アンチョビが画面から出てきた   作:とにざぶろう

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2018年4月19日~

 2018年4月19日。木曜日。

 

 禁酒を始めることにした。

 

 どうにもアンチョビがいなくなって以降、酒ばかり飲んでいて良くない。連日、深酒ばかりだ。

 

 キミドリ氏が終業後に俺を飲みに誘う(たぶんアンチョビがいなくなって寂しかろうと心配しているんだと思う)のも、明日からは断ることにする。

 

 アンチョビにも酒ばかり飲んでいては駄目と言われただろう。己を律するのだ。

 

 とりあえず冷蔵庫の中のビールは今日のうちに片づけよう。

 明日からは、一切、酒を断つ。

 

 ◇ ◆ ◇

 

 2018年4月27日。金曜日。

 

 禁酒というのはさすがに無理なので、週3に減らすことで様子をみようと思う。

 我慢もそれはそれで良くない。

 

 ◇ ◆ ◇

 

 2018年5月4日。金曜日。

 

 年末年始に帰れなかったので、実家に顔を出した。

 

 結婚はまだかと催促された。

 ごめんなさい。しません。

 

 ◇ ◆ ◇

 

 2018年6月9日。土曜日。

 

 最近、料理に凝っている。大学以来だ。

 アンチョビが我が家に調味料を多く残していったのが功を奏したのかと思う。

 

 学生時代はただただ安く済ませたくて料理をしていたのだが、今は自分の好きなもんが食いたくて料理をしている。

 

 ◇ ◆ ◇

 

 2018年8月11日。土曜日。

 

 久しぶりにアンチョビと顔を合わせた。

 

「おーっ! 戸庭ーっ!」

 

 と、彼女には声をかけられたが、俺は突然すぎて何のリアクションもできず、挙動不審に「あ、お、う」と口をもごもごさせるばかりだった。

 アンチョビは「何を緊張しているんだ」と笑った。

 

 彼女とは、少しばかり話をしてすぐに別れた。

 

 ◇ ◆ ◇

 

 2018年12月3日。月曜日。

 

 うちの会社に、花澤が入社した。

 

 奴も俺と同じく、仕事に忙殺された組だ。

 キミドリ氏に相談したら「だったらうちに誘いましょう」と言ってくれた。

 あの人は仏か何かか。

 花澤にそう言ってみると、彼は「仏やろ」と答えた。

 

 ◇ ◆ ◇

 

 2019年2月9日。土曜日。

 

 最終章の第2話が公開された。

 

 1日で、三度も映画館へ足を運んだ。

 

 当然のごとく無茶苦茶面白かったので、監督へ「無茶苦茶面白かったです!」と子供のようなメールを送ると、監督からは「ありがとうございます」と短く返信があった。

 

 ◇ ◆ ◇

 

 2019年4月10日。水曜日。

 

 アンチョビの1stシングルがデジタル限定でリリースされた。

 ガルパンの世界ではなく、俺のよく知っている方のアンチョビだ。

 

 最近の彼女はテレビに出演してみたり、歌を歌ってみたりとまるでアイドルのような生活を送っている。

 彼女にかつてアイドルを勧めた際は「それはない」と言っていたように記憶があるが、はて。

 

 と、考えたところで、そういえば彼女はアイドルにならない理由として「今のような生活を続けられなくなるから」と答えていたのを思い出した。

 俺はちょっと泣いた。

 

 ◇ ◆ ◇

 

 2019年8月3日。土曜日。

 

 最終章第2話のBlu-rayが発売されたので、俺の家に集まって4人(花澤、長田、柿葉さん)で鑑賞会を開いた。

 

 なんと今回はアンチョビ(よく知ってる方ね)がコメンタリーに参加している。

 枠としてはスタッフコメンタリーだ。

 

 最初の1回は黙ってモニターを眺め、2回目からは酒を入れつつワイワイ盛り上がり、結局テレビシリーズの1話からの再視聴が始まって酒宴は朝まで続いた。

 

 ガルパンおじさんお姉さんの未来は明るい。

 

 ◇ ◆ ◇

 

 2019年9月23日。月曜日。

 

 アンチョビが20歳の誕生日を迎えたということで、めでたくみんなで酒を飲むことになった。場所は大洗のバーだ。

 

 メンツは、当然のアンチョビ、ミカ、俺、キミドリ氏、花澤に長田。柿葉さん。そしてなんと監督の姿もあった。

 最終章3話の公開を控える監督は「少しだけ休憩です」と言っていた。

 

 わいわいとみんなで騒いで飲むのは楽しかった。

 

 そういえば俺ももう少しで三十路か、とふいに思い出した。

 

 ◇ ◆ ◇

 

2019年10月19日。土曜日。

 

 先週の土曜に最終章の第3話が公開されたのだが、その翌日、アヒルさんチームの磯辺典子(キャプテンだ)が、俺たちの世界に召喚された。

 

 アンチョビとミカに続いて、3人目だ。

 姿や年齢は、大洗の生徒のままだった。

 

 今日、俺も彼女と会ってきたのだが、やはり彼女はキャプテンそのもの。

 磯辺さんは、事情を知ってもアンチョビやミカとは暮らさず、彼女が現れた家で世話になることを選んだ。

 

 ◇ ◆ ◇

 

 2020年6月13日。土曜日。

 

 第3話のBlu-ray発売同日、第4話が劇場公開された。

 

 毎度毎度、どうやってこんな映像・展開を生み出しているのかと恐れ入るばかりだ。

 

 アンチョビはユーチューブでの動画の公開を今でも続けており、そこで映画の感想動画を上げていた。

 彼女もすでに公式の人間なので、ただのダイレクトマーケティングだ。

 

 アンチョビは相変わらず楽しそうだった。

 

 ◇ ◆ ◇

 

 2020年11月15日。日曜日。

 

 大洗あんこう祭りのステージで、ついにアンチョビが日本国籍を取得したことを発表した。

 彼女はガルパンの世界から現れた存在であると、国から認められたのだ。

 

 ファンは「むしろ今まで国民じゃなかったのかよ」と驚いていたが、俺はもう感無量で、広場の真ん中で「うおお」と泣き叫んでしまった。

 

 アンチョビはステージの上から「あはは、一緒に喜んでくれるのは嬉しいが、みんな静かになー?」と注意した。

 

 ◇ ◆ ◇

 

 2021年3月6日。土曜日。

 

 磯辺さんが結婚した。

 

 夫はこの世界へ彼女が現れてからずっと同居している相手だ。

 俺も何度か会ったことはあるが、彼なら磯辺さんも幸せだろうなと思う。

 

 正直、磯辺さんはいまだにガルパン作品内のキャプテンだという印象が強く、俺はおこがましくも、娘を嫁にやる父の気分になってしまった。

 いや、本当におこがましい。

 

 ◇ ◆ ◇

 

 2021年5月8日。土曜日。

 

 最終章第5話が公開された。

 

 あと、長田と柿葉さんから、二人の結婚報告を受けた。

 

 結婚ラッシュだなあ、おい。

 

 ◇ ◆ ◇

 

 2021年10月1日。金曜日。

 

 キミドリ氏が起業のため退職した。

 

 俺も付いていきます、と彼に言ったのだが、キミドリ氏は「付き合わせるのも悪いです。まぁ会社が落ち着いたらまた誘いますよ」とのことだった。

 

 花澤は最後の飲み会で「あ、俺も会社が落ち着いたらそっち行きますわ。お給料たくさんくださいね」と言っていた。

 お前はもう少し遠慮しろよ。

 

 ◇ ◆ ◇

 

 2021年11月23日。火曜日。

 

 ミカが世界一周の旅に出かけたと連絡があった。

 ある日、突然、リビングに書き置きがあったのだと。

 

 俺は「ついにか」という感想を抱いた。

 ミカなら何をやっても不思議ではない。

 

 旅に出たのは1月ほど前らしいが、頻度こそ減ったものの、いまだにアンチョビは動画を公開し続けている。

 おそらくは、編集も彼女自身で行っているのだろうと思う。

 

 ◇ ◆ ◇

 

 2022年2月19日。土曜日。

 

 最終章、最終話が、公開された。

 

 これにて、アニメ、ガールズ&パンツァーの幕が下りた。

 

 ◇ ◆ ◇

 

 2023年4月15日。土曜日。

 

 けれど、ガルパンは終わらなかった。

 

 最終章が終わっても、最後のBlu-rayが発売されても、公開から1年以上が経ったというのに、ガルパンはまったくもって終わりを見せる気配はない。

 

 公式で展開があったわけではない。

 もうアニメは続かない。

 

 それでも終わらない。生き続けている。

 

 ファンアートは未だ生産され続けている。

 同人誌だってまだまだ主流だ。

 SNSはガルパンの話題で溢れかえっている。

 

 忘れられるはずがなかった。

 

 どれだけの期間、俺たちはガルパンに付き合い続けてきたというのだ。

 あれだけ好いていたものを、忘れられるはずがなかろう。

 

 そして記憶に残り続けているということは、それは目に見える形でも現れる。

 

 だから終わらない。終わらないのだ。

 

 今日は、4月15日。

 

「あぁ、そうか」

 

 俺はあれからちょうど5年が経過していたことに気付いた。

 

 ◇ ◆ ◇

 

 そして、2023年5月1日。日曜日。

 

 大洗のバーに入ると、カウンターに一人、アンチョビが座っていた。

 

「おー、戸庭」

 

「アンチョビさん、お久しぶりです」

 

「敬語に戻ってるぞ、敬語に」

 

「あぁ、いえ、確かに。そうね、そう」

 

 アンチョビはロックグラスを傾けていた。

 中身はウイスキーだろう。

 いつぞやの飲み会で知ったところによると、彼女はべらぼうにアルコールに強いのだ。

 このウイスキーだって何杯目なんだかわからない。

 

「俺も同じのください」

 

 そうマスターに注文しておいて、俺はアンチョビの隣に座る。

 マスターからグラスを受け取り中身を口に含むと、ウイスキーの銘柄はボウモアのようだった。

 

「そういえば、ミカさんはもう帰ってきたの」

 

「いや、まだなんだよなあ。出て行ってから1年以上経つというのに、まったく」

「あいつのことだから生きてはいると思うが、心配になるから連絡くらい欲しいものだ」

 

 そう言ってアンチョビはグラスの残りを飲み干し「もう一杯くれえ」とマスターへグラスを差し出す。

 

「アンチョビさんも、いつの間にやら俺のことを言えないくらいの呑兵衛になっちゃてまあ」

 

「私はたまにしか飲まないぞ。飲む時は量飲むけどな」

 

 マスターからグラスを受け取り、アンチョビはまた一口含む。

 

「それにしても戸庭、なんにもイベントごとがないのに大洗に来るなんて珍しいじゃないか」

 

「いやあ、ゴールデンウイークだしね。久しぶりに昔話とか、色々な話がしたかったし」

 

「昔話~? そもそも、私が戸庭と会ったのだってそれほど昔の話じゃないだろう?」

 

「5年っつったらけっこうな時間でしょう。まあ、そんだけ時間が経ってもガルパンが続いてるってのは不思議だけど」

 

「アニメは終わっただろ?」

 

「それでもガルパンは終わってないでしょう」

 

「確かにな」

 

 アンチョビが笑う。

 きっと彼女も、俺と同じような想いを抱いているのだろう。

 

「……アンチョビさんは、変わらないなあ」

 

「戸庭もな」

 

「そうそう簡単に人間は変わらないってことかなあ」

 

「そりゃあそうだろう。私だってまだ動画の公開を続けてるんだぞ。えらいだろう!」

 

「えらいなあ。えらいよ、えらい」

 

 俺が言うと、アンチョビは、はっはっはーと高笑いをする。

 

 あぁ、やっぱりアンチョビの隣は心地良いなあ。しみじみとそう思う。

 

 ――――。

 

 まぁ、口に出してみるくらい良いか。

 

「アンチョビさん」

 

「なんだ?」

 

「だったら、また一緒に暮らしてみます?」

 

 俺が言うと、アンチョビは吹き出した。

 

「あ、ははっ。戸庭、また敬語に戻ってるぞ!」

 

「本当だ。まぁそう、そうだな。気を付けます」

 

 アンチョビは笑いすぎて瞳から漏れ出た涙を、右の人差し指で拭う。

 

「いいぞ」

 

「え? 何が? ガルパン?」

 

「会話の流れが読めないのか、お前はっ」

 

 手元のウイスキーをぐいと飲み干し、アンチョビを「自分の言葉を思い返してみろ!」と続ける。

 

「あぁ、なるほど」

 

 ふいに、ぽろろん、と、どこからともなくカンテレの音が聞こえた。

 

「ん、んん?」

 

 姿が見えずともわかる。

 カンテレなんて弾く人間、俺たちの身内では一人しかいない。

 

「ぉおおっ!? ミカ、帰ってきたのか!」

 

「甘い香りに誘われてね」

 

 バーの入り口から現れたミカは、アンチョビを挟んで俺の二つ隣に座ると、マスターへオレンジジュースを注文した。下戸なのだ、この人は。

 ミカはジュースを一口飲むと、ふうと息を吐き、再び、ぽろろろーんとカンテレを弾いた。

 

「アンチョビ。朝が来る前に勝利を収められて良かったね」

 

 ミカの言葉に、アンチョビは「どういう意味だ!」と抗議の声を上げる。

 

 俺はどういう意味かがわかってしまって、気恥ずかしさを誤魔化すべく「パンツァーフォーっ!」と叫んだ。

 

 マスターが俺と一緒に右手を突き上げてくれたのが、俺には大層嬉しかった。

 




これで完結です。
最後まで読んでくれた方、ありがとうございました。

感想などいただけましたら、とても嬉しいです。
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