とも言うべき大切で偉大な存在。

 そんな彼が愛用し、常に肌身離さず持っていた名刀が目の前にあり、自分の手に握られている。

 

「それは、赤石からの少し遅れた入学祝よ」

「入学祝…?」

「お前が無事にIS学園に入学した事を、男塾の者達はまるで自分の事のように喜んだ。それは赤石とて例外では無かったと言う事である」

「あの人は昔から、なんだかんだ言って船子の事を可愛がってたからのぉ…」

 

 血気盛んな二号生も、船子に掛かれば良い遊び相手となってしまう。

 後輩である一号生だけでなく、こんな小さな子供にまで舐められては二号生のメンツが丸潰れになると、すぐに赤石は動き始めるが、すぐに彼は理解する。

 この少女は普通ではないと。

 本来ならば女人禁制である筈の男塾に、塾長である江田島平八が直に連れて来た理由。

 船子と対峙しただけで、其の全てを悟り、赤石は船子に剣を教えるようになっていった。

 そして彼は、船子には剣士として類稀な才能があることを見抜いた。

 

「敢えて、奴はお前に祝いの言葉などを送らなかった。その理由は…分かるな?」

「あぁ…分かるぜ…! この剣を握った瞬間から…赤石先輩の気持ちが! 思いが! 言葉じゃなくて心で理解出来た!!」

 

 不意に二人の顔を見つめる船子。

 それに対し、江田島と富樫は無言で頷いた。

 

「…………」

 

 少し後ろに下がってから、船子は左手に鞘を握ったまま腰に手を当て、右手で強く柄を握りしめた。

 そしてそのまま…音も無く一瞬で剣を鞘から引き抜いた。

 

「うむ。いつ見ても見事な抜刀よ」

「修業は怠って無かったようだな。船子」

「当然じゃねぇか。船子ちゃんは白鳥だからな」

 

 白鳥は、傍目には優雅に水の上を泳いているように見えるが、水の中では力強く両足を動かしている。

 それと同じように、船子は決して自分の『本気の努力』を誰にも見せようとはしない。

 羞恥心や人見知りだからなどではなく、それこそが最もカッコよく、ハジけていると心から信じているから。

 

「赤石先輩…アンタの剣…ちゃんと受け継がせて貰うぜ…」

 

 刃に反射する自分の顔を見つめながら、船子は力強い笑みを浮かべるのであった。

 

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 夕ご飯の時間帯になり、私は鈴やセシリアと一緒に食堂へと向かって寮の廊下を歩いていた。

 

「船子ってば、まだ戻って来ないの?」

「みたいだな。山田先生から学園長室に行くようにと言われていたが…」

「一体、何の御用があるのでしょうか…?」

「「「うーん…」」」

 

 船子と江田島学園長は旧知の仲。

 用事なんて、それこそ山のように思い付く。

 だからこそ分からない。

 

「ここで考えてても仕方がないわ。船子が戻って来た時にでも聞いてみましょうよ」

「それが一番手っ取り早いか」

「そうですわね。では、私達は食堂に…あら?」

 

 セシリアが何かに気が付いたのか前を向くと、そこには紫の高級そうな布に包まれた細長い何かを手に持つ船子がこちらに向かって歩いて来ていた。

 

「お? お前ら、一緒に今から夕飯タイムか?」

「そうだが…船子は今帰って来たのか?」

「まぁな。ちょっち遅れた入学祝を貰って来たところだ」

「「「入学祝?」」」

 

 その手に握られているのが、船子の言う『入学祝』なんだろうか?

 この布、この形状から察するに、これの中身はもしや…?

 

「一体何を貰ったのよ? あたし達にも見せなさいよー」

「んー…ここには船子ちゃん達以外には誰もいねぇし…別にいいか。ISが沢山ある場所で今更、銃刀法も何もねぇよな」

「「「え?」」」

 

 その言葉の時点で私の予想が確信に変わったんだが。

 だが…確かにそうだな。

 下手な銃火器よりも遥かに危険なISがある以上、実に今更な気がするな。

 セシリアも、自分の部屋に個人所有のライフルを持って来ているらしいし。

 

「アタシが入学祝で貰ったのは…コイツだ」

「そ…それは…」

「もしかして…」

「剣…ですの…?」

 

 やっぱりそうか…。

 船子が布を取って中身を見せると、そこには見事な鞘に納められた一本の日本刀があった。

 刀身を見なくても、柄や鍔を見ただけで分かる…。

 この刀…相当な業物だ…!

 

「男塾二号生筆頭にして、箒の父ちゃんに出会う前にアタシに剣士として大切な事を沢山教えてくれた、もう一人の師匠とも言うべき存在…赤石剛次先輩が使っていた愛刀。その名も『一文字兼正』だ」

「い…一文字兼正っ!?」

 

 船子に父さん以外の剣の師匠がいたことも驚きだが、それ以上に驚かされたのはこの剣の名前だ。

 一文字兼正…まさか、その名を聞く日が来るとは…。

 

「ほ…箒? この剣の事…知ってるの?」

「あぁ…。江戸時代において『剣聖』の称号を持つ事を許された数少ない剣士にして、一文字流剣術の師範代でもあった『神泉正宗』の所有していたとされる伝説級の剣だ…!」

「「で…伝説ッ!?」」

「そうだ。あの徳川家康に命じられ、彼の目の前で石灯籠を一刀両断してみせ、江戸中を驚かせ、後に『灯篭斬り』と呼ばれた。それこそが、この『一文字兼正』を使い放たれた『一文字流斬岩剣』。それから三百年以上経過した現代でも猶、剣道界では幻の(わざ)と呼ばれ、これを極めた者は一人もいないとされているんだ」

 

 しかし、船子の言う赤石と言う人物が、この剣の前の所有者だったと言う。

 ということは、その人物は極めたと言うのか…あの幻の業を…!?

 

「ほ…箒…良く知ってるわね…」

「ウチの父さんの書斎にあった民名書房刊『江戸時代最強の剣士たち』に記載されていた」

「また出ましたわね…民名書房刊…」

 

 最初こそは気にしなかったが、後で調べたら想像以上に多くの書籍を出しているようだ。

 多分、IS学園の図書室にも普通にあると思う。

 

「鈴も、嘗て日本に住んでいた事があるのなら『魂剣石をも斬る』と言う諺を知っているだろう?」

「え…えぇ…普通に学校で習ったし…」

「どういう意味なんですの?」

「『不可能を可能にする』って意味だぜ。セシリア」

 

 私達が説明する前に船子が言ってくれた。

 やっぱり船子は物知りだな。

 

「その諺の由来が、今言った神泉正宗の話なんだ。普通なら剣で石を切るなんて不可能。だが、天才剣士の手に掛かれば、そんな不可能すらも易々と可能になる。努力さえ怠らなければ、この世に真に不可能な事など決して有りはしないと言う意味だな」

「「おぉ~…」」

 

 なんか普通に感心された。

 これはこれで、ちょっと気恥ずかしいな…。

 

「折角なら、ちょっとだけ刀身…見てみるか?」

「い…いいのか?」

「おう。全部抜かずに、少しだけなら問題ねぇだろ」

 

 あの幻の剣をこの目で見れる…!?

 剣を志す者として、こんなに光栄なことがあるだろうか…いやない。

 

「ほれ」

「「「………!?」」」

 

 それを見た瞬間、心を奪われた。

 まるで刃から光が漏れているかのような美しさ。

 こんなにも美麗な剣が、この世に存在しているのか…?

 

「前に…日本刀はその切れ味だけでなく、その美しさも非常に素晴らしいと聞いたことがありますけど…まさにその通りですわね…。シンプルな中に秘められた圧倒的な煌めき…。この剣の美しさの前では、金銀財宝ですらも霞んで見えてしまいますわね…」

「なんか…余りの綺麗さに思わず溜息が出ちゃった…。究極の機能美って、こういう事を言うのね…。斬ることに極限特化している『武器』なのに…思わず魅入っちゃうわ…」

 

 私に至っては、もう言葉すら出てこない。

 今まで私も、父さんが所有していた日本刀を見せて貰った事があるが…この剣はそのどれよりも美しく…魔性の魅力を秘めている…。

 これ程の剣を託され、持つ事を許された船子は…剣士として私や千冬さんよりも遥か高みに至っているのやもしれんな…。

 

「ありがとう船子…大満足だ…。これは間違いなく一生の思い出になった…」

「そっか? 箒にそう言って貰えて、この一文字兼正も嬉しいだろうぜ」

「その台詞だけで、こっちの方が有り難い気持ちになる…」

 

 あぁ…やっぱり船子は凄いなぁ…。

 増々、好きになってしまった…。

 

「おお? 急になんだぁ?」

 

 私が感動の気持ちに浸っていると、いきなり船子のスマホに通知が来た。

 どうやらLINEが来たようだ。

 でも誰から?

 

「これはー…一夏からか? なになに? 『助けてヘルプ』…なんじゃこりゃ?」

 

 この一文からじゃ、何を言いたいのかサッパリ伝わらん…。

 何がどう困って『助けて』なのか、ちゃんと具体的に伝えんか!

 

「しゃーねぇ。夕飯前にちょこっと行ってくるか」

「ふ…船子。私も一緒に行こう。で、その後に一緒に夕飯を食べに行こう」

 

 どうだ。この私に見事なファインプレーは!

 

「箒さん」

「ナイス」

 

 セシリアと鈴からサムズアップを貰った。

 矢張り、私の判断は正しかったようだ。

 

「あたしも一緒に行くわ。何がヘルプなのか気になるし」

「では、このセシリア・オルコットも同行いたしますわ」

「んじゃ、皆で行くか」

 

 こうして、私達は四人で一夏の部屋へと向かうのだった。

 ま、それはあくまでついでで、本命は船子と一緒に食事をする事なんだがな。

 

 

 

 

 

 

 

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