幻の夢を追いかける花   作:或る記憶

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アセビツバキ:海を超えて、完璧へと至る

 

吾はきっと、才能が無いのです。

中央に位置する学園に通えているのも、オープンウマ娘になれたのも、今、こうしてG3のレースに出れているのも、全部運が良かったから。

吾の才能自体は本当に無くて、レース結果にも反映されている。17人中の16着。しかし、吾の後になっている子はレース中、アクシデントがあり競争を中止したので吾が実質のドベ。

 

「……申し訳、ありません」

「大丈夫だ。今日は不良馬場でも走れるかの確認みたいなものだしな」

「それでもッ!」

「大丈夫だ」

「……はい」

 

トレーナーは確認だと言ってくれてはいるが、内心では「使えない」と思っているのだ。

そう言われるに吾は相応しい。

 

 

「ツーちゃん」

「!……ボタン様!?」

 

突然憧れのウマ娘である先輩から声を掛けられて背中を向ける。バレない様に、手早く目の端を擦った。

 

「御免なさい。タイミング、悪かったかな?」

「い、いえ!そんな事はありません!」

「そう?なら、失礼するね」

「はいッ!此方へ」

 

ボタン様が定位置座って、吾も自然と何時も座っている場所へと腰を下ろす。

そういえば、ボタン様と2人きりになるの、初めてだ。

 

「ツーちゃん。隣、おいでよ」

「そんな、畏れ多い事は」

「良いから。お願い」

「……はい」

 

緊張しながら近くまで歩き、震える膝でボタン様の隣へと腰を再び下ろす。

 

「トレーナーさんから、元気が無いって聞いてね」

「元気が無い、ですか?」

「そう。思い詰めた顔をしているって……今日は、お休みの日だから、誰も来ないよ」

 

 

 

 

 

「……欲深い吾に失望、しているのです」

 

 

 

 

「……ウマ娘で、このトレセン学園に入学できて、メイクデビュー、1勝、2勝とクラスが上がって、オープンウマ娘になれて、吾は結構凄いウマ娘なんだって勘違いして、いざ鼻高々に重賞へ挑戦したら掲示板に入る事も出来ない惨敗続き、勝手に調子に乗って道化師になっていた」

 

 

 

 

 

 

「トレセン学園に通える事、メイクデビューを勝てた事、オープンウマ娘になれた事が凄い事だって理解、しているんです。全体を見れば、オープンウマ娘になれない子、メイクデビューを勝ち上がれない子の方が多いのは理解、しているんです。……それなのに、偶々吾は早い段階でそれになれてしまったから、偶々でも勝ててしまったから、余計に己の力の無さが苦しくて、少し前迄自信満々にG1も夢じゃ無いって息巻いていたのが恥ずかしくて」

 

 

 

 

止まらなかった。止められなかった。

こんな酷い姿を尊敬するチームリーダーに話すなど。

こんなの、言い訳をしながら不貞腐れているのと同じだ。

 

 

「……嫌いに、ならないで」

「へ?」

「御免なさい、御免なさい、もう、弱い姿なんて見せないから、これからは骨が折れてでも練習を頑張るから、早く強いウマ娘になるから、捨てないで」

 

どうしてか、涙が溢れた。吾に泣く権利なんて無いのに。

無意識に縋り付いていた。

 

「ツーちゃんは、気を張り過ぎたんだね」

 

「確かにツーちゃんの言った事は正しいと思う。オープンウマ娘、メイクデビュー、それを楽々超えちゃう方が難しいって、でもね、ツーちゃんが責任を感じる事は無いんだよ」

 

「ローちゃんもさ、今は障害で沢山勝ち星を上げているけれど、その前は15回走って2回勝ったくらいなんだよ。ツーちゃんはどう?前回のが5回目くらいでしょ?焦るのはローちゃんの15回を超えてからでも遅く無いと思うんだ」

 

「今、ローちゃんに対して失礼な事言ったと思った?……それで良いんだよ、それくらいの感覚で。長い旅を走る私達は、人生の中で何か1つだけでも輝く様な思い出を作れれば。私はきっと、あの子に勝つ事。ツーちゃんはどう?」

 

優しい言葉。否定もされない、だけど、本当に必要な言葉は言ってくれない様な適当さ。

深く考えず、いつもチームの皆で話している時と何1つ変わらない。手を繋いでくれているのに、此方が引っ張れば直ぐに離されてしまう様な。

 

 

 

吾の何か1つ輝くもの。

 

そうだ、自分の身の丈に合わない馬鹿げた夢があったんだ

 

 

「……海外のレースで、勝ちたい、です」

 

「そっか。それじゃあ、頑張って練習、しないとだね。まずはー、最低でもG1で3着入りかな」

 

「はい……!……へっ?」

 

 

「次の目標、桜花賞で3着入りだって?」

「あ、あー、ハハ……はい」

「大好きなリーダーに泥付けたく無いよな?」

「えぇ、まぁ……」

「なら、練習しか、無いよな?」

「そー、です、ねー」

「ボタンからツバキのメンタルはもう大丈夫だって言われたんで、今までの倍、今まで以上のキツさでメニュー組んできたからな」

「あははー、吾、ちょっと、実家に」

「海外レース、出るんだもんな?」

「yes,sir!!!!」

 

 

 

265:名無しが適当語り ID:T2KJH/Nt2

最近アセビツバキちゃんの快進撃凄くね?

 

 

266:名無しが適当語り ID:uhzikAdt6

>>265

分かる。

ちょっと前まで大丈夫か?この子ってなるくらい体調悪そうにしてたのに

 

 

267:名無しが適当語り ID:F/YixWsAs

噂ではトレーナーからの扱きと、なんか諸々で吹っ切れたらしいけど

 

 

268:名無しが適当語り ID:J2P5ko/mH

吹っ切れ過ぎでは???

 

 

269:名無しが適当語り ID:DF6T1RV48

ウマ娘ちゃんそういう所あるから

 

 

270:名無しが適当語り ID:4Jr18Wia/

>>269

どういう所だよ

 

 

271:名無しが適当語り ID:bLKZjU8cU

でも惨敗だったのが徐々に着順上げてって、桜花賞では4着、宝塚ではクビ差で2着をもぎ取って次は海外やろ?

 

 

272:名無しが適当語り ID:XRZAx6lDm

海外は早く無いっすか?

 

 

273:名無しが適当語り ID:xNeTMxDx1

本人の熱い希望やからな

 

 

274:名無しが適当語り ID:70SW53sK9

俺はツバキちゃんが無事走って、戻って来れたらそれでええわ

 

 

 

 

日本とは違う風、違う匂い、違う感触。

宝塚後、約1年以上をかけてこの場所で身体を作ってきた。

海外のこの芝にも殆ど慣れたし、後は当日の天気次第。

稍重までに止まってくれたなら吾はきっと、良い結果を残せる可能性がある。

芝、1600メートル、直線コース。出走人数は9人。

トレセン学園の歴史の中で、未だ1人しか勝てていないレース。

 

 

ー次々とウマ娘がゲートに入ります。本日の見所は日本から挑戦するアセビツバキ。未だタイキシャトルしかなし得ていない偉業に挑戦します。ー

 

静かにその時を待つ。

深呼吸をして、気持ちを込める。

周りのウマ娘達は吾の事など眼中に無いだろう。いくら長期遠征で身体を馴染ませてきたとはいえ、本場で何十年と練習してきた子達より劣っているのは明白だ。

 

ーアセビツバキ、落ち着いた様子で、その時を待ちます。ー

 

9人目のウマ娘がゲートへと入り、

 

ーゲートイン完了。今、スタートしました!!ー

 

開いた瞬間、飛び出す。

 

ーアセビツバキ、良いスタートを切りました!走りも問題無い様に見えます、これは激戦になるのでは無いでしょうか!ー

 

走り始めた瞬間から体力を奪う日本とは違う芝。

周りには骨格から違う迫力のあるウマ娘達。

沿道に沿って立つ、沢山の吾以外を応援するファン達の声援。

 

ーアセビツバキ500メートルを通過、前から4バ身程離れて現在5着の位置。トレーニングの成果か、表情には闘士が残っていますが、どうなるか!ー

 

この国に、吾の仲間はいない。

チームメンバーは日本にいるし、トレーナーさんの声も周りに掻き消されて吾には届かないだろう。

孤独の戦い。このターフではたった1人で立ち向かう大きな壁。

 

ーアセビツバキ!徐々に脚を早めていきますが、それは他のウマ娘も同じ!残り400メートル!ここからは速さ、そして一瞬の駆け引きが勝利を握る鍵となります!!ー

 

地面を踏み締めて、沢山の根が張る芝に蹄鉄の跡を残す。

桜花賞は4着、宝塚は2着、今まで掲示板入りも出来なかった吾が、大きなレースでそこまでの結果を残せた。

ボタン様が、トレーナーさんが、チームの皆が沢山沢山応援してくれた。練習をいつまでも付き合ってくれた。

なら、この瞬間も

 

「頑張れるだろッ!!!」

 

レースが終わったら、2度と走れなくなっても良い。

勝てるのなら、出来の悪かった吾が大きな舞台で勝てるのなら、この脚が砕けようが、命を削ろうが、何でも良い。

 

吾も、輝く1つを掴み取るんだ。

 

 

 

 

 

 

ーゴールッッ!!!最後は大混戦となりました、写真判定となります。アセビツバキは最後の追い上げが凄まじかったのですが、どうなるか。日本の中継からはアセビツバキが先着の様に見えましたが……ー

 

ゴール板を走り抜け、力が抜けてクールダウンも出来ないまま芝の上に倒れ込む。他の子達が心配をしてくれているけど、それに応える元気も無い。

過呼吸にも似た酷い呼吸をしながら、辛うじて霞む目線だけは掲示板へと向ける。

 

電気の光が、1着を指し示す部分へ吾の、アセビツバキの番号を灯す。

 

ー今、結果が出た様です。……!アセビツバキ............1着!!!!アセビツバキが1着の判定となりました!!!フランス。ジャック・ル・マロワ賞。漸く咲いた美しき花!アセビツバキ!!小さな蕾を、海を越えたその場所でみごとに咲かせてみせました!!G1初勝利!!ー

 

頭が真っ白になって、周りが呼んでくれた担架に乗せられながら、涙が溢れた。

 

「やった、……やった……!」

 

吾も輝く1つに手が届いた。

もう、何も望むものは無い。

 

 

 

ーここで、アセビツバキの情報です。アセビツバキは入着後倒れ、医務室へと運ばれたそうです。幸い意識はしっかりとあり、怪我等はしていない様ですが、......レースの様子から、少し心配ですね。ー




 
「Hey、ツバキ!!おめでとうございマース!!」

「わっ、あ、ありがとうございます」

「ワタシ、とっても嬉しいデス!モット、もーとっ!ハグをしまショウ!!」

「んぎゅ」





「そういえば、脚は大丈夫デスか?」

「あ、はい!ちょっとだけ、全力を出し過ぎました。あの時は、疲れて立てなくなっちゃっただけです」

「オウ……デモ、頑張りました!!もう一度、ぎゅーっデス!!」

「むぎゅ」
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