黙れば美人、喋ると変人、戦う姿は不沈艦! 作:とんこつラーメン
もしもこのまま本当にセシリアがマックイーン枠になるのなら、臨海学校にて船子とセシリアは水着姿のままイチャイチャするという事になるのではッ!?
それはそれでありですな。
実に素晴らしい。
時間はあっという間に過ぎ、時間は放課後。
結局、俺はあのまま授業内容の殆どを理解出来ないまま初日を終えてしまった。
はぁ…船子に勉強を教えて貰う予定になっているとはいえ、このままじゃ先が思いやられるぜ…。
「おうおう! またまたどうした一夏ぁっ! 溜息ばっかり吐いてたら生命力が無くなっちまうぞ?」
「それを言うなら『幸運が逃げていく』だろ? どうして溜息吐いただけで衰弱しなくちゃいけないんだ」
ンな事を言いだしたら、碌に呼吸も出来なくなるッつーの。
どうしてコイツはこうも元気なんだ…?
その秘訣を教えて欲しいよ。
「あっ! 織斑君! まだ教室にいたんですね! 丁度良かった!」
「「ん?」」
俺を呼ぶこの声は…山田先生?
なんか教室の入り口の所で書類を持って手を振ってるけど。
「なんだ? お前…入学早々になんかしちまったのか? 例えば、校舎全体を魔改造して有事の際に秘密基地に変形するようにしたとか」
「エルドランシリーズかっ!」
俺にそんな能力がある訳ねーだろーがっ!
つーか、現代の技術力なら割と普通に出来るかもしれないからツッコミに困るんだよっ!
「えっ!? 織斑君、そんな事をしちゃったんですかッ!?」
「してませんからねっ!?」
どうして船子の妄言を真に受けちまうんだっ!?
どんだけ純粋無垢なんだよッ!?
「そ…そうなんですね…よかった…」
「無駄に安心しないでくださいよ…」
こんなんじゃ絶対に身が持たないぞ…山田先生。
少なくとも、これから三年間は確実に船子に振り回される事は確定してるんだから…学園全体が。
「センセーさんよ。一夏の野郎に何の用だったんだ?」
「あ…そうでした!」
忘れんなよ。
「えっとですね? 今日から織斑君が住む予定となる学生寮の部屋割りが決まりました」
「部屋割り? 俺って確か、最低でも一週間は実家から通う事になってるって聞いたんスけど…」
「本来ならその予定だったんですけど、織斑君の場合はかなり特殊な事情があるので、諸々の安全性を考慮した結果、やっぱり初日から部屋に入って貰おうって事になって、半ば無理矢理に近い感じで部屋割りを変更したんですよ」
「マジですか…」
今の所、俺がこの世界で唯一無二の男性IS操縦者で、だからこそ俺の事を狙って当初は色んな研究機関の連中が自宅に押し寄せてきたんだけど…そいつら全員、船子がプロレス技で文字通りねじ伏せちまったんだよな…。
あの人達…関節とか大丈夫だったかな?
帰る時、腕とか足とか変な方向に曲がってたけど…。
「こっちとしても、生徒の安全こそが第一ですからね。学園にいる時はともかく、外にいる時に何かあったら私達じゃ簡単に対処が出来ませんから」
確かにその通りだ。
IS学園の教師とはいえ、その権限が通用する場所というはどうしても限られて来るだろう。
俺だって誘拐とかされるのは御免だし、そのせいで皆に迷惑をかけるのも嫌だ。
「と言う訳で、これが部屋に鍵と番号になってます」
「分かりました。けど、俺まだ荷物とか何にもないんで家に一度戻ってから用意して来てもいいですか?」
「あ…織斑君の荷物なら…」
「私が手配しておいたから問題無い」
そう言いながらやって来たのは千冬姉。
手配しておいたとはこれいかに?
「因みに、荷物の中身を厳選したのはアタシだぜい!」
「お前かよッ!?」
「大丈夫だ。ちゃーんと…お前の秘蔵の品も入れておいたからよ」
「余計なお世話じゃっ!!」
どーして、よりにもよって船子に任せるかなぁ~っ!?
絶対に碌な事にならねーじゃねぇかっ!
「一応、簡単に寮に付いて説明しておきますね。まず、夕食は夕方の6時から7時に一年生用の寮の食堂を利用してください」
「6時から7時…」
その時間を過ぎたら飯抜きって事か。
これはマジで注意しておかないとな。
「それと、各部屋にはちゃんとシャワーとか個人用の浴槽がありますけど、それとは別に大浴場があったりします。流石に織斑君は使えませんけど…」
「でしょうね」
もし使ったりしたら、その瞬間に俺の学生生活が複数の意味で終了するわ。
「山田センセーよ。大浴場ってどんぐらいデカいんだ?」
「そうですねぇ…高級ホテルに置いてありそうな大浴場ぐらい…ですかね? とにかく、とても大きいです。しかも、他にも色んな種類のお風呂も完備してるんですよ」
あ…山田先生…船子にそんな事を言ったら…。
「マジかッ!? よっしゃぁぁぁぁっ!! それじゃ、今夜は大浴場で船子ちゃんの華麗な自由形七変化を見せてやるかっ!! まずは王道のクロールだろ? それから平泳ぎにバタフライ、背泳ぎだろ? それから…」
「ちょ…ちょっとっ!? 金野さんッ!?」
あーあ。やっぱこうなったか。
中学の時の修学旅行でも、旅館の大浴場で全力水泳して先生にめっちゃ怒られてたらしいからな…。
気持ちは分からなくもないんだけど、それを本当にやる奴は初めて見た。
「やめろ。お前が全力で泳いだら大浴場が壊れる」
「ちぇー」
え? 注意するのそっち?
っていうか、本当に千冬姉って船子には甘いよなぁ…。
船子も船子で千冬姉の言うことはちゃんと聞くし。
「あ…そうだ。千冬の姉御。ちょっといいか?」
「どうした?」
もう完全に千冬の姉御呼びで定着してるし。
最初はあれ程『織斑先生って呼べ』って言ってたくせに。
「実はよ…来週の試合に向けて修行をしたいんだわ」
「ほぅ…?」
しゅ…修行? まさか、船子の口からそんな単語が飛び出す日が来るとは…。
明日は雪でも降るか?
「船子…意外とやる気満々なんだな…」
「当たり前だ。このアタシが、こと勝負事で手を抜いたことが一度でもあったか?」
「…そうだったな。わりぃ」
船子はいつだって何事にも本気だ。
それが勝負ともなると、その本気具合は凄いことになる。
女子サッカー部の助っ人を頼まれた時は、試合の日ギリギリまで必死に練習しまくってたし、陸上部の助っ人を頼まれた時だって放課後ずっと走り込みをしてた。
普段はそんな様子は全く見せようとはしないけど、俺だけは知っている。
船子は、誰よりも努力家な女の子なんだってことを。
「だから、試合の日まで学校を休むわ。外で徹底的に自分を苛め抜いてくる」
「具体的には?」
「まずはボソンジャンプを使って三重連太陽系の緑の星まで行って、それから伝統芸であるエイサイハラマスコイ音頭を完璧に習得しつつ、ヘッドスピンしながら鼻からスパゲッティを食いつつ真空波動拳を連射できるようになることからだな」
「ふっ…それでこその私の船子だな。いつもながら、その向上心には感心させられるよ」
「あれぇっ!?」
あの…今の一文にツッコみ所が山のようにあったと思うんですけどッ!?
どうしてあれを聞いて『向上心』なんて言葉が飛び出すのかなぁッ!?
山田先生なんて『何言ってるんですか』って顔して目が点になっちまってるじゃねぇか!
「どうせ、お前の事だから止めても聞かんのだろう。仕方あるまい…特別に許可してやる」
「やったぜぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
「だが、その前にこれから自分が暮らす事になる寮の部屋ぐらいは見ておけ。お前の荷物もそこに届けてあるはずだ」
「うーん…それもそうだな!」
「それと、お前のルームメイトにもちゃんと挨拶しておけよ」
「ほいーっす」
…ん? ちょい待ち。
なんか今、聞き捨てならない言葉が聞こえたような気がしたんだけど?
「あ…あのー…ちょっちイイッスか?」
「なんだ?」
「今…ルームメイトって…」
「そうだ。IS学園の学生寮は基本的に二人で一つの部屋を使う事になっている。お前も例外じゃない」
「嘘だろッ!? ルームメイトって女の子だよなっ!? それって倫理的にいいのかよッ!?」
「良くは無いが、こればかりは仕方あるまい、なにしろ、こっちも急いでいたからな。安心しろ。暫くしたら、ちゃんとお前の部屋は一人用になる予定だ」
「し…暫くって、どれぐらい…?」
「それは流石に分からん。私達の仕事次第だな」
…マジっすか。
世の健全な男子達ならば、こんな状況になれば飛んで喜ぶかもしれない…が、実際にそうなってみてから冷静に考えて欲しい。
少しでも何か粗相があれば、速攻でこっちが悪者認定されるぞ。
俺の高校生活…早くもハードモード突入の予感…?
それから俺と船子は千冬姉たちと別れて寮へと向かった。
因みに、俺のルームメイトは箒だった。
同じ女子でも、自分の知り合いだから少し安心した。
箒からは凄く残念そうな顔をされつつ溜息を吐かれたけど。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
私は今、部屋の中で静かに『彼女』がやって来るのを待っている。
かなり性格に癖がある子らしいから、柄にもなく緊張してるのよね…。
大抵のことにはビビらない自信があるつもりなんだけど、あの織斑先生が『ちゃんと自分を保たないと、あっという間にペースに飲み込まれるぞ』って言ってた程なのよね…。
「ん…?」
廊下の方から足音が聞こえてきた。
もしかしたら、例の子がやって来たのかもしれない。
何があっても大丈夫なように、深呼吸をして心を整えて…っと。よし!
「……あれ?」
段々と近づいてきた足音が急に消えた。
恐らくはドアの前で立ち止まって部屋の番号の確認をしているんだろうけど…。
(それにしては少し長すぎないかしら?)
一体何をやっているんだろう?
私がそう思っていると、なにやら天井からゴソゴソという音が聞こえてきた。
「な…なに?」
ここの天井って、こんなにも脆かったっけ?
後で報告しておくべきかしら…?
数秒後、そんな呑気な事を考えていた自分を殴りたくなった。
「きゃぁぁぁぁっ!?」
「おっしゃぁぁぁぁっ! 侵入せいこ――――――っ!!」
あろうことか、天井裏からIS学園の制服を着た銀髪の美少女が大笑いをしながら落ちてきた。
スカートの中が見えたってお構いなしって感じのテンションで、綺麗な着地を決めてくれた。
「おぉ~! こいつがあたしがこれから住む部屋になるのか~! 中々良いじゃあねーか! ま、前々前世に住んでた武家屋敷に比べれば小さいけどな!」
「え…えっと…?」
こ…この子が織斑先生の言っていた子…なのよね…?
最初が肝心だと思って、インパクト重視で水着エプロンの格好をしてたんだけど…完全に初手からしてやられたって感じね…。
「あの…ちょっといいかしら?」
「んお? どした?」
「あなたが『金野船子』ちゃん…でいいのよね?」
「おう! アタシこそが、来年辺りに『ドミノ倒しをしながら全国のラーメンを全て食べつつ全FFシリーズを全クリ』してギネス記録に登録して貰う予定の金野船子ちゃんだっ!」
「いきなり意味不明過ぎて反応に困るんだけどッ!?」
な…成る程…これは確かに別の意味で凄い女の子だわ…。
これで入試首席な上に織斑先生と互角に渡り合えるほどの実力者なんでしょ?
そこらの候補生なんて簡単に霞むような成績なんだけど?
「というか、私のこの格好について何か言う事とか無いの? 自分で言うのもなんだけど」
「え? 別に? 水着エプロンなんてよ、それこそ神室町に行けば嫌ってほど見れるぜ? そんなに驚くような事じゃねぇよ」
「そうなのッ!?」
「あそこはアジア最大の歓楽街だからな。伊達に『変態三銃士』やら『赤ちゃんバーに通う事が趣味の極道』とか『ムナンチョヘペトナス教』とかいねーよ」
「変態三銃士っ!? 赤ちゃんバーっ!? ムナンチョって何ッ!?」
本当に何なのよ…この子は…。
出逢ってまだ数分しか経ってないのに、もう疲れちゃったわよ…。
「つーか、アンタ誰だ? もしかして、千冬の姉御が言ってた『ルームメイト』って奴なのか?」
「そ…そうよ。っていうか『姉御』?」
世界広しといえども、あの織斑先生をそんな風に呼ぶのは貴女ぐらいよ…。
「私は『更識楯無』。IS学園の二年生で、ここの生徒会長もやってるの」
「二年? ルームメイトって上級生と一緒になる事もあんのか?」
「基本的には同学年同士よ。でも、今回は例外」
「なんで?」
「織斑先生に言われたのよ。『金野を一人にしたり、他の奴と一緒にした場合、何を仕出かすか分からないから生徒会長であるお前に見張りを頼みたい』って」
最初こそ『何を大袈裟に』って思ってたけど、こうして実際に出会って確信した。
この子は絶対に野放しにしちゃいけない…!
放置したら、それこそ何が起きるか想像もつかないわ!
「いやぁ~…姉御にそこまで言われちゃあ、流石の船子ちゃんも照れちまうぜ~」
「今のどこに照れる要素があったの?」
船子ちゃんの価値基準が全く分からない…。
思考回路がどうなっているのか知りたいわ。
「けどまぁ…理由はどうあれ、こうして一緒になった以上は仲良くしようぜ。せ・ん・ぱ・い」
「え…えぇ…よろしくね。船子ちゃん」
こうしてると普通の女の子に見えるのよね…。
いや、服の上からも分かるほどの物凄いスタイルの時点で普通じゃないか…。
私も自分のスタイルには自信がある方だけど、船子ちゃんには敵わないかもしれない。
だってこの子…高校一年生の女の子にしちゃ凄く背が高いんですもの。
情報によると確か…170センチ…だったっけ?
見た目だけで言えば大学生のモデルとかって言われても違和感ないわ…。
「しっかし…生徒会長ねぇ…」
「そうよ。船子ちゃんも中学時代に生徒会長をやってたんでしょ?」
「まぁな。すっげー楽しかったぜ。朝の全校集会の最中に校長にワンマンライブをさせたりとかな」
「校長先生に何やらせてんのッ!?」
「校長もすっげーノリノリでやってくれたけどな」
「嘘でしょっ!?」
「因みに、その時に歌った曲は『ドーバー海峡冬景色』だ」
「なんか微妙に曲名が違うような気がするんだけどッ!?」
逆にどんな曲だったのかが凄く気になるんだけど。
後で試しに検索してみようかしら。
「そんじゃ、早く荷解きをしちまうか」
「お手伝いしましょうか?」
「いいのか? じゃあ、頼むぜ。まずはこれだな」
「これって…かなり大きな段ボールね…私の背と同じぐらいあるんだけど? 一体何が入ってるの?」
「ゲームの筐体」
「筐体ッ!?」
学校の寮にそんな物を持ってくるだなんて前代未聞過ぎるんだけどッ!?
いや…それ以前にどこで手に入れたのッ!? お金はッ!?
配達業者の人も、ここに運ぼうとした時点で何にも疑問に思わなかったのッ!?
「後で一緒にやろうぜ。ストリートファイター5」
「しかも、すっごい有名なゲームだし…」
船子ちゃんのキャラが全く掴めない…破天荒にも限度があるわよ…。
例の織斑一夏くんは、船子ちゃんとは小学生の時からの幼馴染だって聞いてるけど…それってつまり、最大で9年間もこのテンションの船子ちゃんと一緒だったって事よね?
なんというか…凄いわ…本当に。
「お? ちゃんとこれも運んできてくれたか!」
「この妙に細長い段ボールは何が入ってるの?」
「デュエルディスク。ちゃんとセットで入ってるから安心だぞ」
「何が『安心』なのかしら?」
船子ちゃんはここをデュエル・アカデミアと勘違いしてない?
別に遊び道具を持ち込むなとは言わないけど、それでも限度ってものがあるんじゃない?
いや…この子に常識なんて物を求めちゃダメだわ。うん。
こうして、私と船子ちゃんとの奇妙な共同生活が始まった…と思ったんだけど、次の日の朝起きると、船子ちゃんの姿はベッドの上には無く、その代わりに一枚の置手紙が残されていた。
『今日から一週間後の試合に向けてギアナ高地で修行してきます。取り敢えず、明鏡止水の境地ぐらいには覚醒して帰ってくる予定です。いつか一緒に石破ラブラブ天驚拳でもしような! あと、朝ご飯は冷蔵庫の中に入れてあるので、勝手にチンして食べてください』
因みに、船子ちゃんが作り置きしてくれていたハムエッグは物凄く美味しかった。
あの子…性格以外は完璧すぎない?
最初は船子のルームメイトは本音にしようかとも思ったんですが、彼女とは一緒のクラスなので接触する機会はまだまだ沢山ある。
かといって、逆に簪が登場するにはまだ早すぎるし、刺激も強すぎる。
というわけで、消去法で生贄には楯無になって貰いました。
一夏や箒、セシリアとかとは今までにもたっぷりと関わってるし、これからも機会はそれこそ山ほどあるので選択肢からは除外しました。
千冬? ブレーキ役がいなくなるから却下で。