幻の夢を追いかける花 作:或る記憶
とある日、トレセン学園に響いた1つの叫び声。
肺活量を存分に生かしたその声の主は成長を見越した少しぶかぶかなジャージを着た黒髪のウマ娘である。
何故、そうなってしまったかは今からたった5分前に言われたとある言葉が引き金になっている。
・
・
・
未だ寒さが残るが、暖かいと感じられる日も少しずつ確認でき始められる様になった2月の某日。
チームシェアト、フルメンバーの6人でトレーニング前のストレッチをしていればトレーニングメニューが書かれた書類を挟んだバインダーを持つトレーナー、若旅伊吹がアセビコウロに話し掛ける。
コウロはまさか怒られるのでは無いかとビクつきながらトレーナーの元へ近付いた。
「は、はい……な、何でしょうかぁ……!」
「コウロは地方の重賞も獲ったウマ娘だけど、中央はまだ練習だけだろ?だから、そろそろ中央のレースにも挑戦させようと思って。来週のダートレースに登録しておいた」
「!そ、そそそうですか!OPですか?それとも未勝利から?ですか?」
話す時の雰囲気とは裏腹にトレーナーからの言葉で手入れが行き届いたコウロの尻尾が揺れ、チームのメンバーはそれを微笑ましそうに見つめる。
だが、どんなレースに出るのかと聞いたコウロの想像を超えるタイトルがトレーナーの口から紡がれた。
「フェブラリーステークスだ」
「…………へ?」
「フェブラリーステークスに登録した」
「……す、すみません
「フェブラリーステークス、ダート1,600メートルのG1レースだ」
「な、なにょわはーーーーー!?!?!?!?!?!?な、なんでぇ!?!?!?」
「勝負服もこの前作っただろ?」
「こんな事になるとは思ってませんでしたよぉ!!!!!!」
・
・
・
勝負服に身を包んだ16人のウマ娘が東京競馬場のターフに立つ。
G1レースという事もあり、全員の顔が自信に満ち溢れ、いつも以上に緊張感が漂っている。
そんな中、唯一3枠5番のゲートに割り当てられたピカピカの勝負服を身に纏うアセビコウロだけは今にも倒れてしまいそうな、他とは違う意味の緊張感を漂わせている。
控え室で皆から背中を押して貰った筈なのに、既に泣いてしまいそうである。
【第 回。フェブラリーステークス、全ウマ娘がゲートへ入りまして……今、スタートしました!】
奇跡的に出遅れは無く、綺麗なスタート。
歓声が五月蝿い程にウマ娘達へ送られ、自分が夢を見たウマ娘の奇跡を信じる。
1,600メートル、たった2分の戦いが始まった。
・
・
・
「お疲れ様」
「……わたし、14着でした」
「ビリじゃ無かった。最高の結果だったよ。走りも悪く無かった」
「でも、こんな結果じゃG1なんて……」
「何言ってんだ。コウロはまだ中央に来たばっかりだろ?結果は急ぐものじゃ無い」
「で、でも……障害レースの先輩は有馬に出ても9着だって聞きました……」
「彼奴は別枠だ。絶対王者、100年に1度の天才、障害レースの最終障害って言われている奴と、コウロ違うんだよ」
「……はい」
「俺が教えた通りに走れたか?」
「……はい」
「今日は何で負けたと思う?」
「……歓声なんですけど、耳に響いて、慣れなくて」
「成る程な……よし、次行くぞ」
「へっ!?次!?」
「明日からまた練習三昧だ。次こそ中央の重賞を獲るぞ」
「!……お、おす!!」