幻の夢を追いかける花 作:或る記憶
謎時空で出会う2人。
思い付いたは良いものの謎過ぎて今後消す可能性。
「あの、落としましたよ」
あの日、あの時出会ったウマ娘の貴女。
話した時間は30分と2分半。
たったそれだけの時間だけど、私の心に深く深く残っている。
美しい思い出の1つ。
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「でも、私は今、少しスランプで……勝てないんです」
「そうなんですね」
「気持ちに身体が追い付かないというか、1歩を踏み出せ無いというか」
「成る程。私も土俵が違うとは言え、スランプを体験した事があるので、お気持ちお察しします」
「へへっ……有難う御座います」
オジサンとウマ娘の学生が並んで話してるなんて、側から見たらどうなんだろうなぁと思いつつ、その話に耳を傾ける。
懐かしいなぁ、私もスランプになって何も出来ない日が続いて病みかけた日々を思い出して苦い顔になる。
でも、そうか、ウマ娘もスランプになるもんなんだな。
「……あの、貴女の次のレースは何ですか?」
「へっ?あぁ、えっと、秋の天皇賞です」
「天皇賞!私も名前だけは知っています!」
天皇賞、私が有馬記念と日本ダービーの次に知っている大きなレースの名前。
たった30センチの隙間の向こうに座る彼女はこんなにも凄いウマなのか。
「見に行きますね」
「えっ!?い、いや!そんな!!こんな状態の私は絶対負けてしまうので!」
「いいえ、勝ち負けなどどうでも良いのです。袖振り合うも多生の縁。今日この縁で繋がった貴女の勇姿を私は見たいと思いました」
「……はい」
「あっ!今更ですけど、お名前は?私は円谷巽と言います」
「ボタンです。アセビボタン」
「アセビさん、貴女の旅路に幸多からん事を」
「はいっ!頑張ります、もう1度咲いてみせます」
毛先だけ黒い、人間には人工的にしか作る事の出来ない不思議な髪色。
頭の上で揺れる2つの耳、意思を持ったかの様に揺れる尻尾。
私とは全く違うウマ娘という種族の彼女。
接点も、関係性も全く無い筈の私達。
それでも、心の底から応援したいと思ってしまった。
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人混みの中でもよく分かる特徴的な髪色。
あの時とは違う和装に似た綺麗な衣装。
皆、必死に走っていて、誰が勝っても可笑しく無い勝負。
東京の競馬場、最後の直線。初めて来たけれど、熱気に気圧されてしまった。
目的のあの子はまだ後ろで、沢山のライバルに囲まれている。
本来なら初めて見に来たレースではしゃぐなどみっともないと思って、後ろの方で黙って居ようと。
こんなオジサンが声を荒げるなんて恥ずかしいかな、なんて考えていたのにこんな熱を見せつけられたら
「走れーッッッ!!!!!!」
まぁ、人生で最初の最後なんだ手すりに身体を寄せて叫ぶくらいはやっても良いか。
「
私が勝てたのは、とある人から応援されたからです。
その人はレースを普段は見ない人なのに、私の応援をしたいと今日のレースを見てくれました。
走っている時は色々な音が聞こえて応援の言葉を1つ1つ理解する事は難しいです。
でも、貴方の声は確かに届きました。
本当に有難う御座いました。
私は、もう少しだけ旅をしてみます。
」
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「巽君、突然家で倒れたと聞いたから顔を青くして飛んで来たのに、ナンダ、案外ぴんぴんしているね?」
「あぁ、嫌。恥ずかしながらこの歳で興奮から大声を上げてしまってね、後々立ちくらみで」
「馬鹿だねぇ……君、身体は弱い方なんだから自重しなさいな」
「芳司君には心配をかけた」
「全くだ。俺も、妻も心配した。1番は君の奥方だけど」