幻の夢を追いかける花 作:或る記憶
【ローカルシリーズの上半期ダートチャンピオン決定戦帝王賞!残り500メートルを切ったが先頭はまだ逃げる!後続に3バ身のリード付けているが差が縮まらないッ!】
トゥインクル・シリーズとは違い、平日の午後から開催され、ナイターと呼ばれる夜にもレースが開催されているローカルシリーズ。
その中で特に位の高いJpn1、帝王賞。このレースはローカルシリーズの子も、トゥインクル・シリーズの子も等しくレースに出走する交流戦。しかし、歴史としては矢張りと言うべきかトゥインクル・シリーズに所属している子の方が優勝率も、レース結果の総合的な順位としても高い。
だが、今日は違う。
ウマ娘の中でも特に特徴的な、緑の髪を揺らして後続を寄せ付けずに只一人。先頭を走る少女。
海を越え、九州の地からこの東京の地にやって来た俺の、幼馴染。
俺が地元から上京してしまった事もあって久しく姿を見ていなかったが、記憶にあるちんちくりんな姿とは打って変わって、見た目も技術も立派になっている。
「そのまま逃げろ、走れ、トゥカーナェ」
きっと、周りに掻き消されて聞こえない応援を必死に送る。
レースの終わりに比例して歓声が一段と大きくなる。
【独走状態で今ゴールインッ!後続にこれだけの差を付けて5年振りにローカルシリーズ所属のウマ娘が1着!サガトレセン学園所属のトゥカーナェが優勝です!トゥインクル・シリーズにも負けない輝きを示しました!】
トゥカーナェがゴール板を追い越した場所で笑いながら観客へと手を振っている。此方は久し振りのローカルシリーズ所属のウマ娘が優勝ともあって興奮冷めやらぬといった感じで、暫く次に進みそうもない。
記念と思い一枚だけ幼馴染の写真を撮って、俺は優勝インタビューまで待たずにレース場を後にする。
明日もまた、朝が早いから。
数多くのカメラに囲まれて、大きな照明に照らされる砂の前に勝負服を身に纏い、肩から優勝タイトルの刺繍されたレイを掛けたまるで沖縄の海の様な髪色をしたウマ娘がマイクを向けられる。
「それでは、帝王賞を優勝されたトゥカーナェさんへインタビューを行います。まずは、率直に今のお気持ちをお願いします!」
誰もが一人の少女を祝福する中、緊張した面持ちでその口を開く。
「あの、まだ・・・・・・実感が湧かなくて・・・・・・えっ、と、まさか、帝王賞に勝つっとは、思うとらん、やった。
ばってん、うちば指導してくれたトレーナーさん・・・・・・応援してくるっ皆さんへ、立派な姿ば見せらるっごと必死に走った。
・・・・・・ダートん、頂上決戦と名高かこん名誉ば手にすっ事ができてほんなこつ嬉しか!
あいがとう御座った!よか夢ん見れそうばい!」
ローカルシリーズ所属のウマ娘特有の言葉使い。
時にそれは難解で、理解に苦しむ事になるのだが、トゥカーナェの発する言葉は分かり易い。
たっぷりと時間を掛けて、訛りを織り交ぜて言葉を言い終わった再び惜しみの無い賛辞が送られる。
そして、少女は漸く、緊張を解して大輪の笑顔を咲かせたのだった。
電車を降りて電話帳から見慣れた名前を開く。
普段より何倍もの時間を掛けて、通話が開始される。
「もしもし」
「あっ!伊吹先生!」
「今時間大丈夫か?」
「うん。もう大丈夫」
「帝王賞見てたよ、おめでとう」
「私もゴールした後、先生が観客席にいたの見えてたよ。でも、インタビューの時はいなかったでしょ?」
「仕方ない、寮に帰らないといけないからな」
「分かってるよ。そこまで、引き留めない」
「あぁ、そうだ。今日は夜更かししても許すけど、脚のケアは怠るなよ?・・・・・・本当におめでとう」
「うん。有難う伊吹先生」
「それにしてもインタビューの時は田舎娘丸出しだったな」
「なっ!えっ!?」
「今は、現場にいなくてもインターネットで何でも見られるんだよ。カナ」
耳元でいぶ君なんて懐かしい呼び名で引き止める声を無視して、笑いながら通話を終える。
東京は地元と違ってこんな時間でも電気がビカビカと光って、明るさが失われていない。
そんな世界の真ん中に立って、じんわりと自覚してきた感情を抑えずに五月蝿い世界だからと周りを気にせず拳を握る。
「・・・・・・よしっ!」
自分が大切に思っている奴の晴れ舞台がこんなにも嬉しいとは思わなかった。思わず流れた涙を乱雑に拭って一歩踏み出す。
いつか、俺だって、自分が鍛えたウマ娘をあの星が抱いた感情と同じものを与えるトレーナーにきっと、なってみせるんだ。