幻の夢を追いかける花 作:或る記憶
都会とは言い辛く、地方都市とも違う少し長閑な、静かな土地。
その丁度真ん中辺りに位置している立派な日本家屋。
周りの現代的な家々とは一線を画す、歴史に取り残されてしまったかの様な佇まい。
ふわりと香るイ草の匂いを楽しみながら2人のウマ娘が縁側に並び、座っている。
「チカラちゃんはさ、本当に天皇賞を勝ったウマ娘なの?」
牡丹の飾りが付いた芦毛のウマ娘がおずおずとお茶に口を付けながら言う。
それを聞いた紫の耳カバーにパールの飾りを付けたウマ娘がコーラを口にしながら答えた。
「えー、トキちゃんまだ疑われてるカンジ?ちょっとショックかなー?」
「だ、だって……映像とかも見た事無いし、盾だってチカラちゃんの家に無かった」
「ちっちっちー。たったそれだけの要素でトキちゃんを推し量るのはナンセンスだぞ?トキちゃんは、ボンちゃんの知らない所で努力してたのだ」
「うー」
「まぁ、トキちゃんが走ってたのは昔だし、映像残ってないのもトウゼン?ってやつ」
「……そんなに歳離れてない癖に」
「なにをー!?こうしてやる!コチョコチョコチョ」
「え!?うわっ、何!?……擽ったい!んふふふふ」
静かな街の中に笑い声が響く。
2人が縁側に倒れ込んだ音に、日中の留守を頼まれている女中の1人が慌てた様に顔を出すが、2人の様子を確認して微笑ましそうに笑いまた仕事に戻っていく。
寮生活で頻度は減ってしまったもののこれが、この家での日常風景だった。
・
・
・
「あっ、そうだ!ボンちゃん秋の天皇賞に出るんだっけ?」
「……えぇ、まぁ」
「ン?なんだか元気無さげだね?」
「元気が無いというか、私、少し前までは少しばかり勝ち星を上げてたけど、今はもうすっかり駄目になっちゃったから、招待自体はされたけど、勝てるかどうか」
「フーン……じゃあさ、ボンちゃんが勝ったらトキちゃんとも走ろうよ」
「?どうしてそうなるのさ」
「だってー、トキちゃんが天皇賞勝ったのか気になるんでしょ?それを証明する為には一緒に走るのが手っ取り早いかなー?って、でも、今のボンちゃんだとトキちゃん圧勝しちゃうし……せめて秋の天皇賞勝ってくれないと同じ土俵にも上げて上げられないかなー?」
「自信満々だね」
「うん。だって、今のボンちゃん、誰から見ても弱っちぃモン」
「……あーあ、言っちゃったな?」
「言ったよ。だから、勝っておいで。トキちゃんが持ってる栄誉と同じ名前の栄誉を。3,200メートルをゼンリョクで」
「そっか。そうだね、ちょっと、頑張ってみる」
夕暮れに染まり始めた空の下、大きな門の前で不器用な激励を送るチカラと、それを受け取るボタンは笑い合う。
年齢は少し離れているけれど、気の置けない親友である事に間違いは無い。
じゃあねと手を振って自分の家へと歩いて行くチカラの背を見送って、家に戻ろうと1歩を踏み出したボタンは気付き、その背中に大声を出した。
「あ、あの!チカラちゃん!!秋の天皇賞は2,000メートルだよ!!!」
「へっ!?!?そうだったっけ!?」
やっぱりどこか締まらない、2人のやり取り。
もう1度、笑い合って、それでも頑張ると話したボタンに、頑張りな!と返すチカラ。
秋の風が吹き抜けて、洋杯と盾が並ぶのは、もう少しだけ後の話。