幻の夢を追いかける花   作:或る記憶

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出会い

今でもずっと夢に見る光景。

私の前を鹿毛の髪を揺らして走る絶対に追い付けないあの子の姿。

 

目を開けて、見慣れた木目の天井を見つめながら手元の携帯を持ち上げる。

時間を確認すれば目覚ましに設定した時間よりも2時間程早く、部屋は薄暗い。

またあの夢だ。

不快感も無く、悪夢でも無い、只私の心を奪う夢。

どうしたらあの子に勝てるのだろうか。

そればかりをずっと考えている。

 

 

この脚は人よりも速く走れる。

それは、自分がウマ娘だから当たり前ではあるが、それでも並大抵のウマ娘よりは速く走れる。

何回目かのレース、見慣れたゴール板を通り過ぎる。

アナウンサーが興奮した口調で私の勝利を賞賛していて、周りのウマ娘達からは"どうしてお前が"という目で睨まれる。

その目を横目にしながら耳と、目を動かす。

探すのはあの子の姿。

此処にもいないという事実を頭では理解していても、どうしても身体が動いてしまう。

鹿毛色のウマ娘、私が探す後ろ姿。

 

今日も、見つけられなかった。

 

 

「私を、スカウトしたい……?」

「あぁ」

 

片手に収まるサイズの名刺には、若旅 伊吹(ワカタビ イブキ)という四文字。

初めて渡された名刺に、初めて言われたスカウトの言葉。

 

「御免なさい、トレーナーさん」

「私はレースに対して、周りの子達みたいな強い思いが無いんです」

 

頭を下げて、正直な言葉を口にする。

こういう時は変に誤魔化すより正直に言ってしまった方がきっと良い。

 

「知ってるよ。君の走りを見ていたら、嫌でも分かる」

「?なら、どうして」

「君が、アセビボタンが勝ったのに嬉しそうじゃ無かったから」

「嬉しそう、じゃ無い……?」

 

まさかの言葉に思わず首を傾げてしまう。

レースに勝つのは嬉しい事だ。

あの子を探すのを一番の目標にはしているが、それでも勝ったら最低限の感情は湧き上がっている筈だ。

 

「俺は、君の走りを初めて見た時からずっと思っていたんだ」

 

「ゴール板を笑顔で駆け抜ける君の姿を」

 

やけに真っ直ぐな言葉を向けられて、なんだか恥ずかしくなる。

目を逸らして、釣られた様に私も声を出す。

 

「……私が欲しいのは、誉れ高いG1や重賞の結果でも無くて、ただ一つ。あの子に勝利すること」

 

「きっと10回戦ったとしても勝てないであろうあの子と本気で走って、勝利すること」

 

「……それが、私の目標」

 

 

「そんな訳で、私みたいなウマ娘より、他の本気で勝負をする子達の為にその力を使って下さい」

 

情熱を持って私をスカウトしてくれるのは嬉しいけれど、私はあまりにも周りの子とズレているから。

多分、あの子に勝つ迄は彼の言う"嬉しそう"なんてものは出ないから。

一生を賭けても見つけられないかもしれない子に縋って彼の人生を狂わせるのは、きっと違う。

だから、やっぱり私は、彼の言葉に頷けない。

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