黙れば美人、喋ると変人、戦う姿は不沈艦!   作:とんこつラーメン

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決意の朝

「…あれ?」

 

 朝…目が覚めると、隣のベッドに船子ちゃんの姿が無い。

 いつもならば『またどこかで何かやっているのか』と考えてしまう所だけど、今朝だけは違った。

 私は見てしまったから。

 船子ちゃんの『素』の一端を。

 自分の中で彼女の存在が想像以上に大きくなっているのも影響しているのかもしれないけど、今の私は猛烈に船子ちゃんの事が心配で仕方なかった。

 

「制服も鞄も置いてあるし…」

 

 スマホで時間を確認してみると、まだ朝の6時半。

 起きる者は起きる時間帯かも知れないが、少なくとも私を初めとした一般的な女子高生は、まだ夢の中にいる時間だ。

 

「一体…どこに行っちゃったの…船子ちゃん…」

 

 今のあの子の行方が知りたい。

 私は自分でも珍しく、朝早くから制服に着替え、部屋を後にする事にした。

 何処かに消えてしまった、愛おしいあの子を探す為に。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

「なーんて…何の手掛かりも無しに、あの船子ちゃんの行方を捜し出せたら、誰も苦労なんてしないのよねぇ…」

 

 早朝と言う事もあって、寮内も校舎内も非常に静かだった。

 当然だが、こんな時間帯に登校している生徒なんて一人もいない。

 きっと、世界中を探しても私ぐらいだろう。

 

「はぁ…船子ちゃん…一体どこに消えちゃったのかしら…」

 

 当てもなく校舎内を彷徨い続けること数十分。

 私は適当に校舎の外れを歩いていた。

 その時、私は不思議な光景を発見する。

 

「…あれ?」

 

 それは、敷地の端の方にある剣道場。

 普段は剣道部の皆が使用する場所で、当然だが今の時間帯は普通に施錠してある筈なのだが…。

 

「開いてる…? なんで…?」

 

 どうして、本来は閉じている筈の剣道場が開放してあるのか。

 少なくとも、今朝は剣道部の早朝練習なんて予定は無かった筈。

 と言うか、IS学園の部活動は基本的に趣味の延長的な部分があり、公式戦などには出場できないようになっている。

 だから、気合を入れて早朝から練習をする意味も殆ど無い。

 

(なんだけど…)

 

 道場内からは人の気配も感じる。

 もしかしたら、誰からこんな朝早くから道場を利用しているのかもしれない。

 生徒会長として防犯上、確認しておく必要がある。

 船子ちゃんがいる可能性も否定できないけど、あの子が剣道場にいる姿はちょっと想像しにくい。

 

(そーっと…可能な限り気配を殺してから中の様子を…え?)

 

 まさかの展開…来ちゃった。

 う…嘘でしょ…?

 

「…………」

 

 剣道場の中にいたのは、なんと髪型をポニテにして剣道着を着た船子ちゃん。

 その腰には真剣と思われる刀を帯刀していて、腰を低くし、左手は鞘を握りしめ、右手は柄に添えてある。

 

(あんな真剣な顔の船子ちゃん…初めて見たわ…)

 

 うぅ…顔を見てるだけで凄くドキドキする…。

 よく見たら、船子ちゃんの前には太い藁の束が五本も並べられている。

 もしかして…居合い斬りをしようとしている?

 

「「「「…………」」」」

 

 って、もっと良く観察したら、船子ちゃん以外にも誰かいるっ!?

 あれは…織斑先生に篠ノ之箒ちゃん?

 それから江田島学園長もいる…。

 最後の一人はー…誰?

 物凄くゴツい体格の強面の男性がいるんだけど…。

 学園長以外は皆、船子ちゃんと同じ剣道着を身に着けている。

 所謂『見届け人』ってやつかしら…?

 

「「「「「……………」」」」」

 

 な…なんて張りつめた空気…。

 とてもじゃないけど、中に入っていく勇気は無いわね…。

 織斑先生や学園長がいる時点で問題は無いんでしょうけど…。

 

「!」

 

 船子ちゃんの目がカッと力強く見開かれた。

 鞘を握っている左手の親指で鍔を押し上げた瞬間…。

 

 キンッ! キンキンキンッ!

 

 白銀の軌跡が空中に舞ったと思ったら、いつの間にか鞘から刀が抜かれていて、船子ちゃんが直立の体勢になりながら刀身を軽く振ってから、静かに鞘に納める。

 

 カチン…そんな音が聞こえたと同時に、彼女の眼前に並べられた五本の藁は全て幾つもの塊となって板張りの床に落ちた。

 

(ま…まさか…あの一瞬だけで何回も藁を斬ってみせたというの…!?)

 

 凄い…凄すぎる…!

 これはもう天才とか名人とか言う領域じゃない。

 完全に『達人』の域だわ…!

 

「うむ! 実に見事な太刀筋である!!」

「全くだ。流石は私の船子。その剣の冴え…感嘆の一言に尽きる」

「間違いなく、船子は我が篠ノ之流の誉れだ。同じ道場に通っていた者として私も鼻が高い」

 

 やっと空気が軽くなった…。

 外で見ているだけだったのに、まるで全身に重りを付けたかのような重苦しさがあったからね…。

 

「赤石よ。お前はどうだった?」

「フッ…それを俺に聞くのは愚問と言うやつでしょう。塾長…いや、今は学園長でしたか」

 

 赤石って…前に船子ちゃんが話してた…。

 幼少期のあの子に剣の基礎などを全て叩き込んだって言う…元男塾二号生筆頭の…?

 どうして、そんな凄い人物がIS学園に…?

 

「赤石先輩! アタシの剣筋はどーだったよッ!? 素直な感想を聞かせてくれよぉ~!」

「昔とは比べ物にならない程に鋭く…重く…そして、速くなった。本格的にもう俺がお前に教える事は無くなったな」

「えへへ…そっか…」

 

 船子ちゃん…とっても嬉しそう…。

 そりゃ、尊敬する大先輩にあんな事を言われたら、そうもなるわよね…。

 

「俺のくれてやった『一文字兼正』…使いこなして見せろ。今のお前ならば必ずやできる筈だ」

「とーぜんだろ! この船子ちゃんにドーンと任せてくれってんだ!」

 

 一文字って…この間、船子ちゃんがウッキウキで部屋に持ち帰って来た日本刀の事?

 物凄く嬉しそうに色々と語ってくれてたけど…その時の私は船子ちゃんの笑顔に魅了されてて殆ど話を聞いてなかったのよね…。

 

「こんな朝早くに呼び出したりして悪かったな。赤石よ」

「何を今更。俺を初めとする男塾の卒業生たちは全員、アナタに一生掛かっても返し切れない程の大恩がある。例え地の果てにいたとしても、学園長からの呼び出しならば即座に駆けつけてみせますとも」

「ふっ…それでこそ、元男塾二号生筆頭よ」

 

 …正直、半信半疑だったけど…江田島学園長のカリスマはとてつもないみたいね…。

 あんな凄そうな人に、あそこまで言わせるだなんて…。

 

「それに、わざわざ足を運んだ甲斐もあった。まさか、あのブリュンヒルデと会えるとはな」

「こちらもですよ。よもや、あの幻の『斬岩剣』の使い手に会えようとは思わなかった」

「先生の仰る通りです。私も、船子の剣の師である赤石さんと出会えて光栄です」

「あの篠ノ之流の娘にそう言われるとはな。俺もまだまだ捨てたもんじゃないってことか」

 

 同じ『剣士』として、色々と通ずるものがあるのかしらね…。

 とても和やかな空気になってきたわ。

 今なら中に入っても大丈夫かしら…?

 

「ところでよー…」

 

 ん?

 

「楯無パイセンは、いつまでそこに突っ立ってるんだ? とっとと中に入って来いよ?」

「バ…バレてたのっ!?」

 

 あれだけ集中していたにも拘らず、私が道場の外にいた事を看破していたと言うの…!?

 船子ちゃん…アナタって事は本当にどこまで…。

 

「見たいのならば、中に入って堂々と見ればいいのに…」

「篠ノ之の言う通りだ。幾ら生徒会長とは言え、覗き見は感心せんぞ」

「ふはははははは! 流石の更識もこれでは形無しよな!」

「フッ…」

 

 ほ…他の皆も私がいた事を看破してた…。

 なんなの…この超人集団は…。

 剣士って皆がこんな感じなの…?

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

「…てな事があったのよ。もう本当にびっくりしたんだから」

「「「いいなぁ~…」」」

 

 あれから一悶着あってから、私と船子ちゃんは無事に朝ご飯に有りつけることに。

 いつの間にか制服に着替えて合流してた箒ちゃんには驚いたけど。

 

「藁を五本もぶった斬るなんて…船子凄すぎだろ」

「そうなのか?」

「あぁ。普通は一本か二本ぐらいでするもんなんだよ。どんなに凄くても三本ぐらいが限度だ。それ以上はもう…マジで超人の域だな」

 

 あのラウラちゃんに一夏くんが説明してる…。

 なんか凄い光景かも。

 

「ねぇねぇ箒。アンタと千冬さん、船子の剣の師匠に会ったんでしょ? どんな感じの人だったの?」

「私も興味がありますわ。どのような方だったんですの?」

「そうだな…」

 

 私からしたら、怖そうだけど根は優しそうなイメージかしら?

 子供とかに好かれるタイプよね。

 

「まるで抜身の刀のような人物だったな」

「怖いってこと?」

「怖いと言うよりは…迫力が凄かった。だが、決してそれだけの人物ではなかった。学園長の事を心から尊敬し、その恩義に全力で報いようとする忠義の心もあり、同時に自分の弟子とも言うべき船子への愛情も確かにあった。ある意味、最も理想的な師匠かもしれないな」

「あの船子さんに剣を教えた方ですものね…」

 

 実に箒ちゃんらしい人物分析ね。

 でも、私も同意見ではあるかな?

 

「あの織斑教官ですら感嘆する程の人物…私も一目で良いから会ってみたかった」

「俺もだ。出来れば。その人が実際に剣を振るう姿も見てみたかったな」

 

 そうね。それには私も同感だわ。

 あれ程の剣の腕を持つ船子ちゃんの師匠ですもの。

 きっと、想像もつかない程に強いんでしょうね。

 

「実はな、船子が居合い斬りをする前に、赤石さんが手本として私達に一回だけ見せてくれたんだ。かの伝説の剣『斬岩剣』を」

「マジか…! ど…どうだったんだ…?」

「…息を飲む程に凄かった。巨大な石灯籠が見事に真っ二つになっていたんだからな。情けない話だが…私や千冬さんでも、あれ程の領域に達する事は非常に難しいだろう…」

「だよな…そもそも『岩を斬る』って発想自体が思い浮かばねぇよ…」

 

 岩を斬れるって事は即ち、どんな防御も全く意味を成さないって事になるのよね。

 まさしく最強最大の攻撃手段…。

 

「ところで、どうして船子は朝から居合い斬りなんてしてたんだ?」

「んー? 今度のトーナメントに向けての、自分なりの決意表明ってやつだよ」

 

 決意表明…?

 

「精神を集中させて、気を研ぎ澄まさせてから、眼前の獲物を斬る。どんな相手だろうと一刀両断にしてやるぜ的な事さ」

 

 決意表明ってよりは、気合を入れ直そうとしてたのかもしれないわね。

 昨夜の船子ちゃん…本当に弱々しく見えたから…。

 

「本当は一人でひっそりとやるつもりだったのによー…何故か千冬の姉御と箒、それから江田島学園長にもバレちまってよー…。それから学園長の命令で何故か赤石先輩まで来ちまって…流石の船子ちゃんも普通に驚いたぜ」

 

 船子ちゃんの驚く姿…想像出来ないわね。

 

「ま…兎に角だ。これでトーナメントへの準備は完了だ。後は万全を尽くして本番を待つだけだな。ジェンガでもしながら」

 

 なんで、そこでジェンガ?

 

「あー…今日はなんか、いつも以上に朝飯がうめー気がするぜー。朝から思い切り動いたせいかなー。よっし。ご飯のおかわりしてこよう」

 

 あ…行っちゃった。

 でもまぁ…安心したかな?

 いつもの船子ちゃんに戻ったみたいだし。

 けど…また時々で良いから、頭を撫でさせてくれないかしら…?

 

 

 

 

 

 

 

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