幻の夢を追いかける花 作:或る記憶
毎日をチビと他のお友だちと過ごしていると、上から白いのが降ってくるんだ。
ヒトが言うには「雪」と言うらしい。
昔、わたしが呼ばれていたゆきかぜと少し被っていてなんだが好きだ。
この雪がたくさん降ると世界がしろくなって、ちょっと前のゆでられるみたいな気分がわるくなる日とは違った日が始まる。
草が無くなって、葉っぱが無くなって、音が無くなる。
だけど、ちょっと前よりマシな日々。
「寒く無いかい?ボタンももう17歳だからね、少し心配だよ」
有難う、ほうじくん。大丈夫だよ。
それよりチビが心配だよ。あの子、あんなに小さいのに雪のかたまりに自分から入って行くんだ。
「でも食は問題無い様だし、そこは心配ないけど」
ご飯美味しいもん。まだまだ沢山食べるよ。もう少し、増やしてくれても良いくらい。
走り回っていたチビが戻ってくる。
チビは「かげろう」って呼ばれてるけどわたしはチビっていう言い方の方が慣れてるから、ずっとチビって呼んでる。
それにわたしみたいに名前が変わるかもしれないし。
ほうじくんはわたしとチビを撫でて、満足げに他の子達の所へ行ってしまった。
少し暗い空をながめて、もう1度周りを見渡す。
お友だちとほうじくんと、走り回るチビ。
地面がちょっとずつ白くなり始めていて、なんだがワクワクする。
ねぇ。つぶらやせんせい。
あなたもこの雪を何処かで見ていてくれるのかな。
今日もチビが元気に走ってるよ。
ほら、見えるかな?
ーーーーー
今年もまた、この季節がやってきた。
少し前の茹だる様な暑さからは一点寒さ厳しい季節が始まる。
私はどうにも冬が苦手で、特注で作った生地の分厚い洋服を毎日着ては、その上からコートを羽織っていた日々。
友人の1人には冬など知らぬといった様子で1年中薄着で駆け回る者もいるが、私には到底真似できない。
だけど、今日はどうしても行きたい場所があるのだ。
人の波をふらふらと漂って、目的地へと向かう。
栄えた場所よりもずっと静かな場所へ。
あの場所へはもう何ヶ月、下手したら何年と言っていない筈なのに、自然とこの脚と、脳味噌は覚えた道筋をするすると進んで行く。
風景が変わる度にこの心は期待に包まれる。
もう直ぐで、もう直ぐで会える。
あの子をもう1度この目で映す事ができる。
普通なら、こんな寒い時期に来るなんて日本人からしたら首を傾げてしまうが、まぁ、些事だ。些事。
「(確か、この通りを……)」
記憶の奥にある道を辿ってやって来た場所。
沢山の花が咲き誇るであろう花壇と、動物が飼育されているであろう形の柵。
奥からは羊、犬、馬の鳴き声が聞こえてきて涙が溢れそうだった。
私の、最愛の1つ。
「(あの子の元へ)」
首を必死に動かして、あの子を探す。
見慣れた黒い身体のあの子。
「(……見つけた)」
自分の記憶より、幾分か色の抜けた身体。
小さな仔馬に顔を寄せて母の様な優しい顔をするあの子。
そうか、私がいなくなった後にあの子は母となったのか
「アセビさん……」
誰にも聞かれない声で名前を呼ぶ。
そうすれば、アセビさんがタイミング良く顔を上げて、私の声に応えてくれた様で嬉しくなる。
「どうか、幸せであります様に」
私が愛するもの全てが、健やかに生きられます様に。