幻の夢を追いかける花   作:或る記憶

54 / 100
 
アセビスズナ
日本の競走馬


^アセビスズナの敵討ちとは
アセビスズナは、今で言うG1を3勝した名牝アセビボタンの初子であるが、25回走った中で勝ち鞍として挙げられるのはG1日本ダービーのみである。
競走馬として考えると複数回の勝利と馬券内に入る確率、関係者が必ず夢に見るレースを勝利している。という点では、間違い無くアセビスズナは一流の競走馬であるが、日本ダービー出走後直ぐ、地方への転向をし、それからは重賞のレース及び芝のレースへ一切出走をする事が無かったことから一部では「敵討ち」「孝行息子」などと形容される事がある。

 


◇アセビスズナ:慈愛/晴れ晴れと

 

昔から、アタシの中からはナニカが抜け落ちていた。

ウマ娘という種族に生まれて、周りの男の子や、女の子よりも力が強くて速く走れる身体を動かしては、漠然と「どうしてだろう?」と疑問に感じていたんだ。

ウマ娘の友人は、走るのが好き!と言う。

お母さんからは、走るのが好き?と聞かれる。

お父さんからは、どんなレースに出たいか?と沢山のレースを見せて貰った。

 

その全てに、アタシは何の感情も湧かなかった。

 

G1という舞台に出れるのは凄いのだろう。

重賞に勝つのは素晴らしい名誉なのだろう。

トレーナーに指導され、メイクデビューをスタートするのは輝かしい毎日なのだろう。

 

でも、だからどうした?

 

ウマ娘には走りたいという想いが基本として備わっているらしいが、アタシは特にその気は無い。

何方かと言えば、地元でかけっ子をするくらいで丁度良いのだ。

華々しいレースよりも、アタシにはこの河川敷と砂場が似合っている。

 

 

「……ねぇ、パパ。あの画面に映っているのはだぁれ?」

「え?あぁ、スズナと同じウマ娘さんだね。アセビボタンって言うんだって。……凄いな、とんでもない脚だ」

 

あの日、あの時、あの場所でアタシの身体に抜け落ちたナニカを埋める様にして、別のナニカが無理矢理に詰め込まれた。

アセビボタン、アタシと少し名前の似ているウマ娘。

 

 

「アセビボタンッ!!」

「……ん?」

 

電気屋さんに並んだテレビから衝撃を受けて早数ヶ月、アタシは今までは見向きもしなかったトレセン学園へと入学した。

周りのウマ娘の様な意欲は未だに無いが、それでも心動かされた存在がいるのは大きい筈だ。

 

「日本ダービー、負けたそうだナァ?」

「あー、うん。そうだね。スーちゃんが期待しててくれたのに、ごめんね」

「スーちゃん言うな!!……嫌、今日は許してヤル。先輩」

「なぁに?」

「アタシはダービー獲るからな」

「!……うん。それなら応援しなきゃだね!」

 

別に先輩の為にダービーを獲る訳では無い。

それは向こうも、アタシも分かっている事実。

それなのに、どうしてか、こうして"宣言しておかなければ"と、身体が動くのだ。

これが彼奴らが言うウマソウル?運命的なナニカってやつ?

 

「マァ、どうでもイーケド」

 

 

勝つのは簡単だ。

早く走ってゴールすりゃあ1着で、途中で抜かれたら負け。

だがアタシは元々の欲が少ないから、スイッチの入りが周りより何倍も遅い。

アタシの勝負は如何に油を早く温めるかだ。

2,400メートルなんて凄腕達のお陰で瞬きをした一瞬で終わっちまう。

 

「スズナ、大丈夫か?」

「あ?誰にモノ言ってやがる」

「それもそうだな。いけるか?」

「何を聞いてクルと思ったら、ハッ!笑わせんな。アタシは勝つぞ?今日のツキはアタシにしか向いていない、勝利なんてモノはアタシにしか渡されない」

「……言うじゃねぇの」

「アァ、言うさ。だから、トレーナーも確信を持ってゴール板の前に突っ立ってろ」

「なんだそりゃ。楽しみになって来た」

「魅せてやるよ。このアタシ、アセビスズナの激情をな」

 

 

回路を回せ。

脳味噌を沸騰させろ。

無理矢理にでも回転数を上げる。

身体中の全てを呼吸も忘れるくらいに捲し立て、脚と闘志と肺へ理性が焼き切れるまで送り込む。

 

「全部、喰らい尽くすぞッッ」

 

全ての芝を抉る程の踏み込み。

怪物すらも恐れる顔付き、その走り。

全てを置きざるなんて美しさは要らない。

 

全てを、喰らい尽くして捨て去る。

 

 

スズナはまるで、東京優駿競走だけを走る為に生まれた様な馬でした。

母であるアセビボタンが最初に敗北をした同レースを息子が勝つなんて、まるで仇を打ったかの様です。

スズナは東京優駿競走を勝ってから、走る意欲はあるらしいのですが、どうも芝の地面に立つ事を嫌がる様になりました。

なので走る欲が残っている内は、別の県に移して走らせようと思います。

 

 

「ねぇ、スーちゃん」

 

「んだよ」

 

「私。優勝レイを肩に掛けて、トロフィーを持ったスーちゃんと一緒に写真が撮りたいな」

 

「ソーカヨ」

 

「うん。……あっ、ごめんね。我儘言って」

 

「ちげーよ。汗クセェから、シャワー浴びてくる。直ぐ戻るよ」

 

「スーちゃん。有難う。」




 
575:名無しが適当語り ID:Ignf0l0GS
ウマ娘のアセビスズナ。史実を調べて見て思ったのが、二つ名の取得に必要な要素って実はダービーと、ファン数だけなのね。
クラシックを3つ取れっていうのは、ウマ娘のIfなのかしら??

 
576:名無しが適当語り ID:P/uV+wE/L
>>575
多分そうですね。
スズナはダービーを勝って以降、重賞や特別なレースの勝ち鞍は無いし、なんなら地方競馬への転向をしてからはダービー馬でありながら熱心なファン以外からは注目されなくなった。なんて事も言われていますから、アセビボタンがなし得なかった3冠を、息子が取る。みたいな感じだと思います。
3冠がゲーム内で5大クラシックの混ぜこぜでも良いとされているのは、史実でスズナが性別関係無く可愛がられていたからでしょうね。

 
577:名無しが適当語り ID:Ea2m5U/FJ
>>576
スズナちゃん、元々好きだったけど、もっと好きになっちゃった……

 
 
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。