旧⬛︎⬛︎トンネルより更に郊外、山道を飾る緩やかな石階段を登った先。
鈍い赤色の鳥居を潜った先に広がる光景は、古びた神社だった。
一行は本殿の前で足を止める。
「っというわけで、次のスポットに到着〜!」
「ここは……神社……?」
「…………」
「ここも不気味だけど……。
まあ外だし、さっきのトンネルよりはマシかな」
「……ただの神社に見えるけど、どこが心霊スポットなの?」
「ふふーん、よくぞ聞いてくれました!」
三者三様な反応ではあるが、瑞希は高いテンションを維持したまま得意げに答える。
「ここは通称『呪いの縁切り神社』って呼ばれてる神社なんだ!」
「「呪いの縁切り神社?」」
俺と絵名の声が重なる。
トンネルの方は有名な心霊スポットだったが、続くこの神社はマイナーな部類らしく聞いた事もない。
「———昔、大きなお屋敷に、仲の良い姉妹が住んでたんだ」
「ふたりはどんな時も一緒にいて、お互いに大切に思い合っていたんだ。
だけど……」
「ある日、姉妹がかくれんぼをして遊んでいた時、屋敷で火事が起きたんだ」
「お姉ちゃんも妹も、火の中でお互いを探し回ったんだけど、
———結局見つからないまま、死んじゃったんだ」
「またすぐそういう話する……」
「……かわいそうだね」
「それで、バラバラのまま死んじゃったから、ふたりは、一緒にいられる人がうらやましくなって———」
「強く想い合う人同士がここに来ると、呪いをかけて、離れ離れにしちゃうんだ」
「…………っ」
「で、そんなふたりの魂を鎮めるために、この神社ができたんだってさ」
聞き入っていた一行は複雑な表情を浮かべる。
……死に別れた姉妹の話、か。
あまり耳障りの良い話ではないな。怪談なのだから当然といえば当然なのだが。
そこで嫌そうな顔をした絵名が、呆れたように言葉を紡ぐ。
「そこまでしてんのに、まだ化けて出てくるわけ……?さすがに成仏しなさいよ」
「ていうか、死んだあと他人まで呪うくらい仲のいいきょうだいとかいないでしょ」
「えー、そう?
ボクはお姉ちゃんと仲いいけどなー」
「そういえば、瑞希はお姉さんがいるって言ってたっけ。
海外に住んでるんだよね」
奏の問いに、笑顔で頷く瑞希。
これも初耳だ。
普段雑談に耳を傾けていないだけともいう。
「うん!年齢は離れてるんだけど、仲いいよ!」
「ま、だからってバラバラに死んじゃっても、幽霊になって呪ったりはしないと思うけどねー」
「でしょ?うちも弟いるけど、そんな風になるかって言われると……」
そこで絵名は言葉を切り、ほんの少し思考を巡らせる。殆どノータイムに近い時間で絵名は再び口を開いた。
「……うん、間違いなくあいつはならない」
「あはは!確かに弟くんは出てこなさそうー!」
「でもたしかに言われてみれば、死んでも会いたいって思うくらい仲いいのはすごいよねー」
「みんなは、そういう人いる?」
「そういう人って……?」
「……死んでも離れたくないー!
離れるならみんな呪ってやるー!って思っちゃうくらい一緒にいたい人!」
死んでも離れたくない人、か。
茶化すような瑞希の問いかけに、一同は考え込む。
最初に口を開いたのは、奏だった。
「……尊敬してる人はいるけど、
死に別れても誰かを呪おうとは思わないかな……」
「まーねー。私も結構仲いい友達はいるけど、それほどかって言われると……」
「他人を呪う程の人間はいない」
絵名に続いて俺も答えを出す。
死に別れたく
しかし、幾ら大切だとしても死に別れた後に無関係な他人を呪うほど落ちぶれる気はなかった。
うんうん、と頷き瑞希はまふゆの方を見る。
まふゆは未だ考え込んだままだった。
「それもそっか。まふゆは——」
「……わからない」
「ま、今のあんたはそうかもね」
「あはは、そういうボクも別にいないけどねー」
「……みんないないなら、わたし達は呪われないね」
「…………」
「うんうん、たしかに!
ボク達、そんなに大事な人がいなくてよかったね〜♪」
「そんなことで喜ぶのもどうかと思うけど……」
「いいじゃんいいじゃん、ボク達似たもの同士ってことで!」
苦言を呈しながらも、絵名は少し笑っていた。
一同は小さくも笑みを浮かべていたが、俺とまふゆは少しも笑っていなかった。
「(……似たもの同士か。
とても喜べるような話ではないな)」
ひとしきり雑談に興じた後、まふゆが思い出したかのように問いかける。
「……それより、奏。
曲のイメージは固まりそう?」
「……ううん」
「アイディアは浮かんできてるんだけど、曲になるかっていうと……」
申し訳なさそうに頭を掻く奏。
二つの心霊スポットを回った結果、アイディアは少なからず得られたものの、形になる程では無いらしい。
「ん〜、そっか〜。
もう次が最後のスポットだけど……」
「ま、諦めずに行ってみよう!」
瑞希の号令で、一行は次の心霊スポットへ向けて移動する。
石階段を降りる途中、最後尾にいた俺は足を止めて神社の方を振り返った。
「…………」
「(……そんなに大事な人がいなくてよかった、か)」
「(質問は少し違ったが、死んでも離れたくないくらい大切な人間なら皆にもいるんじゃないのか。
奏にも、雪にも、えななんにも、Amiaにも)」
「(なのにどうして俺達は、
「おーい、靱!」
「早くしないと置いてくわよ」
少し足を止めていたつもりが、大きく遅れていたらしい。呼びかける絵名と瑞希の声で我に返る。
「……今行く」
一同に追い付くように軽く駆け出す。
もう、振り向く事はない。
・
・
「本日最後の心霊スポットはこちらで〜す♪」
陽気に瑞希が、正面の建物を指し示す。
「奏!
ここで曲のイメージまとまんないと帰れないから、がんばってね〜!」
「う………が、頑張る……」
「……ここって、学校?」
瑞希が指し示した先、一行が訪れている場所は古びた学校の敷地内だった。
廃校となったこの小学校は比較的山奥に建てられており、周囲に家屋は見られない。
駅からかなり歩く必要がある距離のこの場所は、静けさに包まれ異様な空気を醸し出していた。
「うん、音楽室に生徒の霊が出るっていうウワサがある学校なんだ」
「なんでも、ピアノの全国コンクールに出られるくらいすごい女の子がいたらしいんだけど———」
「みんなからの期待がプレッシャーになって、それに耐えられなくて、死んじゃったんだってさ」
「……で、校舎を取り壊そうとするとその霊が邪魔して、いつもケガ人が出ちゃうから、取り壊しの計画がなくなっちゃったという!」
「だからそういう話、わざわざしなくていいから……」
「えー、だってせっかく心霊スポットに来てるんだし、そういう話したほうが———」
絵名と瑞希がいつも通りのやり取りを始める中で、まふゆがポツリと呟く。
「………期待をかけられて、か」
「あっ……」
「それでよかったのかも」
「余計なものがなくなって、ひとりになれたのなら」
「………雪」
「え?なんでよ」
「——そのほうが、ずっと楽だから」
「まふゆ……」
「みんなと旅行してる最中に言うことじゃなくない?
………って、ちょっと!」
「あ、校舎のほうに行っちゃった……」
しまった、と声を漏らした瑞希や嗜める絵名を無視してまふゆは言葉を終えると、足早にその場を立ち去ってしまった。
校舎の方へと歩いていったまふゆの姿は、あっという間に点在するオブジェクトや柵によって見えなくなる。
「あ、待ってまふゆ!
絵名、奏、靱、ボク達も一緒に行こう」
「あーもー、勝手な行動しないでよね!」
一同はまふゆの後を追って後者の方へ進むが、柵を抜けた先にまふゆの姿はない。
「あれ、まふゆ……いない」
「え?ホント?」
「まさか、校舎の中に入ってないよね?」
「入口には鍵が掛かっていた。
一階の窓には……この通り、板が打ち付けてある。
入ろうとした形跡は見られない」
「うーん……そうだよね。
……まふゆー!」
瑞希を始めに一同はまふゆの名を呼ぶが、校庭に声が虚しく響き渡るばかりで返事はない。
「返事、ないね……」
「………」
「ちょっとボク、あっちのほう探してくる!
3人はまふゆにメッセージ送って、門の方で待っててー!」
考え込んでいた瑞希は顔を上げるなり、別行動を告げて駆け出していく。
「あ、ちょっと!瑞希!」
「…………」
「もー!瑞希のやつ……」
「……俺も、校舎の方を探してくる」
「は?」
「二手に分かれて探した方が効率的だ。
メッセージに反応してくれるのが最善だが、放っておいては雪が危ないかもしれない。
こういった場所は設備の老朽化が進んでいるから柵やオブジェクトの類が倒壊して怪我をしている可能性もある。
最悪、自力で連絡が不可能な線も考えると……」
「………」
大真面目な顔で告げる靱に、黙り込む絵名と奏。少しして奏が口を開いた。
「……わかった。
わたし達は門まで戻ってるから、靱はそっちをお願い」
「あぁ」
絵名の返答を待たずに、靱は駆け出していく。
「行かせちゃってよかったの?
それなら余計にバラバラに行動するのはまずいんじゃ……」
「靭なら大丈夫だよ」
「……そう?
まあ、アイツはたしかに何でもそつなくこなしそうだけど」
「うん。だからわたし達はこっちを探そう」
「…………」
確かな口振りで、しかしどこか苦しげに言葉を紡ぐ奏に絵名はかける言葉が見つからなかった。
・
・
「流石にないと思うけど、でももしかしたら来てるかもだし……」
白と黒で構成されたセカイ。
モノクロな景色を見回す瑞希の手にはスマホが握られていた。
少し前にナイトコードのアプリがスマホでもダウンロード出来る事に着眼し、スマホ側で入ったサーバーのリンクを読み込めばセカイに行けるのではないか?と考えて検証したメンバーがいた。
結果としてそれは成功し、ニーゴのメンバーはパソコンを用いずともセカイに行く事が出来るようになったのだ。それどころか、パソコンとは違いスマホはセカイにも持ち込めるようで流れている“悔やむと書いてミライ”の曲を停止する事で能動的に現実世界に戻る事も出来るようになった。
故にもしかすると、まふゆは先程セカイに向かったのではないか。
そんな思いでセカイにやって来た瑞希だが、全く人影が見当たらない。
「まふゆー!いるー!?」
「……見当たらないな。
こっちに来てないならそれでいいんだけど、もしまた、前みたいになってたら……」
「……もう少し、探してみよう!」
初めてセカイに来た日の事を思い出し、瑞希は自らを奮い立たせて捜索を続ける。
数分程後、見覚えのある人物と遭遇した。
「メイコ!ちょうどよかった!」
「……瑞希?」
「あのさ、まふゆこっちに来てない?
一緒に出かけてたんだけど、どこかに行っちゃって」
「……ここには来ていないわ」
「ここはあの子の想いのセカイだから、来たらわかるはず」
「そっか……。ありがと、メイコ!」
「何か思い詰めてこっちに来たんじゃないか〜って思ってたから、そうじゃないならよかったよ」
「でも、ホントどこ行ったのかなぁ?
ケガとかしてないといいんだけど……」
「…………」
思い悩む瑞希にメイコは無表情のまま口元に手をやって思考する。
暫し後にメイコはおもむろに口を開いた。
「瑞希は、まふゆを——あの子達を大切に思っているのね」
「え?」
「あー、まあ、そうだね。一緒に曲作ってるし……」
「なんていうか——仲間……みたいな感じ?」
「……そう。なら——」
「これからも、あの子達と一緒にいられるといいわね」
意味ありげなメイコの言葉に、瑞希は一瞬キョトンと呆けた表情を見せ、すぐに笑顔になって答える。
「……うん、そうだね!」
「これからも5人で曲作って、たまにこうやって遊びたいな!」
「あ、それじゃ、ボクそろそろ戻るね。
まふゆのこと探しに行かなきゃ」
「ええ」
“悔やむと書いてミライ”を停止すれば瑞希の周りを眩い光が包み込む。
光と共に消え去ったその跡を、メイコはどこか痛々しげに見詰めていた。
どうやら前話の話数間違えたまま放置されていたようですが見なかった事にして下さい(