幻の夢を追いかける花   作:或る記憶

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番外編:いつかのクリスマスは離れた場所で

 

「……そういえば、ボタンは冬休みは帰省するんだっけか?」

「はい。今年は年末にレースも無いですし、クリスマス前から年明けまで少し長めの帰省になります」

「ふーん。じゃあ、またトレーニングメニューは作って渡すわ」

「有難う御座います」

「ちゃんと休めよ」

「ふふっ、はーい」

 

午後のトレーニングを開始する前のミーティング時間、私はストレッチをしながら、トレーナーさんは練習メニューが書いてあるバインダーを覗きながら何時もの様に雑談に花を咲かせる。

周りに目を向ければトレーニング中のチームはあれど、私達の様なトレーナーが1人にウマ娘が1人の構成は少ない。

 

「トレーナーさん」

「んー?何だ」

「何時も思ってたんですけど、トレーナーさんって他のウマ娘さんをスカウトはしなかったんですか?」

「え?何だよいきなり」

「だって、他のチームだとウマ娘が数人にトレーナーさんが1人のチームが多いでしょう?」

「……あー、まぁ、そうだな。でもな、俺ってこう見えて新人のトレーナーなんで、そんな人間が1人でウマ娘複数人とか無理。ボタン1人のトレーニングメニュー考えるだけで徹夜してるってのに。……というか、新人でありながらサブトレーナーじゃ無くてトレーナーとして活動できてるのが奇跡なんだよ」

「まぁ……それはそれは、私はその労力に応えなければいけませんね」

「そうだぞ〜。しっかり応えてくれよな」

 

 

ウォーミングアップとして1,000メートルを1周、2周と緩く走り、その後はウッドチップのコースも使いながら本気で走る。

季節柄、吸い込む酸素が冷たくて内臓が違和感を訴えてくる。去年は、この違和感に慣れなくて冬場のレースは散々な結果が多い。

メンタル面もそうだが、まだ、私には課題が山積みだ。

チカラちゃんにも聞いてみようかな。天皇賞の話みたいにはぐらかされそうだけど。

 

「よし、それじゃあもう1本行くぞ。今度は全力も全力でな」

「はい」

 

指定の場所に立ち、トレーナーさんが掲げている旗が地面に向いた瞬間地面を踏み込む。

沢山考えたい事はあるけれど、今はトレーニングに集中しよう。

 

 

「本日のトレーニングメニューはこれで終了とする」

「はい。有難う御座いました!」

 

1日のトレーニングが終わり、トレーナーさんへ今日の気になった事も報告し、ストレッチに入る。

時計は16:30を指しているが、もう辺りは暗くなり始めている。

 

「気になっていたんだが」

「?何でしょう」

「ボタンの家って、クリスマスとかしたりするのか?」

「え?普通に、しますが……何か変ですか?」

「いや、なんて言えば良いのか……ちょっと前に俺とボタンで消耗品を買いに行った事があるだろ?その時、家電売り場のテレビにやけに驚いてたから、凄い古い家なのかなって」

「トレーナーさん、失礼ですね……?」

「すまん。でも、ちょっとな」

 

「トレーナーさんは私を舐め過ぎですね。クリスマスは私の家に親戚が集まって大人はお酒で、私達はカルピスを持ったどんちゃん騒ぎです。お兄ちゃんがチビ達にキャラメルを1粒ずつ配って、私は長女なので2粒貰えるんです!それで、夜になったら庭の松の木に飾り付けた電気の飾りがキラキラ光って、それを皆で雪見窓から覗き込むんです!素敵な夜なんですよ!」

 

「……やっぱり、ちょっと古いよな」

「え!?」

「ゲームとか、しないのか?」

「花札にカルタ、双六に将棋。私の家には基本何でもありますよ?」

「おばぁの家感が凄い」




 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

20 /12/25。クリスマス。18:30。

広間で皆が楽しく話している音を聞きながら、私は少し離れた自分の部屋で1人携帯電話を取り出す。

初めての挑戦に緊張しながら、何回も調べた通りのやり方で、通話を開始する。

何回かの着信音が響く。

「も、もしもし。聞こえ、ますか……?」

「えぇ、聞こえるわ。コンニチハ、ボタン!Happy Christmas!」
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