幻の夢を追いかける花   作:或る記憶

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Q.貴方の夢はなんですか?

俺の夢は、ウマ娘にも負けないアスリートになる事だ。
 


初めて見る、馬酔木の花。

 

俺は昔から運動が好きだった。

公園にあるアスレチックは俺が1番遊んでいた自信があるし、怒られる事もあったが遊び方のアレンジは学校1。嫌、世界1。

特に走るのが俺の中ではお気に入りだった。骨さえ折れていなければ、何時でも何処でも楽しむ事が出来たから。

だから走って、競って、勝って、笑って、俺の夢はアスリートになる事だった。走りに特化をした、ウマ娘なんかにも負けないアスリート。

 

ある日の事だ。

俺がまだ中学生の頃、近所に越して来たウマ娘と知り合った。生まれて初めてのウマ娘の知り合いだった。

その子はまだ小学生にもなって無い、世間的にはまだ小さい部類の俺でさえも「小さいなぁ」と思う程には小柄な女の子で、人間とは違う位置にある耳で身長をカサ増ししている様に見えて可愛らしかった。

しかし、その頃の俺は所謂反抗期が始まったばかりのクソガキで、自分が学校では上位の運動神経を持っていたからこそ勝負を持ちかけた。

未だ保育園児のウマ娘と、中学生の俺による速さ勝負。

結果はまぁ、お察しの通り。

ウマ娘のポテンシャルを舐め腐っていた俺は、赤子の手を捻るが如く置いて行かれて初めて敗北を味わった。

そこからはまぁ、酷いもので。反抗期が始まった心に遊びとはいえ敗北の事実が耐えられない悔しさだったのか、一気に性格は酷くなり、汚い言葉で親を呼び、部屋に籠っては夜更かしをし、学校をズル休み。

懐いてくれていたウマ娘のあの子とは会話所か、顔を見る事も無くなった。

今思い出しても、とんでもない人間だなって思うよ。

 

そんな俺が変わったのは、テレビでとあるウマ娘が引退をするというニュースを見たからだ。

そのウマ娘は大きな功績こそ無かったが、期待の新人としてインタビューをされる事も多かったからレースには無縁の俺でも名前を知っていた。

しかし、その期待を応える様に練習に没頭して膝を壊して、簡単に現役を退く事となった。

誰が悪いのかと言われれば、多分持ち上げた方と、練習メニューを詰め込み過ぎたトレーナーと、自分の身体が出したサインを見逃したウマ娘本人か。

俺はニュースを見て、正直、馬鹿だなぁって思った。

俺だったら誰が見ても無理だと分かるメニューなんて詰め込まないのにって、ハードスケジュールをするのならそれに耐えられるだけの頑丈さとトレーニング以上のメンタルを含めたケアが必要なのにって。

そこ迄が頭に浮かんで、俺は気付いた。

俺は、運動が好きなのは勿論だが、"運動をする方を支えるのも好きなんじゃないのか?"って。

 

反抗中の脳味噌をフル回転させて思い出してみれば、思い当たる節があった。

俺は公園や学校のアスレチックを制覇し、アレンジして遊ぶ男だったがそれ以上にその遊び方や、攻略方法を友達に教えていた記憶。走る時、ドロケイ中に人の走り方に「こうすればもっと走れるぞ!」って自己流のやり方でケチを付けていた記憶。

まるで、まるでウマ娘を1流にする為に支えるトレーナーの姿。

身体に電撃が走った様だった。気付いてしまってからは、どうにも身体が熱くなって悲しいニュースの筈なのに、テレビから目が離せなかった。

 

"俺が育てたウマ娘が祝福され、歴史を作る光景"

 

きっと、俺の心に芽生えた想いは実現するには難しくて、今活躍している1流トレーナーでも難しいこと。

それでも、それでも、夢が出来てしまったのなら仕方ないだろ。

 

夢が出来た俺は、まず目標をトレーナーになる事に定め行動を始める事にした。

今までの反抗期が嘘みたいに性格が変わり、なけなしの小遣いでトレーナーになる為の資料を買い漁り始めた俺を見て両親はとても驚いた顔をしていたが、その時の俺は反抗期なんて3文字は頭から完全に抜け落ちていた。少し不思議な反抗期の終わり方だったと思う。

高校生になってからは、立派な小学生となっていた近所のウマ娘と再び話す様になって、教本を読みながら指導の真似をした。あんなに酷い扱いをした俺ですら笑って、ブルーシールを奢るだけで許してくれた。

成長期の身体に負担が掛からない様に自分なりに意識して、時々大人を交えながらトレーニングをしてみればあの子は今までが嘘の様に速かった脚は更に速くなって、昔は感じていた悔しいという感情を通り越して憧れと尊敬の感情を向けていた。

 

トレーナーになるべく大学からは地元を離れ、上京して、初めて東京という土地を踏んだ。

何処にいても人がいて、何処を見てもウマ娘がいる。

俺が暮らしていた沖縄とは比べられない程の人がいた。

初めて、人酔いを経験したのもその時だった。

 

 

大学で自分なりに学び、トレーナー資格を受験して有り難い事に中央での合格が決まってから早数ヶ月。

広い、広いトレセン学園の芝のコース。

そこで、俺は初めてその背中を見た。

選抜レース。メイクデビュー前の学園内だけで行われる、言わばトレーナーへのアピールレース。

平日の昼。実況の熱も無い、見ているのは俺含めたトレーナー数人と、出走するであろうウマ娘の友人が数人だけ。

そんな世界で1人のウマ娘に目を奪われた。

圧倒的な走りである筈なのに周りの誰も気にしない。

俺が知っているウマ娘とは、正反対の顔で走るウマ娘。

俺は、あの子を一目見て心を奪われた。

まるで俺の夢を見つけた時の様な感覚だった。

 

「……あの子が、笑顔で走っている姿」

 

それを考えただけで俺の脚は自然に動いていた。

もしかしたらもうスカウトをされているかもしれない。

もしかしたらこんななりたてのトレーナーには指導されたく無いかもしれない。

もしかしたら俺が話し掛けても無視をされるかもしれない。

様々な「かもしれない」が頭に浮かんでは消える。

でも、それはそれだ。断られたら諦める。何回か粘って駄目なら手を引こう。

そう思ってしまう程に、若旅伊吹は、あの子の夢を叶えたいと思ってしまった。

 

選抜レース、4枠8番、アセビボタン。

あの子は祝福され、歴史を作るウマ娘にきっとなる。

 




 
Q.トレーナーさんの夢はなんですか?

俺の夢は、担当したウマ娘が笑顔で走って卒業すること、かな。
 
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