幻の夢を追いかける花 作:或る記憶
今から少し前のトレセン学園。
チームに分け与えられた小さな部屋の中で1つの机を囲み、1人のトレーナーと、1人のウマ娘がスケッチブックを見つめている。
鉛筆と色鉛筆が散らばる中、トレーナーが口を開く。
「やっぱり、ボタンには和装の方が似合うよな」
口許に手を置き、唸る様に首を捻るその姿に対面に座るウマ娘、アセビボタンが反対に困った顔で続いて口を開く。
「あの、トレーナーさん。勝負服を考えて下さるのは嬉しいのですけど、流石に早くないですか?私はまだメイクデビューしたばっかですよ」
「いいや、ボタンのポテンシャルを考えると今すぐに考えておいた方が良い。トレーナーなりたての俺からしてもとんでもない力を持っているのが分かるからな」
トレーナーである若旅伊吹が素直な気持ちを口にすれば、目の前のアセビボタンは照れた様に顔を逸らすが、言った当人はスケッチブックに集中している為それに気付かない。
「……なぁ、ボタンはどっちが好きだ?マルゼンスキーみたいな洋装と、サクラチヨノオーみたいな和装」
「個人的な好みでは和装ですけど、皆さんの勝負服を見ている限り少し、丈が短くて」
「丈?」
「はい。私は生まれてこの方肌が出る服装をあまりしてこなかったので、ちょっとソワソワすると言うか……制服もスカートの丈を私は他より長くして貰ったんです」
「成る程な。まぁ、そこは丈を長めにお願いすれば解決だな。じゃあ、デザインだけど」
「……あっ!私、牡丹の柄を入れたいです。名前にも入っていて思い入れがあるので!」
「フム。となると、スカート?の部分に入れるのが良いか?」
「ヤエノムテキさんの様に、腰にリボンを付けて結び目の所に牡丹の花飾りを付けるのも可愛いですよね」
「ヤエノムテキか……個人的にはボタンは装飾を少なくしたシンプルな方が良いと思うんだよな」
「?そうなんですか?」
「いや、本当に個人的な意見だが、ボタンの髪の毛は特徴的な色をしているから、その部分も含めて1つの形にしたいなぁと」
「髪色……確かに、私も自分の色は好きです」
あれやこれやとお互いに意見を出し合えば、段々とエスカレートし止まらなくなる。
それは、しっかり者である2人の意識を逸らすのには充分で普段は学園の芝コースや、ウッドチップコースを走り回っている時間になっても話し合いは止まらずに、部屋の中がオレンジに染まって漸く気付く。
「えぇと、明日は真面目にトレーニングするという事で、手打ちに、しましょう、か?」
「あー、そう、ですね……!」
今後の活動に対し、大切な話し合いという部分という点においては特に問題が無いのだが、トレーニングを忘れて話し合う初めての経験に2人は困惑しながらも机上に転がる鉛筆や、色鉛筆を片付ける。
時間を忘れる経験は2人にとって困惑を伴う経験ではあったが、そのお陰で「アセビボタンを象徴するもの」の1つを完成させた。