幻の夢を追いかける花 作:或る記憶
「アセビさん、ご機嫌は如何かな?」
うん。元気だよ。
つぶらやせんせいはお元気かな?会いに来てくれたのが久しぶりだから、わたしはとっても嬉しいの。
でも、ここはお外じゃ無くてお部屋の中だから騒がない。むかし、それで怒られたからちゃんと覚えたの。
「身体も、もう、白くなってきたね。アセビさんは芦毛だから成長がとても分かり易いよ」
んふふ、そうでしょう?
わたし、素敵なオトナになるんだもの。
わたしをいじめてた子達よりも綺麗でりっぱなオトナになるの。
あっ。つぶらやせんせいの頭もちょっとだけ白いわ。わたしと同じ、お揃いだね。
だけど、つぶらやせんせいは昔とちがって、最近はゴホゴホってしているから心配なの。わたしの手とせんせいの手は違うから、わたしはせんせいの頭を撫でて“大丈夫”をしてあげる事ができない。
「・・・・・・心配してくれて有難う、アセビさん。私は大丈夫だよ」
「先生。これ以上はお身体に障ります、もう休みましょう」
「そう、ですね・・・・・・アセビさん、大丈夫。私は大丈夫だから、ね」
わたしはお返しにせんせいを撫でる事ができない。だから、代わりに精一杯顔を寄せてわたしの元気をつぶらやせんせいとにあげるの。
わたしのお鼻を寄せて“元気になぁれ”って、たくさん沢山お願いするの。
カラカラって音を立てながら、つぶらやせんせいが丸いが付いたイスに乗ったまま帰って行く。
わたしはすっごく寂しくなるけれど、また来るねって約束してくれたから、わたしはお利口さんにして待っているの。
早く、つぶらやせんせいが来ないかしら。
せんせいに会えるのがとっても楽しみなんだから。
目覚まし時計の音が聞こえて、強制的に意識を戻される。
身体を起こせばカーテンから漏れる光に照らされる部屋と、歪んだ視界。目に異常でも起きたのかとそっと両手で触れてみれば、漸く私が泣いていた事に気付く。
幸せな、夢を見ていた気がする。
幸せで、ずっとずっと続けば良いなと願った日常を見ていた気がする。
それなのに何も思い出せない。
私の他に誰かがいた。
きっと大切な人の筈なのだ。
なのに、顔も声も思い出せない。
心の底から大好きで、大切な誰か。
「・・・・・・もう一度、会いたかった」
無意識に零れ落ちた言葉の矛先は誰なのか。
この、形容し難い小さな悲しさはどうすれば良いのか。
「先生が生きていたら、教えて、くれたのかな」
朝から心の中に生まれる違和感を抱えて学園に行く準備を進めていれば、その途中にカレンダーが目に入る。
あぁ、そうか。今日は父の日なのか。
久し振りに先生に会いに行こうかな。先生なら、私の知らないこの気持ちの答えを教えてくれる。
そうだね。きっと、それが良い。
沢山の透百合を持って、会いに行こう。
スカシユリ(透百合)
【花言葉】
・親思い・子としての愛