宵明けのコンチェルト   作:ブラック5930

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第3話「セカイと住人」

 

“誰もいないセカイ”

 

 いつからかそう呼ばれるようになった真っ白なセカイの片隅に、何人かの人影が佇んでいる。

 一際背の高い人影へと背の低い人影が詰め寄っている最中、光がセカイを満たした。

 

 

「あ、みんな!もう来てたんだね!」

 

「……連絡があったから」

 

 

 光と共に現れた人物、瑞希にまふゆが反応を返す。そこで瑞希はまふゆの後ろへと目を向け、怪訝な表情を浮かべた。

 

 

「……で、ふたりはケンカ中?」

 

「違うわよ。

奏が見当たらないからなんで急にセカイに集まることにしたのか聞いたんだけど、靱が答えないから」

 

「じきに本人が来るんだ。

その時に聞けば良いだろう。今ここで俺達がどうこう話しても時間の無駄だ」

 

「はいはい。仲良くしてよね〜」

 

 

 詰め寄っていた絵名と詰め寄られていた靱は目線を合わせると、やがて靱の方が目を逸らす。

 近頃、時折起きるようになった小競り合いに苦笑いを浮かべつつも瑞希は首を傾げる。

 

 

「でも、たしかに奏が見当たらないね」

 

「もしかしたらまだ来てないのかも——あ、いた!」

 

「奏!」

 

「みんな……」

 

 

 少し離れたオブジェクトの方向からこちらへと歩みを進める少女を発見し、絵名と瑞希が呼びかける。

 一同の前へと姿を現した奏は暗い表情を浮かべていた。

 

 

「急にセカイに集まろうなんて、どうしたの?」

 

「………ごめん」

 

「大丈夫だよ、奏。

何があったのか知らないけど、ボクは奏の味方だから」

 

 暗くも真剣な顔つきの奏に釣られて、自然と一同も真剣な表情になっていく。

 ただ一人、事情を知っている靱だけは普段と変わらぬ無表情を浮かべていた。

 

 

「それで一体、どうしたの?」

 

「実は………」

 

「次の曲のデモが、できてないの……」

 

「…………………は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーーーーっと、つまり今の話をまとめると……」

 

「奏、スランプになってるってこと?」

 

「…………ごめん」

 

 

 呆気に取られていた面々も時と共に気を持ち直す。予想外の言葉に硬直していた一同の中で、最も早く立ち直ったのはAmiaだった。

 

 

「……作り続けるって言ったのに」

 

「うっ………ごめん……」

 

 

 ジト目でまふゆが奏を見据える。縮こまる奏を庇うように、絵名が間に割って入った。

 

 

「ちょっと、そういうのやめなさいよね。

奏だって好きでスランプになってるわけじゃないんだから」

 

「私はわかるよ。

描きたいけどイメージどおりにならなくて、何回も描き直すことって、たまにあるから」

 

「たまに?いつもそうじゃない?」

 

「うるさい!」

 

「……それで、どうしてここに集まったの?

一斉に来て騒がれるとうるさいんだけど」

 

 

 喧騒を遮るように、いつの間にか現れていた少女が声を上げた。

 金色の短髪に翠眼が特徴的な少女の名は『鏡音リン』。世界的に有名な音声ツールとして現実世界では親しまれているバーチャル・シンガーの一員だ。

 東雲絵名の失踪事件と同時期にどこからともなく現れた彼女は今やミクと同じセカイの一員としてニーゴに携わる存在だった。

 

 

「でもリン、この前は、みんなが来ると楽しいって……」

 

「…………」

 

「……それで、どうしてここに集まったの?」

 

「(スルーしたな……)」

 

「(あ、スルーした)」

 

 

 不機嫌そうな表情を浮かべていたリンはミクの言葉に一瞬硬直し、その後何事もなかったかのように話を続ける。

 リンの問いに、奏が答えた。

 

 

「……アイディアがまとまらないなら、みんなに相談したほうがいいかもしれないと思って」

 

「んー、でも私も瑞希も曲は作れないからなぁ……。あ、でもまふゆなら……」

 

「……私が何か言っても意味がない」

 

「私には、誰かを救えるような曲は作れないから」

 

「……そっか」

 

「何かヒントだけでも見つけられればって思ったんだけど……」

 

 

 途方に暮れて一瞬目を向けた奏に靱が首を振ってみせる。

完全に行き詰まってしまった状況に奏が頭を悩ませていると、不意にミクが口を開いた。

 

 

「じゃあ……いつもと違うことをしたら?」

 

「え?」

 

「……うん。

今のままじゃダメなら、今までしたことない、新しいことをしたらいいんじゃない?」

 

「……今までにない…」

 

「新しいこと……」

 

「あ、それなら——!」

 

 

 続くリンの言葉に何かを思いついた瑞希が口を開きかけたその時、セカイに()()()()()

 

 

「あ……」

 

「ん?どうしたの、ミク」

 

「……来る」

 

 

「——あら」

 

「みんな揃って、出迎えに来てくれたの?」

 

 

 新たに姿を現したのは長身の栗色の短髪の女性、『メイコ』。

 三人目のバーチャル・シンガーに沸き立つ一同が落ち着いた頃、全員の気持ちを代表するように瑞希が口を開いた。

 

 

「やー、びっくりしたなぁ。

まさかリンに続いてメイコまで来るなんて」

 

「ね。この前の人形もそうだったけど、突然誰か現れるなんて、ほんと変なところ」

 

「まっ、なんにしても、これから仲良く——」

 

「——最初に言っておくけど、私のことは気にしないで頂戴」

 

「え?」

 

 

 和やかな空気に、穴が空いたように会話が途切れる。

 一同を見下ろすような冷たい佇まいのままメイコは自らの想いを語りだす。

 

 

「あなた達に手を貸すのはミクやリンで十分でしょう」

 

「私は違う観点からあなた達を見守ることにするわ」

 

「違う観点、って……」

 

「だから、私のことはいないものだと思っていい」

 

「……わかったら、どうぞ話を続けて」

 

 

 話はそれまで。そう言外に口にするようにメイコは語り終えると口を噤んだ。

 

 メイコの語りに一同はそれぞれ異なる反応を示す。

 奏は呆気に取られたように、絵名は少し不満気に、まふゆは普段と変わらず、瑞希は考えこむように、靱は無表情のまま小さく目を細めた。

 

 

「あ……うん」

 

「……なんか冷たくない?」

 

「そう?」

 

「あんたには聞いてないから」

 

「んー、まあそっけない感じはするかもね。

でも、それはそれとして……」

 

「ボクは暁山瑞希!

で、左から奏とまふゆと絵名と靱!

よろしくね、メイコ!」

 

 

 改めて向き直り朗らかに挨拶する瑞希に、メイコは少し呆けた表現を覗かせた。

 

 

「……いないものだと思っていい、と言ったはずだけど」

 

「えー、でも名前くらいは教えてもいいじゃん?

ね?」

 

「……そうね」

 

「それで……結局どうする」

 

 

 話が一区切りつき、靱が話題を戻す。

 

 

「あ、えっと、新しいことをやればーって話になって……」

 

「そうそう!それで提案なんだけどさ!」

 

「みんなで、日帰りミステリーツアーしてみない!?」

 

「日帰り……ミステリーツアー?」

 

「ミステリーツアーって、何?」

 

 

 メイコが来る前に言いかけていた続きを瑞希が口にすると、一同は三者三様の反応を示した。

 

 

「えーっと、どこに行くかわからない旅行、みたいな感じかな?」

 

「ボクがコースを考えるから、みんなはついてくるだけでオッケー!」

 

「どこに行くかは、着いてのお楽しみ!

どうどう?」

 

「今まで行ったことないような場所に行けば、奏もきっと色んなアイディアがわいてくるはずだよ!」

 

「……まあ、私は別にいいけど……」

 

「奏の曲作りが進むなら、なんでもいい」

 

「うっ……。

そうだね。曲を作るためにできることは全部しなくちゃ」

 

 

 絵名とまふゆが肯定を示し、奏もそれに続く。

 一方靱は考え込んでいる様子だった。

 

 

「(ミステリーツアー……日帰り旅行か。

奏の休息にはなりそうだ。丁度良い理由付けもある事だし。

Amiaには感謝しないとな)」

 

「………ん」

 

 

 考えを纏めた靱は、一同の視線に気が付いて口を開く。

 

 

「……俺も、良いと思う。

気分転換に旅行というのも頭を整理する時間を設けられて悪くないだろう」

 

「いやいや、そんなこと言わずに——って、あれ?」

 

「ん?」

 

 

 否定の返答を全力でフォローしようと口を開いた瑞希と靱の視線が交錯し、すっとんきょうな声に変わった。

 

 

「あ、あれ?もしかして賛成?」

 

「ウソ……ぜったいパスって言うと思ってたのに」

 

「お前達は俺を何だと思ってるんだ……」

 

「あっはは……」

 

 

 気まずいやり取りを挟みつつ、ニーゴのミステリーツアー開催が決定した。詳細はまた後日という話でその日は解散となる。

 

 メイコの意味あり気な視線を残しながら。

 

 

 

 

 




亀更新過ぎるので多少ペース上げます
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