自らの才能に向き合う千束

大切なものを取り戻したいちさと


二人のリコリスの選んだ道とは?








リコリス・リコイルの二次小説です。

4話までの情報で最終回の展開を書いたものであり、5話以降のネタバレはありません。

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連れ出して/連れ戻して

「千束、君には『殺しの才能』がある」

 10年前に助けてもらい、お礼を言いたかった人であった吉松さんにそう言われた。

「や、やだなぁ吉松さん。私、人殺しなんて……」

 私は必死に笑って誤魔化す。そんなわけない。私にそんなおぞましい才能があるわけない。

「自分でも分かっているんだろう?」

 吉松さんは諭すように、お店に来ていた時と同じ笑顔で言う。

「君は電波塔でその力を目覚めさせた。『殺し』を封印したとしても君に勝てるリコリスは誰一人として存在しない」

 違う。

「そうかなぁ?フキもなかなか」

 違う違う。

「千束くん」

 違う違う違う!

「君の才能は絶大だ。」

 

「違う!!!」

 

 私は否定したくて叫んだ。

「そんな、わけない。私は、人殺しなんて、したくない」

「気持ちはそうかもしれない。だがその才能を持て余すことはこの世界にとって不幸だ」

 吉松はいつもの顔でそんなことを語り始めた。

「何を、言ってるの?」

「アラン機関の目的は『この世界の才能を解き放つこと』。君の力は必ず世界の為に役立つ」

「いらない、そんなもの」

「この10年間、君の力でどれだけ多くの人が救われたと思う?」

「っ!」

 私はこれまでしたことを思い出す。誘拐の被害者奪還、立て篭もりの人質救出、テロの制圧。私は確かに自分の力で多くの人を救ってきた。

「で、でも! 私はこの10年で殺さなくなって多くの人を助けられた!」

「殺さなかったおかげで犠牲になった人もいるだろう?」

「そ、それは…」

 吉松さんのいうことは正しい。犯人をすぐに殺害しなかったお陰で余計な犠牲が出たこともあった。

「君の殺しは何も知らない善良な一般人だけでなく、多くのリコリスが救われるだろう」

「君が解決に動けばリコリスの犠牲は大幅に減る。君のように、自由に過ごすことが出来る様になる」

 リコリコが救われる。

 それを聞いて真っ先に思い浮かぶのは、たきなのことだった。

 リコリコで一緒に過ごして1年、彼女は変わった。よく笑うようになった。最近はおしゃれまでする様になったな。一そういえば一緒に服を買いに行く約束をしていた。

 たきなが救われる。

 たきながずっと笑ってられる。

 たきなが。

 

 吉松さんの声が私の脳に毒のように染み込んで行く。

「君は10年、大きく成長した」

「『大人』になる時が来たんだよ」

 

 

*****************************************::

 

 

「千束がリコリコに戻って来ないって、どういうことですか?」

私は店長に問い詰めた。

「たきな、昨日も言っただろう。千束はDAに戻る。お前も」

「私の話はどうでもいいです!」

「私は、なぜ、今になって千束が戻る決意をしたのか聞いているんです!」

 千束が姿を消してから2週間。私はただ困惑していた。最後に会った時もいつもと同じだった。閉店後、来週服を買いに行く約束をして、別れた。そんな千束が「DAに戻る」と連絡して姿を消した。

「守秘義務がある。お前だろうと言えん」

「千束は会いたい人が居るからDAから出たと言っていました。その目的が達成されてないのに、戻るなんてありえません!」

 

『会いたい人が、居るんだ』

 

 千束はいつか水族館で言っていた。10年前にお世話になった人に会いたい。会ってお礼を言いたい。私は千束の悲しそうな顔を見ていられなくて、ガラにもない余興をして話を断ち切った。

それほど大切な人を、千束が諦めるわけない。

 

 その時店長が眉間に皺を寄せた。

「まさか、出会ったんですか、『会いたい人』に」

 店長は何も言わない。

「沈黙は肯定と受け取りますよ」

 店長はため息をついてこう言った。

「……結論としては、そうだ」

 店長の顔は晴れない。千束が願いを叶えたのにどうしてそんな顔をするのだろうか。

「……だとしても、連絡を全く返さないのはおかしいですよ」

 あの千束が連絡をしないなんて有り得ない。いつもアプリで意味不明なメッセージを送ってきて、返信をねだってくるような人が、一向に返信を寄越さないなんてありえない。

「すみません。私、しばらく休みます」

 返信がないなら直接本人に会えばいい。どこにいるか分からなくても、くるみに頼めば、おおよその場所は特定できるだろう。

「DAの命令を聞かなかったのか?」

「『待機』なんてしていられません」

 千束の件についてDAに問い合わせたが、帰ってきたのは『待機命令』のみだった。さらに、命令違反についての厳重な忠告までついていた。私がかつて命令違反でDAを追われたからだろうか。

私の様子を見た店長は突然とんでもないことを言い出した。

「命令に従えばお前はDAに戻れる」

「は?」

 私は耳を疑った。これまで復帰を散々却下してきたDAが今更なぜ?

「ここで待機していろ、たきな。それで全て終わる」

 店長はそう言った。

 

 DAに戻ること。

 それは理不尽に追放され、侮辱された私の悲願、

 

"だった"。

 

「お断りします」

「……」

「私は命令に逆らって千束を探します」

「自分が何を言っているのかわかっているのか?」

「私にとって重要なのはDAより千束です」

 私はもうDAには戻りたいとは思っていなかった。私にとってリコリコは千束の言う『新しい居場所』だった。接客をして、閉店後はゲームをして、時々千束と出かける。そんな何気ない日常が私にとってなによりも大事なものになっていた。その日常には、千束がいないとだめだ。千束がいるから成り立つんだ。そうじゃなきゃ意味がない。

「この命令に逆らえばDA復帰どころではない。"処分"されるぞ」

 『処分』される。それは私の存在が、命がこの世界から完全に抹消されることだろう。

 それでも。

「それでもです」

 私は、千束に会いたい。

「……分かった。勝手にしろ」

 店長は諦めたように店の奥に行ってしまった。

「……お世話になりました」

 私は店長の背中に会釈する。

 もう二度とここには戻って来られないだろうから。

 

 千束の居場所は携帯のGPSであっさり判明した。郊外の廃工場だった。特定をしてくれたくるみの「頑張れよ〜」という言葉を背に、私は廃工場へ向かった。

 

 

*****************************

 

 

 リコリコを出てから2週間、私は吉松さんのところに身を寄せていた。『時が来たら呼ぶから、そこまでは自由にしていてくれ』と言われたが、何もすることがなかった。

「たきなとの約束、破っちゃったな」

 メッセージアプリを立ち上げて、たきなの通知を見る。2週間、ずっと連絡し続けていたみたいだ。

 今更、返信なんてできない。私はもう決めたのだ。自分の力を、「殺しの才能」を受け入れることを。私が殺しをすると言ったら、たきなは反対するだろう。『気持ち良くないから殺さない、と言う言葉はなんだったのか』、そう言われるに違いない。

『千束くんが殺せば、リコリスが救われる』

 リコリスが、たきなが救われる。

 その言葉だけが私を突き動かしている。

 たきながリコリコを新たな場所として、そして私を友達として受け入れてくれたように、私にとってもたきなはとても大切な存在になっていた。

 彼女には、笑って生きてほしい。

 例え、私が何に成り果てたとしても。

 

 スマホの通知音がなる。吉松さんからの呼び出しだ。郊外の廃工場へ来い、とのことらしい。

 何をさせられるかは大体わかっている。殺すのはきっと、救いようのない極悪人なんだろう。それでもその人の時間を奪うことは気分のいいことではない。でも、私だけが我慢すればみんなが幸せになる。きっと、たきなもいつか分かってくれる。そう信じたかった。

「…行こう」

 私は部屋を後にして廃工場へ向かう。

 

 数分後、たきなから「会いに行きます」というメッセージがくるが、彼女は気づかなかった。

 

 

 吉松さんはいつもの笑顔で私を迎えた。

「2週間ぶりだね千束くん。少し時間がかかってしまった。申し訳ない」

「全然まってませんよー。さあさあ、誰を殺します? テロリストですか? マフィアのボスですか?」

 私は平静を装っていつもの調子で答える。

「いや違うよ、もっとわかりやすいものだ」

 

「君には『裏切り者』を始末してもらう」

 

「『裏切り者』……? どこにいるんですか?」

 なにかすごく、いやなよかんがする。

「もうすぐ来る」

 

 その瞬間、廃工場の扉が開いた。

 立っていたのは、私がよく知っている今一番会いたくない/会いたい人だった。

 汗だくになったたきなが立っていた。

 

「た、たきな? どうしてここに?」

「スマホのGPSで探りました。連絡入れたけど見てませんか?」

 たきなは自分のスマホを差しながら言った。

「あー、最近スマホゲームにハマってて気づかなかったなー!」

 まちがい。

「いやー久しぶりだねたきなぁ! ちょっと忙しくて連絡が」

 ちがう。

「吉松さんもいるし、ここがリコリコ2号店! なんちゃって!」

 このひとじゃない。

「もー吉松さん、変なこと言うからびっくり」

「さあ、1人目だよ千束くん」

 

「『裏切り者』を殺しなさい」

 

「……嘘ですよね」

 吉松さんは何も答えない。

 おかしい。こんなのおかしい。

「なんで、なんですか?こんな……こんなの……」

「彼女は先程DAの命令に背いた」

 だめだ。

 他の人なら殺せる。一瞬であの世に送ってあげられる。

 でも、この人はだめだ。だって、だってこれじゃあ。

「……意味ない。これじゃあ意味がない!」

 私は崩れ落ちてしまった。

「私は、リコリスを、たきなを守りたいから、救いたいから、受け入れたんですよ」

「たきなをころしたら、私は何のために」

 吉松さんは笑顔で私に優しく、残酷に語りかける。

「うん、君の気持ちはわかるよ千束くん。でも、この先同じようなことがあるかもしれない」

「この国の、この世界の秩序を見出し、平穏を崩すのは君の親しい人達、くるみちゃんかもしれない、ミカかもしれない、ミズキかもしれない。それでも君は、彼らを殺さなければならない」

「大切な人を手にかけた時、君は『殺しの才能』を持つものとして"完成"する」

 吉松さんは私に銃を渡してくる。愛用していたゴム弾の銃ではなく、実弾の銃。

「わ、わた、しは」

「へぇ、あなたが千束の会いたい人でしたか、吉松さん」

 突然、ずっと黙っていたたきなが口を開いた。

「10年探した結果がコレですか、千束は男の趣味が悪いね」

 たきなの表情からは何も読み取れない。たきなはああ見えて喜怒哀楽が激しい。なのに、今のたきなが何を感じているか全然わからない。

「し、心外だなぁ……」

「だってそうでしょ? 千束が誰も殺したくないのを知っていながら、殺しをさせるためにずっと側で見張ってたわけでしょ? 気持ち悪い。吐き気がする」

「……吉松さんの悪口はやめて」

「やめない」

「やめて」

 そういうと、たきなは自分の頭を指して、

「じゃあ私を殺したらいいんじゃないですか」

 そんな残酷なことを言った。

「何を、言ってるの?」

「『殺しの才能』を"完成"?させたいんでしょ? 早くやりなよ」

 怖い。たきなが怖い。こんなたきな見たことない。

「だって、だって死ぬんだよ? 怖いでしょ?」

「怖くない人間なんて居ない」

「だったら!」

「でももういい。私は"完成"した千束なんて見たくない」

 たきなは銃を投げ捨てて手を広げた。

「さあ、一思いにどうぞ」

 たきなは真っ直ぐ私の目を見つめてそう言った。

「ああ、あ」

 黙っていた吉松さんが語りかけてくる。

「君の才能なら出来る。感情を殺し、相手を殺す。一発で決めよう。苦しまないようにね」

「……」

 銃口をたきなの頭に向ける。不思議と手は震えない。心も落ち着いてくる。何も感じない。そう、まるで『感情が死んだ』みたい。

「さあ、さあ」

 発砲を促す声はたきなのものか吉松のものか、もう分からない。

「………」

 ああ、そうか。これが私の才能か。感情を殺し、相手を殺す。機械のように滑らかに。

 トリガーに指をかけ、私は。わたしは

 

 

 

 

 

 

 

「むりです」

 私は銃を投げ捨てた。目からは涙が溢れてくる。

「たきなだけは、たきなだけはころしたくないです」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 

「全く、そんなところだと思った」

 いつの間にか、たきなが私を抱きしめていた。

「千束が私を殺せるわけがない。千束はそんなに器用じゃないからね。」

 たきなは私を優しく撫でた後、吉松に話しかけた。

「目論見が外れた気分はどうですか?」

「…残念だよ。本当にね」

「…残念? はは」

 たきなは可笑しそうに笑い出した。そして聞いたこともないような声で言った。

 

「ふざけるな」

 

『リコリスは殺人が許可されています!』

『楠木さんに抗議します。こんなの納得できない!』

 出会った頃のたきなは自分のために怒っていた。私はそのたきなしか知らなかった。だから勘違いしていた。

 

「ふざけるな。何が"残念だよ"だ」

 たきなは、本気で誰かのために怒れる人だった。

 

「お前は、あなたは一つも正しくない。千束のことを何もわかっていない」

「千束には『殺しの才能』がある?」

「千束は普通の女の子だ。ちょっと弾を避けるのが上手いだけだ!」

「甘いものが好きで、水族館が好きで、アクション映画が好きで、いつもニコニコしてて、意外とロマンチストで、」

「飄々としてくるくせに脆くて、こっちに踏み込んでくるくせに全然踏み込ませてくれない!」

 たきなは泣き声になりながらも叫んだ。

「人殺しなんて苦しくてやりたくない普通の子だ! 何も知らないお前が! 才能とかなんとかでしか見ないお前が! 知ったような口を聞くな!」

 たきなはひとしきり叫んで私の体をもっと強く抱きしめた。

「たきな、ちょっと痛い」

「うるさいですよ、この泣き虫」

「たきなには言われたくないなぁ…」

「そんな顔でどうするんですか、明日は定休日じゃありませんよ」

 たきなは私の目を見て言った。

「帰ってきて」

 たきなはいつもと同じように、真っ直ぐ見つめてきた。

 帰って、良いのだろうか。

 吉松さんの顔は怖くて見れない。きっと酷く失望しているんだろう。

 でも、私は帰りたい。たきなと一緒に。

「…うん。帰り、たい」

「…良かった。門の前に店長が車を用意してます。それで帰ってください」

 私はそれに従おうとしたが、ふと違和感を感じた。

「…『帰ってください』? 一緒に帰らないの?」

 ちさとは静かに笑っている。

 

 その時、正面玄関から大量のリコリスが入ってきた。

「えっ、どういうこと?」

「井ノ上たきな、命令違反について司令官がお呼びだ」

「従わない場合、射殺許可が下りている」

 命令違反?そういえば廃工場にたきなが入ってきた時に吉松さんが何か言っていた気がする。

「…たきな、何したの?」

「ちょっと家出しただけですよ」

 たきなは私から離れてリコリスの方に行った。

「待ってよ、ねぇ。」

 わかってしまう。たきながどうなるのか。

『射殺許可が下りる』ようなことをしでかしたリコリスがどうなるのか。

「待って。待ってたきな! 行かないで!!」

 武装解除され、手錠をかけられたたきなはこちらを見ない。

「帰ってくるよね? ねぇ!?」

 たきなは廃工場を出る直前振り向いた。何も言わずただ笑っていた。

 

「…嘘つき」

 千束は1人になった。

 

 

*****************************

 

 

 あれから何日だったのだろう。

 私は千束と別れた後、DA本部に連行された。今回の件について尋問された後、「処分は後程執り行う」と言われ留置所に放り込まれた。

「"処分を執り行う"ねぇ……」

 もはや隠す必要もないと考えたのだろうか。

 

 私は、おそらくこのまま"処分"される。

 リコリスらしく銃殺だろうか?あまり考えたくない。

 残り少ない時間、することもなくただ留置所の天井を見上げていた。千束はどうしたのだろうか。あのままリコリコに帰れたのだろうか。また吉松に何か吹き込まれていないと良いのだが。千束のことを考えていると思い出したことがあった。

 

『リコリスは戸籍がないからパスポート作れないから海外に行けない』

 

 たしかウォールナット、くるみの護衛をしていた時だった。千束は海外旅行を夢見ていた。

 もし、私と千束が普通の高校生だったら、何をしているのだろうか。千束が一つ上だから、先輩と後輩の関係になるのか。部活とかで知り合うのかな?でも、千束を先輩って呼ぶのはなんか癪だなぁ。

 アルバイトで貯めたお金で旅行に行くのはどうだろうか?まずは無難に箱根。温泉にゆっくり浸かるのはきっと最高だろう。次は奮発して北海道とかどうだろう。無理に全部回ろうとして挫折して、函館あたりで美味しいものを食べる。千束は太る。大学に入ったら待ちに待った海外旅行だ。フランスはご飯が美味しいらしい。ここでもやっぱり千束は太るんじゃないかな。でも、千束と行く場所はきっとどこでも楽しいんだろうな。

 

「ふふっ、あ〜あ」

 

 死にたくない。ぐっとその言葉を押さえ込む。それを口に出してしまったら、みっともなく泣き喚いてしまいそうだから。

 せめて千束には幸せになって欲しい。リコリスだから難しいかもしれないけれど。

 でも、きっといつか、千束がリコリスではなく普通の女の子として生きれる世界がきっとくる。きてくれると信じてる。信じたい。

 

 留置所の扉が叩かれる。

 ついに来たと思い返事をしようとすると、

「やってくれたな、たきな」

 楠木司令官が立っていた。さらにその後ろには

「いやぁ、派手にやられましたよ」

 顔も見たくない男、吉松が立っていた。

 全く、死ぬ時ぐらい好きな人のことしか考えたくなかったのだが。

「2人揃って処分の通達ですか?」

「いや、違う」

「じゃあ、何ですか?冷やかしに応じられるほど暇では」

 

「今回の件は『なかった』」

 

 楠木司令官はいつもの調子でこう言い出した。

「……は?」

「廃工場では何もなかったし、君と千束はリコリコにいた」

「待って下さい」

「以上だ」

 楠木司令官はそのまま立ち去ろうとする。

「私は、重大な命令違反をしました。仮に『なかった』ことになるとしても、命令違反をしたリコリスを処分するのでは?」

「まあまあまあ、そこは私が説明しよう。」

 何も喋らない楠木司令官に代わり、吉松が喋り始めた。

「……あなたとは、死ぬまで話したくはないのですが」

「まあ待て、これが一生で一度だ」

「君も多少の真実が知りたいだろう?」

 私は渋々留置所のベットに座る。

 吉松は愉快そうに話し始めた。

「知っての通り私の所属する『アラン機関』は『類稀な才能』を支援することが目的だ」

「千束は『類稀なる殺しの才能』を見出された。その才能を彼女に使いこなさせる。それが最終目標だった」

 女子高生のフリをした殺し屋であるリコリスの言えることではないが、くだらない陰謀論のようだ。聞くに堪えない。

「君は千束を"完成"させるための駒だった。リコリコに君を送ったのもそのためだ」

「千束と心を通わせた君を彼女に殺させる。これにより千束は感情を殺し、他人を殺せる才能を手に入れるはずだった」

「じゃあその駒である私に出し抜かれたわけですか」

 1人のリコリスで計画が破綻するとか、組織としてどうなのだろうか?

「いや全くその通り!完璧にしてやられた!彼女は君への感情を殺すことは出来なかった。我々の、いや、私の失策だ」

「組織ではなく、あなた個人のミスなんですか?」

「『アラン機関は対象者と接触してはならない』それが我々の掟だ」

「えっ」

 私は目を見張った。この男は10年前に千束に接触し、その後もリコリコに入り浸っていたじゃないか。

「彼女の才能に惚れ込んだ私は、あろうことか、彼女に接触し、励まし、自分の所属を明かしてしまった」

 千束は『会いたい人』がアラン機関の人であることを知っていた。象徴であるフクロウのペンダントも。

「私の接触で、彼女はDAを抜けてしまった。私に会うためだけにだ」

「彼女はDAから出て、外の世界を知ってしまった。薄汚い殺しの世界ではなく、ね」

「一度知ってしまったら、もう戻れない。彼女は感情豊かな少女になってしまった。君の言う『普通の女の子』にね」

「だから、これは私の失策だ」

自分のせいで計画が壊れたというかこの男は、どこか清々しい。

「…それで、何故私は処分されないのですか?」

私は根本的な疑問を投げかける。

「君の行動力は凄まじい。人質を助けるために情報を引き出すべき相手を殺し尽くせる。1人の少女を助けるためなら自分の命すらかけられる」

吉松は私の目を覗き込んで言った。

「君には『類稀なる目的達成の才能』がある」

「何ですかそれは」

 あまりにも突拍子もなく、現実味もない。後付けで無理やり作ったようにしか思えない。

「……と上層部を説き伏せた」

「は?」

 何を言っているのだこの男は。悪戯が成功したような顔で笑っている。

「とまあ、こんなわけで君はアラン機関で観察対象となったのだよ。千束同様、支援を」

「結構です。もう帰って良いですか」

 ひとまず筋道はわかった。ならもうどうでも良い。

 奇跡的に私は処分されずに済んだらしい。

 千束を追い詰めた、この憎い男のお陰で。

 抑えたものが溢れてきそうだが、我慢だ。

 今は1秒でも早く千束に会いたかった。

「全く、つれないね」

「当然です。感謝なんてしたくありません」

 留置所から立ち去ろうとして、肝心なことを聞き忘れているのを思い出した。

「……どうして、リコリコに通ってたんですか?」

 10年前に接触しただけでなく、この男はあろうことが正体隠してリコリコに通い続けていたのだ。

「なに、私も錦木千束というただの少女に惹かれただけさ。才能を抜きにね」

 吉松は少し遠い目をしていった。

「早くリコリコに戻りなさい。千束くんは魂が抜けたように接客しているようだよ」

 

 留置所から出ると、まだ楠木司令官が立っていた。

「わかっているだろうが、お前はもう2度とDAには戻れない」

 楠木司令官は厳しい顔でそう言った。

 当然だろう。2度も命令違反をした『使い物にならないリコリス』なんて、DAには必要ない。処分されてないだけで奇跡だ。

「そうですか、でもいいです。戻る気なんてもうないんで」

 私の居場所はここじゃない。

「そうか。またな、井ノ上たきな」

「えぇ、またお会い…」

 言いかけてふと、千束と見たアクション映画の最後のセリフを思い出した。殺伐とした世界から抜け出すならあの言葉がいいだろう。

「もう、会うことはないでしょう」

 微妙な顔をしている楠木司令官を置いて私は出口へ走った。

 

「全く、ただの生意気なクソガキが増えただけだったな」

 

 

*****************************

 

 

 あれから何日経ったんだっけ。

 たきながDAにつれてかれた後のことはよく覚えてない。知らないうちに車に乗っていて、知らないうちにリコリコに帰ってきていた。

 気づいたら次の日になっていて、普通にリコリコで働いていた。お客さんに「ちさとちゃんは?」と聞かれても「急病で…」と答えた。

 私は普段通り。大丈夫。いつも通りに過ごせている。そう思っているのは私だけみたいで、お客さんには心配されてしまうし、くるみちゃんとミズキさんには気を使われるし、ついに先生に休養を命じられてしまった。

 することもないので映画を観ても内容が頭に入ってこない。気がついたら2時間以上過ぎていた。そういえば、最近はたきなと映画を観ることが多かった。観た後、私の映画トークに付き合わせるのがいつもの流れだった。

 

 そう、たきなと一緒に。

 

「私の、せいだ」

 私が吉松さんの話に乗ってしまったから。こんなことになってしまった。

 たきなの行動は明らかに無謀だった。DAとアラン機関に喧嘩を売るなんてどうかしている。その後のことを全く考えていない。

 今思えばたきながあそこまで鬼気迫っていたワケがわかる。あの子は私と会った時点で、命令違反で殺されるか、私に殺されるかの二択しかなかったんだ。

「何で、私なんかのために…」

 たきなに会いたい。会って話がしたい。

 もう、叶わない夢かもしれないけど。

 

 スマホの着信が入る。店長からだ。私はなるべく元気な声で出る。

「はいはーい! 元気な千束ちゃんですよ!」

「元気な奴は自分で元気なんて言わん。今すぐ店に来い」

 そのまま電話を切られてしまった。

 家に居てもすることはない。私はそのまま店に向かった。

 

「臨時休業?」

 店に着くと、平日なのに何故か店は営業していなかった。入っ てみるとミズキさんとくるみしか居ない。

「あれぇ?店長は?」

 すると2人は何故か目を逸らして

「「知らない」」

と言った。

「何その反応!? 絶対なんか知ってるでしょ?」

「ナニモシリマセンヨ」

 ミズキさんがロボットみたいになって奥に引っ込んだ。

「僕は情報解析に忙しいので戻る」

 くるみちゃんは和室に行ってしまった。

「もー! なんなのー!!」

 

 その時、店の扉が大きく開き

「店長ぉ!! 一体何を隠して」

 

「ちさと!!!!」

 

 胸の中に誰かが飛び込んできた。

「あ、あれ」

 それはもう2度と会えないと思っていた人だった。

「わ、わたし、こんどこそしぬとおもって」

 顔がぐちゃぐちゃなるほど泣いてて。

「さいごにあいたいとかおもってて」

 もう何言ってるかわからなかくて。

「でも、でも!またあえた…」

 とびっきりの笑顔で笑ってるたきなだった。

 

 ので。

 

 思いっきりぶん殴った。

 

「痛ぁ!!! いきなり何するんですかぁ!!」

 たきなが抗議の声を上げるが、知らん。

 こんなに心配したんだ、(元はと言えば全部私が悪いが)少しくらい文句言っても良いはずだ。

「バカ! アホ! 無鉄砲! 脳筋! 狂犬! トランクス!」

 文句が小学生だった。

「トランクスはもう履いてないから良いじゃないですか!」

 たきなの抗議を無視して抱きしめた。

「このオタンコナス!! うわああああああ」

 

 この後のことはよく覚えてない。

 あとからくるみちゃんに聞いたが

「2人して抱き合って泣き叫んでいた。死ぬほどうるさかった」

 らしい。

 

 

 

先のことはわからない。

私たちの未来は明るいとも限らない。

それでも

君が

連れ出して/連れ戻して

くれたから

きっと大丈夫。

いくらでも迷いながら

光も影も見に行こう。




読んでいただきありがとうございました。

リコリコ、今後の展開が気になりますね!

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