「(幼馴染を恋愛的に見るのは)いやーきついでしょ」と言ったオリ主が幼馴染達に娶られるまで後…   作:ネマ

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お久しぶりです
そういえば今までレオニの純愛噺の方が少なかったなと思い、今回どうすればレオニ大勝利かつ願が救われるかもしれない可能性を考えていたら遅くなってしまいました申し訳ない

そういえば原作ゲームの方では互いのセカイが交じり合ったりし始めて今まで独自設定だったらセカイ周りの設定を絡めた話も書けそうです。まあもうしばらくかかりそうですが

レオニの幼馴染の話が出てきてましたが
この小説では幼い頃に公園で遊んでいたところに願くんがやってきたことにします(強調)

さてそれでは設定崩壊・過去改変・キャラ崩壊・独自設定注意です


IF・満点の夜空で目を閉じる

 

夢を見る。

それは誰かの人生だった。それは誰かの嘆きで絶望で怒りで虚無だった

幸せになりたかった男が、幸せになるはずだった男が過去の報いを受けて命以外の全てを失って失ったものだけを抱えて朽ち果てた誰かの人生のお話

 

贖えと、償えとそして……幸せになれと

嗄れた男の声に背中を押されて、そうして願は今日もまた目を覚ます

 

 

 

 

「だから多分、俺転生者だと思うんだよね」

 

「寝言は寝てから言ってね?願」

 

またこの幼馴染はアホなこと言ってるなあと手元のアイスティーをかき混ぜながら黒髪の少女…いや、一歌は目の前に座る高校デビューと同時に美容院に駆け込んで銀色のメッシュ志歩の色金色のインナーカラー咲希の色を入れた右側でサイドテール穂波の意匠で長髪を纏めている願の姿にそろそろぶち〇してやろうかなんて考えていた所だった。

 

なんの話になったのだったか、そうだった

いつも通りの平和な日常の中の一幕の誰かが言い出した来世の話。生まれ変わったら次は何になるのだろうかという占いをやってみたいという事で私たちが占っていた時に、来世なんて話をするから前世は何をしていたかの話になった

 

「証拠1。親がいない」

 

「幼馴染だから自虐だって分かるけど、絶対空気凍っちゃうよその話…」

 

幼馴染だから我慢できた。これがもう一歩進んでいたら我慢できなかったと願の右隣に座る金髪の少女…咲希が肩を撫でおろす様に願の証拠に突っ込んでいく。生憎と願と幼馴染歴が一番長いのはアタシとげんくんを挟んで隣のしほちゃんだから又聞きになるがそれはもう惨かったらしい

 

近所であったお陰かしほちゃんとしずく先輩が家の事を全部自分でやっているげんくんを見つけて今のこの幼馴染兼抜け駆け禁止同盟の形に落ち着いたが、もしもげんくんが居なければ私は3年近く殆ど1人で過ごすことになっていたかもしれないなんてぞっとすると咲希は小さく願の腕にしがみつく。

 

「証拠2。体が頑丈」

 

「ぶっ倒れたこと忘れてないからね。願くん」

 

顔を少し青ざめた咲希に今回は抜け駆けではないとして目の前でまだバカなことを言ってるクソボケに穂波が微笑みながら口を挟む。全くこのクソボケは私たちが独りぼっちになった時にも隣にいてくれて、そして共に夢に向かって肩を並べて歩いてく幼馴染に心底惚れ切ってしまうのも無理はない

 

呆れたクソボケだ。(貞操を)生かしてはおけぬ

と、それほどまでに私たちが大切な癖に自分の体はないがしろにするせいで倒れてしまった事は今でも悪夢として思い出せると顔を顰める。志歩ちゃんでも一歌ちゃんでも勿論わたしでも頼ってくれたらよかったのに、と今では願くんは学校にいる時以外は私たちと一緒にいることが約束になっている。

 

「証拠3。可愛い幼馴染たちがいる」

 

「………」

 

こういう事を本気で言うのだ。この願とかいう男は

と文字通り物心付く次のタイミングぐらいからは隣にいる幼馴染のたまに予想もしないタイミングでじわじわと効いてくる願の一撃に志歩は今日も勝てなかったと頬に熱が籠るのが分かりながら頭上の願の顔を睨みつける。

 

幼馴染の私から見て願には足りないものがある。それは危機感だ

例えばこういう風にさらっと凄い事言ったり、なんでもない様な顔して私たちと一緒にいることがやはり危機感が足りないと志歩は思う。願はもしかしてまだ私たちがただの幼馴染だと思っているのか

 

「しほちゃん顔真っ赤~!」

 

「咲希!」

 

隣から茶化す声が聞こえるが、そういう咲希もなんなら目の前に座る二人も我関せずと同じタイミングで頼んだ飲み物を飲もうとしているが見えているからなと髪に隠れながらも真っ赤に染まった耳を淑女の情けで見なかったことにしてやるか、と願を挟んで志歩は軽く咲希とじゃれ始めた

 

「…と、いうわけで俺は転生者なんじゃないかと思うんだがどうだ?」

 

「異議あり」「むしろ異議しかないでしょ」

「どうして立説出来ると思ったの?」「きゃっかー!」

 

流石に願も口をそろえて同音同義語で否定されれば顔文字にもあるようなしょぼんとした顔になってしまう。確かに傍から見ればお前変な薬でもやってるのかと言いたくなる願転生者説に当の本人はまあそうだろうなと納得して頼んでいたブラックに口を付ける。うん、苦い

 

大人ぶってブラックコーヒーに手を出したのはいいもののどうやら願の口にはまだ苦かったらしい。ここで1人だったら我慢せずに砂糖とミルクでも入れに行くがここは幼馴染の手前カッコ付けないわけにはいかないと謎のこだわりを見せたせいで苦いコーヒーをさもしたり顔で飲まなければならなくなった。

 

「…しかし、もう高校生かあ」

 

「話逸らしたね」「逸らした逸らした」「やーい」

 

横から茶々を入れる咲希の頬をもちーっと両手で引っ張って誤魔化す。なんとよく伸びる餅以上によく伸びるほっぺなのかと願は一心不乱に咲希の頬をこね始める。縦に横に丸書いてちょん、みたいな感じでただただ無心でそのほっぺを撫で続ける

 

そうすると次第に咲希の方が限界を迎えたのだろう。恥ずかしさを隠すためか、両手を上げて鳴き声を上げたところで次第に話の内容はまた迷走しながらも進んでいく。

 

「そういや、俺さ。高校生になったらやりたいことがあるんだ」

 

「やりたいこと?」「珍しいね願くん」

 

そんな時だった、やはり高校生になったことについての話が一番盛り上がるのだろう

今までずっと文字通り目が覚めてから夜寝る時まで一緒だった幼馴染が高校生になったことで別々の学校に進学した。その間に勿論色々とあったことは想像に難しくないが願にはおおよそ理想的な今になったのではないかとつぶやく。

 

髪色を弄っていつの間にか伸ばすのが当たり前になった長い髪の先っぽを指で遊びながら願は高校生になったのだからと脳内でやりたいことを纏めていたメモをひっくり返す。そこに書かれていたのは誰かの夢でも微かに感じていた夜風の記憶

 

「…で、そのやりたい事って?」

 

もったいぶる願の言葉を早く言えとばかりに志歩が促す。

この時点で一歌たちは全員()()()凄い嫌な予感というか、この先の言葉を聞きたくないというか…そんな感じのいやな予感が走るがこの時点ではまだ無罪、無罪です!と全員で目配せしながら願の言葉の続きを待つ

 

「いや、なんというかさ。」

 

勿論そんな幼馴染の葛藤に色んな意味で鈍い願が気が付くこともなく言葉の続きを口にする。

やってみたいことなんて無数にある。バイクの免許を取って走り出しに行きたいし、5人全員でどこか遠くまで旅行に行きたいがやはり一番は…これだろうか。

 

「そろそろ青春を知りたいというか……」

 

「うんうんそれで?」「具体的には?」

 

 

 

 

……彼女欲しいって思って

 

「「「「は?」」」」

 

 

 

最早言うまでもないが敢えてこう言おう

────瞬間、空気が凍った

 

一人席で仕事をしていた目元に隈を宿すサラリーマンはリア充くたばれと心の中で毒を吐き、テーブル席で雑談をしていた妙齢の女性たちは若いって良いわねと話している。突っ立っていた店員はそりゃ彼氏くん(仮称)が悪いわと一歌たちに心の中で同意した。

 

勿論、物理的に凍り付いたわけではない。わけではないが今この場は間違いなくニブルヘイムが如きの空気となり願に降り注ぐ。だがそんなモノ願の【どんかん】の前では無力とばかりに何も動じていない…だけでなく、いかに自分は彼女が欲しいかと熱弁を始めようと頭の中で考えている

 

「へえ、彼女ねえ」「今までアタシたちのアプローチなんて見向きもしなかったくせに……」

 

「ウム。高校生になったんだ、やはり青春と言うものをね…」

 

お前その続きを言ってみろ。どうなってもしらないぞと暗い微笑の中にドロリと甘い恋情を隠しながら穂波が呟く。一歌も咲希も穂波も志歩も全員が気が付いている、願の中に私たちに対する親愛はあれどそれは恋慕のそれではないと最初から気が付いている、気が付いてはいるのだ

 

けどそんな事、分かっていても認められるはずがない。

私が好きなのは貴方だけど貴方が好きなのは私じゃない。なんて使い古された文、それが十年近く続きながらも私たちの想いは何一つ変わらなかった。この恋を諦めるなんて、そんな事最初から考えたことはなかったけど…

 

(流石に辛いよ…)(もうこれやっちゃった方が良くない??)

 

何度目か分からぬ痛みを耐えるように片目を閉じる一歌の開く片目からは小さな水滴が滲む。

辛いのは失恋することではない。…願は間違いなく私たちに好意を持っている。だがその好意が私たちの好意と一切交じり合うことのない平行線である今が辛く、苦しいのだ

 

その横で腕に抱きつきながら咲希とアイコンタクトを交わす志歩。

純情に泣く一歌のピュアさは置いておいて、実は一番肉食獣なのが志歩と咲希である。今すぐにでも家に突っ込んで『わからせ』る事が必要なんじゃないかと今まで何回も何回も幼馴染の中で上がった計画だ。だがそれは願に嫌われてしまうかもと言う穂波の一声で今まで無期限延期となっている

 

だが、志歩だけは知っているのだ

穂波と願が本気で力比べしたら勝つのは穂波だと

 

「で、その青春は誰とするの?」

 

「そうなんだよなあ………」

 

脳破壊(未遂)による全治数時間の一歌と、また変な計画を動かし始めた志歩と咲希を置いて穂波は相も変わらない笑みを浮かべながら願に聞く。願の目指す先はある意味純真で、ある意味最も不純なモノ…それは即ち好きな人と添い遂げそして一生を過ごすことだ

 

だがそこには致命的な弱点があると穂波は知っている

願のそれは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そして今までの間に願は一体どれほどの人と時間を過ごしてきただろうか?朝起きてから寝るまで…私たち以外のヒトを見る機会なんてどこにも無かった。

 

(ね?誰の顔も浮かばない…だって願くんは)

 

もしも、在りうるべからずの可能性だが願くんがここで幼馴染以外の人に恋をするとしよう。

まず間違いなく誠実に幼馴染との関係を断ち切るだろう。だって私たちの恋慕に気が付いているから

 

ならそうなったらどうなるだろうか?

穂波は心の中で秘かに存在しない願の恋人を嘲るようにつぶやく

 

(私たちとの時間に()()()()()()()()()()()()()

 

ならまずどうなるか。間違いなく朝から夜まで一緒にいない時間が殆どになる

ある意味そんな恋人だとかそんなちゃちな時間を無駄に過ごしていない。【あの日】以降穂波は特に願に印象付けるように、刷り込むように教え込み続けた。私たちと、幼馴染と一緒にいる時間を。その時間が願にとって何よりも大切なものに、薬になるように

 

そしてその薬は私たちが居なくなった瞬間に毒になる

きっと願は耐えられない。誰もが恐れる《孤独》の味に耐えられない

 

一言で言うのなら穂波は願を依存させ続けているのだ。

穂波が築いて、咲希が蒔いて、一歌が繋いで、志歩が塞いだこのハーレムの中が一番幸福だと願が自分から逃げ出さないように四人で包んでいる。だれももう不幸にならない最高のハッピーエンドだと穂波は満足している。…だがしかし、そんな願が自分から外に出たがるなんて【わるいこ】みたいな事を考えるなんて

 

「まだ決まってないならわたしたちで練習してみない?」

 

「練習?」

 

「そう、練習。彼女が出来た時の練習はどうかな?」

 

そんな可愛い愚かさも好きだけど、見過ごすわけにはいかないと穂波は踏み込む。

一歌ちゃんには悪いけど泣いてて貰おう…願くんの罪悪感を刺激するのには必須だ。代わりに一番最初にしてあげるから、と横を見ながら考える。志歩ちゃんと咲希ちゃんは上手い事願くんを離さないでいてくれるからこちらも有難い

 

「とはいえ穂波たちをそういう事に巻き込むのは…」

 

「でも願くん。彼女出来た時、エスコートとかできるの?今の流行りは?」

 

だが、願にとって妹分にして姉貴分にして家族にして大切な人である一歌たちをそんな練習台に見立てるような事には難色を示した。そんなあまりにも()()()()()()()()()()()()()()()()()()と願は当たり前のように、誇らしげにその選択を尊重した

 

勿論そんな事、既に穂波は織り込み済みだ

気が付いていないのだろうか。既に願の中でわたしたちを上に置くという考えが染みついているのを、可能性と比較してあやふやな…もしかしたらわたしたちと一緒にいるよりも幸せになれるかもしれない可能性を比較して選んだ。選べてしまった

 

「ぐ、…た、たしかに…」

 

「でしょ?それにわたし含めてここには流行りに詳しい女の子が4人いるよ?」

 

結局のところ、と穂波は考える

覚悟が足りなかったんんだ。何もかもを踏みつぶして均して、覆い隠して塗り潰す覚悟が足りなかった。愛のために全てを賭ける覚悟が足りなかった、だから惨めに死んだのだ。殺してしまったのだ

 

まあそんな惨敗兵なんてどうでもいい。

願くんにどう思われようと、誰が近づこうとも。いまのこの時間を維持するための努力も投げ捨てておこぼれを狙おうとする無様な姿も、何もかも手から滑り落ちた後の執着もいま、この時のわたしの礎になっている。そう思えば多少は溜飲が下がるというものだ

 

「……ね?まだ、何かある?」

 

「な、いな…穂波には負けるよ、ホントに」

 

目の前の穂波の微笑み、そしてその横で涙を噛み締める一歌。そして今も願の支えとなっている志歩と咲希の姿に願は悪い事をしたような気分になってしまう。確かに彼女は欲しいけど、それは今の時間を切り捨てるほどの出会いも無い、なら多分この選択が合っているのだろう

 

「悪かった。彼女なんてそう簡単に作れるもんじゃないよな」

 

「そういうわけじゃないけど……そうだね、わたしたちがいるんだよ。願くん」

 

そんな少ししょぼくれた願の姿に穂波は少しだけ意地返しをするかのように【わたしたち】を強調してアピールする。大丈夫、ハッピーエンドは私たちが望む最も最善で幸せな結末はもうすぐだ

 

─────だから、早めに諦めて頂戴ね。願くん

 

 

 

 

「だから願はもっと女心と言うものをね」

 

「いっちゃんのいうとーり!げんくんは反省するように!」

 

そうしてカフェを出て帰路へと着いた3人。特に悲しませた罰として、そしてエスコートの練習のために一歌の付き合いをするようにと言われてたどり着くは楽器やCDなどの音楽系の機材が並ぶ商業ビルの一角だった。ちなみに横から一歌に同意するように声を上げる咲希はついてきた

 

「はいはい」

 

とはいえ最近までは病院のベッドから出れなかった咲希だ。こうして横並びになって歩くことさえも新鮮さと懐かしさで鼻の奥がツンッとくるのは多分口にはしないけど一歌も、なんなら志歩だって穂波だってみんな思ってることは一緒なんだろう

 

みんな一緒でいたかったから

その夢がようやく叶ったのだとしたら、それほど幸せなことはない

 

「むー……本当に分かってる?」

 

「分かってる…悪かった」

 

両横から頬をツンツンと突かれると流石の願も気恥ずかしいものがあるのだろう

逃げ出しそうにするがそれでも幼馴染になされるがままなのは間違いなく願も嫌がっていない、どころかきっとそれは幼馴染を好いているからが故のパーソナルスペースへの入りの許し

 

「そこはアタシたちが一番待ってる言葉が欲しいな~?」

 

「……え゛っと」

 

だけどまさかそこでそう切り返されるとは思わなかったと願は目を見開く、そういう返し方をするのはいつも志歩や穂波であるという印象が願のどこかにあるからまさか意外なところから飛んでくるとは思わなかったと一瞬思考が停止する。

 

だが、その隙を一歌たちは見逃さなかった。一瞬の刹那に歩いていたビルとビルを繋ぐ連絡通路の物陰に願を押し込んで物理的に目の前を二人だけの顔にした。…丁度狙ったかと言わんばかりに願から見える一歌と咲希の顔は逆光で影が差し込み爛々とその青色と赤色の瞳だけが輝く

 

「それもそうだね。咲希天才」

 

「でしょ~?放っておくと別のメスに目を向けるわぁるいげんくんが欲しいな~?」

 

少女たちの火照った頬に、瞳に浮かぶその上擦った熱の視線は願を絡めとるように逃がさない。

二人から両脇を閉じ込められるような壁ドン。ニンマリと笑みを浮かべてこちらを見上げる姿は一言で言うのなら艶やか…決して幼馴染以上の感情を抱かないと決めている願でさえも喉を鳴らしたくなるような引きずり込まれる……

 

いいや。引きずり込まれてどうする

と敢えて願はそんな二人に乗るように顔を近づける

 

「だめ。それ以降は怒るぞ、咲希。一歌」

 

一歌が、咲希が志歩が穂波が好きだ

幼馴染としている今この時間、この瞬間が大好きだ。時よ止まれと貴方たちは何よりも美しいと願っているからこそ願は出来るだけ早く早急に()()()()()()()()()()と思った。さっきの穂波の言葉で言いくるめられている辺り、もう願は限界なんだろう。

 

成長の頭打ちに来ている

早熟の限界に到達したのだ

 

「……どうやって?」

 

「えっ」

 

「どうやって怒るのかな~げんくん?」

 

言葉では指先の誤魔化しではもう通用しなくなっている。

今もこうして、物陰に押し込まれているのがいい例だろう。少し前の一歌なら手を繋ぐだけでも照れていたのに今ではこうしてと、まるで決して逃がさないようにと両手を片腕ずつ一歌と咲希に指と指まで絡ませて繋いでいる手をチラリと確認する

 

「…………」

 

「あははっ、願。答えてあげようか?」

 

「そんな事、できないって~ね?」

 

そんな一瞬、願が目を逸らした時を見計らったように二人は更に一歩近づく。まるでそれは一歌たちにどこまでも心を許す願が持つ本当に誰にも通らせることを許さない最後の願の殻を割るように、今まで逃げ続けて一歌たちの手からスルリスルリと消えてきた願の糸をもう離さないために

 

「怖がらないで…願」

 

「怯えないで…げんくん!」

 

まるで消えるために飛び立とうとしたその姿を繋ぎとめるためには1人独りの手では足りなかった。

あの日と同じだ。ボロボロの笑顔で『大丈夫だよ』と言った願の口からもう限界だと零れるように鮮血が舞い散ってそして白の制服によく目立つ赤の斑が舞い散った

 

一歌が、穂波が、志歩が悲鳴を上げるよりも先に願の体が横にブレた。

誰か、何かを掴もうとする腕すらあがらず抵抗もままならないままに願の体が解ける。それはまるで糸がポツリと切れた操り人形のようにも見えて、まるで壊れる寸前の道具のようにも見えて、ただただ物理に従って横に崩れ落ちたあの日の事を、一歌は覚えている/今も夢に見る

 

「…………っ!」

 

蟠りも何もかもその瞬間だけはどうでもいいと投げ捨てて近づいたその身体は酷く薄っぺらくて、まるで中身だけどこかに消えたかのような軽さ。私たちのその衝撃を他所に私たちの大好きな透き通った空を映した目が一度だけこちらを見た

 

「何があっても願の隣にいるよ」

 

「話してくれなくても大丈夫だよ」

 

その目を覚えている。私たちを見ているわけではない、私たちに何か想っている目ではない。ただ、どこか遠くを見てまるで安堵するかのように目がとろけて、瞬きが途切れてそしてその後すっと身体からまるで何かが抜け落ちたかのように力尽きた

 

あの日、私たちはようやく気が付いたのだ

目の前に立つ願くんが私たちの灯火だとか、導きの星ではない。ただ頑張り屋さんの幼馴染である事を…きっとそれを知らぬまま進んでしまったら私たちは願をどうしていたのだろう。きっと空回りするのだろうなと嫌な自信があった

 

「だから───早く私たちを受け入れて、ね」

 

けど今は少なくとも違う。

私は、私たちはありのままの姿を受け入れるのだと一歌はいつか掴んでくれるを思って手を伸ばすのだ

 

 

 

(むー…やっぱり置いて行かれてるのは私だよね)

 

目の前で目と目を合わせるいっちゃんとげんくんを見て割り込んではいけないぐらいは空気を読むアタシですが、それでもひとり置いてけぼりなのはどうかと思うのですと咲希は目の前の光景に内心思考を垂らす。考えることは願を共有する乙女の協定同盟の事

 

いくら抜け駆けしないし、させないとは言えアタックやら誘惑はオッケーなのだ。そう考えるとやっぱり一足抜けて出遅れているのはアタシではないのかという訝しみどころではなく確信を得ている咲希はやはり歯噛みするしかない。

 

(まずったなあ…アタシの想定だったら、ほなちゃんがもっと躊躇うと思ってたのにな)

 

確かに共有する以上、誰も不幸にはならないけど

それでも好きな人の一番隣は全員が欲しいわけで

 

これは実質正妻戦争なんだと咲希は予想が外れまくる現状にもどかしく思っている

げんくんに起きた事は大体把握している。お兄ちゃんからも聞いているし…だけど、残念なことに聞くだけと目の前で目撃するでは大きく意味が違う。正妻気取りではないにしろ搦手も、作戦もそれまでのほなちゃんとは考えられない成長…これが女性としての余裕なのだろうか

 

その原因、というより成長のきっかけになったのは間違いなく願くんが倒れた事だろう

ある日を境にいっちゃん、しほちゃん、ほなちゃんと3人は被らないようにやってきたのが幼いころのようにみんな揃って私たちは話をするようになった。同盟もその時にほなちゃんが打ち立てた作戦

 

『多分、みんな考えてることは同じだとは思うけど…わたしたちが争い合ってるだけじゃ願くんは絶対に振り向いてくれないよ』

 

というかさりげなーくほなちゃん正妻の座に座ろうとしてたよね。もう隠そうともしてないけど、と咲希は喜び半分苦い気持ち半分で思い出す。確かに誰がアタシたちのまとめ役出来るかと言われればほなちゃん…になるか。げんくんとの夫婦役もあるし一番いいのだろう

 

(それはそれとして負けないけど)

 

ほなちゃんがバルンバルン揺らしながらドラム叩いているのを見るとこれでげんくんを誑かしたのかと思うとちょっと嫉妬しそうになる。別にそれで区別するようなげんくんではないから特にアタシが認められないというか、なにをしたらここまで大きくなるのかちょっと気になるは気になる

 

まあそんな事はさておいて、今は目の前のことだと咲希が陽気に口を開いた

 

「そーだよ!げんくんは難しく考えすぎ!!」

 

「そうかな……?」

 

そう、難しく考えすぎなのだ。外夜願というこの幼馴染は

アタシのお兄ちゃんぐらい自由に…それはなんか嫌だな。げんくんがそうなれるってことは間違いなくアタシたちよりもお兄ちゃんとの仲が良くなってるパターンだ。げんくんがいい方向に成長したのは嬉しいけど、その道中でアタシたちは棄てられてそうだ。の、脳みそが軋む……

 

一度破壊された脳みそは戻らないのだ。純愛しか許されないのだ

……しかし、げんくんの『それ』はなんというべきだろうか?妄想癖がひどいというにはあまりに真に迫っていて、なにかに縋るというにはあまりにも独りのげんくんの『それ』をまだアタシたちは正しい言葉で謳えない

 

謳えない言葉にアタシたちはなんの意味を宿せられるのだろうか?

…………きっとその答えが今の姿なんだろう

 

「ね?げんくんにとって、アタシたちはいつまで守らないといけない【子ども】なの?」

 

「…………っ!それ、は」

 

げんくんの世界の中にいるアタシたちはきっと同じ場所を見てはいないのだろう

そしてそれをげんくんは理解しておきながらも目を伏せ続けた。ぶつかればきっとアタシたちを曲げてしまうとでも思っているのだろうか?

 

そうだとしたらまだアタシたちがげんくんにとって足りないのだろう

背中を預けるには遠いという事だから、それはとても残念だけど

 

「そういうわけじゃ、ないんだ……ただ、」

 

「ただ?」

 

その後の言葉を待った。どんな言葉が聞けるのだろうって

げんくんはアタシたちをどう思っているのか知りたくて

 

どう答えてもアタシの勝ちだ。げんくんの心を明かすのはアタシだ

そのつもりで待った、待って待って…まるで1秒が一億にも引き伸ばされるような感覚の中でげんくんはまるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()凪いだ瞳でアタシをその目で見た。

 

「ううん。なんでもない…けど、まだ俺たちは子供だよ」

 

「………………それもそうだね!!」

 

真実か嘘かさえも明かさない時折、げんくんが見せる蜃気楼のような眼差し

きっとそれもげんくんのひとつなのだろう。けどその姿を誰にも見せたことが無いとはいえ…だからこそ咲希はこう願う。孤独だったアタシを救ってくれた幼馴染に、そして一人の少女として

 

 

────────いつかげんくんの憂いが晴れますように、と

 

 

 

 

 

「寝れないの?」

 

「……志歩?」

 

時間は夜。それも日付が変わるかどうかの未明に願は1人眠れぬとばかりにリビングに降り立ち何をするわけでもなくただ窓から覗く夜空を見上げながら物思いに更けていたその時だった。上から同じようなパジャマを羽織った幼馴染である志歩が小さく扉を開いてこちらへと顔を覗かせていた

 

いくら夜寝る時まで一緒と言えど流石に願のベッドは大きくても、もう2人入って3人でぎゅうぎゅうだ。比較的に寝相のいい願といえど流石に寝苦しいものがあると志歩と穂波を置いて出てきたのだのだろう…とはいえ、もうプロも秒読み間近となった幼馴染たちを起こすには忍びないと細心の注意を払って出てきて、リビングのライトも付けずにいるのにまさか志歩が起きてしまうとは

 

「寝れないなら言ってくれたらいいのに」

 

「すまんすまん。どうしても、な」

 

そうしているとひたひたと足音を殺したまま志歩が願の膝の上に乗る。

重さも感じさせないようなそのなんの躊躇もない近づきにはもう願も慣れたのだろうか体全体を伝わるまるで子供のような温もりの熱に身を任せてまた空を眺める

 

「……………」

 

「………何か言ってよ」

 

とはいえ、そんな願の気にしてませんよみたいな態度も乙女心にはクるもんで…せめて何か反応が欲しかったと聞こえるぐらいには小さな声でつぶやく。…この場が空の星光だけの輝きでよかった。きっと互いの顔が鮮明に見えるような場所だったら私の顔は多分真っ赤に染まってたと志歩は思いながら頭上を見る

 

青いその瞳が夜を眺めている。何を感じているのだろうか、何を考えているのだろうか。

そんな彼の揺れる瞳がどうにも独りぼっちに見えて、追いかけ続けた半生だった気がする

 

私は、エティエンヌになれるだろうか

彼方の夜空で独りぼっちの星を拾い上げられる人のように、私の音楽は独りぼっちの瞳に映っているのだろうか。…そう思うぐらいに今の願はまるで薄く、遠く、そこにいてどこにでもいないように見える

 

「…さあ、どうにも」

 

「どうにもって…まあ願らしいか」

 

夜の間。輝く星が高い高い場所で光る時間だけこうした穏やかな無口な願の姿を見れる。その姿は志歩の独り占め、幼いころからずっと一緒の志歩だけの秘密。…まあお姉ちゃんも知ってるけど、そっちは多分大丈夫、大丈夫なはず

 

さておいて。この時の願は夢現というか反応が鈍いと志歩は良く知っている

だからこそ昼間では聞けないような事が聞けるのだと、志歩は手を握りながら口を開く

 

「………一歌とか、頑張ったんじゃない?」

 

「まあ、ね…誰かに好意を伝えるのは簡単なことじゃないから」

 

あの日、志歩が願と出会っていなかったら。

もしもあの日少しでもボタンが掛け違って、こけた願の手提げ鞄から日用品が落ちなければきっと2人は…4人と1人は出会うことも無かった。私たちの願への問いに願が1人である事を言わなければきっと幼馴染にさえなっていなかっただろう

 

「それじゃあ咲希は?」

 

「末、恐ろしいなと思うよ。…けど、とっても嬉しい」

 

そうして出会わなかった未来ではどうなるだろうか

まず間違いなく咲希が1人になる。そして私たちも多分咲希が帰ってくるまでバラバラになったままなんじゃないか。けど意外と穂波が声をあげてくれそうな気もする

 

「穂波」

 

「穂波は…もう、言うことないだろう。俺を殺してくれる人だ

 

なら逆に願はどうなっていただろうか。

……考えたくないし想像するだけでも恐ろしいがその結末はきっと言うまでも、無いのだろう。今もこうして空に浮かぶ半弦の月へと手を伸ばす願は希うかのように、まるで生れ落ちた赤子が虚空に触れようと手を掲げるように

 

「なら…私は?」

 

「志歩は、…志歩は……」

 

まだ手遅れじゃない。まだ願には道がある

今もこうして迷っているのがいい例だ。迷いながら、声が震えながらも私たちを口にしているのがきっとまだ願に私たちの歌は届く。届けて見せる

 

願を飛び降りさせてなるものか、答え合わせなんてするもんか

 

「…うん。けど、私は待たないからね」

 

「ああ、それは…とても、きれいだ」

 

微笑む願の首に、そっと歯を立てて噛む。

この痛みが、この痕が少しでも貴方を繋ぎとめる傷になればなんて

 

 





◇キャラクター紹介

外夜願

外夜願であって外夜願ではない。他のどの世界線よりも前世の記憶が薄い願がこれ
在り方としては某運命ゲームの疑似サーヴァントに近い。記憶を自分のモノではなく、そういうものがあるとしか認識していないため他の願よりも幼少期の幼気さが前に出てきている

()()()()()()()()()()()()()()願が過労により倒れた場合の描写は等しく同じである


望月穂波

おそらく一番成長が著しいのがこの世界線の穂波
時折別世界線からなんか受信したりするが至って普通です普通。幼馴染を依存させてハーレムを築こうとか考えているけど多分普通。恋は全力フルスロットルです

え?夜直?…あんな惨めな未来なんてあり得るわけないでしょう?


星乃一歌

おや…一歌の様子が??
つよつよに進化した代償に願の倒れる姿が隠し切れないほどトラウマになっている少女。たった一人で目の前で倒れられたら先に私がどうにかしないと!が先に来たけど、ここではなんの偶然か3人そろっていたからその分、願が倒れる寸前に何を思っていたのか分かってしまった


天馬咲希

割と敏い少女せいか、大体どの世界線でも気が付くときは結構本質を見抜くことが多々ある
おそらく咲希への強化パッチがキャラ崩壊の中でも最たるものな気もする。天真爛漫さと時折見せる知性的な二面性で願を追い詰める。追い詰めれば追い詰めるほど願が───と思ってしまう事には気が付いていない


日野森志歩

置いて行かれなくなかったから夜へと挑んだ勇敢な少女
果たしてソユーズ11号となるか、ボストーク1号となるかはまだまだ分からない


感想、評価お待ちしてます。

次回何書きましょう(最終的に全部書きます)

  • 異聞:魔法少女パロ
  • 異聞:夜の娘続き
  • もしも冬弥と兄弟だったら…
  • もしも奏と双子だったら…
  • もしもまふゆと双子だったら…
  • TS願
  • 配信者願
  • 幕間1 続きリメイク
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