黙れば美人、喋ると変人、戦う姿は不沈艦! 作:とんこつラーメン
「金野さん。一夏。今日も放課後に練習するんだよね?」
「おう! 船子ちゃんは努力系美少女だからな!」
「俺も一応な。確か、今日空いてるアリーナって…」
「第3アリーナだったはずだ」
朝から、船子達のまさかの活躍をニュースで見た日の放課後。
俺と船子、シャルルと箒の四人は一緒にアリーナへと向かおうとしていた。
「そういや、鈴とセシリアの姿が見えないけど…アイツ等は?」
「あの二人ならば、先にアリーナに行くと言っていた」
「流石は代表候補生…常に自己鍛錬は怠らないって事だね」
最近は船子に振り回されて暴走気味だったけど、やっぱり根っこの部分は努力家なんだな。
俺も離されないように頑張らねぇと。
「ところで、金野さんの専用機を見てて気になってたことがあるんだけど…」
「ん~? アタシのドミネーターがどーかしたのか?」
「あの変幻自在な動き…と言うか変身は『
「まぁな。それがどーかしたのか?」
「いやね…ドミネーターに通常のISと同じような拡張領域ってあるのかなーって思って」
そういや、ドミネーター自体が武器を握った事って一度も無かったっけ。
余りにも自由過ぎて、全く気にしてなかったぜ…。
「あるにはあるぞ? ただし、収納してんのは武器とかじゃねーけどな」
「そうなの? だったら一体何を…?」
「データだよ。変身する機体のデータ。それを拡張領域に入れてる」
「そうだったのっ!? てっきり、金野さんのイメージで生み出されているものとばかり…」
「手先や足先みたいな細かい変形だったら、それでも問題無いんだけどよ、全身の変形ともなるとそうはいかねーンだわ」
マジか…。
そういや、始めて聞いたかもな…ドミネーターの話。
今までずっとノリと勢いで誤魔化されてきてたし。
「予め、拡張領域内に色んな機体の詳細なデータをダウンロードしておいて、変身する時にそれらをローディングする形で機体形状を変化させてんだよ。だから、ほぼ完璧に変身後の機体と性能を模すことが出来る。アタシの脳内再生だけじゃ、流石に詳細な部分まで保管は出来ねぇからな」
それもそうか…。
頭の中の想像だけじゃ、細かい所の再現は難しいもんな…。
別のイメージに引っ張られて変な形とかになりかねないし。
うん。今のは普通に納得した。
「まだまだ拡張領域内には余裕があるし、今でも新しい機体のデータを入れてるんだぜ。赤い機体前提だけどな」
「どうして赤なの?」
「ドミネーター自体が赤いからだよ。基本色まで変化させようとすると、普通の変身以上にSEを消費しちまうからな。機体性能自体をアップデート出来れば、そこら辺の問題もどうにかなるんだろうけどな。流石にアタシじゃムズいしなー。こーゆーのは束のねーちゃんじゃねーと」
そっか…すっかり忘れてたけど、ドミネーターって船子と束さんの共同制作したISだったっけ。
「え? ドミネーターって篠ノ之博士が作った機体なの?」
「正確には、アタシとねーちゃんが一緒に作った機体だ」
「そうだったんだ…。道理で、普通のISの常識が通用しない筈だよ…」
それで納得しちまうのかよ…。
本人の事を良く知らない人間からしたら、束さんのイメージって『天才科学者』でしかないもんな…。
「…船子は今でも姉さんと連絡を取り合っているのか?」
「おう。ちゃんとしてるぞ。主に狼煙で」
「「なんで狼煙?」」
あの束さんが、そんな原始的な連絡方法を使うのか…?
いや、あの人ならやりかねないな。
千冬姉もやってたし。
「この間なんて、部屋を散らかし過ぎたのが原因でゴキブリが出て、それに驚いた拍子に机の角に足の小指をぶつけて、悶絶して床を転げまわったって言ってたぜ?」
「「何をやってるんだ、あの人は…」」
束さん…千冬姉じゃないんだから、自分の部屋ぐらいは片付けようぜ…。
ウチの姉とは違って、やれば出来る人なんだからさ…。
「なんか…話を聞いてるとイメージ変わるね…篠ノ之博士の…」
「「だろうな」」
世間一般の束さんがどんなイメージとして描かれてるかは知らないけど、俺達の中の束さんは一貫して『凄いけど変な人』だからな。
あの船子の怒涛のボケに着いて来れる時点で察すべし。
つーか、途中でドミネーターの話から束さんの話に変わってるな。
世間話なんて、こんなもんか。
「ねぇねぇ! 第三アリーナで何か変な事があってるって!」
「確か、ドイツの子とイギリスの子と中国の子が何かしてるんでしょ?」
え? それって…もしかしなくてもセシリアと鈴だよな?
近くを通り過ぎた他の女子生徒が噂してたけど。
「イギリスと中国の子と言うのは、恐らくはセシリアと鈴の事を指しているのだろうが…ドイツと言うのは…」
「ボーデヴィッヒさんかも知れないね」
「アイツか…」
アイツとセシリア達が何かしてるって…まさか…!
(模擬戦と称して卑怯な手を使って二人に暴力を振るってるんじゃ…!)
初日の授業から反抗的な態度が出てたもんな…!
その後はなんか天然な部分も垣間見えたけど、だからと言って油断は出来ない!
「三人共! 第三アリーナに行ってみようぜ! なんか嫌な予感がする…!」
「一夏がそう言うなら」
「仕方あるまい」
「だな。行ってみっぺ」
どうして船子だけ妙に訛っていたのかは謎だけど、とにかく急ごう!
何かあってからじゃ遅いからな!
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「キエェェェェェェェェェェッ! まだ斬れませんわぁぁぁっ!!」
「チェストォォォォォォォォッ! ほんのちょびっと刺さっただけ…」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ! うぐ…さっきより浅い…」
…何やってんだ三人して。
アリーナのど真ん中で、ISも纏わずにISスーツ姿のままで錆びた刀で丸太を斬ろうとしてる…。
あれって…あれだよな?
前に船子と箒と千冬姉が教室でやってたやつ。
まだ懲りずに続けてたのか…。
「あ! 船子~!」
「船子さんっ!? ど…どこですのッ!?」
「何ッ!? 金野船子だとッ!?」
あいつら…船子にだけ反応しやがった。
俺達の事は無視ですか。そーですか。
「おまえらー! んな所でなーにやってんだーっ!?」
「あたし達も錆びた刀での丸太斬りチャレンジをやってたのよー!」
「思うように斬れませんわー! やっぱり剣の扱いは難しいですわね…」
「私はこの二人よりかは斬れているぞ!」
「「なんですってっ!?」」
…意外と仲良いのかもな…あいつら。
結果するほど仲がいいとも言うし。
「取り敢えず、ステージまで行ってみようぜ」
「それがよさそうだな」
「一夏の心配は杞憂だったみたいだしね」
「みたいだな…」
今回は俺が単に心配性すぎただけだったのか…。
疑ってばかりじゃなくて、少しは信じる事もしないとな…。
「船子さん! 是非ともお手本をお願いしますわ!」
「お手本~? しゃーねーなー」
なんて言いつつも嬉しそうな船子。
なんだかんだ言いつつも、誰かの世話をするのが好きなんだよな。
「ほれ。その刀貸してみ」
「はい」
鈴から錆びた刀を受け取ると、船子はそれを片手で握りしめて、腕をだらりとした。
「構えてない…?」
「いや…違うな。アレはもう既に構えている」
「「「え?」」」
ここで剣の心得がある箒が解説役に。
俺には不可能だな。
「百聞は一見に如かずだ。見ていれば分かる」
船子は、さっきから黙って丸太だけを見つめている。
その場からピクリとも動こうとせずに黙っていて、何とも言えない緊張感が場を包み込む。
「!!!」
瞬間、船子の目がカッ! と見開かれたと思ったら、上半身のバネだけを使って剣を振るった。
それはまさしく一閃とも呼ぶべき太刀筋。
一切の迷いもブレも無い鋭い一撃。
剣道から離れていた俺でも分かる。
これは間違いなく、達人級の剣筋だ。
「す…凄い…けど…」
「斬れて…ない…?」
確かに、セシリアや鈴の言う通り、目の前の丸太には切断された形跡はない。
失敗か?
誰もがそう思った時、箒だけは不敵な笑みを浮かべていた。
「斬れていない? 違うな。そうじゃない」
「ほ…箒?」
「この丸太は確かに今、船子の手によって一刀両断された。ただ、この丸太が気が付いていないだけだ。自分が斬られたことをな」
「「「はぁ?」」」
斬られたことに気が付いていないって…なんだ?
「船子…いいか?」
「おう」
徐に箒が丸太に近づいてから、それを人差し指でちょこんと突く。
すると…。
「「「なっ!?」」」
なんと、音も無く丸太が斜めに切断され、上半分が地面に落ちた。
「ど…どういうことですの…?」
「簡単な話だ。船子の凄まじ過ぎる太刀筋のせいで、切断面がピッタリとくっついていた。それだけだ。だから、こうして別の力が加わると…」
「途端に真っ二つになるってことなのね…」
す…凄い…これが船子の本気の一端かよ…。
最初は冗談かと思ってたけど、マジで篠ノ之流を会得してたんだな…。
「これが…教官すらも認める金野船子の実力か…!」
おーお…純粋無垢なドイツっ子も、これには驚きを隠せない様子。
俺みたいに剣の知識が浅い人間でも凄いって思うんだから、現役の軍人からしたら信じられないような光景なんだろうな。
「金野船子…これ程の実力を持ちながら、どうして代表候補生ではないんだ…」
「チッチッチ! イエス! アイアム!」
どうして、ここでアヴドゥル?
「これから候補生になって行く予定なんだよ! 船子ちゃんの目標は千冬の姉御の後継…即ち、次のブリュンヒルデだからな!」
「次のブリュンヒルデ…だと…!?」
本当にでっかい目標だよなー。
でも、船子ならマジでやれそうな気がする。
というか、それぐらいの奴じゃないと、俺も張り合いが無いからな。
船子の隣に立っても恥ずかしくない男になるには、俺も同じぐらいの目標を立てないとダメって事だな。
「金野船子…お前は教官を尊敬するだけでなく、あの人を超えていこうとしているのか…?」
「そりゃそうだろ。尊敬の仕方は個々人の自由だけどよ、アタシ的には千冬の姉御を超えて行くことこそが、あの人にとっての最大の恩返しなんじゃないかって考えてる」
「超える事が…恩返し…」
千冬姉を超える…か。
全く想像も出来ないし、出来るかどうかも分からねぇけど…でも…凄く船子らしいと思った。
武人肌な千冬姉の事だから、きっと今の発言を聞いていたら喜びそうだな。
「織斑教官を超える…か。本当に出来るのだろうか…」
「出来る、出来ないじゃなくて…やるんだよ。師匠を超える事こそが、弟子に出来る唯一の恩返しだろうが」
「金野船子…」
…深い言葉だな。
伊達に、あの江田島学園長の下で育って来てないってことか。
(師匠越えこそが弟子に出来る恩返し…か)
俺は今までずっと、千冬姉を守りたいと思ってきた。
けど、あの強い千冬姉を守るって事は即ち、千冬姉を超えなくちゃいけないってことなんだよな。
って事はつまり、俺にとっても、千冬姉を超える事こそが恩返しになるってことなのか…?
(なんだよ…俺が自覚してなかっただけで、とっくの昔に目標は出来てたんじゃねぇか…)
今はまだ未熟だけど、いつの日か必ず船子だけじゃなくて、千冬姉すらも越えるIS操縦者になってみせる!
凄く遠い目標だけど…それでもやってみせるさ。
目の前で惚れた女が世界一になるって宣言したんだ。
俺だって、それぐらいはやってみせなきゃな。