幻の夢を追いかける花 作:或る記憶
私は、死のうと思いました。
特に理由があった訳ではありません。
家庭環境は良好で、友人にも恵まれ、苦しい事もあったけど心を蝕まれ過ぎる程ではありませんでした。
でも、死のうと思ってしまったのです。
人が自殺をする時突拍子も無く行動してしまうのと同じ様に、私も突拍子も無く死のうと、もしかしたら「死後の世界」というものへ興味があったのかもしれません。
人が陰謀論にハマる様に、私も早く死後の世界を見たいという魅惑にハマってしまった。
毎日どうすれば苦しまずに死ねるのか、何処で死ねば比較的周りへ迷惑を掛けないのか考えました。
ある日の事です。
私はこんなにも理由無く死にたいと思っている中で、とある作品のキャラクターと出会いました。
現実の競走馬、サラブレッドを擬人化したゲームに登場した「アセビツバキ」という女の子。
私は昔から頑張る人が好きでした。
例えば部活、例えば習い事、例えば趣味と特に分別無く頑張っている人が好きでした。
だから、そのサラブレッドを擬人化したゲームも出てくるキャラクターが皆頑張り屋でとても好感が高かったんです。
私が気になったアセビツバキという女の子は、最初、あまり活躍できていなかったのが努力を重ねた末に大きなレースに勝つことが出来た。
その生き様はとても好ましくて、私はモチーフになったサラブレッドに会いたいと思いました。
だけど、調べてみて自分が住む場所と、アセビツバキがいる場所は離れていてゲームの影響もあってか会おうと思って簡単に会える存在ではありませんでした。
「アセビコウロ……?」
そんな時です、とある競走馬と出会ったのは。
私が好きな女の子と同じ名前を持つサラブレッド。
競走馬の世界には「冠名」という苗字の様なものがあって、まさかと思い調べたら、アセビコウロはアセビツバキと同じ人が所有する競走馬でした。
私はアセビコウロが次のレースで地元の競馬場で走るという事を知って、競馬場の入り方なんて知らなかったのに、思わず脚を向けてしまいました。
【アセビコウロが1着でゴーーールッ!激しい競り合いの末に浦和記念制覇ぁ!!】
目の前のゴールを応援していた馬が駆け抜けた瞬間、心臓の音が聞こえました。
バクバクと息が乱れて、頑張れと書かれた人生初の馬券を握り締めていました。
アセビコウロがゴールの向こうから戻って来た時、偶然にも私と目が合いました。
その瞬間、希死念慮に近い感情が私の中から消え去っていくのを感じました。
たった一瞬、クリクリとした目に見つめられただけでノートを何冊も埋める程あった感情が全て無くなったのです。
人間は、簡単な生き物でした。
自分でも驚く程に。
その昔、「感動秘話」と称したテレビ番組で、とあるレースを見た人が自殺を思い止まった話を思い出して、
「こんな気持ち、だったのかな」
辛うじて撮れた、画質が悪くて人の顔も潰れている様な口取りの写真を表示する携帯を握り締めて、漠然とそんな事を考えた。