幻の夢を追いかける花 作:或る記憶
アセビボタンは動物に懐かれやすい。
幼少期から実家で飼っていた犬や猫、小鳥やハムスター等に触れていたからか、元来のアセビボタンが持つ才能か。
トレセン学園という一種の閉鎖空間に身を置くまではアセビボタンが野良猫を惹き付けて、ハーメルンの笛吹きウマ娘をする事で有名だった。
トレセン学園。
数多くの個性豊かなウマ娘が切磋琢磨する日本屈指の学び舎。
時刻は昼の12時、食事をするウマ娘、会話に花を咲かせるウマ娘、休息を取るウマ娘と様々である。
「……あれ?」
毛先だけが黒くなった特徴的な芦毛を揺らすアセビボタンは、目の前の通路に1匹の猫が寝転んでいる姿を見つける。
野良猫にしてはヤケに落ち着いていて、毛艶も良い。
誰かの飼い猫かとも思うがトレセン学園の寮はペット可の物件だったか?
それとも、過去にあった鹿や狸に懐かれた時の様な、突如現れたタイプなのか?
ボタンは様々な事を考えて、取り敢えず遠い距離にしゃがみ、手を伸ばす。
「猫さ〜ん」
ボタンの声に反応した黒い毛並みの猫は寝転んだ地面からゆっくりと立ち上がり、伸ばした手に擦り寄ってくる。
無意識に自身の尻尾が揺れる事を感じながら、徐々に触れる範囲を広げていく。
そうすれば直ぐに猫はお腹を見せ、ゴロゴロと喉を鳴らす。
「猫さん、猫さん、かいらしいね」
頬が緩むのを自覚しながら、残りの昼休憩一杯までこの場所にと心に決め掛けた所でボタンの耳に突然大きな音が響く。
「はーっはっはっは!!!そこにいるのは紛れも無くプリンセス!!!」
「にゅ!?……あ、テイエムオペラオーさん」
「この場所で出会うのも何かの縁!……おや?その美しい髪色に隠れている猫は……」
「この子ですか?多分、野良猫さんだと思うんですけど」
「フム。しかしプリンセス、その子はボクの、いやボク達の!!!探し猫なのさ!!!」
「あっ、そうなんですね。どなたかの飼い猫さんですか?」
「理事長のだね!!!」
「りじ……まぁまぁ、それは」
ボタンが抱き上げた猫は飼い主を心配させている事は気に留めず、腕の中で呑気に今も鳴いている。
「心配させては駄目ですからね」
「ニャーン」
「あらあら」
「では、プリンセス。差し支えなければボクが理事長室までエスコートをしても?」
「ふふっ、お願いしても良いですか?」
「勿論だよッ!任せてくれたまえ!」
嬉しそうに動くオペラオーの尻尾を見つめながら、ボタンは可愛らしい子だなぁなんて思いながらその背を追う。
何故か呼ばれる様になった「プリンセス」なんて渾名に少しだけ、恥ずかしいなぁと思いながら。