幻の夢を追いかける花   作:或る記憶

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アセビロード:ステップでリズムを刻んで

 

ウマ娘が走るレースは殆どが芝やダートといった平地競走であり、地方や中央の学校で見ても9割の生徒が平地競走で実績を上げたいと切磋琢磨している。

そんな中で、残りの1割のウマ娘は平地競走では無い所謂障害競走へと脚を向ける。

障害競走、人間で言う所のハードル走や、障害物競走に当たるウマ娘のレース。

平地とはまた違った過酷さと危険があり、G1に至っては1年に2度、重賞の数自体が少なく注目度も平地と比べてまだ低い。

そんな世界で、1人のウマ娘がゴール板を今、1着で通過した。

 

 

【アセビロードが今1着でゴールッッ!!デビューからは悔しい結果が多かったウマ娘が、障害レースでは未勝利からオープンまで4戦4勝!】

 

「ふぅ〜、お疲れ様でした」

「何言ってんだ涼しい顔しやがって」

「そんな事は無い。と思うんだけどね?」

「おーおー、後続に5バ身つけてたの見てたからな?後ろ全員バテてたぞ」

 

体操服についた砂埃を軽く払いながらトレーナーと笑いながら話すアセビロードと呼ばれるウマ娘。

平地競走では15戦2勝。2、3着を含めても全5勝。重賞に出走するも惨敗と錚々たるウマ娘が通う日本ウマ娘トレーニングセンター学園の中では中の下、下の中といった成績のウマ娘である。

そんなウマ娘を担当する若旅は彼女の走りを見て1つの仮説を立てた。

「体力があり過ぎて、逆に平地では上手く走れないのでは?」と。

馬鹿げた発想ではあるが、実際アセビロードは短距離〜長距離の平地レースで息を切らした所を見た事が無い。勿論、普段のトレーニング時でも。

だからこそ、距離が長く、障害もある障害レースへと挑戦させてみた。

 

まぁ、こんなにもハマるとは若旅伊吹も想像していなかった訳だが。

 

 

障害レースは面白い。うらはそう、思う。

何も無かった真っ直ぐな道を走り、カーブだけに気を付けるよりも、芝とダートが両方あって、ハードルも飛んで、水濠を飛び越える。

うらの体力を全部使って頑張れる。

 

「でも、怪我には要注意。ですね〜?」

 

 

アセビロードの快進撃は止まらない。

(障害)デビューからオープンまでを無敗で4勝し、重賞へと挑戦。2着、3着を繰り返しながらも連対率が高く、平地にいた時よりも生き生きと走れている様にも見える。

障害レースを始めてからは10戦5勝。昨日の東京ジャンプステークスでは2着に6馬身もの差を着けた。

正に、才能開花。アセビロードの本領は障害にあったのだ。

 

 

「中山大障害?ですか?」

「あぁ、有馬記念と同じく、障害レースの〆。4,100mの長距離に加え、アップダウンの激しい道にハードル。盛り沢山のレースだな」

「それを、うらが?」

「そうだ。農林水産省賞典中山大障害、J・G1の栄光を手にするチャンスがロードにも回ってきた」

「!やって、み、たい……凄く、楽しそう!」

「良し、そうこなくっちゃなぁ!年末は、アセビスズナとアセビロードで勝利を上げようか!」

 

 

1番走り易いシューズに障害の邪魔にならないパンツスタイル。多くても1年に2度しか袖を通す事が無いうらの勝負服。

 

「体調は?」

「大丈夫」

「身体に少しでも違和感はあるか?」

「無いよ」

「ロードが1番になる所、皆で見てるからな」

「任せて。うらは、頑張るよ」

 

 

【アセビロード!今単独でハードルを飛越!美しいフォームです!しかし、前方には3バ身。先頭には10バ身以上の差が出来上がっています!その末脚はレースを覆す事ができるのか!】

 

もう少し、もう少し、まだ行かない。

うらは少しのんびり屋さんだから、大丈夫ってなる迄は前に行きたくても耐える。

教えられた通りに走って、障害を超える。

 

「(ロード()が見える迄、耐える)」

 

残りの3,000メートル。小さな光。

まだ、これからだよ。

 

 

【さぁ!先頭は最終コーナーへと差し掛かる!アセビロードは漸くスピードを上げて来た!間に合うのか!!】

 

温まった脚の回転数を徐々に上げていく。

真っ直ぐ伸びる小さな光へ手を伸ばす。

見つけた道筋、見えた勝利。

最後のハードルを薙ぎ倒す様に飛越して、2歩で立て直し、後は全力で走る。

この無尽蔵な体力を残りの2ハロンで使い切る。

 

「この道は、うらのものッ!!」

 

 

友達と並んでレースを見る。

目的は、アセビロードという名前のウマ娘。

障害の飛越は美しく、見惚れてしまう。

 

「ねぇ、私達もあんな風に走れるかな」

「俺は走るぞ」

「ま、あなたはそう言うわよね。それにしても凄い追い上げ」

「ハッ!俺もあれくらいできるけどな!」

「何言ってんのよ。あなたの飛越、見てて怖い程なのよ?」

「馬鹿野郎、効率が良いって言え」

 

白い髪が風に揺れる。

水色の髪飾りが揺れる。

 

暮れの中山、大障害のゴール板前で2人のウマ娘が話している。

軽口を言いながらも、焼き付ける様に目線外さない。

静かな2人とは対照的に騒がしい観客に包まれて、彼女は、深い茶の髪色を靡かせて初のG1タイトルをもぎ取った。

 

「私もいつか、このレースに勝てるかしら」

「俺は全部勝つぞ。後、有馬にも出る」

「馬鹿みたいね。あなたは」

「馬鹿じゃねぇ。やってやろうぜ、(◼️◼️◼️◼️)お前(◼️◼️◼️)で障害レースの伝説を作るんだ。そうだなぁ……前王者、現王者って呼ばれたりなんかしてさ!」

「前王者は勿論あなたよね?」

「んだとぉ!?」




 
偉い人が、うらの走りを見てこう言いました。

「あの子の名前が歴史の中に大きく残る事は無いでしょう。しかし、"憧れ"という意味なら、未来永劫語り継がれる存在になる」

うらはそんなに凄いウマじゃ、無いと思うんだけどね?

 
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