宵明けのコンチェルト   作:ブラック5930

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第4話「いざ、ミステリーツアー!」

 

 —— 11:05 AM

 

 

 ミステリーツアー当日、俺達は電車に揺られていた。

 

 

「「「「「…………」」」」」

 

 

 随分と朝早くから集まったからか、最初はテンションの高かったメンバーもすっかりぐったりとして黙り込んでいる。

 それもその筈だ。電車に揺られる事早数時間。窓の外の景色がビル群から山々へと変わっても一向に露わにならない目的地に、始まる前から既に気力を削がれるような想いに捉われている。恐らく皆同じ気分だろう。

 

 

「……ねえ、靱」

 

「……ん」

 

 

 暇潰しにスマホを弄って永遠とコメントを確認していた時、不意に声がかかった。

 目をやれば隣で鞄を膝に置き突っ伏していた奏がいつの間にか復活しており、小声で話しかけてきている。しかし、その表情は優れない。

 

 

「せっかく旅行を考えてもらったけど、まだ全然アイディアが出てこない。

こんな調子で本当に曲を作れるようになるのかな」

 

「……ふむ」

 

 

 彼女にしては珍しい弱音に等しい言葉に少し驚かされるが、一考して言葉を返す。

 

 

「ミステリーツアーはまだ始まってもいない。

逸る気持ちは理解出来るが、目的地に着いてから考えてみても良いんじゃないか」

 

「う……」

 

「それに、ミクが言っていた事はデタラメという訳でもない。新鮮なモノに触れる事でインスピレーションを得るという例は多く確認されているようだ」

 

「それに俺は……」

 

「………。

いや、何でもない。とにかく、事が終わってもいないのにアレコレ考えても余計にアイディアは浮かぶまい。

まずは目の前の事に集中しよう」

 

「…………うん、そうだね。ありがとう」

 

 

 “こんな時くらい楽しんで欲しい”“もっと休んだ方が良いと思う”“気負っていてもすぐに曲が作れるようになる訳じゃない”

 どれも、微妙に食い違うような感覚を覚えて言葉にする事が出来なかった。

 力になると約束した以上、彼女の意思を否定するような言葉を俺は投げるべきではない。

 

 奏は一瞬怪訝な顔を浮かべたが、すぐにいつもの表情に戻って会話を切る。

 それからほどなくして、スマホを放り出した絵名の声が静寂を打ち破った。

 

 

「……で、ずーっと電車に乗ってるわけだけど……」

 

「いい加減、どこに行くか教えてよね。

どんどん田舎のほうに行ってるけど、山登りでもするつもり?」

 

「んもー、絵名は短気だなぁ。

こういうのは着くまでにあれこれ想像するのが楽しいのにー」

 

「ま、もうすぐ着くし、そろそろネタばらししちゃおっかな〜」

 

「はいはい、もったいぶらないでさっさとしてよね」

 

 

 業を煮やした絵名と瑞希の会話に、スマホの画面から意識を傾けて聞き耳を立てる。

 気付けば奏やまふゆも聞く姿勢に映っており、どうやら全員目的地が気になっているようだ。

 

 皆の反応を伺うように仰々しい仕草で勿体ぶりながら、瑞希は今回のツアーの目的地を発表する。

 

 

「コホン、今日行くのはなんと———」

 

「今最も激アツな、心霊スポットでーすっ♪」

 

 

「「………し、心霊?」」

 

「は!?え、なんで心霊スポット!?」

 

 

 反射的に聞き返した俺と、奏の声が重なる。

 絵名にとっても全く予想外の答えだったようで、目に見えて狼狽えている。特に反応を示さないのはまふゆくらいだ。

 

 そんな一同の様子を見て満足そうな笑みを浮かべた瑞希は、笑みを噛み殺しながら言葉を続ける。

 

 

「まーまー落ち着いて。

これには深い理由があるんだよ」

 

「深い理由……?」

 

「前に、文化祭の時に、絵名の弟くんと会ったって話したでしょ?」

 

 

 サラッと出された情報に耳が反応する。

 絵名には弟がいたのか。初耳だ。

 

 

「その時、弟くんのクラスがお化け屋敷をやってたんだ。

それで———」

 

「みんなとも、肝試ししたいなーって思って♪」

 

「……ただあんたが行きたいだけじゃない!」

 

「そうとも言うかもー☆」

 

「あのねぇ……!」

 

 

 溜めに溜めて、思いっ切りふざけたAmiaにえななんの渾身のツッコミが響く。

 そのままいつものじゃれ合いが始まるかと思えたが、先にまふゆから放たれた言葉により未遂に終わった。

 

 

「———何か問題あるの?」

 

「は?」

 

「奏が曲を作れるようになるなら、行く場所はどこでもいいじゃない」

 

「うっ……」

 

「わたしにつきあわせて、ごめん……」

 

 

 普段通りのまふゆの態度は、約一名に鋭い刃となって突き刺さる。見事にクリティカルヒットを受けた奏は落ち込んでしまい、絵名が慌ててフォローに回る。

 

 

「あ、えと、奏は別に悪くないってば!

悪いのは行き先を心霊スポットなんかにした瑞希で……」

 

「大丈夫だよ、奏!

むしろ、ボクはみんなと旅行できてとっても嬉しいよ!」

 

「絵名も安心して!

心霊スポットとして、ちゃーんと映えるところ選んだからさ♪」

 

「そういう問題じゃなーい!!」

 

 

 車内に響く悲鳴。言い争いの声をbgmに、俺の頭では一つのワードがグルグルと頭を巡っていた

 

 

「(心霊スポット……?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 都心部から電車で約二時間半。

 23区を外れた東京の外れの山岳部、⬛︎⬛︎峠の街道を奥へ奥へと進み、車一台がやっと通り抜けられるほどの狭い道を上がり続けたその先で。

 

 車止めの柵が設けられた大きなトンネルの目の前へと俺達は辿り着いていた。

 

 

「…………ここは……」

 

「なんだか……すごく嫌な感じがする……」

 

「ちょっとこれ、本当に大丈夫なヤツ……?」

 

 

 奏は苦々しく、絵名は本気で嫌そうな顔でそれぞれ感想を漏らす。反対に瑞希は嬉々として辺りを見回していた。

 

 

「いやー!

さすが名所なだけあって、すっごい雰囲気あるねー!」

 

「ここ、心霊スポットとしてはかなり有名らしいよ。

実際に幽霊を見た人がいっぱいいて、そのせいで事故も起きてるんだって!」

 

「あ、ここが凹んでるのとか、車がぶつかったからみたいだよ。

実際見るとけっこうエグいな〜」

 

「ええ……。

それって、幽霊のせいで事故があったってこと………?」

 

 

 瑞希が指差した入口付近の凹み痕をドン引きした様子で絵名が見詰める。

 一方俺は、周辺を確認してすぐに見覚えのある光景に頰が引き攣るのを感じていた。

 

 旧⬛︎⬛︎トンネル。

 都内最恐として名高い全国区で有名な心霊スポットだ。

 数々のオカルト番組やホラー映画のロケ地として利用されており、こういうモノに疎い俺でも知っているような場所である。

 

 あまりにも本気な瑞希のチョイスに、流石に動揺を隠せなかった。心霊スポット巡りにしても最初に行くような場所ではあるまい。

 

 

「じゃあ、入ろう」

 

「えっ、本気!?」

 

「奏が曲を作れるのなら、入る必要もないけど」

 

 

 まふゆは平坦に言葉を紡ぐ。

 

 

「———作れそう?」

 

「う……………。

ホ…………ホラー調の曲なら……」

 

「イントロをダブルベースにして、ところどころ呼吸音を入れるとか……」

 

「ほ、ほら!

奏が作れるなら入らなくっても大丈夫でしょ!」

 

「その曲で、誰か救えるの?」

 

「……………………………」

 

「入ろう、奏」

 

「う………うん……」

 

 平坦だが妙な迫力を醸し出すまふゆは奏の手を掴み、先陣を切って奏を引き摺りながらトンネルの中へ入っていく。

 笑いながら続く瑞希に続いて、俺も足を動かした。

 

 

「……はぁ」

 

「(……憂鬱だ)」

 

 

「この際ホラーの曲でもいいでしょ〜!!」

 

 

背後から聞こえる涙声の絵名の悲鳴に全面的に同意しながら、俺は目を閉じた。

 

 

 

 

 




更新を早める筈が遅くなっている事実。反省します。
短めですが、切り時に悩んでいるのでご容赦を。
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