百城千世子を生で見たい、なんなら喋りたいし触りたい   作:ジョー/ヤマナル

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今回はアキラ君とのドライブです




邂逅

 

二人の間に会話はない、ただ黙々と運転するアキラ君とその隣の助手席に座る俺との間にあるのは沈黙だけだ

だが音が無いわけではなく車内で流れるエンジン音や風を切る音は全くの会話も何もない静寂よりかは少しだけ心地よいものだった

 

俺を乗せて進むこの車は向かう先を知ってからはさながら監獄のように思える。一度進み出した車の中から外を見てみてもものすごいスピードで風景が流れるばかりで到底出られそうにない

 

外を眺めているとふと思いついた走っている車のドアを開けてそこから飛び出して回転しながら勢いを殺すという行為はアクション俳優でもない限り無理だろう

 

俺はバラエティーにも出ることはあるが基本ガチガチの演技派だったし、体力作りのための運動なんかもしていたがそれらも最低限でメソッド演技をはじめとする演技練習ばかりやっていた

 

今更怪我は気にしなくて良いのだから案外出来るんだろうかなんて思うが、さすがに今この状況で逃げ出すなんてことはしない。それもあるしおそらくはできない

 

俳優業を辞めてしまってから半年ほど経ち、筋力も当時と比べれば落ちてしまった俺にはできそうになかった

 

それでもこの衰退についてはまだマシな方だろう。たまたま通い始めた高校に夜凪がいなかったらずっと腐ったままで時間を浪費していただろう

 

前までは習慣だったランニングを再開しただけで演技練習なんてやらなくなってから久しい。それでもまだ演技に関しては役者時代と同じくらいのことは出来るだろう

 

幼少期からの鍛えた結果だ。いまさら数ヶ月じゃ腕を落とすには時間が足りない

 

 

今更だが夜凪には感謝しなくてはならない、夜凪がいたおかげでまだ『アクタージュ』がはじまってもないことを思い出すことが出来た

 

それが無かったなら今こんな場所にいることもない

 

赤信号で車が止まり、流れる風景も止まる。アクション映画のようなことをしなくても今なら出ていけそうだなとなんとなく思う

まあ動いていないということはアキラ君も自由ということだから抜け出せるかは怪しいところだが

 

止まったことで風を切る音やエンジンの音が鳴らなくなった

 

 

入院先の病院の夜もこんな様子だったと思い出す

 

静寂だけが響いて、何もないことが神経を削っていく。誰もいない、冷たさすら感じる程の沈黙は心に痛みを残していく

 

それが俺は苦手だ。それならばいっそ喋りかけてみようか、と思い隣を見てみるもアキラ君はこちらに気づいても一瞥もしなかった

 

スターズを車で出てすぐ目的地だけを手短に語ってからは 一言もアキラ君は喋っていない、スターズに向かう時には感じたこちらを見る視線も全くと言ってようと感じない

 

役者を辞めてから視線を感じる技術の腕がなまったのかとも思うが、あんなことがあったせいでマスコミに敏感になって生きてきたからむしろ腕は良くなったとも言える

それなのに僅かたりとも視線を感じないのだから本当にこちらをチラリとも見ていないのだろう

 

その理由が説得を諦めたからとかだったら良かったのに

 

青になった信号にアキラ君がアクセルを踏んでこの沈黙よりは心地がいい雑音が始まろうとした時だった

 

 

音が鳴った

 

 

それはあまり大きな音ではなく一般的な携帯電話の音と同じくらいの大きさで鳴った音だった

なのによく響いて聞こえるのは今までの沈黙がそれを助長させているからだろう

 

音がなる方に目を向けるとアキラ君の携帯電話があった。その画面をチラリと見てみると通話開始の受話器のボタンとその上にお母さんと書かれた文字があった

 

アキラ君も俺と同じようにちらりと画面を見るが運転中ではどうしようもなくすぐに視線を正面に戻した

 

車内にはその音だけがうるさい程激しく鳴っていた

少しの間だけであったが、それは沈黙よりも辛い時間に思えた

 

だが俺が口を出すことでもないだろうと思い、アキラ君が口を開くのを待っていた

 

 

「出てくれないか?」

 

 

発したのは一言。それはある程度は想像出来ていたので特に驚くことなく返答出来る

 

 

「わかった。スピーカーにした方が良いか?」

 

「あぁ、収集がつかなくなったら口を挟む」

 

 

あぁ、これも憂鬱だ。あの時そうしなきゃいけなかったのは解る、今でもそう思う

 

 

「お母さんは君のことを後悔していたよ」

 

「…………解ってるよ」

 

 

でも自惚れかもしれないけど、たぶんアリサさんは俺のことを物凄く後悔する

 

アリサさんの信念は、生き様は、俺程度だったとしても自社の役者が不幸になったことに責任を感じてしまうんだろう

 

スマホを手に取り、1つだけ心に決める。自分の行動を否定しないようにしよう。それを疑えば、自分自身が揺らいでしまうかもしれないから

 

それだけ覚悟して、画面に映る緑の受話器のマークを押した

 

 

『アキラ! あなた今何処にいるの!?』

 

 

真っ先に飛んで来たのは心配と怒りが混ざった声だった

 

これでだいたい察することが出来る。何も言わずに出て行ったことを心配してかけてきたのだろう

 

さて、重要なのは最初に何を話すかだ。そんな状況で知らない男の声が電話の向こうから聞こえたらそれは向こうからしたら事案だろう

 

だからまず話すべきは自分が何者なのか、名乗りをあげなければならない

 

 

「久しぶりアリサさん----------------

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「え………?」

 

 

電話の向こうから聞こえてきたのはアキラの声ではなかった。でもそれは久しく聞いてこなかった懐かしい声で、それに若干の嬉しさとなぜ彼がここにという思い、そしてもう懐かしいとすら思う程前の出来事なのかという感傷を覚えた

 

 

「あなた、本物?」

 

 

もし、もし本物なら言いたいことはたくさんあった。怒りも、安堵も、寂しさも、一人の人間に対して持つことがないであろうレパートリーの言ってやりたい言葉が浮かんでは消える

 

 

『あぁ、本物だよ』

 

 

その声は飄々としていた。それだけで私は間違いなく彼なのだと核心した。たくさんあった話したい言葉はどれから出したらいいのか解らなくなった

 

 

『今さ、アキラ君の車にいる。そっちに夜凪って女の子がオーディション受けに来たと思うんだけど、その子迎えに来たアキラ君とバッタリ会っちゃって』

 

 

言いたいことは増えていく、その子とはどういう関係なのとかどこに行ってるのとか。それらの話題は話そうと思えば話せたのかもしれないが彼が話してる途中だと思い、言葉を押し込んだ

 

 

『その子とはただの学校の友達なんだけどさ、まぁそれで今一緒にアキラ君とドライブしてるよ。アキラ君が運転してる。だから俺が代わりに出た』

 

「…………行先は?」

 

 

事情はだいたい掴めた。アキラが彼に対して抱いていた感情を知っていたからここまでの暴走まがいの行動の理由も掴める。最悪殴り合いになるものと想像していたからまだマシなのだろうと思った。ただ一つ気になったことは質問をした

 

 

『…………………百城さんの家』

 

「は?」

 

 

前言撤回、アキラは焦ってるかもしれない。特大も特大な地雷二人を会わせようとしている

 

 

『アキラ君が言うにはさ、もう会うしかないだって。そうでしかお前は変わらないからもうそれしか方法なんてない。ってさ。あとは早いか遅いかだからはやくやるべきだって』

 

 

それがアキラの出た答えらしい。言っていることは解る。たしかに地雷の解除が出来ないなら爆発させないといけない。焦りすぎとは思うが悪いわけじゃない

 

 

「わかったわ。そういう事情なら理解出来る。千世子に会うことについてもスターズの社長として許可するわ。事後承諾になったことはあなた絡みのことならしょうがないわ」

 

 

アキラも千世子もいまは荒れている。アキラにとっても地雷な彼と再会したのなら多少多めに見るべきだ

 

 

「千世子と再会したら何を話すつもり?」

 

『え……と、俺まだ決まってなくて。どうしたいのか、どうするべきなのか考えたくて』

 

 

帰ってきたのはどっち付かずな返事だったがいきなり連れてこられたのならまぁしょうがない部分もある。彼の事なら千世子に対して今より悪くはならないはずだ

 

 

「そう、今はまだいいわ。ただ会うまでには何か考えることとそれに縛られ過ぎないことね。それと、千世子としっかり向き合いなさい。アキラともだけど」

 

 

ただその返答でまだ向き合えていないことはわかった。もしくは揺れているのかだが

 

 

 

「あなたの方からも腹をわって話をしなさい。あなたは自分を軽視しすぎる」

 

『………わかった。アキラ君がもうすぐ着くって言ってるからいったん切るね。……いろいろと、ありがとうございました』

 

 

 

そう言ってしばらくしてから電話は切れた。ツーツーとただ無機質な音が聞こえてくる

 

大丈夫なのかと心配する感情も私の心には十分すぎるほど存在していたが私はアキラ達を信じてみたかった。アキラも千世子もメンタルが不安定になった今の状況を変えて欲しかった

 

こんな大切なものを役者だけにたくすなんて自分でもどうかしている。でも彼ら彼女らの問題だ。私は口を挟むべきじゃない

 

 

「頑張って………」

 

 

口から漏れた言葉は託す言葉だった。ただの単純な応援の言葉

 

誰も不幸にしない会社を作る。そんな目的を掲げてスターズを作った。でも私はもう手を出せなくなってしまった。

 

その言葉は私しかいない部屋に響いていた

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

あのアリサさんのよく通る声が車内に響き渡っていたが電話を切れば会話のない静寂に元通りだ

 

 

「………アキラ君」

 

 

どうにか絞り出せたのはひどく震えた声だった

 

 

「俺、まだどうしたらいいのかなんて解らない。アリサさんが言ったこととアキラ君が言ったことが間違ってないと思う。でも俺が行ったことも間違ってなんかないっても思う。どっちが正しいのかなんてわからない」

 

「………まだいいさ、今日の百城さんの仕事が終わるのは夜中の8時前らしい。その間考えてみなよ」

 

 

その日、俺達が百城さんのマンションに着いたのは昼になる前の11時頃だった。

 

この場所も懐かしい。今思えば乗っているこの車もアキラ君が運転しながら俺と百城さんが後ろに乗ってよく喋ったものだ。今はアキラ君と俺の2人だけだしその中に会話はない。何かそれが変わってしまったことを表していて悲しくなる

 

後部座席に俺一人だけ。そして車内の広さと静寂は胸を締め付けるばかりでまた悲しくなった

 

でもそれと同時に俺に悲しむ資格があるのかとも思う。これは罪だ。そしてそらを選択したのは俺だ。だとしたら俺がするべきことは悲しむことでも後悔することでもない。ただ自分が正しいことをしたと信じて、それを乗り越えて行くしかないのだ

 

俺の選択は間違っていなかったのだと、そう信じてみる。確かにその後の選択は間違えたかもしれないみんなと連絡を取らなくなったことは取るべき選択ではなかったかもしれない。でもとらなきゃいけない選択だったのだ

 

自分自身が迷わないように。自分の選択を正しいものにするために

 

そうだ、きっとそうだ。最近はテレビを見ないせいか目にしてはないけれど百城さんは今こうして芸能界に残ってる。スターズの風評被害だって最低限に抑えた

 

俺が居なくなっただけじゃないか、最終的な結果なんて。アキラ君もアリサさんもああ言ってたけど、俺とスターズが共倒れするのが正しい選択だったのか? 百城さんが女優を辞めるかもしれないのが正しい選択だったのか?

 

それは違うだろ。

 

それに原作に俺はいなかったし、実際それで回ってた。だからもういいだろ。どうせ俺は役者に復帰なんて出来ないんだから

 

俺はそう思った。俺はこれが正しいと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………時間を与えられれば考えてしまっていた。その考えは自分の頭だけで考えてこねくり回した屁理屈のようなもの。自分が間違ってるなんて思いたくなかったから、そんなこと考えたくなかったから考えてしまう

 

本当に正しいのならこんなこと考えないはずだ。 どこか自分の中で正しくないと自覚しているからこんな言い訳まがいのことを言えるのだ

 

 

 

そう気づいたのは百城さんに再会した時だ

 

 

 

アキラ君の車の中で過ごしていた俺たちは、マンションの前に一台のタクシーが止まったことに気づいた。時間は夜中の7時頃でもうここに車を止めてからかなりの時間がたっていた

 

そのタクシーに彼女が乗っているなんて確信はなかった。今までも何回かタクシーが停まったことはあったがそのどれも百城さんではなかった

 

それでも目が離せなかった。今まで駐車場に止まった車から人が出てくる度に、それが百城ではないことに安堵していた。俺は彼女がそのタクシーから出てくることを望んでいたし望んでいなかった

 

会いたくないといえば嘘になる。好きな女性に会いたくない人はいない。それも半年ほども会っていなかったし顔も見ていなかった女性だ。もう一度見てみたいと思うことは当たり前のことだろう

 

それでも会いたくないと思ったのは無自覚ながらも自分のやったことが間違いだと薄々感づいていたからだろう。 それを自覚するのが怖かったのだろう。自分は間違っていないと思い込んでいたかったからなのだろう

 

 

 

しかし、自分にかけていたそんな思い込みは彼女を一目見ただけで崩れてしまった

 

 

 

タクシーから出てきたのは百城さんだった。身バレ防止のためかマスクをつけている。俺はドアが開いて、その白い髪が見えたその瞬間からもう一時も彼女から目を離すことなどだきなくなってしまった

 

彼女の白い髪は薄暗くなってしまってもその輝きが見えてしまう

 

マスクや服の間から見える素肌も陶器のように同じく白く美しい。

 

着ている服も撮影用ではないいたって普通の服であるがそれでも彼女に似合っていて彼女を際立てている

 

 

駐車場に天使が降臨したかのようだった

 

 

俺は百城さんから目を離さないようにしながら車のドアを開けた。その音で向こうも気づいたようでこちらに目を向ける

 

変わっていないと思った。車から出てきた百城さんと会うのは久しぶりだったが彼女は変わらず美しいままだった。

 

でも違った

 

 

 

目が合った

 

 

 

百城千世子と、目が合った

 

 

 

百城さんの目は俺を見てから瞬きするのを忘れたように一時も目をそらさず俺を見つめていた。そのまま時が止まったみたいに見つめあっていた

 

しばらくすると向こうは俺に向かって走ってきた。そして俺の背中に手を回して抱きついた

 

彼女は何も喋らなかった

 

ただ、俺の胸で泣いていた。もう二度と離すまいと、回す腕には力を込めて。手のひらは俺の服をがっしりと掴み、泣いていた。それを見ただけで俺の中には自分でもわからないようなひどく黒い後悔が溢れだして俺の中を満たしていった

 

それで俺は一切を理解した。俺は間違えたのだと。今の彼女を正しいなんて思えなかった。彼女のための行動は彼女のためにはなっていなかったのだと、ようやく彼女に会ってから俺は気づいたのだ

 

 

 

彼女は、天使じゃなくなっていた。ここにいるのはただの百城千世子だった

 

 

 

 

 

再会できた事に対する激情に振り回されて、声も出せず、仮面を被ることも出来ずにただただ泣いている一人の女の子だった

 

 

 

 

 

 

 

 

俺はそれに対して抱き締め返すだけだった

 

 

 

 

 

 

 





次回やっと千世子ちゃん視点で主人公君になにがあったのかです。ようやく曇らせだと思うとやる気が湧きます。

はやくに投稿できるように頑張ります
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