幻の夢を追いかける花 作:或る記憶
七月七日、織姫と彦星が1年に1度、唯一顔を合わせる事が出来るとされている日。
街は瑞々しい笹で彩られ、トレセン学園にも大きな笹が飾られた。
深い緑を飾り立てる色取り取りの長方形に込められた願い。
“脚が速くなりますように”
“怪我が早く治りますように”
“これからも健康に過ごせます様に”
“あの子に勝つ!!!!!”
“G1獲る!絶対獲る!”
人それぞれ、何百もの願い。
今頃は煙に乗って空に届けられているのか、はたまた水に乗って未来へ進んでいくのかは分からないけれど、私は強欲だから、全ての願いが叶います様にと願ってしまう。
「チカラちゃんはお願い事書いた?」
【ンー?うん。書いたよー何書いたかはヒミツだけどね】
「えぇ?そう言われたら気になるなぁ」
【ダメだよ。お願い事言ったら叶わなくなるって言うじゃん?ボンちゃんが教えてくれるなら、言ってもイイけど】
「ふふっ、私も嫌だよ」
【デショー?】
たった1日しか飾られていなかったにも関わらず、強烈な存在感を放っていた笹が無くなった広場の真ん中でチカラちゃんと笑い合う。
一体、チカラちゃんはどんなお願いをしたのだろうか。
“長生き”
“お金持ち”
“世界一”
“恐竜になりたい”
チカラちゃんの性格を考えるのならば、こんな感じか、少し前に恐竜になりたいって言っていたし、真面目にそう書いてそうで面白い。
「あっ、もう少しで授業始まるから、そろそろ切るね」
【あいー。午後もガンバッテね、かましていけ〜!100回手上げてこ】
「100回は無理だけど、沢山頑張るよ」
【オー!】
もう慣れたやり方で通話を切って、身体を伸ばす。
教室に戻ろうと、携帯をポケットに仕舞って見慣れた影を見つける。
「トレーナーさん、こんにちは」
「……ボタンか。こんにちは」
「まだ数時間後の話ですけど、今日もトレーニング宜しくお願いしますね!」
「任せとけ」
「あっ!トレーナーさんは、七夕にお願いしましたか?」
「え?あぁ、七夕か……七夕ね……残念な事に、この歳になると、イベントに疎くてなぁ」
「何を言いますか。まだお若いのに」
「お若いって言っても、四捨五入して三十路はもうな」
「そんなもんですか?」
「そんなもんなんだよ」
ふーん。なんて、相槌を打ったら、狙いすましたかの様に予鈴がなる。後5分で午後の授業が始まる。
トレーナーさんとの会話を切り上げて、私は怒られない程度に廊下を走る。
階段を登って、自分の席に着き、教科書を机に乗せる。
「あっ」
偶然視界に映った世界の遠くで、一筋の煙が見える。
野焼きか、それとも、願いを込めた帝の想いか。