幻の夢を追いかける花 作:或る記憶
トレセン学園にはウマ娘が全力でトレーニングに励み、レースへ出走出来る様、心身を整える施設や制度が充実している。
その1つ。直近で出走予定のレースが無い場合、申請しそれが受理されれば数日間の帰省が許される「短期帰省制度」。
アセビボタンはそれを利用し、金曜日から日曜日迄の帰省を予定していた。
「ボタン、忘れ物は無いな?」
「はい。トレーナーさんから受け取ったストレッチノートも忘れていないか3回確認しました」
「良し。今回は身体を休める為の帰省であって、普段の様な激しいトレーニングは自主練だとしても控える様に。それ以外のストレッチや、軽いランニング程度なら忘れずにな」
「えぇ、チカラちゃんとやり過ぎない様にします」
トレセン学園の校門前。
担当トレーナーである若旅伊吹と、何時もより大きめの荷物を持ったアセビボタンが立っている。
伊吹は忘れ物と、何点かの確認をして特に引き止める事無く別れようとしていたが、ボタンから放たれた新しい単語に思わず首を傾げた。
「チカラちゃん?」
「あっ、ええと。私と小さい時から遊んでくれていた近所のお姉ちゃんです。トキノチカラ、映像を見せてくれた事は無いので半信半疑なんですけど、天皇賞にも勝ったらしい本当だったらとても凄いウマ娘なんです」
「トキノチカラ……?悪い。俺もトレーナーとして特にG1を勝ったウマ娘なら詳しい自信があったんだが、その名前は知らないな」
「トレーナーさんも?なら、やっぱり嘘かもしれないですね」
「嫌、俺が知らないだけかもしれない。嘘と決め付けるのは失礼だ」
「……それもそうですね。うん。もし嘘だとしたら、本人からネタバラシをされるまで騙されておきます」
「それが良い」
「っと、電車の時間がありますのでここら辺で」
「すまない。引き留めた、気を付けて」
「はい。休日を楽しんできます」
「ついでだ、そのチカラちゃんに天皇賞の勝ち方。聞いて来い」
「!えぇ。盗めるだけ、盗んで帰って来ますね!」
会話を終え、トレーナーへ軽い会釈をしてから駅の方へ脚を進め始めるアセビボタン。
その歩みは普段の彼女と比べて少し早い様に感じ、此方にも楽しみだという感情が伝わってくる。
アセビボタンの背を見送り、伊吹はこれからのトレーニングメニューとレースでの作戦を完璧に練り上げる為、分厚い本を求めに図書室へ。睡魔と戦う為に身体にはあまり宜しく無いドリンクを求めに購買へと脚を進めるのであった。
「それにしてもトキノチカラか……ボタンにはああ言ったが、何処かで聞いた事があるんだよな……」
頭を掻きながら、どこか落ち着かない感情が伊吹の頭の片隅を支配していた。
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「いつか、私の馬と先生の馬が並んで走る姿を、見てみたいものです」
「あぁ、そりゃあ良い!きっと、歴史にも名が残る様な時間になるだろうよ」
「アセビさんだけが"美しい"と話題に上がっても、恨みっこ無し。ですからね」
「何言ってんだ。トキノの力を舐めてもらっちゃあ困るぜ。それこそ"美しく、強い名馬のトキノチカラ"なんて紙面を飾っちまうさ」
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トレセン学園のオリジナル制度。
また、馬主さんの口調はとあるゲームからのイメージです。