黙れば美人、喋ると変人、戦う姿は不沈艦! 作:とんこつラーメン
彼女は船子の事をどんな風に思っているのでしょうか?
私と船子が最初に出会ったのは、あいつが小学生の頃だった。
一夏のクラスメイトということもあってか、私も特に抵抗なく家に招き入れたりしていた。
あの頃はまだ大人しく物静かな少女だったのだが…一体何がどうして今のようになってしまったのか…。
束の奴と妙に気が合っていたようだし、もしかしたら幼少期の時点で既に片鱗はあったのかもしれない。
そんな船子がまさかIS学園にやって来るなんて全く想像もしていなかった。
今にして思えば、船子は昔から謎が多い奴だった。
どこに住んで、どんな風な生活をしているのか。
家族構成は? 血液型は? 本当に分からないことだらけだ。
判明している事と言えば、誕生日と今の身長、スリーサイズぐらいか。
後は、何故か雑学クイズに恐ろしく強い事か。
む? どうして私が船子のスリーサイズを知っているのかだと?
それを聞くと言う事は…覚悟が出来ているのだな…?
…話が逸れたな。
あんな性格をしてはいるが、船子の実力だけは本物だ。
頭がいい事は勿論、運動神経だって私や束に引けは取らない。
場合によっては私達以上になるかもしれん。
だからこそ、IS学園に入った理由は分からないが、余裕で合格できるだけの才能は秘めているのだ。
さっきのSHRや一時間目は久し振りに驚かされたが、同時に全く変わっていない船子に少しだけ安心をしたのも事実だ。
二時間目の授業をする為に教室に入った瞬間、船子と箒が至近距離で見つめ合っていたのを見た時は、何故か知らんが一瞬だけ頭が真っ白になった。
あの時に言った言葉は、自分にも言い聞かせていたのかもしれない。
そして今はその二時間目の授業があっているのだが、前の時間は爆睡していた船子はと言うと……。
「ここは…こうして……こうだ!」
…頭にハンバーガーの帽子を被り、顔にはサングラスな髭眼鏡を掛け、真剣な顔でジェンガにをやっていた。
もう『どこから持ってきた』なんて言うツッコミは意味が無い。
それに関しては本当に気にしたら負けだと学んだ。
「…何をやっている?」
「見りゃ分かんだろ? このジェンガの上に乗っているナイトガンダムを救出しようとしてんだよ」
…なんでナイトガンダム?
いや、それ以前に救出? 普通に手で持って降ろせばいいだけなんじゃないのか?
周りの生徒達は真剣な顔で山田先生の話を聞きながら懸命にノートを書いているというのに、船子だけは完全に自分のペースで時間を過ごしていた。
因みに、一夏はずっと教科書を見ながら頭を抱えて『うーんうーん』と唸っていた。
流石に見るに見かねたのか、山田先生が一夏に分からない所が無いかと尋ねると、あろうことか『殆ど全部分かりません』と抜かした。
確かに、私は『ある事情』により一夏が出来るだけISに関わらないようにしてきたのを知っている。
だが、アイツはこうしてISを動かし、思いっ切り関わってしまった。
流石に少ない時間でISの事を全て学べとは言えないので、せめて渡された教科書や参考書などを見るぐらいの事はしておけと言っておいたのだが…。
「あ…あのー…今の時点で織斑君以外に分からない所があるって人はいますかー…?」
試しに山田先生が全員に向かって尋ねてみるが、当然のように誰も手を上げない。
箒ぐらいは手を上げると思っていたが、アイツもちゃんと勉強をしていたんだな。
感心感心。
「え…マジ? 嘘だろ?」
嘘じゃない。本当の事だ。
「えっとー…金野さんはどこか分からない所とかありますか?」
「んあ?」
いきなり話を振られて顔を上げる船子。
反応するのは良いが、いい加減にその髭眼鏡を取れ。
「いや…分からねーも何も、教科書と参考書はもう全部読んで勉強し終えちまってるからなぁ~」
「えぇっ!? そ…そうなんですかっ!?」
「おう! 因みに、中身もぜーんぶ覚えちまってるぜい!!」
ほぅ…? 言ったな?
「ならば私が試してやろう」
「おぉっ!? 千冬の姉御とアタシとのクイズ対決ってかっ!? いいぜ、受けて立ってやるぜ!! 難易度は『ゴッド・オブ・ウォー』で!!!」
「なんだそれは…」
難易度とか知らん。そんなのは私が決める。
「では、教科書147ページには何が記載されている?」
「『
言っている意味は相変わらず分からんが、流石に簡単過ぎたか。
他の生徒達は驚きの顔をしているが。
「参考書の241ページと398ページには?」
「241ページにはリヴァイヴや打鉄の各種パッケージの種類と詳しい整備方法。398ページには高機動戦闘時における高感度ハイパーセンサーの使い方について…だべ?」
「…正解だ」
二年や三年で習う場所も既に勉強済みというわけか…。
苛立ちを覚えるレベルで秀才だな…。
「す…すげー…変な格好はしてるけど」
一夏…変な格好に関しては同意するが、驚いている場合か?
「おい織斑」
「は…はいっ!?」
「お前…入学前に渡した参考書は読んだのか?」
「あー…あれかー…」
「読んだのか?」
「それが…その……」
どうしてそこで言い淀む? まさか…。
「まさか、電話帳と間違えて捨てちまったとかか? ったく…ちゃんと捨てる時はゴミ捨て場じゃなくて廃品回収に出さなくちゃダメだろーがよ! じゃねぇと『オーヤばーさん』に殺されちまうぞ?」
「流石に捨ててはねぇよッ!? つーか『オーヤばーさん』って誰だよッ!?」
「知らねーのか? おまえんちの近所に住んでるばーさんで、ごみの分別をしない奴は大統領だろうが総理大臣だろうが例外なく『外道』呼びする
「口癖が怖すぎるんだがッ!?」
そんな婆さんが近所にいたのかッ!? 私ですら初耳だぞっ!?
…今度からはちゃんとゴミの分別をきちんとしよう…。
「あー…こほん。で、参考書はどうしたんだ? 読んだのか?」
「…好奇心で最初の数ページは読んだんだけど…」
「それで?」
「…その時点で意味不明な単語が羅列してあって、すぐに閉じてから入学寸前まで押入れの中に封印してました」
「はぁ……」
全くコイツは……。
捨てていないだけまだマシだが、それでも封印とかするか普通…?
「押入れに封印って、それってお前の秘蔵のエロ本が置いてある場所か? おいおい…よりにもよって参考書とエロ本を同列に扱うんじゃねぇよ。エロ本が可哀想じゃねぇかっ!!」
「なんで、お前がそんな事を知ってんだよッ!?」
「おまえんちに遊びに行った時に探りいれてたからな。この美少女名探偵船子ちゃんから逃げられると思うんじゃねぇぞ? ウチの親戚の隣に住んでるおじちゃんの名にかけて! 真実はいつも腐るほどある!!」
「完全な他人の名をかけるな!!」
ほほぅ…いい事を聞いた。一夏がいない時にでも私も探りを入れてやろう。
少しでも弱みを握れば、家で酒が飲みやすくなる。
「というか、金野はもうそろそろ本気で止めろ。山田先生が困っているだろうが」
「心配ねーって。これで終わるから…よっと」
「「「「「話してる間もずっとジェンガやってたのッ!?」」」」」
恐るべき集中力だな…。
束もそうだが、どうしてこいつはこの才能をもっといい方向に活かせないんだ?
その気になれば、出来ない事なんて無いだろうに。
「よし。金野、授業をちゃんと聞いていなかった罰として、お前には織斑に勉強を教える事を課す。せめて、一週間で参考書の三分の一ぐらいは覚えさせろ」
「フフ…まっかせときな姉御ッ!! この最強天才美少女家庭教師の船子ちゃんに掛かれば、一夏を一週間で完璧なIS単語発声装置にしてみせるぜ!! 覚悟しとけよ一夏!! このアタシが勉強を見る以上、微塵の妥協も許さねぇからな! 一度でも机に座ったが最後、登校するまでずっと立ち上がれねぇと思いやがれ!!」
「なんでだよッ!? 食事とかトイレはどうすりゃいいんだ!?」
「メシは受験生の強い味方であるカップヌードルとカロリーメイトで十分だろうが!! トイレは大人用おしめを用意してやんよ!! よかったな!!」
「よくねぇよっ!? それって完全に黒歴史コースまっしぐらじゃねぇか!!」
「別にいいじゃねぇか。最後には∀ガンダムが月光蝶で纏めて砂にしてくれんよ」
「文明崩壊待ったなしだろうがっ!!」
なんだろう…自分で言った事ではあるが、少し不安になってきた…。
だがしかし、船子の頭の良さは本物だし、口では色々と言いつつも教えるのは上手だしな…。
実際、過去に一夏も何回か船子に勉強を教わって窮地を乗り切っている。
その実績は一夏自身が一番よく知っている。
だからこそ、文句を言いつつも『イヤだ』とは言わないんだろう。
「にしても…さっきの休み時間に言ってた『教科書と参考書を丸暗記した』っての…マジだったんだな…」
「なに? 金野がそんな事を言っていたのか?」
「あぁ。入学まで暇だったからって」
暇潰しに教科書を参考書を全て丸暗記する奴なんて、世界広しと言えどもお前ぐらいだぞ…船子。
「よっし! 無事にナイトガンダムも救い出せたし、今度はこのイチゴ大福を魔改造でもして、太陽系の向こうまで行ける惑星間航行母艦にでもすっか!」
「幾らなんでも、それは無理過ぎるだろッ!?」
「だいじょーぶ! だいじょーぶ! 束姉だって、前にカップ焼きそばのUFOを魔改造して本物のUFOを作ってたし」
「「いつの間にそんな物をッ!?」」
なにやら私と箒の声が被ってしまったが、それも無理は無い。
知らない所でまたトンデモ発明をしていたのだからな。
船子と同様に、アイツならば本当に出来そうだから嫌なんだ。
「いっそのこと、この机を魔改造してタイムマシンにでもするか? そっちも面白そうだな!」
「学校の備品を勝手に改造しようとするな…」
もう疲れて、そんな事しか言えなくなった。
本当に…こいつといると精神的に疲れる…。
まるで束がもう一人増えたみたいだ…。
「なんだったら、山田先生の眼鏡も改造してスカウターみたいにしてやろうか?」
「だ…大丈夫ですっ! 普通の眼鏡で結構ですから!」
「そっかぁ~? あったら便利だと思うんだけどなぁ~。いざって時にはレンズの部分から光子力ビームが撃てるようにしてさ」
「しなくていいですっ!」
私ですら翻弄されるんだから、まだ出会って間もない真耶ならば船子のペースに乗せられて当然か…。
在り来たりな事しか言えんが…頑張ってくれ。
私も年単位で頑張って慣れようと努力はした…実ったかどうかは微妙だが。
きっと、船子が卒業する頃には少しは慣れている筈だ…多分。
そして、二時間目も結局、船子のペースに惑わされて半端な感じで終わった。
…後で授業計画…考え直さないといかんな…。
次回はセシリアと船子(ゴルシ)との初遭遇。
『ですわ』口調とは色んな意味で因縁がある彼女はどうする?