黙れば美人、喋ると変人、戦う姿は不沈艦! 作:とんこつラーメン
常にテンションMAXな彼女にどんな反応をするのやら。
二時間目の休み時間。
俺は先の事を考えながら鬱屈としていた。
どんな経緯であれ、今の俺がIS学園の生徒である事実は覆しようがない。
在学生である以上は、皆と同じようにちゃんと勉強をしなくてはいけないのは当然の義務でもある。
(問題があるとすれば、千冬姉があの船子に俺の勉強を見るように言った事なんだよなぁ…)
あの無駄に超絶ハイテンションな様子からは想像も出来ないかもしれないが、実は船子は文武両道を地で行く超優秀な奴だったりする。
小学生、中学生時代共に全てのテストで100点満点しか取った事が無く、運動神経だって抜群で、中学時代なんて50メートル走で非公式とはいえ、余裕で世界記録を更新しやがったし。
特定の部活には入ってなかったけど、よく色んな部活の試合に助っ人に呼ばれる事も多く、船子が試合に出れば、その瞬間に勝利が確定すると言われる程に凄まじい。
その上で美人で性格も明るいから、中学時代は学校中の人気者だった。
(俺も、船子に勉強を教えて貰った事があったっけ…)
中学時代の親友たちと一緒に纏めて勉強会をしたことがあった。
勉強中も相変わらずな船子なのだが、こっちが尋ねた事にはちゃんと真面目に答えてくれるし、分からない問題があれば丁寧に教えてくれる。
さっき自分で『天才家庭教師』なんて言ってたけど、実際に船子には誰かに物を教える才能がある。
よく『天は二物を与えず』って言うけど、船子の場合はなんでもかんでも貰いまくってる気がする。
俺から見れば、まさに船子は才能の塊だ。
「おぉーっす! どうしちまったんだ一夏? さっきからどんよりとした空気なんて出しやがって! もしや…妖怪の仕業かっ!?」
「なんでもかんでも妖怪の仕業にすんな。現代人の悪い癖だぞ」
噂をすれば何とやら。
船子が相変わらずのテンションでやって来た。
その後ろには箒も一緒に来ている。
「じゃあ、どうしたんだよ? まさか……」
「な…なんだよ?」
「アタシから勉強を教わることになって、このアタシが千冬の姉御みたいな女教師スタイルになった姿を想像してモンモンしてんじゃねぇだろうな?」
「んなわけあるかっ!」
「きゃ~♡ いや~ん♡ 箒~! 一夏から視姦されるぅ~!」
「おい貴様…一夏! 船子をいかがわしい目で見るのは、この私が許さんぞ!」
「なんでそーなるんだよっ!?」
ちくしょう…そんな事を言うから、少しだけマジで想像しちまったじゃねぇか!
船子って千冬姉に負けず劣らずにスタイルもいいし背も高いから、絶対にスーツ姿とかって似合うんだよなぁ…。
「心配すんなって! ちゃんと勉強は教えてやるからよ! 最低でも授業に付いていけるぐらいにはしてやるよ」
「うぅ~…船子ぉ~…」
悔しいけど…こんな時の船子は冗談抜きで頼りになるぅ~…。
今更ながら、こいつもIS学園にいてくれて助かったぁ~…。
「勿論、勉強途中に知恵熱でぶっ倒れた時は、この『死者蘇生』のカードを使って蘇らせてやるからな!」
「俺はモンスターじゃねぇっ!」
「え? じゃあ、この『リビングデッドの呼び声』か『早すぎた埋葬』がいいか?」
「どっちもどっちだろうが!」
つーか、いつの間に遊戯王カードなんて持ち込みやがった?
入学時に持ち物検査とかしなかったのかよ。
「そこ。ちょっとよろしくて?」
「ん?」
はぁ~…ったく。
頼むから船子は、もう少し…本当にもう少しだけでいいから落ち着いてほしい。
性格以外は全てがパーフェクトなのに…どうして性格だけで全ての長所を台無しに出来ちまうんだよ…。
「お…お前は…まさかっ!? 嘘だろッ!?」
「どうかしたのか船子?」
ん~? なんかさっきから船子と箒が騒がしいけど、何やってんだ?
「い…一夏! 一夏!! 大変だっ!!」
「何が大変なんだよ?」
「この…このクラスに…!」
「このクラスに?」
「『壱百満天原サロメ』のコスプレをしてる奴がいるッ!!」
「な…なんだってぇっ!?」
サロメって、あのサロメ嬢かっ!?
短期間で登録者数100万人突破したって言う超話題の大人気Vチューバー!
「ほら、見てみろって!」
「どれどれ?」
船子に言われて後ろを振り向くと、そこには一人の女子がいた。
全身から出ている雰囲気から、誰が見ても『お嬢様』って感じの少女。
金髪って事は、海外から入学したのか?
いや、それよりも…!
「縦ロール…!」
「そうなんだよ…正真正銘、本物の縦ロールだ!!」
「す…スゲェっ!! 本当に縦ロールな髪型をしてる人間なんて初めて見たっ!」
「だろ? まさに我等がアイドルサロメ嬢の超気合いの入ったコスプレイヤーだぜ!!」
「あぁ…あれって多分、地毛だよな? コスプレの為だけに髪型まで変えるなんて…なんてファン根性なんだ…!」
きっと、物凄くサロメの事が大好きに違いない!
そうじゃないと、ここまで気合の入った事なんて絶対に不可能だ!
「…ちょっと? さっきから何を無駄に盛り上がっておりますの?」
「聞いたか一夏……」
「うん…聞いた…」
「「生のお嬢様言葉だっ!!」」
スゲー…本当に、こんな風に喋る奴っているんだー…。
今だけ、IS学園に入ってよかったーって思ったわ。
「な…なぁ…この子が本物のお嬢様なら…『あれ』…してくれるかな?」
「やってみる価値はあるな…」
「一体何なんですの…?」
船子は徐にポケットから一枚の葉っぱを取り出した。
普通なら『なんじゃこりゃ』って思うだろうが、もしも彼女が本当のお嬢様なら、必ず俺達が想像している通りの答えを言ってくれる筈だ…!
「これ…何だと思う?」
「……おハーブ…ですの?」
「お……!」
「おぉぉぉ…!」
「「おハーブキタ――――――――――――ッ!!!!!」」
これが伝家の宝刀『おハーブ』かっ!!
うぅぅ…なんて感動的なんだ…。
「…二人は一体何を話しているんだ?」
「フッ…箒にもいずれ分かるぜ。後でサロメ嬢の魅力を一夏と一緒にたっぷりと布教してやるからな」
「そ…そうか…」
きっと、箒もすぐにサロメイトになってくれるに違いない。
ふっ…良い事をしちまったぜ。
「全く…さっきから一体何なのですかッ!? 人の顔を見るなり、いきなり奇声を上げたりして!」
「ははは…ゴメン。つい興奮しちまって」
「ま…まぁ? この私と同じクラスになれたのですから? 興奮しても仕方がない事ではありますけどね」
え? なんで急に上から目線?
「な…なぁ…この子、もしかして有名人だったりするのか?」
「私は知らんぞ。見た事も聞いたことも無い」
「アタシも知らねー。つーか、もし本当に有名人なら、千冬の姉御の時と同じようなリアクションをするんじゃね?」
「「確かに…」」
だとすると、自分で勝手に有名人だと思い込んでる『痛い子』ってことになるのか?
そーゆー子に対して『知らねーし』とか言ったら、逆に怒らせるだけだしなぁ…どーするよ?
「何をそこでコソコソとしていますの」
「ん? あぁー…ちょっとした緊急会議って奴だ。気にすんな。IS学園じゃよくあることだ」
「そ…そうなんですの? 初耳ですわ…」
流石は船子。ナイスフォロー!
「そこのえっと…」
「俺か? 織斑一夏だ」
「そう。織斑さん。あなた、まさか本当に何も分からない状態で入学してきたんですの?」
「まぁな。マジで何から何まで突然だったんだ。だから本気で焦って、さっき言ってたみたいに船子に勉強を教わることになったんだ」
「勉強…この方にねぇ…」
ん? お前は知らないかもだけど、船子の頭脳は本当に凄いぞ?
中学の修学旅行の時、俺達が乗ってたバスがいきなりエンストした事があったんだが、船子がちょちょいと直しちまったんだ。
担任の先生もバスの運転手も目玉が飛び出しそうなぐらいに驚きまくってたなぁ~。
「アナタ…金野船子さん…でしたわね?」
「おう! 誰が呼んだか、天下無敵のスーパー美少女! 金野船子サマたぁアタシのことよっ!!」
「お前はどこのSRXだ」
おっと。思わずまた俺のツッコミ脊髄が反応してしまった。
「SHR中や授業中に意味不明な言動を繰り返しただけに飽き足らず、話しかけた私に対してもワケの訳の分からない事を言い放つ…そんな方が本当に勉強を教えられるとは思いませんわ」
「なんだと…!?」
え? なんでそこで箒がキレるの?
そこは普通、船子がキレる場面なのでは?
「あ…通知来た。マジかっ!? あのイベントが緊急復刻ッ!?」
こっちはこっちで我関せずって感じでアプリゲームの通知を見て盛り上がってるし。
船子がいるだけで場がカオスになる現象…どうにかならないのか?
「もしよろしければ、この学年次席のセシリア・オルコットがお教えしてあげてもよくってよ?」
へー…この子、セシリアって言うのか。クラスメイトだし、名前ぐらいは覚えておこう。
「学年次席?」
「そうですわ! 全く…この私を差し置いて、一体どこの誰が学年首席の座を取ったのやら…!」
「それ、多分アタシだぞ」
「「「え?」」」
今…なんつった? 船子が学年首席?
それってつまり、入試で一番点数が高かったって事だよな?
いや…船子なら十分に有り得るかもだけど。
聞いた話じゃ、IS学園って物凄く倍率が高いんだろ?
詳しい数字は流石に知らないんだけど。
そこで首席を取るって、相当に凄いんじゃ?
「実はよ、今日の朝に千冬の姉御からアタシ宛にメールが来てさ。それがこれなんだけど…」
そう言って船子は自分のスマホの画面を俺達に見せてきた。
そこには千冬姉から船子に送られてきたメールの文章が載っていて、こう書かれてあった。
『これはお前だからこそ特別に教える事なのだが…筆記試験、全教科満点はお前だけだったぞ。良くやったな。それでこそ私の船子だ』
……え? 千冬姉って…もしかしなくても船子の事がめっちゃ好きだったりする?
船子が全教科満点取ったとかよりも、そっちの方が遥かに気になるんだけど。
「そ…そんな…本当にアナタが…首席…!?」
「ぐぬぬ…! 千冬さんも船子の事を狙って…!」
うーん…オルコットさんは正常な理由で戦慄してるけど、箒はどうして文章の後半部分を見て渋い顔をしてるの?
「み…認めませんわ…!」
「何をだよ?」
「貴女のような変な女性が学年首席であると言う事がですわ! 絶対に何かの間違いに決まっています!」
「そー言われてもにゃー。事実は事実だしー? ぶっちゃけ、あのテストってすーぐに終わってつまんなかったんだよなー。なんつーの? 面白みに欠けるッつーか」
「入試に面白みなんて無くて当たり前ですわよ!」
実に気持ちが良い正論パンチ。
けど、船子には通用しなかった。
「アタシなら、もっと刺激のあるテストにしてやんのになー」
「例えばどんな?」
「問1。近年になって発見された人間が居住可能な新惑星『ゴルゴル星』から地球までの正確な距離を求めよ…とか」
「「「ゴルゴル星っ!?」」」
なんじゃそりゃっ!? 幾らなんでも聞いたことがねぇぞっ!?
つーか、『ゴルゴル星』のゴルゴルって何? 新しい悪魔の実か?
「そ…そうだ! 実技の方はどうでしたのっ!?」
「実技ぃ~?」
「えぇっ! 聞いた話によると、実技試験で教官を倒せたのは私だけだと聞いておりますわ!」
因みに、実技試験だけなら俺もちゃんと受けた。
つっても、向こうが勝手に突撃してきたのを咄嗟に避けて、そのまま壁に激突してからの気絶って流れだったから、あれは完全にノーカンだったと思う。
だから、ここでは敢えて何も言わないでおこう。
「引き分け」
「おーほっほっほっ! そうでしょうとも! そうでしょうとも! 矢張り、このクラスで最も優秀なのは、このセシリア・オルコッ…」
「だってよ~。ず~っと本気モードになった千冬の姉御と剣で打ち合ってたんだぜ? 時間終了まで延々と。流石のアタシも腕が痺れちまったよ。いやー…参った参った。やっぱ姉御はタダもんじゃねーわ。流石の船子ちゃんも、あの時ばかりは本気にならざるを得なかったわ」
「…………へ?」
そりゃあ…驚くよな。船子の実力を知ってないと。
こいつ、こう見えて剣の実力もめっちゃあって、昔から船子と互角に渡り合えてたのは千冬姉と束さんだけだったもんな。
それ以外は全員揃って雑魚扱い。俺も箒も一度だって勝てなかった。
「あの…織斑先生と…剣で…互角…?」
「おう! あーゆー時でもないとアタシも本気が出せねーからな。いいストレス発散になったぜー!」
「…………」
言葉を無くして当然。
この時点で船子のISの実力は既に世界クラスって証拠だからな。
元世界王者と互角って時点で推して知るべきだろ。
「あ…予鈴」
キーンコーンカーンコーン…と予鈴が鳴って、皆が席に着き始める。
俺はずっと座っていたから大丈夫だけど、お前達は早く戻った方が良いんじゃないのか?
「ま…また後で必ず来ますわ! それまで逃げる事は許しませんことよ! いいですわね金野さん!!」
なんか、好き放題いってから戻って行ったな。
割とマジで何だったんだ?
「またなー。今度一緒にシュレピッピして、仲良くク・リパースを貯めようぜー」
「「それは一番ダメなやつっ!」」
なにしれっと、一番ヤバい単語を並べてるんですかねコイツはっ!?
船子の事だから本気じゃないとは思うけど…。
次回はクラス代表決め。
勿論、普通には進めさせませんとも。